魔法使いの弟子 (ちくま文庫 た 4-3)

  • 筑摩書房
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感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (364ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480028662

作品紹介・あらすじ

ケルト民族特有の「夢を見る魂」が描いた楽しさと奇想にあふれた長編ファンタジーの傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 師匠となる魔法使いの超然とした浮世離れ具合と、最後の
    旅立ちがとても魅力的。

  • ダメな弟子より、お師匠さま!


     若きラモン・アロンソは、山中に住まうあやしげな魔法使いのもとへ、錬金術を教わりに行きます。妹のミランドラをよいとこに嫁がせるには、持参金が必要だから。要は金がほしいというわけです。
     その代償は自身の影。その魔法使いは、人の影を集めて箱にしまっているのです。
     けれども、影のない掃除女と出会い、世にも不幸そうな様子に心を動かされたラモン・アロンソは、当初の目的から離れて影を取り戻そうとし始めるのでした――

     物語の舞台スペインは、楽しくて、明るくて、時々ものがなしくて、陽射しが強くて、緑が鮮やかで、びっくりするくらい夕暮れが美しくて、つまり不思議な土地として美文で描かれています。そこでは、ひとの影もひときわくっきりと落ちるのでしょう、影の長さのごまかしがきかないくらいに。
     そして、時折ひとみに閃光が走るというミランドラ、嵐のような美貌の描写★
     陽気さと幻想性が入り混じった筆致に、惹きつけられました。

     一方で、主人公だったらしいラモン・アロンソの魅力は、どんどん色褪せていってしまいましたね。女が若ければ恋をする、年をとっていれば対象外だなんて、古くさい価値観はしらける……。正直、彼のことはもうほとんど覚えてません。

     それより、都合上敵視されてしまう魔法使いこそが、奥深い魅力を湛えた人物なのです。金などに価値はないと言い切り、人の知りえぬ宇宙の運行にひとり思いをめぐらせる先生。生意気で不出来な弟子にも寛大で、古くから伝わる豊かな知識を授けようとして、待っていたのに……。ラモン・アロンソは〈幸せ〉になった、だからもう学ばない。ひどくない? おまえは何しに行ったんだ。

     最後の旅立ちは、この軽やかな読み物の中からふいに切り離されたように、いきなり荘厳。「ありとあらゆる魔法の生きものをしたがえて」疲れたひとが門をくぐろうとする場面、胸に轟く至高の名文で見送りました。

  • 美しく不思議なザ・オールドファンタジー
    影のくだりが好きです。

  • 個人的にダンセイニは短編のほうが好き。
    師匠さん、後継者が欲しいのなら、ラモンに対する態度を改めないといけないよ。ラモンも魔法を習得したいのなら、よそ見ばかりしてないで、しっかり勉強しようよ。結局ものになっていないじゃないか。話の筋は好きだけれど、突っ込みどころ満載かな。

  • 私好みだった〜!
    簡単に言えば、魔法使い(主人公としては錬金術師)になるための修行をする話。
    ハリポタみたいな派手な魔法合戦が好きな方にはもの足りないでしょうが、「クラバート」が好きな私には、もう、充分です!
    ハウルの/動く/城がお好きな方もけっこう楽しめるのではないかと思います。物語におけるヒロインの状況は一部一致してますから。ソフィーの方が元気でたくましいですけど。

  • 海外ファンタジーというだけで自分でも読み通せるか疑問だったが、取引材料として「影」を要求されるあたりから面白くなってきた。
    登場人物の中で唯一、ミランドラが何を考えているのか分からなくて、彼女の絡みで最後にもう一波乱あるかと思ったが、それは特になかった。でもまあ、おとぎ話に近い古きよきファンタジーだと思えば特に不満はないかな。十分楽しめた。

  • 影、影影、かげである。



    なんでかこの本を古本カフェで見かけたときに、
    買わなならん。
    と直感的に思った。
    いったいどこでこの本を知ったのか、誰が褒めていたか、何かに書かれていたかはまったくはっきりしない。
    どうやらポール・デュカス交響詩が同名らしい。おそらくそれを間違えたんだろうな。



    主人公こと、ラモン・アロンソがおうちの財政の逼迫を救うために、森に住む魔法使いの元に錬金術をマスターするため弟子入りする。
    なんとも飛んだ発想だが、そんなことをしなきゃいけないほどにかれの実家はピンチなのだ。
    で、彼が弟子入りした魔法使いなのだが非常にずる賢く、おそろしい魔法を駆除するくせ者。
    さてさてアロンソの運命は……
    と言うのがお話の流れ。
    冒険モノのファンタジーと私は思っていたのだがどうやらこの分野は幻想小説と言われるらしい。
    違いがイマイチわからないがまぁ魔法が出てる辺りがそうなのかしら?



    何が一番おもろかったかといえば『影』についての考察である。
    主人公は錬金術の代価として魔法使いに己の影を差し出すのだ。
    彼には魔法使いと祖父の間に親交があったおかげで闇を切り取った『うそ影』が与えられるが、しかしうそ影は伸縮しない。
    そのためとある夕方に彼のその取引の代償の実態がとある町娘にばれてしまい、一躍”悪”と周囲から見られてしまい、そこから影にまつわる苦労が彼について回ることとなる。



    『影にまつわるこの大騒動は、まるでばかげた話だ。
    こんな問題を重要視する必要など、これっぽちもないはずだ。
    だいいち、自分の影に値打ちをつける人間がどこにいる?
    他人の影と自分のそれを比べたり、みせびらかしたり、自慢の種にしたりする人間が?
    みんな影が”とるに足らない”ものだと承知しているし。
    地球上でこれほど役に立たないものはないとも思っている−−−どんなボロ店でも、影は売っていないし、たとえ売っていても、そんなものを買う人間がいるわけもない。
    もっていて楽しいものでもないし、音があるわけでもないし、かといって重たくもない。
    なんの役にも立ちはしない。』



    「影」
    かげである。
    アロンソの言うとおり、影なんて私も自分の日常生活の中でほとんど意識したことがない。
    ある日突然無くなっても、おそらくしばらくは気づかないだろう。
    そう思う。
    しかし、どうだろうかいざなくなった人をみたら、確かに私も町娘をはじめとする住民同様その存在を恐れるだろう。
    この影という存在に対するアロンソと魔法使いの元で雇われ働く影を完全に奪われてしまっている掃除女、対して住民達の構図。
    うまい具合にその状況を書きあげている。
    童話的にそこをさらりと流したりしないのだ。
    でもこれは幻想小説であるから勿論そういうファンタジーの要素も抜かない。
    人によってはどっちつかず、と切り捨てられるかもしれないが、私にはそれがとってもおもしろかったわ。
    絶妙なバランスなんだよ。
    「影」に対するこの設定というのはダンセイニ自体が考えたものなのだろうか?
    うまい具合におもしろい設定が組み込まれているんだが、書き出すとあまりにもネタバレになりそうなんでやめておこう。
    ワイルドの童話集にも魂を手放すには影を切りはなさなければならないというエピソードがあったが、西洋圏では影に対して日本とは違う意味合いがあるのだろうな。



    全体的に描写がきめ細かくなかなか美しいうえに、言葉のリズムならず物語のリズムが非常に小気味よくおもしろい。
    物語は王道、だがそれに飽きさせないような、掘り返したくなるような部分が多々埋め込まれている。



    読み終わるとふと影がそこにいてくれているか確かめたくなる一冊。
    なかった時のために呪文をメモっとくのもよいかもしれない。
    あれよ、ほら。
    チン・ユン………あら、なんだったかしら?

  • ファンタジーとしては本当に大作。指輪やゲドと張っていいくらい。なぜ有名じゃないのか疑問。映画化とかするべきだよ。読んでよかったいいこと学んだ。

  •  魔法使いが弟子を育てる難しさ…妹の持参金のために錬金術を学ぼうとする若者の瑞々しい行動力と正義。
     豊かな自然に対する美しい表現と、目を凝らしても見えぬ闇に支配される夜、己の影を代償にする戦慄…数々の不安が配置されてるが、その中で兄を慕う妹の存在感が光り輝き巧く対比的な構図を構築する。

     古い本ですが、基本的で大切な要素がバランス良く綴られている幻想文学書。物語の最後に見せる魔法使いの有様に何とも云えない感傷と開放感を得ました。

  • 錬金術を学ぶ事を父親から命じられ、魔法使いの元で修行する貴族の子のお話です。主人公ラモン=アロンソの周りの登場人物達が、とても良い味を出しています。読み終わった後に心地よい充足感を得ました。

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著者プロフィール

本名はエドワード・ジョン・モートン・ドラックス・プランケット(1878‐1957)で、第十八代ダンセイニ城主であることを表すダンセイニ卿の名で幻想小説、戯曲、詩、評論など多くの著作を発表した。軍人、旅行家、狩猟家、チェスの名手という多才なアイルランド貴族だった。『ペガーナの神々』をはじめとする数々の著作により、その後のファンタジイ作家たちに多大な影響を与えた。

「2015年 『ウィスキー&ジョーキンズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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