内容説明
吉田茂首相の長男として生まれた吉田健一は、日本が生んだ真の意味での教養人である。
文芸評論家、小説家、エッセイストなど、多面的な顔をもつ吉田の基本にあるものは、ヨーロッパ文化についての深い理解であり、さらにその根底には少年期、青年期の英国体験で培われた幅広い教養と観察眼の鋭さ、時代に流されない強靱な精神が存在した。
彼の仕事の多様さを知るには、『吉田健一集成』(新潮社)に収められた文章を読むにしくはないが、吉田健一のいわばホーム・グラウンドであった英国という国について、その文化、生活、思想などをトータルに捉えようとするならば、本書はまたとない手引きとなるだろう。折々に書いたエッセイをただ集めただけと、例によって素っ気のない言い方をしているけれど、ここに収められた文章は時の流れなどと関係なく、今も新鮮さを失うことがない。
たとえばこの中で吉田は、「文化などということが念頭にないのが、英国の文化に一貫した一つの性格だ」との箴言を吐く。
英国人にとって文化などという概念は無意味であって、結局一国の文化とはその国の人間の生き方、生活態度にほかならないという。
こうした視点に立って英国のさまざまな側面が、あの蛇がのたくるような、それでいて実に魅力的な文章で悠々と語られるとき、そこには紛れもなく地に足のついた生活者の姿が浮かび上がってくる。
目次
象徴
英国昨今
英国紀行
英国の文化の流れ
英国の形
ヴィクトリア風
英国の絵
英国の四季
英国人について
常識
英国のクラブ
ロンドン
ロンドンの公園廻り〔ほか〕