生きるかなしみ (ちくま文庫)

  • 筑摩書房 (1995年1月1日発売)
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Amazon.co.jp ・本 / ISBN・EAN: 9784480029430

みんなの感想まとめ

生きることの悲しみをテーマにしたこの作品は、心に寄り添う内容が魅力です。読者は、日常の中で感じるかなしみの積み重ねを通じて、そこから育まれるものを再認識します。編者の山田太一は、膨大な読書量と深い理解...

感想・レビュー・書評

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  • “「生きるかなしみ」とは特別のことをいうのではない。人が生きていること、それだけでどんな生にもかなしみがつきまとう。”

    悲しみ、哀しみ。
    人は誰でも心の底に、さまざまなかなしみを抱きながら生きている。
    生きているということは、かなしい。
    脚本家であり小説家でもある山田太一氏が編んだ、〈生きるかなしみ〉と真摯に直面した先人たちのアンソロジー。

    直接的に「かなしい」という言葉が出てこない作品でも、一見かなしそうに見えない作品だとしても、どの作品も文章自体がじんわりと「かなしみ」の色を帯びている。
    「かなしさ」が悲しさだったり、哀しさだったり、人にはそれぞれの「かなしさ」の色がある。

    いちばん印象的だった山田太一氏の『断念するということ』。
     “生きるかなしさぐらい承知しているが、暗いことにはなるべく目を向けたくない。いずれ悲しい目にも遭うだろう。そうなれば嫌でも体験することである。それまでは、楽天的でいたいのだ。”
    これは人間の暗部から逃げ回っているだけで、目をそむければ暗いことは消えてなくなるだろうと願っている人を、楽天性とはいえないと著者はいう。
    案外、わたしって楽天的だなぁと思っていたのでドキリ。

    “楽天性とは、人間の暗部にも目が行き届き、その上で尚、肯定的に人生を生きることをいうのだろう。”

    それが自分の「生きるかなしみ」に目を向けるということなのか。

    『私のアンドレ』時見新子
    『兄のトランク』宮澤清六
    『ふたつの悲しみ』杉山龍丸
    『望郷と海』石原吉郎
    『失われた私の朝鮮を求めて』高史明
    も、気になる文章が多くて印象的な作品だった。
    そして「生きるかなしみ」とは、これからも文学を熟読していく上で大切な視点なんだろうなと、全ての収録作品を読んで考える。

    『兄のトランク』の宮澤清六氏(随筆家)は、賢治ファンの方ならご存知かもしれないが、宮沢賢治の弟さんだ。著者の文章は、兄・賢治への尊敬と思慕の念が込められた、大変清々しく、そして優しくて哀しいものだった。

     “雪狼と風の又三郎の眷属が、今夜も硝子の笛を吹き、電信柱をオルゴールにして、さかんに冬の円舞曲をやっている。
     こんな晩にはわずかばかりの思い出を、ぽつりぽつりと書くのだよと、硝子のマントを鳴らしながら、又三郎がわたくしにすすめるのだ。”

    この冒頭部分を読んだだけで、思わず目頭が熱くなる。二度と会うことのできない兄への愛が哀しい。


    最後に。
    「かなしみ」の漢字を調べていて、「愛しみ」も「かなしみ」と読むことを知りました。いとおしむこと、情愛の意味も含んだ「かなしみ」なんでしょうか。
    世の中の哀しみ、悲しみ、そんな「かなしみ」が癒され、救われ、いつの日か「愛しみ」に変わる日がくることを祈って。

    皆さま今宵は幸せなひとときをお過ごしください。Merry Christmas☆彡

  • タイトルに惹かれて手に取った。
    生きると言うことは、ある意味かなしみの積み重ねかもしれない。そしてかなしみが育んでくれるものの存在を感じられる一冊だった。

  •  題に惹かれて手に取った一冊。生きる悲しさに直面する姿を描いた数々の作家さんの作品を、山田太一さんが選んだ一冊。特に、はじめに山田太一さんが書いている「断念するということ」は心に響いた。この本は1991年に刊行されている。その時点で言われていることが、さらに時を進めた今生きている私たちにとって、更に差し迫って感じられる。

     「生きるかなしみ」に向き合う大切さについて、著者はこう言っている。

    ○あと、ひとがんばりすれば、収入が倍になると聞いて頑張らない人間はただの怠け者だという世界であり、脳死の人の臓器を移植すれば子供は助かるかもしれないと言われて、そこまでして生かさなくてもいい、静かに死なせてやりたいと言えば、冷酷な親扱いされかねない世界である。そういう世の中で可能性をとことん追い求めない生き方を手に入れるには、「生きるかなしさ」を知る他ないのではないだろうか?

    ○可能性があってもある所で断念して、心の平安を手にする。私たちは少し、この世界にも他人にも自分にも期待しすぎではないだろうか?

     普段自分では手に取ることがない作家さんの作品が読めて面白かった。
    「私のアンドレ」時実新子
    「二度と人間に生まれたくない」宇野信夫
    「山の人生」柳田國男
    「ふたつの悲しみ」杉山龍丸
    「親子の絆についての断想」水上勉
    は特に印象に残った。

     水上勉さんの文章を読んで、作家とは、醜態を晒しながら、その人間臭さを身をもって文学に投じていくのだな。と改めて感じた。

    ○人間は全て、生まれた時から、単独旅行者だ。世にある。親と子は、それ自体オリジナルなものだ。甚だ個性的なものだ。どれをどうと1つに括れて話し合えるものでもないのだ。云える事は誰でもが孤独な旅人だということだ。

     読んで改めて思ったが、親と子はある程度子が大きくなったら、遠く離れて暮らすのが良い。水上さんの言い草はあまりにも身勝手だが、それでも自分自身の状況を照らし合わせてみると、そ間違いなくそう思う。近くにいたら、悪いところばかり見えて良くない。しばらく会わずに遠く離れていると、昔の嫌なところだけではなく、してもらったことなどが、思い起こされ、自然と感謝の念が生まれるものである。特に自分が親になってからは、そういうことが身に染みて感じられるだろう。

     足るを知るという考え方が好きなので、この本はとても好みだった。山田太一さんの文は時々読み返したい。

  • 感性で本を読むのは如何なものか…と普段は思ったりする自分だが、感性を豊かに持つ方の薦めるものは読む価値がある。

    『本を編む』とは「いろいろの文章を集めて書物を作る。」と辞書には出ているが自分はそういう本を初めて読んだ。
    ある特定の作家のエッセイ選集は読んだことがあるが、特定の題名の下に編者が編んだ本は初めて。
    そして『本を編む』には努力と才能が必要だ。かなりの読書量をこなし、作者のことや史実などの理解が必要な上、それぞれの文への思い入れや捉え方を編者がしっかりと持っていなくてはならない。
    山田太一氏はそのような才能を持ち、更に努力を積み重ねて来られたのであろう。

    特に『ふたつの悲しみ』『望郷と海』に惹かれた。
    教科書にも載っているらしい前者に対しては編者が「こうした記録を前にして、なお平然として沈黙を知らぬ人に、ひかえめに言っても私は嫌悪を抱く」とある。
    全く同感である。
    教科書などで接したことの無い方は是非とも目を通して欲しいと願う。

    短いので書店で立ち読みも可能かも知れない…てなことは書いてはいけない…が書いてしまった。

  •  10年以上続いていた母の介護が強制終了のような形になってしまい、「心に大きく空いた穴を埋める」というか「今の気持ちに寄り添ってくれる」ような本はないかと思っていたところ、ふと「こんなタイトルの文庫本があったな」と思い出して購入。

     刊行当時(1995年)は存命だったが今は他界した、あるいは刊行の少し前までは存命だった人を中心に、有名な作家のエッセイが数多く収録されている。それぞれ、冒頭には編者の山田太一による紹介や感想が加えられている。

     アンソロジーを買い求めて読むのは今回が初めてのはずだけど、ここまでいろいろな作品が一堂に並べられるのは編者の力が大きいな、と思った。これだけの短文を一つのテーマのもとに纏めて一冊の本にするのは、相当な読書歴がないとできるものではない。
     率直に、「これから、こういう体裁の本をもっと読みたいな」と思った。収められているのがエッセイであれ小説であれ。

     全体を通しての感想は、文字どおり“生きるかなしみ”についてふれ、そういう心情を持った人(私も含め)に寄り添ってくれる一冊だな、ということ。そういう意味で、私の期待を裏切らなかった。
     個人的には、末尾に収録されている水上勉『親子の絆についての断想』の締めくくりの部分が、まさに今の自分にとって共感できる内容だった。

     時間を置いて、またぜひ読んでみたい。

  • 山田太一・編の「生きるかなしみ」(ちくま文庫)は、このテーマに基づいて選ばれた作品が収録されている。1995年に初版が出されている本だが、巻頭に収められている山田太一の「断念するということ」というエッセイの指摘に、頷かされる。

    山田氏は、
    『いま多くの日本人が目を向けるべきは人間の「生きるかなしさ」であると思っている。人間のはかなさ、無力を知ることだという気がしている』
    『大切なのは可能性に次々と挑戦することではなく、心の持ちようなのではあるまいか?可能性があってもあるところで断念して心の平安を手にすることなのではないだろうか?
    私たちは少し、この世界にも他人にも自分にも期待しすぎてはいないだろうか?
    本当は人間の出来ることなどたかが知れているのであり、衆知を集めてもたいしたことはなく、ましてや一個人の出来ることなど、なにほどのことがあるだろう。相当のことを成し遂げたつもりでも、そのはかなさに気づくのに、それほどの歳月は要さない。
    そのように人間は、かなしい存在なのであり、せめてそのことを忘れずにいたいと思う』
    と綴っている。

    初版発刊当時と比べると、高学歴、高収入、優良企業への就職などを目指す上昇志向を持つ人ばかりではなくなったかもしれない。
    しかし、インスタ「映え」を目指し、SNSでの「いいね!」の獲得を気にする人がいることは、「他人に対して自分をより良く見せたい」「他人から評価されたい」という願望に縛られていることの現われだと思う。
    また、自己肯定感を持てないと悩むこと背景には、「他人に話して恥ずかしくないような何か好きな事、得意なことを持っていなくてはならない」というような観念に縛られていることがある気がする。山田氏が指摘しているように、暗部を見つめることから目をそらしてしまうゆえに、「自分が出来ることなどたかが知れている」「自分の成し遂げたことなど、はかないもの」だという考える方向に、吹っ切れず、もやもやしてしまうのかもしれない。

    山田氏が編んだ作品は、一つひとつ、それほど長いものではない。
    著者の背景や、書かれた時代、社会もさまざまで、そこに描かれた「生きるかなしみ」も多様だ。人には様々なかなしみがあり、それぞれのかなしみを抱えて生きているのだと教えてくれる一冊。

  • つい頑張ることが習い性になっているが、それでも「私たちは少し、この世界にも他人にも自分にも期待しすぎてはいないだろうか?本当は人間のできることなどたかがしれているのであり、衆知を集めてもたいしたことはなく、ましてや一個人のできることなど、なにほどのことがあるだろう。」「自分がこれまで生きてこられて、いまなお生きているのは、なにものかの恩寵とはいわないまでも、無数の細かな偶然に支えられているのであり、決して自分の力ではない認識があるべきーとはいわないが、あった方が幸福だろうという思いはある。」という言葉はその通りと思う。冒頭の山田氏の文章が一番心に残った。

  • (本から)
    どういう事態になろうとも悪あがきせずに死を迎えることが出来るように、これからが人生最後の修行の時である。
    佐藤愛子(六十路半ばを過ぎた時のエッセイ)

    「ふたつの悲しみ」 杉山龍丸
    戦争は、大きな、大きな、なにかを奪った。
    悲しみ以上のなにか、かけがえのないものを奪った。
    私たちは、この二つのことから、この悲しみから、なにを考えるべきであろうか。
    私たちはなにをすべきであろうか。
    声なき声は、そこにあると思う。

    「失われた私の朝鮮を求めて」
    高史明
    私は失われた自己をめざし、日本語と自己との間に生じる裂け目に墜落するとき、この裂け目を通して日本語との真の格闘をするとき、この日本語を自己からもぎとろうとするとき、日本語を愛している自己を発見できるはずである。

    「親子の絆についての断層」
    水上勉
    ひょっとしたら、人々は、貧困という恵みから遠ざっかったため、大事な心をとりこぼしての不安かと思う。

  • 大切なのは可能性に次々と挑戦することではなく、心の持ちようであり、可能性があってもあるところで断念して心の平安を手にすること。

    世界にも他人にも自分にも期待しすぎていないだろうか。

    おそらく筆者の言葉が人間の本質なんだろうな。頭のいい人が歴史を省みることなく戦争を繰り返す。自分にはもっと可能性がある、もっとできるようになれる、相手を自分の思い通りにすることもできる、自分が一番の世界にすることができる。こんなふうに思い上がって、期待して、力ずくで思い通りにしようとする。

    まさに人間の本質。自分は小さな人間でできる範囲で努力して生きていればそれで十分なんだと思えるようになることが必要で、そのためにはやはり生きるかなしみに向き合う必要があるんだろうな。

    とはいえ、今のところわたしは生きるかなしみに向き合っているが、そのしんどさを全て受け入れる境地には辿り着けず、小さな幸せもいずれ死ねば失われる無力さに悩まされ続けているのだけれども。

  • 2023.12.9市立図書館
    山田太一さんの訃報を聞いて、手掛けたドラマはほとんどみたことがないのだれど、頭木弘樹さんの本で引用されていた言葉にひかれたことを思い出し、もう少し本を読んでみたいと思った。これは山田太一が編んだアンソロジー(刊行は30年ぐらい前)で、それぞれの文章のかんたんな紹介文の他に、巻頭に自身の文章もある。
    元気で老いたいという世間の欲求にもやもやする佐藤愛子(←六十代のころのご意見なので、すこやかに百歳を迎えた今の心境もきいてみたい)、めがねをかけることに逡巡がある円地文子(コンタクトレンズがなかった時代はよくある悩みだったもよう)、時実新子二度目の結婚での気づき、太宰文学の原点にあるもの…など、どれも味わい深く、読み進むにつれ、ミックスルーツ、シベリア抑留、在日朝鮮人、貧困といった、幸いなことに縁のないものにはじゅうぶん想像もできないような根源的なかなしみにせまっていく、とてもいいアンソロジーだった。30年前のまだ若い学生だった自分には読みきれなかったかもしれない。世界のさまざまなかなしみに触れてきたいまは、よくぞこんな名文ばかりを30年も前に、とおどろいてしまう。
    まだ手に入るなら買いたいな…と思ってすぐに書店で取り寄せの手続きをした。いまだからこそ、この機に思い切り増刷してもっと読まれてほしい本だと思う。

  • 「断念するということ」
    「私のアンドレ」
    「二度と人間に生まれたくない」
    「ふたつの悲しみ」
    「望郷と海」
    「親子の絆についての断想」

  • 山田太一が有名作家達の心に棘が刺さったエッセイを読み解く。

  • ①私のアンドレ
    作者のことが女として狂おしく好きだし強く共感できた。

    ②親子の絆に対する断層
    目から鱗新発見だった
    もう読み返すことはないだろうが思い返すことはあるだろう

  • 今は恵まれてるな

  •  四年ほど前、書店でちくま文庫のフェアをやっていて購入しておいた。東西の有名作家のフィクション、ノンフィクション、エッセイが山田太一の選で編まれている。
     昨年暮れ亡くなられてから本棚から引っ張り出してボチボチと読んで読了した。
     16編の短編集。生きる上で悲しみは避けてとおれない。それが人生で人間に深みをもつのだろう。4ヶ月近く書けて読んだので最初のほうのは記憶薄らいでしまったが杉山龍丸(夢野久作の長男)の「ふたつの悲しみ」石原吉郎「望郷と海」高史明「失われた私の朝鮮を求めて」水上勉「親子の絆についての断想」はそれぞれ違った悲しみを描いてます。「ふたつの悲しみ」は陸軍士官学校を出て戦後日本兵士の復員事務をしていた時の残された家族への戦死を伝える話が出ています。水上勉の話は赤貧のなかで九歳まで祖母と両親と生活し寺の小坊主になり戦後生き別れた息子と30年ぶりで再会する話がされてます。水上勉と親子の絆についての水上勉の禅寺での修行した上での考えを語っていますが勉強になります。

  • 短篇集

    喜怒哀楽の哀は避けがちだけど、時に哀に想い寄せることは大切ですね。

  • 編者山田太一さんのはしがきが1番グッときた。
    編者が伝えようとしたこの「生きる悲しさ」という感性を忘れずに歳をとっていきたいし、1年に1度は読み返したいと思った。

  • 今でも手に入るのでしょうか。山田太一という人の目の確かさ。こういう人が作っていたドラマをテレビで見ていたいい時代があったんですよね。

  • 老い、戦争、抑留、差別、親子の絆…様々の観点からひとの生きるかなしみを炙り出すアンソロジー。
    在日二世のアイデンティティ喪失を記した「失われた私の朝鮮を求めて」が壮絶。永井荷風の文章の美しさに感じいる。

  • 山田太一 編「生きるかなしみ」、1991.3刊行、1995.1文庫化。16名の方の生き方エッセイでしょうか・・・。佐藤愛子さん、66歳の時のエッセイ「覚悟を決めて最後の修業を」:どんなに頑張っても人はやがて老いて枯れる。上手に枯れる修業を。 アンドレ・ジッド、秘められた70歳の時の日記から:アンドレ・ジッドはホモセクシュアルで、妻マドレーヌと一度の性交渉もなかったとか。

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著者プロフィール

1934年、東京生まれ。大学卒業後、松竹入社、助監督を務める。独立後、数々のTVドラマ脚本を執筆。作品に「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎たち」他。88年、小説『異人たちとの夏』で山本周五郎賞を受賞。

「2019年 『絶望書店』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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