冬の夜ひとりの旅人が (ちくま文庫)

制作 : Italo Calvino  脇 功 
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 370
レビュー : 18
  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480030870

感想・レビュー・書評

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  • とある男性読者が購入したイタロ・カルヴィーノの新作『冬の夜ひとりの旅人が』は乱丁本で、初めの数ページしか読むことができない代物だった。
    本屋に文句をつけて交換を求めると、実はその本の内容はカルヴィーノとは関係のない、ポーランド人作家の『マルボルク村の方へ』という作品の冒頭なのだと教えられる。
    とりあえず続きが読みたいのでそのポーランド人の本を交換してもらい読み始めるが、その本は印刷が途中で途切れている。続きが気になる彼は、本屋で知り合ったミステリアスな美女ルドミッラとともに調査を開始するが…

    男性読者と女性読者の冒険を描く各章と冒頭で途切れる物語が交互に現れる奇妙な形式の一冊。しかも作者が読者に語りかけてきたり、作中の小説家が本書とそっくりな構成の作品を書こうと思いついたりと、なんでもありの幻想ぶりでした。
    読むこととは、書くこととは、そして物語とは何か。相変わらず難解で分かったような分からないようなだったけど、ときどき分かるような気もしてどうにか読み切ることができた。
    世界を股にかける翻訳詐欺師エルメス・マラーナの偽物本物論やロターリアの単語の出現回数を分析する作品論など、興味深いテーマも多い。

    冒頭小説はどれも続きが気になるけれど、『冬の夜ひとりの旅人が』のなぜかトランクの受け渡しに失敗し動揺する工作員(?)の話と、『絡みあう線の網目に』の電話の呼び出し音に悩まされる大学講師の話が特に好みだった気がする。

    あと、日本人作家タカクミ・イコカ(変な名前だ)が書いたという『月光に輝く散り敷ける落ち葉の上に』も面白かった。大学生の青年と、その師であるオケダ氏の妻ミヤジ夫人、さらにその娘マキコの秘密の恋愛を描く、なかなか肉感的な内容だけれど、外国人が銀杏や玉砂利、着物など小物を使って日本っぽさを出そうと頑張っている感じが楽しい。
    日本にありそうな作風だけど、ずっとエッチな展開で、ラッキースケベ的なところが多くてイタリア感は隠せていないような笑
    転んだ拍子に女性の着物の胸元に手が入っちゃうとかラブコメみたいだった笑
    ついでに8章でタカクミ・イコカに作品をパクられたらしいサイラス・フラナリーの台詞「あいにく私は日本語はさっぱりわからないのでね。」は日本語で読むと笑える。

    11章で読むことについて集大成とも思える激論が交わされ、さらに新たな作品が登場したあと12章のあっさりした締めで、思っていたより爽やかで気持ちのいい読了感だった。

  • メタフィクションの作品として、様々な技巧を凝らして物語の断片を提示しつつ、二人称小説と言う特異な形式を利用して様々な仕掛けを繰り出す手法に、また物語の断片を通して次々と繰り出される異なった文体のバリエーションには感嘆させられたが、正直途中で少し飽き始めてしまった。とはいえ、全篇を通して筆者の様々な試みと、書くという行為を通した切実な思いが読み取れる良く出来たメタフィクションだと思った。

  • 小説について語られる言葉が語り尽くされた本書について、これ以上何を語ればいいのだろうか。「小説のいくつかの書き出しだけで構成されたひとつの小説(これすら本文中の引用だ)」である本作は、多数の小説の断片とそれを結ぶ一つの物語から成り立っている実験的な作品であり、物語の断片はどれも世界文学の模倣の様だ。そして幾度も語られる、本について語られる言葉は「こんな風に本を語ってみたい」という言葉を全て先取りされてしまった気分にさせられる。それでも本を読むこと、それを語る事は決して止められるものじゃない。続けよう。

  • 文学の魔術師の力を体感するメタフィクション。あなたは次々に始まる小説群の続きを探す男性読者として、女性読者ルドミッラの影と、小説の続きを求め彷徨い、そして唐突な終わりを迎える。メタフィクションのパートは創作の苦しみの体験でもあるし、非日常への逃避行でもある。凝った仕掛けでとても楽しい作品だった。10本のタイトルの仕掛けには気付けなくて悔しかった。

  • 「あなたはイタロ・カルヴィーノの新しい小説『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めようとしている」という出だしをどうしても引用したくなる、イタリア小説。

    以前レビューした"Cloud Atlas"について、作者のMitchelが「カルヴィーノの『冬の夜ひとりの旅人が』を読んで構成を思いついた」と言っていたのが読むきっかけになりました。有名な方ですが、私ははじめて読みました。

    なんとなく、難解な作品を書く方なのかなと思っていました。この本も、10もの長編小説の出だしだけが提示され、「あなた」と呼びかけられる「男性読者」が「女性読者」に導かれたり惑わされたりしながらそれぞれの小説の続きを探していくメタフィクションだと聞いて、「うーん、なんだか難しそうじゃね?」と思っていました。

    でも、実際読んでみると、ユーモアがあって、テーマも決してわかりにくくなくて、でも思いがけない場所へ読者を引っ張りまわす強さがあって、結構夢中で読みました。
    出だしだけの小説たちもどれも面白いし(それぞれ誰かのパロディらしいけど、結構わからなかった…)、男性読者の「小説の続き探し」はどんどん世界をまたにかけたおおごとに発展していくし、いや、背伸びとかでなく普通にすごく面白かったです(←語彙が貧弱ですみません)。

    考えたら、小説とは、本を読むとは、というテーマを、二人称で語りかけられながら追っていくわけですから、本好きに取っては切実なことで、興味を持たずにはいられません。

    ちなみに"Cloud Atlas"とは全然似ていません。Mitchelの言いたいこともわかるけど。月がきれいだったからプリン食べたくなっちゃったくらいの関連性ですかね。

    カルヴィーノのほかの小説もぜひ読んでみたいと思いました。読書を愛するすべての人におすすめ。

  • あなたはイタロ・カルヴィーノの新しい小説『冬の夜ひとりの旅人が』を読み始めようとしている。さぁ、くつろいで。

  • 本を読み終えた気がしない人へ

著者プロフィール

1923年キューバ生まれ。両親とともにイタリアに戻り、トリノ大学農学部に入学。43年、反ファシズム運動に参加、パルチザンとなる。47年、その体験を元に長篇『くもの巣の小道』を発表、ネオ・リアリズモ文学の傑作と称される。その前後から雑誌・機関誌に短篇を執筆し、49年短篇集『最後に鴉がやってくる』を刊行。エイナウディ社で編集に携わりつつ作品を発表、一作ごとに主題と方法を変えながら現代イタリア文学の最前線に立ち続ける。主な長篇に『まっぷたつの子爵』(52年)『木のぼり男爵』(57年)『不在の騎士』(59年)『見えない都市』(72年)『冬の夜ひとりの旅人が』(79年)などがある。85年没。

「2018年 『最後に鴉がやってくる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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