コミュニケーション不全症候群 (ちくま文庫 な 11-4)

著者 :
  • 筑摩書房
3.50
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本棚登録 : 424
感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (339ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480031341

作品紹介・あらすじ

ますます過密化と選別化がすすむ現代、もはや「一戸建」の自我の場所はない。それでも生きていかなければならないとしたら。おタク、ダイエット、少女たちの小年愛趣味…それらすべてを現代社会への「適応」として捉え、若者の共感と批評家の絶讃を浴びた、著者渾身の書き下し評論。後のオウムの出現を予言していたと思える箇所もあり、誰もがあっ、と思いあたる。「現代」を生きなければならない人々に繰り返し読まれるべき名者。

感想・レビュー・書評

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  • いま本屋にあふれるハウツー本。「できる人の○○」…
    「できる人」ってつまり「好印象を持たれる人」?
    そんな事を思ったら本書191ページへ。
    書かれてから20年近く経っているが、内容は古いどころか現代をするどく看破している。
    ”この社会、現代という時代は基本的に病気なのだ。”

  • まともって何だ。中学生ぐらいから今まで漠然と考えてきたことだ。まともとは社会に適応できていることだと思う。そう考えるならば、私は社会に適応できていない、まともではない人間だ。

    小説家でもある中島梓さんが書いた評論だ。30年前に刊行されたが、現在の社会や人間のことを思うと作中でまるで予言していたかのような言説も見受けられる。

    ”私たちはみんなひとしなみに、コミュニケーション不全症候群であると思うが、それは必ずしも私たちの個体としての素質からきたものであるのではなく、むしろ、コミュニケーション不全症候群というかたちで私たちは現代という、適応不能が頂点に達した時代に適応しようとしているのではないかという気がする。”
    『コミュニケーション不全症候群』p26

    おタク趣味やダイエット、BL作品を好む少女。これらはいまの社会へ「過剰に適応」した結果だと中島さんは書いている。そして「過剰に適応」することが、なぜおタク趣味、ダイエット、BL作品の愛好につながるかも書いている。ここまで読んでいて不安に思った方へ断っておきたいのが、中島さんはおタク趣味やBL作品を好むことについて「そんなのおかしい」と非難しているわけではない。むしろ今の社会において、そうなってしまうほうが当然なのでは?とすら言っている。一方で「ダイエット」については警鐘を鳴らしている。それは明確に健康を害し、命の危険も迫ることだからだ。なぜ「ダイエット」をこんなにもやらなきゃ、と思う人が多いのか。また刊行当時は女性が「ダイエット」をしている風景が多いときだが中島さんは男性も「ダイエット」をするようになってきた。するようになるとも書いている。「ダイエット」というのは数値的に健康の心配があるからすることではなく、美容目的の「ダイエット」ということだ。少女(女性)を巡る「ダイエット」のあれこれも「過剰な適応」である。

    少年や少女をここまで追い詰めるものの正体は何なのか。そしてその病巣である社会と向き合っていくためには。自分の病をしっかりと知ることと、知らないままでいるとどのようになってしまうのか。目次の最後の章にある『コミュニケーション不全症候群のための処方箋』で、それまで述べたことへの処方箋が出される。この章は中島さんが少年や少女に、そしてかつて少年や少女だったあなたへ向けてのやさしいく厳しく、たしかなメッセージを記してくれている。まともじゃなくたって生きてい期待!そう考えるあなたへの一冊。

  • オタク、拒食症・過食症、ボーイズラブ...。これらが引き起こす凄惨な事件や悲劇。社会全体の歪みの原因であるコミュニケーション不全症候群と、その立ち向かい方、心構えについて書かれた評論。もう24年前の作品です。
    著者の中島梓は、SFやミステリー等を中心に書く作家の栗本薫氏が、評論を書くときのペンネーム。要は同一人物ですね。

    愛されたい、という現代の病。嫌われたくない、とも言い換えられそうですが、昨年の大ベストセラー『嫌われる勇気』を想像しました。
    やはり20年以上前も今も、自分を周りを比較して、ダメな自分を勝手に膨らまして病的に陥ってしまう、と。これが現代病なのだと思います。
    決して他人事ではなく、自分にも思い当たる節がありますし(だから『嫌われる勇気』を読んだわけですし)、それを「自覚」して行動するのが大事なんですね。

    中島氏もいうように、自分を直視する勇気、自分を認識する勇気、これを忘れずにしたいと思います。
    いつか自分の子供がこういうことに悩むときが来たら、是非伝えていきたい。 社会全体の問題も、こういうことの啓蒙が少しずつ世の中を変えていくのだと思います。

  • 「コミュニケーション不全症候群」とは、「(1) 他人のことが考えられない、つまり想像力の欠如。(2) 知合いになるとそれがまったく変わってしまう。つまり自分の視野に入ってくる人間しか「人間」と認められない。(3) さまざまな不適応の形があるが、基本的にそれはすべて人間関係に対する適応過剰ないし適応不能、と特徴づけられる、現代にきわめて特徴的な精神状況」のことを意味します。ただし本書は、こうした精神状況からの「治癒」をめざすのではなく、むしろこうした精神状況の中で人びとが生きなければならない現状をはっきりと認識し、その問題の射程を冷静に見積もることがめざされています。

    まずはこうした精神状況の中で、限られた趣味の世界に閉じこもるオタクや、世間から値踏みされる視線によって摂食障害に陥っている少女たちの生態が論じられます。さらに、そうした少女たちが世間のまなざしにさらされることから逃れるために構築した、同性愛的な耽美の世界に触れられています。

    BLの元祖ともいうべき中島梓(栗本薫)らしく、その世界に耽溺する少女たちへの共感を表明しているのが目を引きます。本書を読んでいると、男のオタクも、現代になって女性たちから値踏みされる状況が生まれたために、あたかも恋愛市場から「降りた」ように振舞っているのではないか、という連想に誘われます。

  • かなり昔に書かれた本ではありますが…そして、著者はもう亡くなっているのではありますが…非常に説得力のある本だと思いました!

    ヽ(・ω・)/ズコー

    まさか91年の段階でこんなことが言われていようとは…この本に書かれているような人間は今、さらに増えているんじゃないかと思いますねぇ…もちろん僕も含めてですけれども…

    ヽ(・ω・)/ズコー

    スマホやらパソコンやらが普及してさらに僕らは赤の他人を、それこそ障害物か何かと勘違いして道とかを歩くのでしょう…そして、ぶつかったりしても謝らない…障害物は人間ではないのだから謝らなくてもOK、みたいなノリで…ああ、嫌だ…

    ヽ(・ω・)/ズコー

    今後の日本はどのような事態になるのか、本書が予言しているようで何だか読後、暗澹たる気分になりました…おしまい。

    ヽ(・ω・)/ズコー

  • すごく濃い感じがします。
    人の狂気が生々しく伝わってくるようで、なんか怖い。

  • 過密状態で、居場所がどんどんなくなっている現代で、それでも生きる場所を捜し求めて、おかしくなっていく私達の社会を、あざとく、つきはなして、オーバー気味に書いていた。

    と思ったけど、今ではオーバーでもなんでもないかもしれない。
    作者の決めつけ気味が気にかかっていたけどそれもあまり気にかからない。
    残念だけど、この本に書かれている説明を受け入れた方が理解し難い事件の数々が全てではないけど、説明がつく事のほうが多くなってきたかも
    というかあまりにも不可解だから、そして誰ももっともらしいいい訳を出せないからなんだけど。

  • 1995年発行、筑摩書房のちくま文庫。現象はするどく看破している、しかし原因になると「選別される」側の適応というが、現在のネットの発達による「選別される」側にも「選別する」側にもなり、また選別圧力も一部では弱まった現在でも現象は変わっていないのはどう評価するのか。どうも原因の解説する時に自分の経験などに寄せて考えすぎているのではないのか。結局この人は全てを自分に寄せていたのではないか。活動の後半で一部のシリーズものを覗いて、根強いファイン入るが一般受けしない作者になってしまったのは、それが原因ではないか。

    あとがき:「あとがき‐遠くにいる友へ」(1991年7月17日)中島梓、解説:『解説「母の崩壊」の後で』犬塚英志、備考:1991年8月、筑摩書房より刊行、

  • 「ますます過密化と選別化がすすむ現代、もはや「一戸建」の自我の場所はない。それでも生きていかなければならないとしたら。おタク、ダイエット、少女たちの小年愛趣味…それらすべてを現代社会への「適応」として捉え、若者の共感と批評家の絶讃を浴びた、著者渾身の書き下し評論。後のオウムの出現を予言していたと思える箇所もあり、誰もがあっ、と思いあたる。「現代」を生きなければならない人々に繰り返し読まれるべき名者。」

    「ダイエット依存症の女の子とか、腐女子とか、オタクとあ、そういう現代の少年少女の現象を「現代社会への過剰適応である」と説く本。

    「この本のなかで書いてあることは、ひとことで云えば、いまの世の中、ヘンタイにならんで生きてゆけるほうがどうかしてるんだぜ、ということです。また、ヘンタイの底に希望が見える、というようなお話でもあります。私が一番怖いのはマトモな人です。私が一番キライなのは偉い人です。私が何より苦手なのは立派な主婦のかたと自信たっぷりのおっさんです。そういう人、つまりは由緒正しいお父さんとお母さん軍団のために私たちはこんなに苦しまなければなりませんでした。」(本文より)

  • 素晴らしい

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