山田風太郎明治小説全集 (1) (ちくま文庫 や 22-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (490ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480033413

感想・レビュー・書評

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  • 以前から、かなり長い年月、読んでみたいと思っていたんですね。山田風太郎さんの明治モノ。
    というか、恥ずかしながら山田風太郎さんが、読んだことなかったんですね。
    なんとなく、若い頃は、青臭い心に「忍術モノは別にいいや」とか思っていまして。
    もうずっと、ほんとにこの10年くらい、読んでみたいなあ、とは思っていたので。ようやくでした。

    面白かったですね。これ。
    1973年から「オール読物」連載らしいですね。40年前ですね。
    明治初期、明治6年から明治9年くらいのお話。連作短編です。娯楽作品です。
    毎回、何かしらの犯罪があります。一応、「善玉=可哀そうな、応援したくなる人」がいて「悪玉=成敗したくなる相手」がいます。
    悪玉は、大抵、成り上がった明治の高官だったりします。
    で、この事件に毎回、

    ●元町奉行一派(元江戸町奉行の飄々老人。元幕臣の浪人剣士。元岡っ引き。などなど多士済済の在野の人々)

    ●警視庁の人々

    の二つのグループが絡む。
    で、大まかに言うと、「元町奉行一派」が解決して成敗して溜飲を下げる。
    だけど、警視庁組も、捨てたものではなく。善良な人もいる。
    なんていうか、ルパン一味と銭形刑事みたいな。そんな関係です。

    で、全ての事件の背景には、

    ●江戸時代から急激に明治時代になっちゃった、時代の急変のきしみ。

    ●迫害されて可哀そうな、旧幕時代の心ある人々。

    ●三遊亭円朝、斉藤一、永倉新八、夏目漱石、森鴎外、樋口一葉、東条英機(の父)、をはじめとして、実在の有名人をお話に組み込んじゃう、歴史的な視点。

    みたいな味付けがされてあります。

    これが、なかなかどうして。ホントにすごい。面白い。

    恐らく、多くの漫画や時代劇が、ココをヒントに生まれているのが判ります。

    ●トリックや活劇部分もあるんですが、ソコに引きずられない筆力が、大人の鑑賞に堪える。最後は人間模様というか、歴史模様で楽しませる。

    ●なんだけど、毎回事件があって、人々は巻き込まれる。当然ご都合や破天荒なこともあるんだけど、それを読ませちゃう語り口の滑らかさ。これ、愚直に映像化しても、ツマンナイだろうなあ。

    ●壮絶なまでの、薀蓄と知識、それを整理整頓して並べてみせる理性。それが、ケレン極まりない語り口と併存しているのが凄い。

    ●どこかね、登場人物の元町奉行さんみたいに、飄々としてるんですよね。作風が。酸いも甘いも噛み分けた。なんだか懐疑主義的な佇まい。大人だなあ…。

    という訳で。
    明治モノに限らず、15年戦争モノも多く興味深い本がありますし。
    今後の長い年月、「山田風太郎を読む」という大きな楽しみの鉱脈を発見しました。遅まきながら。

    ナンだけど、その力の抜け具合といい、どこかニヒルな佇まい。なんていうか…前のめりに次々読まねば…と、思わせる情熱には、欠けるんですよね(笑)。

    とりあえず目の前のコトで言うと、この「警視庁草紙」。上下巻なんですけどね。
    でも連作短編、シャーロック・ホームズ風なんで。
    下巻を…すぐには読まない気がするんですよね…。
    まあ、いつか…。



    #########以下、内容の個人的な備忘録。当然ネタバレです。############

    ①明治牡丹燈籠
    …維新の動乱で。妻がいて夫がいて。夫がいなくなり、妻は再婚。再婚相手が岩倉具視暗殺の謀議をしている。さてこの元夫婦のふたりが、明治政府憎さのあまり、妻が夫を刺す(この辺、事情は入り乱れていますが。読むと疑問はないのです)。刺された夫が協力してそれを完全犯罪に。暴きにかかる警視庁。そうはさせじと、元町奉行一派。噺家円朝が絡んで。味わいとしては、円朝怪談風の話を、殺人事件として謎解いて行くと、混乱の明治初期があぶりだされる、という趣向。

    ②黒暗淵の警視庁
    …岩倉具視暗殺未遂事件。その関係一派。これを元町奉行一派は、むしろ救うために色々動く。風呂屋でけんか騒ぎを起こして逃がしたり。
    ところが偶然から、前の話で助けた夫婦が露見して死んでしまったり。後味は良くない一篇。

    ③人も獣も天地の虫
    …明治初期。対西洋の手前、売春が一斉に摘発されたことが。そこで捕まった落魄士族の婦女多し。元町奉行一派の剣士は義理があって数人、救いたい。そこで、悪玉警部を独り、色仕掛けで落として、脱獄をさせる。だが途中で露見。絶体絶命。そこで、竜馬や晋作の恋人女房のお話になり…という。これまた強引爆笑ものの一篇なんですが、小説として楽しめてしまう技術、脱帽。

    ④幻談大名小路
    …とある藩。ご一新の混乱で落魄したが、悪者がひとり、姫を売りとばしたりして、高官になった。それに対して、落魄組が徒党を組んで仕返しをする。精神病院の初代が出てくる。また、ミステリーの仕掛けとしては、その悪党に恨みがある按摩を使って。「あり得ない小路」の証言をさせるという。元町奉行一派が仕掛けを見抜くくだりで、少年少女時代の漱石と一葉が出てくる。

    ⑤開花写真鬼図
    …ひょんなことから、美人女郎を巡る若者ふたりの果たし合いの、立会人になったのが。警視庁の警官と、元町奉行一派の剣士。これからはじまって、剣士の正体がバレそうに。警視庁を脅すために、お偉いさんと愛人のスキャンダル写真を撮ることに。これぁ、なかなか外連味たっぷり、唖然茫然の力技。で、面白かったから、すごいものです。

    ⑥残月剣士伝
    …明治になって、急激に失業が広まる、剣術業界のお話。食うに困った名人道場が、見世物チャンバラを始める。コレが面白くない警視庁が、女剣戟という見世物で対抗。とうとう名人側が、兜割り競争で、警視庁の師範代に挑戦。受けて立ったが、何らかの陰謀で邪魔が入って警視庁敗北。その下手人仕掛人を、追い詰める警視庁だったが。
     解決にはあまり元町奉行一派は絡まないけど、どっちかというと、下手人を助けようとする。新しい仲間、スリのふたりが登場。平間重助、斉藤一、永倉新八など、新選組メンバーが活躍。

    ⑦幻燈煉瓦街
    …銀座のお話。
    悪者役が、井上馨さんです。明治後、とある鉱山を私物化しちゃってた。そこの被害者の人たちが、結託して、井上馨の番頭の岡田平蔵という男を謀殺。からくり仕掛けて完全犯罪。これを、元町奉行一派、見抜くけど見逃しちゃう。最後は、井上馨一派のごろつきとのアクション。明治初期の、銀座の事始めが面白い。

    ⑧数寄屋橋門外の変
    …銀座のお話。元彦根藩士がいます。桜田門外の変で、井伊大老が殺されます。関係藩士が、井伊彦根藩から苛められて辛い一生を送ります。その男は落魄、明治後は演劇の大道具や大工をしています。桜田門外の変で大老を殺した加害者側の生き残りが、警官をしているのを知る。更に、苛めた悪い彦根藩士たちが、今はなんと旧敵だったはずの井上馨の子分やってることを知る。その連中全員に恨みを晴らすために。井上馨子分たちを、同じ恨みを持つ女たちを動員して毒殺。二重壁のトリックで、それを警官の罪にしようと。ところがそれを元町奉行一派が見事に暴きます。本当の悪党は、井上馨一派、というお話。

    ⑨最後の牢奉行
    …悪玉は、伝馬町の牢の管理責任者。元は小物の勤王志士で、幕末に仲間をペラペラ売って生き残り。それを知ってそうな石出帯刀という元牢奉行を殺人の罪を着せる。娘をもてあそんで殺しちゃう。そのからくりを、元町奉行一派が見抜いて、警視庁に密告、万事めでたしになる。「お解き放ち」という制度の解説が印象に残った。

    ########以上##########

  • ちくま文庫さんにあっぱれ!
    採算度外視で埋もれた名作を復刊した出版社としての心意気に。こうした知的エンターテイメントを楽しめるのが大人。
    幕末の著名人と架空のキャラが混然一体となり、警視庁対江戸町奉行所の知恵比べを、華やかな明治の舞台裏に流れる去りゆく者たちの悲哀を絡めて描く風太郎マジック全開。上下巻。

  • この全集、だいぶ昔に買ったのだが何故か読むきっかけがなく、ずっと積読状態だった。いま全集1巻目を読み終わったばかりだが、これだけ面白い小説なら、もっと早くに読めばよかったと後悔している。
    なにせ明治初期という江戸と明治の端境期、ある意味なんでもありの時代を背景に、山田風太郎というエログロナンセンスなんでもありの小説家が書いた物語だから面白くないはずがない。
    登場人物もみんな魅力的で娯楽小説の頂点ともいえる小説。
    これから全巻読んでゆくが、今のところ満点評価。

  • (下)も合わせて、一気に読む。

    これはものすごい。年表の隙間から流れ出てくるような物語である。
    幕末とか昭和初期の文学とか、そういったものにちょっと興味を持つ人間にとっては、
    美味しい「あたりめ」のように、かめばかむほど美味しい物語である。

    明治物を読むのははじめてである。
    忍法物に優るとも劣らない、小説読みの醍醐味を感じさせてくれる。

    どこが?
    説明不能、すぐ読んで!
    2007/4/30

  • ネタバレ/下有劇情
    【9.5/10】

    一開始只能斷斷續續地讀,一直難以進入狀況。然而踏入第三部之後開始有漸入佳境的感覺,讀起來也越來越有趣。到上卷最後一個故事「最後の牢奉行」,最後一個石出帶刀,身為第十七代,但最後淪落到當新政府下的牢番,女兒還被鳥坂署長看上因此陷害他,最後女兒自害,小傳馬町監獄搬走的最後一天失火,當大家左往右往不知怎麼辦時,石出本人出來大喊他祖先人道的經典台詞,自己隔天負責切腹自盡。惡人鳥坂也在駒井老人的安排下,讓老扒手直接對他洗臉,最後鳥坂被山田淺右衛門一刀法辦,令人痛快,情理上都很出色的作品,實在寫得很感人。

    這部作品主要是各種懸案,但不只是單純的猜兇手。同時有兩條線--大警視川路為首,下面的加治木井警部、油戶杖五郎、今井信郎、藤田五郎(齋藤一)等巡查一行人在草創的警視廳查案(故事從征韓論結束的明治六年開始),另外則是最後的江戶南町奉行駒井信興老人,以及前元八丁堀同心千羽兵四郎、元岡引冷酒かん八等人,在維新後雖然失去職位,但老人靠著他的人面、經驗與智慧,一一解決問題,兵四郎等人對新政府沒有好感,也一再做出可能洗臉警視廳,但卻大快人心的正義之舉。各種懸案雖然以內容、手法而言不乏太過離奇者,但重點是,作者把明治時代前期的氛圍(還充滿許多江戶時代風情,但已經有火車、牛鍋、銀座煉瓦街等所謂文明開化之舉),還有當時名人的風貌舉止躍然紙上(大久保、川路、井上馨、半七等人),警視廳和前朝遺民的交手,也越讀越覺得有趣。

    以殺人事件為主線的作品,常常免不了一個問題就是死者好像物品一般任作者操弄,多半推理小說也常常這樣。確實作者這部中的犯罪手法某些也有點離奇。然而在最後的牢奉行那一部中,奉行的女兒被玷汙自殺,駒井老人在同時指揮同志行動時,也記得要讓過世的人躺在被單上並且請和尚來念經。雖然只是短短一句話(其實故事中也有避免破梗暫時帶開話題的效果),讀到這段我突然覺得好像很少在殺人事件的小說裡看到這樣的吩咐(雖然我也很少讀這一類的書就是了),現代的話因為要科學辦案自然不能亂動,但也真的很少作家會寫到這句話。這句話充分顯示風太郎對過往的人的敬意,而他對歷史對史上人物的真誠喜愛與敬意,也是他歷史作品之所以可以成功,可以打動人心的原因。我們看到的不是任作者隨意擺佈的棋子,這是一種很難以言喻的,雖然看似不重要但卻很關鍵的應具備的人文素養(這讓這部作品中殺人手法再怎麼奇怪也不太會影響到對作品的實感)。今年的某部歷史劇讓人深深感到,這件事有多麼地重要,任意擺佈歷史人物也遭到許多人批判,有人說這部劇裡面從來就沒有憑弔過過往的人,沒有任何一幕佛壇面前合掌,其言實然。然而,尊重並學習歷史的厚重與沉重,是當代人漸漸失去的一個美德。公司的學妹還問,讀歷史幹嘛,查維基不就都有,更有政治人物公然宣稱不入流,要把某些人文科系都給裁撤,對此我已經悲傷到不想回應。

    風太郎寫這個制度草創的警視廳,在制度還沒定型、僵化之前,存在很多還可以用人情義理思考的空間,以及制度建置前的靈活溫情。例如故事中提到的殺人犯罪的等值與否,當時也還在討論是否要以犯罪的內容不同而採不同行刑方式(嚴重的應該是斬首還是絞首?)等等。制度建置後,也就只有一板一眼的無趣,因此這種建置前的活力,以及與舊幕臣勢力的鬥法,正是這部作品的有趣之處,也是作者之所以選擇這個時代的原因。對於刻意往貪污井上的臉上殺球的事件,川路故意睜一隻眼閉一隻眼,也讓駒井老人們有可以運作的空間。而對於並非站在勝方的幕臣遺老、朝敵敗方(例如會津藩),也都可以感受到他溫暖地守望這些角色。還有一堆傻畢斯日後名人也一起登場(例如圓朝、樋口一葉、幸田露伴),但安排都不做作,令人感到欣喜。這部作品寫時代世相,寫人情,寫歷史,都很出色,又是另一部傑作。

  • 維新後の東京の様子を描いた作品を探していたら見つけた一冊。山田風太郎氏といえばお色気シーン満載の忍法帖のイメージしかなかったので、改めて氏の凄さを認識した。
    史実と創作の境界がどこなのか分からないものの、登場人物の多くは実在しており、かつ他人の小説中の主人公まで引っ張り出してくるところは大御所ならではの荒技でしょうか。
    期待以上の面白さだったので、全巻読破しようと決めました。

  • しかしまぁ、いろいろな歴史上の人物が出てくること出てくること(笑
    内容が明治初期が舞台の捕物帖というか謎解きだから首肯けるが、それにしてもうまい具合に出てくる出てくる、絡み合う。
    池波正太郎の名前まで出てくるのはご愛嬌(笑
    たまに著者がこっち(読者)を向いて講談師っぽい口調で話しかけるのもとぼけていていい。
    というわけでこの妙な味わいはあとを引くので下巻へ進もう。

  • シリーズ物で、前の話があるらしい。私はこれから読んだけど、前を知らなくても楽しい。
    実在した人物を登場させているところも、楽しめる。こんな時代に、あの人物は生きてたんだな、と思う人物がたくさん出ていて、明治とはすごい時代だったんだと思った。

  • 大好きなシリーズの第一弾を改めて読む。
    警視庁VS町奉行の闘いも去ることながら、実在の人物達が縦横無尽に活躍する姿が面白い。

  • 推理小説よんでるみたーい。
    忍者モノしか読んでなかった私には
    新鮮でありました。

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著者プロフィール

1922年兵庫県生まれ。47年「達磨峠の事件」で作家デビュー。49年「眼中の悪魔」「虚像淫楽」で探偵作家クラブ賞、97年に第45回菊池寛賞、2001年に第四回日本ミステリー文学大賞を受賞。2001年没。

「2011年 『誰にも出来る殺人/棺の中の悦楽 山田風太郎ベストコレクション』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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