命売ります (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
3.57
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本棚登録 : 2939
レビュー : 384
  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480033727

作品紹介・あらすじ

目覚めたのは病院だった、まだ生きていた。必要とも思えない命、これを売ろうと新聞広告に出したところ…。危険な目にあううちに、ふいに恐怖の念におそわれた。死にたくない-。三島の考える命とは。

感想・レビュー・書評

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  • 三島由紀夫の手になるハードボイルド調ブラックコメディ。

    仕事も生活も順風満帆なのに、ある夜唐突に死にたくなった青年。彼は服毒自殺を図るが失敗する。生に執着がなくなった彼は、新聞に「命売ります」という広告を出す。
    彼の命を買って利用しようとする人々が彼の部屋を訪ね、様々な依頼をし、彼は悠々と自分の命を差し出すのだけど、その度に生き残ってしまい、やがて…。

    その多くが沈鬱な雰囲気を纏って閉鎖的な世界観の他の三島作品に比べると、異質というか、奇妙だと思うほどに、軽妙かつ滑稽で、シュールで、ハイスピードな展開構成。

    そして、命を売ることにした男「羽仁男」の奇妙な落ち着き、反して唐突な変わり身の早さ、執着。どうも脈絡なく、ちぐはぐな感じさえする。

    でも、三島がこの作品を発表した2年後の1970年に自殺した事実に思いを巡らせると、なんとなく得心するものがある気がするから不思議。三島の最後の作で、死と輪廻転生と無情を壮大なスケールで書いた「豊饒の海」四部作(1965-1970)の途上の時期でもあるし。

    きっと、この頃の三島は、死に対して、考察、妄想、夢想と、様々な角度から思いを巡らせていたからこそ、豊饒の海の対極にあり、ある意味では、三島の迷える死生観を叩きつけたこの作が生まれたのかも、と思った。

    それに、ラストの突き放したような虚しさは確かに三島調かもしれない。
    三島らしくないけど三島なんだな、と思える不思議な作品でした。

  • ブクログをやっていなかったら、触れることのなかった作品だと思います。
    「音楽」を読んで以来、約10年ぶりの三島作品です。

    自殺に失敗して、命の使い道をなくした青年が、命を売る商売を始めたことで、変わってゆく命への価値観。

    死にたいと思うことはあっても、実際に死のうとしたことがないわたしからしたら、彼の、本当の意味での死にたさはきっと、共感はできても、理解はできないんだろう。でも、「ゴキブリ」で死にたくなるというのが、なんというか、太宰とか、寺山修司とかなら、理解できたんじゃなかろうかと、思ってしまったのだ。

    命に対しての価値観が変わっていく瞬間の彼の気持ち、例えば「恐怖とは思いたくない動悸がまだ胸にさわいでいて、羽仁男は虚勢を張り続けていなければならない自分を感じた」、は特に、単なる死への恐怖だけではなく、自分の気持ちがやはり生に拘っているのではないかという直面化、自分の意思ではない形で命を奪われるかもしれないことへの戦慄が伝わってきて、胸が苦しくなった。こうした気持ちの動きは不変で、だからこそ今の時代でも、こんなにも多くの読者がこの作品を手に取るんだろうな。

    結局、羽仁男はこれからも、組織に追われて生きていくのか。なんとなくこのまま、なんでかんで生きていくんだろうなって、そんな気がするんだけど。

    「音楽」もすっかり忘れちゃっているけれど、「禁色」、読んでみたいな。

  • 三島の作品の中ではあまり知られていないが
    1968年、週刊「プレイボーイ」に連載された
    ハードボイルドでエロチックなエンタメ小説である。

    自殺に失敗した27歳の広告マン羽仁男は
    「命売ります」と新聞広告を出す。
    一度死んだ彼にとってこの世はもはや
    ゴキブリの活字で埋まった新聞紙にすぎない。

    だがなかなか命を売り切ることはできず
    次々と依頼が舞い込み
    さまざまな男女に関わるうち
    人間という不可思議の渦に巻き込まれて行く。

    エンタメ小説として最上級に面白いが
    そこは三島である。
    テーマは「死」だ。

    あの衝撃的な最期ゆえに
    私にとって三島は「死」そのものであり
    同時期に「豊穣の海 第二編 奔馬」を
    書いていたことを考えても
    簡潔な言葉の奥には
    人として生まれてきたことへの
    やりきれない絶望が見えてならない。

    純粋を求めれば存在の否定という無に行き着く。
    しかし無になりそこねれば
    人の世からハラリと剥がれたまま
    身の置き場もないままに
    時だけが過ぎて行く。

    生から剥がれないよう
    必死でしがみつくのが人生であれば
    しがみつく意味が見いだせないと
    手を離したくなるものだ。
    だが一度手を離したら最後
    たとえ無になれなくても
    もう元には戻れない。

    桜の花びらが排水溝に吸い込まれて行くように
    羽仁男はいともたやすく
    生に執着する者たちの世界に落ち込んで行く。
    集団としての彼らはあまりに強固だ。
    なぜなら自らの「無意味」に気づいていないからだ。

    1968年。日本人が自由をはき違え、
    アイデンティティを一気に失って行った時代。
    やはり羽仁男はまぎれもない三島なのである。

    ところでこの作品は多分映像化されると思うのだが
    羽仁男役は松田龍平さんがいいと私は思う。

  • 「命売ります」って生きることに意味見出せなくなってたのに、終盤で怖くなる(人間らしい感情)を取り戻してる彼になんとなく感動した。

    ラストの警察は、、まあうん。もうちょい聞いたってえええ!って思ったけどまあ身なりもあれやったら聞かへんか…

    100万あったら大丈夫みたいなん書いてた時、秒で無くなる!と思ったけど8円でなんやかんや売られてた時代っぽいのわかってあーそらそうか…笑笑って思ったりもした

    主人公はかなりの女の人と恋人関係になって身体の関係も持つからそりゃあ見事な顔立ちとか色々なんかと思ったら、、まあそうよなーっていう伏線(?)回収だった。


    本読む感覚とか楽しさ思い出してきてるけど文字小さいし長いこと話はI日では読み切れなかった…

  • 主人公の心理変化とサスペンス性の高いストーリーが面白かった!

    死にたいと思った主人公、自殺すらセンチメンタルでしたくない。
    人の都合で死なせてほしいと自分の命を売るようになる。
    そんな主人公が危ない橋を渡りながら命拾いしていく中で生きている事を実感していったんだろう。
    ただ、どうしても社会倫理の中には違和感を覚える。
    生きている事の無意味さを考えつつ、本能として死にたくない。



    喜びも楽しみもチューインガムのように噛んでいるうちに味がなくなって道端にペッと吐き出される頼りなさ。人生の無意義。

    こんなセリフが印象的だったがそんな事言いながら、最後には生きる事に強く執着する羽仁男。
    そんな事考えない方が人生楽なのにと思いながらも、すごく人間的な感覚でリアリティを感じる本でした。

  • 妙な設定で、ユニークなストーリーとして読み進めていたけれど、とても哲学的であり、彼の思考が、思想がとても表されているのだと思った。だからと言ってどういう思想だとは私には言えないけれど。
    くだらない人生だから、命を絶つのは厭わないけれど、くだらない理由で死ぬことにはひどく怯えている。同じ?違う死んでしまえば結果は同じ。だけど死ぬ前の最後の決定として出来るのが自分の死に方を決めること。
    いやぁ悔いなく死ねるだろうか。
    ま、死んでしまえば悔やむことも出来ないんだけどね。

  • 三島さんもこんなの書いていたんだなと思わせる、軽いタッチの内容です。が、その中にもしっかり三島文学はちりばめられていて、やっぱ常人とは違う雰囲気に包まれていました。
    どうしても三島さんの本を手に取ると、割腹自殺が頭をよぎりますが、この本に出てくる登場人物の思う死生観と、三島さんの思っていた死生観はまったく較べようもないものだと思いました。それでも読み手は、文中に三島さんが意味深に語っている物があるのではないかと注意深く探してしまうものなのですね。
    それこそ、この作品に失礼な行為だと自身に反省したりです。

  • 読み出したら止まらなくなるほど面白い。
    読んだ後いろんなことを考えさせられる
    羽仁夫が命なんて惜しくないと吹いて回る姿には「他の奴らとは違う」という自己主張が含まれていて、それが逆説的に生の主張になっている。

  • 中原中也、宮沢賢治、芥川龍之介、万葉集、そして三島由紀夫。

    父親が好きだった上記の作家達の作品は、意識して読むようにしています。

    三島由紀夫以外\(^^)/


    中学生の頃に父親の書棚にあった金閣寺を読もうとして読めなかったのが意識の端に引っかかっていたんでしょうか。
    何となーく苦手意識があって敬遠していたんですが、TSUTAYA店頭の特設コーナーで並べられているのを見て、「食わず嫌いは良くないべ」と義務感に駆られて購入。さて、購入して何年積ん読してたかしら………。


    読了後の結論:食わず嫌い、良くない。


    「普通に面白かった」っていう時の「普通」って何よ?って説明を求めたいタチですが、今作に関しては普通に面白かった←←

    三島由紀夫ってもう少し文学文学してるイメージがあったんですが、全くそんなことはありませんでした。
    今読んでも取っつきやすい口語体で、主人公の冷めた青年像が全然古くない。古いというか面映くなるのは、よく分からない比喩表現くらいです。「俺は酸っぱいピクルスだ」???

    以下、本編感想。

    落とした新聞を何気なく拾った拍子に「不意に死にたくなった」っていうカミュってる感じが、すごく厨二っぽくていいと思います!(褒めてる

    そんな死にたがり主人公が、自殺に失敗した挙句、また死のうと努力するのもなんか違うナーと考えて、「命売ります」と広告を出します。斬新ダナー。

    で、彼の命を買って私欲のために利用しようとする人物が次々現れるんですが、自らを危険にさらす試練に直面しても、主人公、無双です。

    だって死ぬ為に命を売ったんですもの。死ぬことを恐れない人間に怖いものなんてありません。

    この辺りの主人公無双展開&女子入れ食い展開はラノベ読者層にジャストミートだと思うので、そっちの層にも受けるんではないでしょうか。装丁工夫すれば開拓できるかも??

    後半はそんな主人公が「何者かに追われる恐怖」を覚えるというくだりもあるんですが、再度死に直面した時にはかえって冷静を取り戻す、っていう一連の流れに純文学が一瞬きらめいてました←

    主人公がある人物達をアッと言わせるまでは予定調和だったけど、最後の最後に駆け込んだ場所で突然ラノベ世界から現実世界に引きずり戻される感じがすごく居た堪れなくも面白かった(笑)。

  • H29.8.9 読了。

    ・自殺に失敗した青年が、どうせ一度はないものと思った命、いっそ誰かに買ってもらおうと「命売ります」の新聞広告を出す。ここから物語は展開していく。生と死に縛られない生き方、逆に生と死に捕らえられた生き方・・・考え方ひとつでここまで腰の据わり方が変わるのかと考えさせられた。
    ・作品自体はとても読みやすかったが、結末が尻すぼみで残念な印象。

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著者プロフィール

三島由紀夫(1925.1.14~1970.11.25) 小説家、劇作家。
東京生まれ。学習院時代から文才を注目され、1944年、東大入学と同時に『花ざかりの森』を刊行。47年、東大卒業後、大蔵省に勤務するも、翌年辞職。49年、『仮面の告白』で新進作家として地位を確立。『金閣寺』『鏡子の家』『近代能楽集』など、強固な美意識で彫たくされた作品を発表。海外での評価も高い。68年、楯の会結成。『豊饒の海』の最終回を書き上げ、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地東部方面総監室に立てこもり、割腹自決。

「2017年 『告白 三島由紀夫未公開インタビュー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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