命売ります (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
3.57
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本棚登録 : 3021
レビュー : 389
  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480033727

感想・レビュー・書評

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  • 三島由紀夫の天才たる所以は『潮騒』『金閣寺』のような文学作品と、本作品や『音楽』のような大衆向けエンタメ作品を両立して生み出すところにある。対極にありながら三島らしさを失っていない。

    『命売ります』は松田優作主演で映画化されそうなオシャレなハードボイルド小説の趣きだ。物語自体はややトンデモ展開(安部公房に似てる)ながら、「生」のエセ虚無感を「死」というフィルターを通して捉えて逆説的に「命」の執着を露呈させる手法はなんともシニカルだ。北野たけし監督の『ソナチネ』で、たけし演じる村上が「あんまり死ぬのを怖がるとな、死にたくなっちゃうんだよ」という話すシーンがある。三島の持つ世界観と北野たけしの持つ世界観は近しい。何かを拒絶もしくは固執し過ぎるとアベコベの感情が生まれてくるのが人間心理なのかもしれない。

  • この本は何度も読み直したい。

    新聞の活字がゴキブリの行列に見え始めたことをきっかけに羽仁男は自殺を試みるも失敗。どうせ一度捨てた命、いっそ誰かに勝ってもらおうと「命売ります」の新聞広告を出す。それに引きつられてやってくる訳ありの客達の依頼を"こなそう"とするものの、結局無事に生き残ってしまう。そしてある依頼を境に、命に無頓着になったはずだった彼の心の内にまだ死にたくない、という正反対の感情が生まれる。と、いうより命という鎖から解放されたことへの自尊心によって覆い隠されていただけなのかもしれない。生を捨てるという退廃、その裏に無意識に根付く凡庸な生へ這って手を伸ばすような貪欲な憧れ…
    三島は描きたかったものはこれだろうか。

  • 終盤から話のスピードが急に早くなったイメージ
    終盤で全ての話を上手く落とし込めている感じ
    最後の主人公の妙に人間らしい行動に何故か感動した

  • こんなポップで軽い文体で書かれた三島作品があるとは。でも、やはり鋭さがそこかしこに見え隠れして、終始ハラハラドキドキしながら楽しめた久々の傑作。ときどき時代を感じさせながらも、今から50年前に発表されたとは思えない作品だった。

  • 流石に年末年始に読むべき物語ではなかったかもしれません(笑)それでも、興味深かったのは確かです。

    自殺に失敗した男が「命売ります」と広告を出す、というあらすじと、オモシロイと謳う宣伝の乖離した感じからぶっ飛んだコメディであることが想像されて、漫画感覚で読めることを期待して読んでみたら、エラい展開が待ち受けていました。

    死にたいけれど死にたくない。
    おや、どこかで聞いたことがあるようでないフレーズです。欅坂46の「アンビバレント」で繰り返される「感情は二律背反」である感じ。人生が嫌になったことがある人なら、多少なりとぶち当たったことがあるかもしれません。主人公の羽仁男はこの問題で揺れに揺れて、安定した状態に戻れなくなっています。

    なんとなく、キーポイントは羽仁男が「自分は死んだ人間」と自らに刷り込みながら、更に命を売ろうとしているところではないかと考えています。
    「一人になりたい なりたくない」(再び「アンビバレント」より)
    羽仁男は最早社会から切り離された者なのだと自己宣言しながら、ある意味で受け身ながらやはり能動的に社会と接点を持とうとします。このわがままさがけったいな事件なのか妄想なのか何なのかよく分からない事態を引き起こします。だけど、普通に生きている者からすれば、そもそも彼が何と格闘しているのかさえ分かりません。事態を余計にややこしくしているだけです。それでも、一度考え始めたらダメなのでしょうね。

    もう一つキーポイントがあるとしたら、彼は普通の生活を「ゴキブリの生活」と評していることでしょう。ありふれた生活を送ることに虫唾が走るようなのです。ただ、その不快感らしいものについて「ゴキブリの生活」という表現以上の、誰にでも伝わるような明快な説明は行われません。漠然とした居心地の悪さのようなもので思考が止まっているようなのです。それでは、曖昧に居心地が悪いままで解消することは困難でしょう。

    全く別の観点で気になったのは、ある意味の救世主か死神かのどちらかとしての羽仁男の立場です。彼は依頼主には本当に命を捧げます。それなりに命の危機に瀕しても命乞いなどしません。されるがままです。命懸けという言葉がありますが、実際に誰かのために文字通りの命をすり減らすような態度を示すことが出来る人はそういないのではないでしょうか。どうしても自分の命が一番かわいいものです。羽仁男はそうではありません。彼の姿は、適当に焦点をぼやけさせるとキリストの愛の示し方等に重なってくるような気がするのです。彼自身の意図に全く無かったとしても、相手がそのように受け取っても不思議ではないと思います。ところが、彼自身はそのように受け取りうるということがさっぱり分からないようです。どうやら深い愛というものとは無縁のようです。

    それから、引っ掛かるのは、彼がとても頭の良い人であるはず、という点です。コピーライターという仕事をするにはそれなりの教養が要るでしょうし、彼の知識が多岐に渡ることが垣間見られる場面があります。それでも、破綻するときは破綻するのか、と思わされます。

    最後に、ゴキブリというモチーフと社会との関係の持ち方を問題の一つに取っているところから、カフカの「変身」が終始頭にありました。グレーゴルの場合は家族からひたすら邪険にされるのを受容するしかない立場なのに対して、羽仁男の場合はむしろ彼を中心に世界が回っているようでそうでもないという具合で、思いっきり合致するわけではないのですが、結局上手く社会に溶け込めず異物扱いを受ける点が似ているように思われます。

  • ものすごくかる~く読んでいたのに、結末でいきなりドーンと現実の厳しさに突き落とされた感じ…。
    1968年、今から50年も前の作品だけど、しがらみから逃げて自由に生きようと(いや死のうと)した羽仁男の結末が、なんだかすごく現代にも通じそうな世界観。

  • 新聞の文字がゴキブリに化けた。
    羽仁男にとって、
    現世が無意味のなものとなった。
    そして、死のうとし失敗した事から
    自殺では無く、この命を誰かに奪ってもらおうと
    主体性を持って命を売る商売を始める

    死のうとするも、なぜか死から免れていく
    ストーリー自体がとても面白い

    組織に属さない、家族概念への拒絶 生への執着から放たれた事で全能感、自由を得たと思う羽仁男
    厭世的な思想の裏側に強い美意識、自己愛が
    強烈な匂いを放つ

    死をも自分の意思でコントロールし
    美しく散ろうとするも、
    いざ目の前に死が迫ると逃れようとする
    矛盾、臆病さ
    逃れられない人間の生という枷

    この本を通じて
    三島由紀夫という自己愛を見せられている気がした
    理想と現実の狭間で誇りを保ち生きる事が如何に難しいいか
    生への執着がこの世の全ての執着の根源だと語っていた

    喉にしこりを残す読後感に感嘆する

  • 天才小説家としての三島由紀夫の心境を少なからず表しているのだろうと考えた時、ラストの主人公の姿の解釈としては、絶望や恐怖に苛まれながらも生きていくしかないということなのだろうか。
    どんなに辛い境遇の人が存在しても、人はやはり命が惜しく、世の中は何もなかったように1日を終え、人々は自分の居場所を探し、自分で何とか生きていかなければならないということを感じた。

  • 2017/08/26
    面白くって1日で読んでしまった。
    三島由紀夫がこんな作品を書くなんて知らなかったなぁ。
    瑛太やら松田龍平やらで実写化しそう。笑

  • 途中まで面白かったんだけど、主人公が命が惜しくなってきてからがうーん。たしかにいろんな重しを取っ払っちゃえば、無敵なのかもしれないけどそれじゃ味気ないやね。死に向かって生きてる、それをいつも意識して生きろって池波正太郎さんが言ってたけど、まさにそれだなと。著者が込めたかもしれない観念的なことはよくわからんないけど、シンプルかつ逆説的な考え方に気づかせてくれた小説でした。

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著者プロフィール

三島由紀夫(1925.1.14~1970.11.25) 小説家、劇作家。
東京生まれ。学習院時代から文才を注目され、1944年、東大入学と同時に『花ざかりの森』を刊行。47年、東大卒業後、大蔵省に勤務するも、翌年辞職。49年、『仮面の告白』で新進作家として地位を確立。『金閣寺』『鏡子の家』『近代能楽集』など、強固な美意識で彫たくされた作品を発表。海外での評価も高い。68年、楯の会結成。『豊饒の海』の最終回を書き上げ、陸上自衛隊市ヶ谷駐屯地東部方面総監室に立てこもり、割腹自決。

「2017年 『告白 三島由紀夫未公開インタビュー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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