- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480033727
作品紹介・あらすじ
目覚めたのは病院だった、まだ生きていた。必要とも思えない命、これを売ろうと新聞広告に出したところ…。危険な目にあううちに、ふいに恐怖の念におそわれた。死にたくない-。三島の考える命とは。
感想・レビュー・書評
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【感想】
自殺に失敗した男が新聞に『命、売ります』という広告を出すところから話は始まった。
前提として、この話は「社会における何らかの組織」にもはや属さなくなった主人公と、組織にいまだ属するその他登場人物に分かれている。
「もはや自分の命なんていらないから、何でも割り切りまっせ」という主人公の飄々っぷりや、変な依頼をする様々な依頼人たちとのやり取りが読んでて面白かった。
と、序盤から中盤にかけてはコミカルな展開なのだが、後半から一気に物語はスリリングな展開へと突入してゆく。
終盤、次第に命が惜しくなった主人公は助けを求め始めるが、「組織に属さない」主人公を国家権力の警察ですら助けてくれないといった終わり方に。
内容そのものもとても面白かったのですが、それ以上に社会から外れてしまうリスクについて、非常に考えさせられる1冊でした。
【あらすじ】
ある日、山田羽仁男なる27歳のコピーライターが自殺を図る。
はっきりした理由はなかったが、あえて探れば、いつものように読んでいた夕刊の活字がみんなゴキブリになって逃げてしまったからだ。
「新聞の活字だってゴキブリになってしまったのに生きていても仕方がない」と思った羽仁男は大量の睡眠薬を飲み、しかし救助されてしまう。
自殺未遂に終わった羽仁男は、もはや自分の命は不要と断じて会社を辞め、新聞の求職欄に「命売ります」という広告を出す。
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三島由紀夫の手になるハードボイルド調ブラックコメディ。
仕事も生活も順風満帆なのに、ある夜唐突に死にたくなった青年。彼は服毒自殺を図るが失敗する。生に執着がなくなった彼は、新聞に「命売ります」という広告を出す。
彼の命を買って利用しようとする人々が彼の部屋を訪ね、様々な依頼をし、彼は悠々と自分の命を差し出すのだけど、その度に生き残ってしまい、やがて…。
その多くが沈鬱な雰囲気を纏って閉鎖的な世界観の他の三島作品に比べると、異質というか、奇妙だと思うほどに、軽妙かつ滑稽で、シュールで、ハイスピードな展開構成。
そして、命を売ることにした男「羽仁男」の奇妙な落ち着き、反して唐突な変わり身の早さ、執着。どうも脈絡なく、ちぐはぐな感じさえする。
でも、三島がこの作品を発表した2年後の1970年に自殺した事実に思いを巡らせると、なんとなく得心するものがある気がするから不思議。三島の最後の作で、死と輪廻転生と無情を壮大なスケールで書いた「豊饒の海」四部作(1965-1970)の途上の時期でもあるし。
きっと、この頃の三島は、死に対して、考察、妄想、夢想と、様々な角度から思いを巡らせていたからこそ、豊饒の海の対極にあり、ある意味では、三島の迷える死生観を叩きつけたこの作が生まれたのかも、と思った。
それに、ラストの突き放したような虚しさは確かに三島調かもしれない。
三島らしくないけど三島なんだな、と思える不思議な作品でした。
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▼1990年のヨーロッパの映画に「コントラクト・キラー」という佳作があります。トリュフォーらヌーベルヴァーグ映画で一世を風靡した俳優ジャン=ピエール・レオーさん40代の勇姿が拝めるコミカルドラマで、自殺したい男が死にきれなくて、殺し屋を雇います。標的は自分。キャンセル不能、腕っこきのキラー。ところがその直後から可憐な娘に恋をしてしまって、死にたくなくなる・・・。スッキリ80分。
▼一読、「コントラクト・キラー」を思い出しました。「複雑な彼」「レター教室」もそうですが、エンタメ三島小説はどことなく知的で皮肉でくすっとさせて、多弁で自虐で道化の奥でヒトを刺す。アキ・カウリスマキさん(「コントラクト・キラー」の監督)もそうですが、その卓越したテクニックも含めて、びっくりするくらいウディ・アレンの味わいです。(ブンガク的な三島小説は、とにかく汲めども尽きぬ変態&耽美趣味が、全然ウディとは似ても似つかぬヴィスコンティ。ウディとヴィスコンティをコインの表裏で併せ持つあたりが、三島の凄みなのか…)
▼「命売ります」三島由紀夫。ちくま文庫。初出は1968年。2020年5月読了。数年前に、ちくまさんが文庫化してすぐに謎の売れ行きを示し、ラジオドラマ、演劇、テレビドラマ化と静かなブームが沸き起こった一冊。流石、ちくま。
▼不惑を過ぎてから、一念発起して(?)三島由紀夫デビューを果たしました。その後は1年1冊くらいのペースで、「仮面の告白」→「金閣寺」→「潮騒」→「豊饒の海(一) 春の雪」→「三島由紀夫レター教室」→「複雑な彼」そしてこの「命売ります」と順調に楽しめています。
▼連載された1968年というと、三島さん割腹自決の2年前。ちなみにこの小説は「週刊プレイボーイ」連載。エンタメ(ちょいエロ)を意識して書かれています。そして、そのタスクを十分にこなして、かつ、ありありと三島さんらしさ溢れてオモシロい。三島、すげえ。なんでも出来るんだ・・・。脱帽。
▼主人公は青年・羽仁男(はにお)。いろいろあって、人生に絶望。自殺を試みるも失敗。死んでも良い、むしろ無意味に死にたい心境で「命売ります」と看板を出す。まずここまでが、すごいスピード感。圧倒的にドライでコミカル。語り口で笑っちゃいます。羽仁男に何があったんだか、良くわからない。いや、はっきり言うと全然分からない。分からないんだけど、話は進むし、面白いから不満にならない。ちょっと不条理。
▼さあ、いろんなヘンテコな依頼人が、羽仁男の命を買いに訪れます。なんとなく4~5編に分かれている連作短編風味。毎回とにかく、羽仁男は死を恐れないし「死の意味づけ」も求めない。飄々と危なそうな状況に飛び込みます。そして、さすがは「週刊プレイボーイ」、ほぼほぼ毎回、けっこうな美人と、ベッド・イン。なんでそうなるのかは、ほとんどよく分かりません(笑)。性行為の描写も若干はありますが、そこは日本語スーパーマンの三島です。全然、直接的でも下品でもなく、卑猥ぢゃありません。しつこくも無い。けれども、エロいのはエロい(笑)。そしてバカバカしくて、ちょいと滑稽。
▼羽仁男への依頼は、「妻と浮気して、間男として殺されてほしい」、「飲めば死ぬ(かもしれない)薬品の実験台に」、「男の血を吸う母の愛人になって」 などなど・・・。
加えて毎回なぜだか、「国際的なスパイ組織」が絡んで花を添えます(笑)。そして、羽仁男は毎回、意図せず間一髪で死を免れる。大金だけが手元に残る。なにせ死を怖がらない。むしろ求めてるくらい。無敵の羽仁男。すごいぞ羽仁男(ベッドでも)。
▼そんなおバカな転がりの末に、最後は羽仁男が本当に「国際的組織」に狙われて・・・。「やっぱり死にたくない!」と七転八倒逃げ惑うところで、スパンッ… っと終わります。お見事!。
▼売れるのも分かります(命が、ではなくて、この本が)。絶妙のテンポ感。語り口のしゃれっ気。登場人物たちの見事なまでの底の浅さと、油断してるとぞっとさせられる深さ、怖さ。脱力するクダラナい滑稽さ。品の良いエロさ。にたにた笑っていると不意打ちに、ココロ打たれる気持ちよさ。三島由紀夫さんは小説を書くのが上手い。これで若死にしてますから。つまり、若い頃からヤラシイくらいに上手い。谷崎だって若い頃には、ここまで上手くはなかったでしょう。そのうえ、そこそこ多作。読めば読むほど舌を巻く、三島ワールド。深さと広さに、ひれ伏すしかありません。(それにしても、本当に三島さんはエンタメ系の小説では、同性愛的な傾向を全く出しません。プロだなあ。まあ、特にこれは週刊プレイボーイだから、そりゃそうか…。)
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インパクトなタイトル。内容は、意外にライトで楽しく読めた。 ……んん、いいね! を、ありがとうございます。りまのはスマホ初心者なので、ここで御礼をのべさせてください、…すみません。
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流石に年末年始に読むべき物語ではなかったかもしれません(笑)それでも、興味深かったのは確かです。
自殺に失敗した男が「命売ります」と広告を出す、というあらすじと、オモシロイと謳う宣伝の乖離した感じからぶっ飛んだコメディであることが想像されて、漫画感覚で読めることを期待して読んでみたら、エラい展開が待ち受けていました。
死にたいけれど死にたくない。
おや、どこかで聞いたことがあるようでないフレーズです。欅坂46の「アンビバレント」で繰り返される「感情は二律背反」である感じ。人生が嫌になったことがある人なら、多少なりとぶち当たったことがあるかもしれません。主人公の羽仁男はこの問題で揺れに揺れて、安定した状態に戻れなくなっています。
なんとなく、キーポイントは羽仁男が「自分は死んだ人間」と自らに刷り込みながら、更に命を売ろうとしているところではないかと考えています。
「一人になりたい なりたくない」(再び「アンビバレント」より)
羽仁男は最早社会から切り離された者なのだと自己宣言しながら、ある意味で受け身ながらやはり能動的に社会と接点を持とうとします。このわがままさがけったいな事件なのか妄想なのか何なのかよく分からない事態を引き起こします。だけど、普通に生きている者からすれば、そもそも彼が何と格闘しているのかさえ分かりません。事態を余計にややこしくしているだけです。それでも、一度考え始めたらダメなのでしょうね。
もう一つキーポイントがあるとしたら、彼は普通の生活を「ゴキブリの生活」と評していることでしょう。ありふれた生活を送ることに虫唾が走るようなのです。ただ、その不快感らしいものについて「ゴキブリの生活」という表現以上の、誰にでも伝わるような明快な説明は行われません。漠然とした居心地の悪さのようなもので思考が止まっているようなのです。それでは、曖昧に居心地が悪いままで解消することは困難でしょう。
全く別の観点で気になったのは、ある意味の救世主か死神かのどちらかとしての羽仁男の立場です。彼は依頼主には本当に命を捧げます。それなりに命の危機に瀕しても命乞いなどしません。されるがままです。命懸けという言葉がありますが、実際に誰かのために文字通りの命をすり減らすような態度を示すことが出来る人はそういないのではないでしょうか。どうしても自分の命が一番かわいいものです。羽仁男はそうではありません。彼の姿は、適当に焦点をぼやけさせるとキリストの愛の示し方等に重なってくるような気がするのです。彼自身の意図に全く無かったとしても、相手がそのように受け取っても不思議ではないと思います。ところが、彼自身はそのように受け取りうるということがさっぱり分からないようです。どうやら深い愛というものとは無縁のようです。
それから、引っ掛かるのは、彼がとても頭の良い人であるはず、という点です。コピーライターという仕事をするにはそれなりの教養が要るでしょうし、彼の知識が多岐に渡ることが垣間見られる場面があります。それでも、破綻するときは破綻するのか、と思わされます。
最後に、ゴキブリというモチーフと社会との関係の持ち方を問題の一つに取っているところから、カフカの「変身」が終始頭にありました。グレーゴルの場合は家族からひたすら邪険にされるのを受容するしかない立場なのに対して、羽仁男の場合はむしろ彼を中心に世界が回っているようでそうでもないという具合で、思いっきり合致するわけではないのですが、結局上手く社会に溶け込めず異物扱いを受ける点が似ているように思われます。 -
面白くって一気に読んでしまったけど、途中から話が読めてしまった。
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三島由紀夫の没後50年というのを度々耳にし、一作読んでみたいと思い、三島作品の中ではエンタメ性あって読みやすい作品と聞き、本作を手にとってみました。
今はあまり使わないような言い回しや古い文体に、初めはなかなか世界観に入りづらいところもありましたが、徐々に慣れてきて後半からは一気読みでした。
吸血鬼の母の家で暮らし、日に日に羽仁男が弱っていく過程では、死が少しずつだが着実に近づく閉鎖的な空間に思わずゾッとしたが、それでもそこに暮らす3人の間には穏やかな愛情が芽生えていたのかと思うと、生や幸せとは何なのかを考えさせられ、切ない気持ちにもなった。
一度読んだだけだとぼんやりとしていて整理しきれないが、三島由紀夫にとっての生や死、幸せについての考えやメッセージ性を強く感じました。 -
伊坂幸太郎みたいな語り口だけど、やはり比喩表現は三島由紀夫の右に出る人はいないと思った。ふわふわ猫ちゃんを抱いてるのに爪が立てられてる状況を、恐怖の表現にするなんて思いつかない。直接主人公の容姿には言及していないが、美男子なんだろうなぁと思わせる感じが、主人公からも周りの人たちからも伝わってきた。
著者プロフィール
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