江戸川乱歩全短篇 3 怪奇幻想 (ちくま文庫 え 7-4)

著者 :
制作 : 日下 三蔵 
  • 筑摩書房
3.82
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本棚登録 : 135
感想 : 16
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  • Amazon.co.jp ・本 (565ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480034137

作品紹介・あらすじ

猟奇と妖異を卓抜な着想で織りあげた探偵小説22篇。

感想・レビュー・書評

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  • 角川ミステリーに収録されている「芋虫」が伏せ字が酷くて本書を購入。「芋虫」は良かったのは言うまでもないが、「人間椅子」「虫」など人間が無意識下に封印しているが確かに持っているであろう残虐性・異常性が描かれた作品がすばらしく、乱歩の虜になってしまった。なお、本書は全短編集であるがゆえに「悪霊」や「空気男」のような途中で取りやめになった作品も納められていて、ジャズのコンプリート版のようにある程度我慢して鑑賞しなければならい部分もある。

    本書に納められている作品の中での一番のお気に入りは「人間椅子」。家具職人が椅子を改造して中に入り込み、座る部分に太もも、肘掛けに手、背もたれに胸といった具合でその椅子に座った人の体格や体温を体で感じとる。そしてある婦人に恋をする。家具職人は椅子の中にいるので婦人の顔は見れないが、婦人を体で感じ恋してしまうのだ。アニメのキャラクターに恋するような心境と似ていないでもないが、恋の対象についての情報は極端に限られているので感覚を研ぎすませてもっと相手を知ろうとする集中力と不足した情報を補う妄想が必要であり、ビビッときたような、突然雷に打たれたような、文字通り「落ちる」恋ではない。少しずつ少しずつ、相手への想いを積み上げて醸成される恋である。オタクや変態のさらに先にあるような恋である。なんと切なくも激しい恋ではないか。

  • 事情により、ひとまず「人間椅子」のみ読了、はわわ

  • 『赤い部屋』
    赤で統一された部屋で会員たちに自ら犯した99件の殺人について語る男。ある夜、酔っていたためにタクシーにひかれた老人をヤブ医者の元に運び込むようにすすめ、老人を死に至らしめた事から罪にならない殺人を楽しむようになった男。女給にオモチャのピストルを撃ち、仕返しに自分を撃つように言う男。

    『人間椅子』
    圭子に送られた手紙。椅子職人からの告白。自ら作った椅子の中に潜り込みホテルに侵入し盗みを働こうと計画した男。思惑通りホテルに侵入したが、女性に座られる快感にとりつかれ数ヶ月を過ごす。ホテルから払い下げられた椅子を購入した夫婦の妻に恋した男。2通目の手紙。

    『芋虫』
    戦争で重症を負い、手足を切断し口も聞けず耳も聞こえない状態になった須永中尉。元上官の鷲尾少将の敷地に妻の時子と住むようになる。須永と時子の異常な生活。須永の目に傷を負わせた時子。許しをこう彼女への須永の答え。

    『百面相役者』
    先輩であるRから見世物小屋に誘われた私。あまりに腕のよい百面相役者。Rが見せる墓から首を盗む泥棒の記事。首を盗まれた遺体の写真とそっくりな百面相役者の変装。百面相役者は首泥棒か。

    『覆面の舞踏者』
    友人の井上次郎に誘われて秘密のクラブに入会した私。月に1度何かのイベントを行うクラブ。会長の井関が計画した仮面舞踏会。17人の男と17人の女が会話を禁じられた状態で舞踏会にのぞむ。同じ番号札を持つ男女がペアーになる舞踏会。酒に酔い一夜を共にした女性からの手紙。井上次郎の妻。舞踏会の仕掛けと錯誤。

    『一人二役』
    僕の友人Tは遊び人で終始遊びほうけている。ある日自分の妻が他人に恋をするスリルを味わいために他人に変装して寝床に入り込む。狙い通り回数を重ねていくたびに妻は変装した自分に心をひかれていく。計画が上手く行き過ぎ嫉妬し始めたTは自分の存在を消すことにするが。

    『お勢登場』
    格太郎の妻・お勢は夫が肺病を患い体が弱っているのをいいことに不倫三昧。不倫に気がついていながら何の行動もとれない格太郎。ある日お勢が不倫相手の元に出掛けている間に息子の友達たちとかくれんぼをする事に。長持に隠れるが開かなくなった蓋。格太郎が長持の中にいることに気がつきながら放置し死に至らしめるお勢。

    『木馬は廻る』
    木馬館に勤めるラッパ吹き。貧乏で辛い生活の中で木馬館のキップ売りの少女にほのかな恋心を持つラッパ吹き。貧乏な彼女が欲しがるショール。ある日キップを売る彼女のお尻のポッけに封筒を入れる若い男を目撃する。恋文と思い彼女のポッケから抜き取り中身を確認するが。

    『毒草』
    川原に生える草。友人と散歩中にその草のなかに堕胎に使える毒草があることに気がつき彼に毒草の説明をし始めた私。貧しく3人の子供があり妊娠している郵便局員の妻がその話を聞いている事に気が付く。彼女が毒草を使うのではないかと不安になる私。郵便局員の妻のお腹は?

    『白日夢』
    散歩中に私が見かけた男。道の真ん中で演説をする薬屋の真柄太郎。妻を愛するあまり他の男に奪われないように殺害してしまったと告白。妻を5つに切断し屍蝋を作り店先にマネキンとして飾ったとの告白。誰も信じないが私が近づいて見てみると…。

    『火星の運河』
    森の中をさ迷う男。森の出口と思われる光に向かい歩くが、そこは森の中心だった。森の中心の沼。自分の体を見るとそこには女の体が。沼に入り沼の真ん中の岩の上に立つ男。全身を掻きむしり流れ出る血。火星の運河。目覚めた男。

    『空気男』
    ある宿で知り合った北村五郎と柴野金十。探偵小説好き同士話が合い親しくなる二人。様々な遊びをしていたが、それぞれに問題を出し解いていく遊びから探偵小説を書くようになっていく二人。互いに作品を交換するなど遊びながら仕事をしていたが、ある日柴野が北村が以前話したトリックを自分で考えたと北村に紹介する。柴野の記憶力低下をモデルに北村が書いた「空気男」。「空気男」の挿し絵を描く河口の家に侵入した謎の人物。
    途中で終了した作品。

    『悪霊』
    作家が怪しい男から買い取った手記に書かれていた殺人事件。黒川博士の心霊学会に所属する未亡人の姉崎曾恵子殺害事件。密室状態の土蔵で発見された全裸の死体。傷つけられた遺体、遺体の下から発見された土蔵の鍵。姉崎家の前にいたコジキの証言から容疑者として浮かび上がる女。発見者・祖父江も参加した降霊会。黒川博士が引き取った霊媒の少女。降霊会の混乱。黒川博士の夫人の持つ服と容疑者の女の服の一致。
    アイディアが浮かばない為に中絶した作品。

    『指』
    暴漢に襲われて手首を切り落としたピアニスト。医師は手術後も手首を切り落とした事を本人には伝えていない。新しく作曲した曲の練習をしたいと張り切るピアニスト。左手の指の動き。看護婦が見つめる切り落とした右手の入ったアルコールつけの瓶の中身。

    『防空壕』
    戦争末期、東京大空襲の夜に出歩いていた市川は出先で空襲に遭遇する。慌てて逃げ込んだ防空壕。中には美しく若い娘が一人だけいた。水を分けてもらい空襲に耐えるなかで関係を持つ二人。翌朝姿を消した娘。その後も娘が忘れられずに探し廻る市川。空襲の夜に同じ防空壕にいたが市川も娘も見ていないと証言する老婆。老婆の告白。

    『押し絵と旅する男』
    魚沼から上野に向かう汽車の中で出会った男。年老いた男と美しい娘が描かれた押し絵を持つ男。男が語る押し絵を巡る兄の物語。若い頃、外出を繰り返すようになった兄を尾行した男。凌雲閣から浅草を双眼鏡で眺める兄。凌雲閣から見かけた少女に恋をし、その少女を探す兄。押し絵に描かれた少女に恋をしていた兄。双眼鏡を逆さにして絵を見つめた瞬間起きた出来事。

    『目羅博士』
    探偵小説家が上野動物園の猿山で出会った男。猿の物真似の話から自分が体験した事件の物語へ。向かい合った5階建てのビル。借りての手のつかない部屋にようやく借り主が出来たが。続けて起きる首吊り自殺。ある事務員が試しに部屋で過ごす。月夜の晩に起きた事務員の自殺。現場で向かいのビルに映る黄色い顔に気が付いた男。目羅博士の犯罪。蝋人形に服を着せる博士の行動。

    『双生児』
    死刑囚が語る自らが犯した犯罪。財産を相続し自分のかつての恋人を妻にした双子の兄を殺害した男。兄を殺害し自分は朝鮮にいった事にして兄の生活を乗っ取った男。兄の所持品から指紋を取りだし、犯罪を犯してはその指紋スタンプで捜査を撹乱していた。ある強盗殺人での逮捕。警視庁の探偵が調べた指紋の秘密。

    『踊る一寸法師』
    サーカスの一寸法師・緑。サーカスの打ち上げの夜に飲めない酒を飲まされたあげくに仲間たちのオモチャにされて遊ばれる。美しい踊り子の花子。彼女をアシスタントにして行われた刀を使った手品。首を切られた花子。切り落とされた首が喋り出すが。

    『人でなしの恋』
    ある男と結婚した女の告白。結婚後しばらくして気が付いた夫の行動。土蔵の中で女と会話する夫の声。しかし、妻には女の姿が見えない。夫がいない間に土蔵の中を調べてみるが…。美しい人形。

    『鏡地獄』
    鏡に取りつかれた男。両親が死に莫大な遺産を相続すると屋敷の中に作り上げた鏡の部屋。屋敷の小間使いの少女を愛人にして暮らし始める。ある日呼び出された私が目撃した鏡の部屋の中の球体。球体の中から現れた発狂した男。ガラスで出来た球体の外側に水銀を塗り内部が鏡張りのような状態にした物の中で男が見たものは?

    『虫』
    人嫌いな柾木愛造。唯一の友人・池内光太郎に誘われて舞台を見に行く。舞台で紹介された女優・木下芙蓉。小学生の頃に木下宛のラブレターの代筆をした愛造。池内光太郎と木下芙蓉の関係。狂おしいほどに芙蓉に恋する愛造。彼女を永遠に手に入れる為にタクシーの運転手に変装して殺害する。死体と暮らす愛造の狂気。

  • ン十年前に読んだものを再読。
    ものすごく強烈なもの以外は案外記憶が薄いものですね。いやむしろ、強烈なものばっかで、あまり覚えてないものの方が少ない。
    やっぱり乱歩さん、半端ないっす。うっとりです。
    異常心理(っていうのか)とエログロを描かせたら天下一品でございます。
    「虫」を最終に持ってくる編集も最高です。この本の中でも最高に心がざわつく作品だと思う。集大成的な。

  • 途中で筆を折られた作品も収録されている。
    人間の狂気と正常の境、快感と汚さといったものを芸術的に表現している。
    有名な『芋虫』や『鏡地獄』など当時のドロドロした世界観と美しさにしびれる。
    ひんやりと寒い日本的な恐怖を味わいたい人にはおススメ。

  • 乱歩の怪奇な世界をこれでもか!という程堪能した。

  • 読み過ぎて、唯一ふにゃふにゃになっている本

  • 狂気じみてなんか無いです。
    考え過ぎです。

  • これは、くる。ほんと冗談抜きでお勧めします。乱歩読んでみたいけどどこから手をつけて良いか分からない!って方にもお勧めしたい。短編だから時間も取らないですし。「赤い部屋」「人間椅子」「芋虫」「押絵と旅する男」なんて私の大好きな作品ばっかり。人間椅子なんか初めて読み終わった時は鳥肌たちました。エンターテインメント性も持ってるのが乱歩の素敵なところ。怪奇幻想、実に良い響き。

  • 人間椅子が読みたくて。

  • クラシックです。

  • なんていうか、真髄ですな。怪奇幻想。
    「赤い部屋」「人間椅子」「芋虫」「白昼夢」「空気男」「押絵と旅する男」「双生児」「人でなしの恋」「鏡地獄」なんて名作ばっかり。
    ウットリですよ。

  • 急に「押絵と旅する男」が読みたくなったので…煙みたいにくゆる映像が好き。ただ、やはり古い本・古い文字で読むのとは立ち昇るものが違いますね。

  • 何はトモアレ乱歩。人間椅子に憧れて。

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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