- Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480034328
感想・レビュー・書評
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植物染めの話を写真と共に。
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美しい色を作り出す人は、美しい
言葉をつかう。
写真を眺めるのも楽しい。 -
人間国宝である染色家の志村ふくみ氏のエッセイ。
色にまつわる様々な思いや、自然に対する真摯な心持は読んでいて見習わなければと思った。
草木の染液から直接緑色を染めることはできないというのは驚きだった。その代わり、青と黄をかけ合わせて緑を作るのだそうだ。
また蚕は天の虫という話も興味深かった。
遠野物語の中に、白い馬と娘が愛し合い、昇天していった話があるのだという。
白い馬と娘が愛しあっていたが、それに怒った娘の父は馬を殺してしまう。娘は悲しがって馬と一緒に天へ昇っていってしまった。父は「悪かった」と娘に向かって叫んだが、娘は「恨んでいません。明日の朝、庭の臼の中を見てください。それが私たちの贈りものです」と言った。
翌朝、臼の中を見ると白い小さな虫が数匹動いていた。顔は馬の顔であった。それを大事に育てているうちに繭を作った。その繭から絹糸をとって村は潤っていったという話だそうだ。
蚕は「天の虫」と書き、そしてなぜか一頭、二頭と呼ぶ。(p70)
黒田辰秋さんが彼女に遺したことばに「運・根・鈍」と言う言葉があるそうで、その中でも、「鈍ということは、一回でわかってしまうことを、何回も何回もくりかえしやらないとわからない。くりかえしやっていると、一回でわかったものとは本質的にちがったものが掴めてくる」(p124)という言葉が深く印象に残った。 -
登場する著作・著者
柳田国男:遠野物語
紫式部:源氏物語 -
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エッセイの間に植物や、それで染められた糸、織られた布などの写真があり、美しいだけでなく文章の理解が深まる。
布自体も美しいが、布につけられた名前の妙にも関心する。濃淡のある青いチェックの中にほんの少しピンク色の部分がある布を「蓮池」、モスグリーンのような鈍い緑色の真ん中に丸く色の薄い部分があり、その丸の中央に、ひときわ濃い色に左右を囲まれた四角い白がある布を「雪灯り」。
昔の人はこういう名づけを日常的に行っていたわけで、本当に感性と想像力が豊かだったのだな、と思う。今このような名前が付けられる人は詩人とか言葉のプロだけではないか。
桜の木は花が咲く前にこそ一番美しい色が出る、とか、同じ桜でもその土地によって色が違う、など、あまり比喩的に解釈するのはよくないが、なるほどと思う。
味わい深い文章で、大人が時々思い出してゆっくりと読むのにぴったりの本。 -
染色に触れる中で、自然への敬意と妙なる妙を感じる言葉
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210513*読了
志村ふくみさんの文章を読んだのは、学校の教科書だったか。「色をいただく」という言葉が心に響いたことを覚えています。
そんな志村さんの紡ぎ、染め、織り続けたその一瞬を、日々を、人生を語る言葉たちがとても美しくて。言葉から連想される数々の色が美しすぎて。ほうっとため息をつきたくなる思いでした。
花開く前の木の枝から、何とも鮮やかな色を染められるなんて、この本と出会わなければきっと知りえなかった。
四季と自然豊かな日本だから出せる色がきっとあるのだろう。
その伝統を大事にしたい。いつまでも受け継がれてほしい。
と、願う気持ちはあるのだけれど、自分が和装を楽しむ機会はなかなか作れず…。ただ、染物に興味を持つ、ということから少しでもこの美しい文化が続く手助けができれば嬉しいな、と思います。
志村さんの豊かな言葉や文章を楽しむ喜びと、写真家の方が撮られたすばらしい写真の数々を眺める喜び、どちらも味わえるとても素敵な本です。