紅一点論: アニメ・特撮・伝記のヒロイン像 (ちくま文庫 さ 13-2)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 66
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480036667

作品紹介・あらすじ

「男の中に女がひとり」は、テレビやアニメで非常に見慣れた光景である。その数少ない座を射止めた「紅一点」のヒロイン像とは。「魔法少女は父親にとっての理想の娘である」「(紅一点の)紅の戦士は"職場の花"である」「結婚しないセクシーな大人の女は悪の女王である」など見事なフレ-ズでメディアにあふれる紅一点のヒロインとそれを取り巻く世界を看破する評論。

感想・レビュー・書評

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  • 『妊娠小説』(ちくま文庫)の著者が、アニメ、特撮、子ども向けの伝記のヒロイン像を分析した本です。

    『ウルトラマン』や『ガンダム』などの舞台は、科学技術を基盤にした軍事大国だと著者はいいます。他方『魔法使いサリー』や『秘密のアッコちゃん』などの舞台は、非科学的な魔法を基盤にし、王子様に依存する恋愛立国です。本書では、『セーラームーン』『エヴァンゲリオン』『もののけ姫』に至るまでの、これら二つの国におけるヒロイン像の変遷をたどっていきます。

    その一方で、子ども向けの伝記のストーリーは、マンガやアニメに似ていると著者はいいます。ナイチンゲールが「白衣の天使」とされ、キュリー夫人がラヴ・ロマンスのヒロインに仕立てられ、ヘレン・ケラーが「聖女」とされていったことに、著者は鋭い批判のまなざしを向けていきます。

    すこし気になったのは、宮崎駿の『もののけ姫』に対してのみ、批判のポテンツが一段階あがっていることでしょうか。著者は、『ナウシカ』以降の宮崎作品のヒロインが、男のヒーローを手本にした女性像であり、「男並み」の実現であることを指摘したうえで、「エボシひきいるタタラ場の論理が破綻しているのは、女がなぜ生産労働や軍事の現場から排除されていったか、という歴史を学んでいないことである」といい、それは「男女平等社会どころか、悪しき近代社会のカリカチュアなのである」と批判します。もちろん他の作品に対してもこうした分析が加えられているのですが、それらが「茶化し」なのに対して、ここでの議論は対象を正眼に見据えての批判となっています。

    本書刊行後に男が責任を取ることを限りなく回避しつづけることを可能にする「セカイ系」の流行があったことを考えると、こうした批評に著者の慧眼を読みとるべきなのかもしれません。

  • 最近は、なんでマジでドラえもんとかサザエさんとかあのフォーマットでまだやってんだろ、やばいでしょ、と思ってる私です。

    さて、本書は1998年発行。
    それ以降のアニメ、特撮も追加して考察してみたい。
    しかし、果たして進歩があったかと言えば、ないな。(本書の言葉で先に反論しておけば、「重箱の隅的知識をひけらかす連中が必ず出てくるのだが、総体としてどうかを問うているのだ」よ。p208)

    アニメの章は若干根拠が私的な感も否めないが、伝記の章は大きく頷くしかない。

    天使なんてつまんねーわ。織田信長的うつけ感が女の偉人にだってあって良いでしょうに!

    #紅一点論 #アニメ特撮伝記のヒロイン像 #斎藤美奈子 #読書記録

  • 「みんなが見ながら大きくなった」アニメ・特撮・児童向け伝記に焦点を絞り、生まれたその日から息を吸うように刷り込まれる女性蔑視をあぶり出してみせた構成が出色。
    「男だらけの中に、女はせいぜい1人か2人」「(なかんずく男の世話という)雑用係」「つーかもはや役職・女」「中学生さえ母親予備軍(しかもこれは悪化している。ガンダム=18歳に母親役をやらせる→昔のプリキュア=中学生に母親役をやらせる→最近のプリキュア=中学生に出産(!!)させる)」「女性は姓ではなく、名前呼び」「風呂覗き・スカートめくり等の犯罪行為を『ラッキー』扱い、女性キャラもそれに怒らない描写」「近年ようやく登場した女性のみの戦隊は、きちんとしたチーム名=組織の裏づけや権威を与えられない」…あるわあるわ、みんなが「当たり前」と思わされてきた異常のオンパレード。著者はそれを、意外なほど軽妙な筆致でズバズバ指摘していく。
    全人類必読と言うような、こんな本にすら「フェミガーwww」が陸続と湧き、幼児の時点で「偉人は男ばっかりじゃないかwww」などとほざく日本の男、もう本当に終わってる。
    このまま、クソ男どもの天下(つまり女性は最低の奴隷扱い)のままで沈んでいくんだろーな。いい思いをしながら死ねる男様はいいんだろうが、女性は本当に報われない。

    2020/7/11読了

  • 自分でも気付かない間に
    男の子の国、女の子の国に染まっている。
    関係性の病の話が面白かった。
    セーラームーン、エヴァンゲリオン、ナデシコと小さい頃に見ていたアニメの評論をもっと読んでみたいと思った。

  • 某女子大文学部だった時に講義で読んだ本。再読。性別から見た子供向けアニメ、伝記、童話の批判本です。
    シンデレラ、ウルトラマン、セーラームーン、ガンダム、、、世の中には子供向けのアニメが出回っているけれど、その中で女性に求められる「役割」というのは一皮むけばどれも似たり寄ったりなのだと実感した。お色気担当ピンク隊員、犠牲的で感動を呼ぶ聖母、処女でメルヘンチックな魔法少女、独身お局の悪の女王。

    書き方や類型のまとめ方は断定的でずいぶん皮肉が効いていて反発したくなってしまうけれど、無理やり自分の型に当てはめているだけな気もするけれど、反論もできない。(P147「王子とは、父親の財産と地位をカサに着た、ハンサムな男の異称である。」)(「ヤマト」のチームは高校野球部である)(「ガンダム」のチームは大学全共闘である)

    私のタキシード仮面やもののけ姫やヘレンケラーへの、今までの憧れやイメージをぶち壊してくれる本です。無意識のうちに刷り込まれているイメージってあるよね。

  • 「男の子の国」と「女の子の国」、そして各国の中で生きる「紅」について。読めばアニメの見方が変わります。

    にしても、この人のナイフちと鋭すぎやしないか。時たま切り口がいびつに見えるのは気のせいだろうか。

  • アニメのキャラ構成などをこういった視点から考えたことはなかった。私たちは知らず幼少時代から影響を受け、大人の都合のいいように教育されてしまってきたのだと初めて気づいた。良書。

  • 最近読み終わったわけではなく、10年前くらいにこの作品をベースに卒論を書きました。その後、ジェンダー関連の本をたくさん読むようになった、原点みたいな作品です。

  • 2001年(底本1998年)刊行。

     アニメ・特撮等で描かれる女性登場人物をいくつかの類型に分類し、フェミニズム的物差しで解読する。
     著者らしい皮肉、エスプリの効いた表現は面白い。ただ、身も蓋も無いところもないではない。

     また、刊行年次からしてやむを得ないが、セーラームーン以降、連綿と続くプリキュア論が全くない。戦士でありながら、セーラームーンはシンデレラ・ストーリーの亜流とも見える。そういう意味では、フェミニズム的批判の遡上に乗るかもしれないが、ここまで連綿と続き、ざまざま菜タイプを生み出しながら、女子の心を鷲づかみにし続けているプリキュアはどうなんだろう?。
     そういう観点から、すなわち現在の眼から見れば、本書は少し古く、的外れな部分があるのかもしれない。

  • 最初から男性中心構成をこき下ろしまくりなのですが、目の前で語っているかのような温度感・臨場感のある文体なので、むしろ面白く感じました。

    しかも、きれいに分類・整理されているのでなるほどと納得感もありますし、言われて初めて気付く「女性像」の呪縛にはとても驚かされ、ぐいぐいと引き込まれていきました。

    確かに少し古いので、これをインプットに今の作品群を見てみると、変化と不変を感じられて面白くなりそうな気もします。

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著者プロフィール

1956年新潟市生まれ。文芸評論家。1994年『妊娠小説』(筑摩書房)でデビュー。2002年『文章読本さん江』(筑摩書房)で小林秀雄賞。他の著書に『紅一点論』『趣味は読書。』『モダンガール論』『本の本』『学校が教えないほんとうの政治の話』『日本の同時代小説』『中古典のすすめ』等多数。

「2020年 『忖度しません』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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