翻訳者の仕事部屋 (ちくま文庫 ふ 30-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480036933

感想・レビュー・書評

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  • 仕事って何? プロって何? 社会人になってからの再読!


     海の向こうから渡ってきたエンタメ小説をよく読まれるかたに、自信を持ってこの本を推します! 訳してくれるかたの話が面白くないわけがない。翻訳者・深町眞理子さん唯一のエッセイ集です(現時点では)。
     ちなみに、私にとっては、翻訳小説を手にとって「あ、深町真理子訳だ!」となると当たりが出たようなもの☆ 非常に精度の高い訳をされるお方です。

     1970年から1998年にかけて、深町さんがさまざまな媒体に寄稿した読み物が収録された一冊。翻訳者に必要な資質、教養、気概、考古学的な興味、アイルランドへの憧れ、アンネ訳者としてのコメント、S・キングの文章に関する考察、おまけに翻訳講座まで! どれもこれもが興趣をそそるお話であること請け合いです★

    ▼過去に書いたレビュー
    https://booklog.jp/users/kotanirico/archives/1/4870313863


     初めて読んだのは学生時代でしたが、今や自分も一応働く身。仕事の流儀について考えながら読むときもあります。
     仕事というのは指示や注文に従って動くものであり、時には望まないこともせざるを得ません。でも、周りには「あなたの仕事」としてジャッジされてしまうわけで、葛藤も……★
     こういうとき、当の本人が納得できないことは引き受けないのも一つかもしれません。しかし、本書に視えるのはちょっと違った選択☆

     もとより読書好きの深町さんでも、仕事の目で見るときと趣味のそれは別だと述べています。たとえば、ルース・レンデルを何作も訳していらっしゃいますが、深町氏自身がレンデルをお好きかというと……★☆★(そんなこと表明してレンデル氏に怒られないだろうか!?)

     深町さんは、訳者の都合ではなく作者の意図を尊重して、不特定多数の読者に向けてフレーズを噛み砕き続け、その強靭な牙で信頼を得てきた。ある意味では自分を殺すようなところもあるかと思います。それでも、その人らしい仕事ぶりとして、評価が蓄積されているのです☆ プロに徹することの意味を考えさせられます……。

  • あちこちに書いたエッセイを集めたものなので、本全体としては、繰り返しが多かったりとややだるいのだけど、翻訳者としての心構えを書いた(訳者は役者のフレーズの出てくる)第一部は、何度読んでも背筋がしゃんとする。左開きの実践編は、偉大な先輩の芸談を伺うにも似て、これまたひとつの道標のような。

  • SF、ミステリーを中心に翻訳家として活躍する著者が、仕事のこと、
    読書の楽しみ、日常生活について等を綴ったエッセイである。

    翻訳小説を読み漁っていたのは10代後半から20代前半にかけて
    だった。近年は小説自体に食指が動かなくなったので、年に
    数冊読めばいい方か。

    そんな翻訳小説時代でも本書で頻繁に取り上げられているクィーンや
    クリスティ、ドイルというミステリーの王道(?)は読まなかった。

    著者は『アンネの日記』の完全版も翻訳しているのだが、生憎と私は
    この作品も読んでいない。アンネ・フランクについては子供向けに
    書かれた本を、小学生の頃に読んだくらいだ。

    なので、各作品について書かれた個所は分からぬことが多かった。
    取り上げられている作者のファンであったなら、もう少し面白く
    読めたかも知れぬ。

    亡き山本夏彦翁が岩波文庫収録の翻訳小説に関して、外国語は知って
    いるが日本語を知らぬ者が訳しているから難解になるのだと語って
    いた。本書でも著者が似たようなことを語っている。

    近年はノンフィクションやルポルタージュばかりを読んでいるのだが、
    確かに日本語の破綻した翻訳書に出会うことが多い。翻訳には外国語の
    素養だけではなく、日本語の文章力も必要だと実感するね。

    でも、本書の著者のように日本語の知識が十分にあっても難解な漢字を
    多用するのもどうかと思うけどね。

  • スティーブン・キングをはじめとして200冊以上の洋書を訳してきた著者が語る、翻訳者としての本音と翻訳業界の舞台裏。

    本来なら”原文”という名の主人に仕える召使い、”作者”という名の主役の脇に控える黒子でしかない翻訳者を敢えて
    「訳者は役者」
    と豪語し、原文の文字と行間の狭間でもがき、苦しみ、そして舞台(=訳書)では観客(=読者)を魅了してみせる強さと誇りがありありと綴られています。

    翻訳の世界を志す人ならもちろん、何気なく訳書を読み流していただけの人にも是非、おすすめしたい一冊です。

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著者プロフィール

1931年生まれ。英米文学翻訳家。訳書に、シャーロック・ホームズ・シリーズや『アンネの日記 増補新訂版』ほか多数。著書に『翻訳者の仕事部屋』がある。

「2023年 『ファイアスターター 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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