破滅の美学 (ちくま文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (341ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480039248

感想・レビュー・書評

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  • これだけ体当たりで生きていても、実は繊細で、そして生命力はしだのようにしっかり根を張っているものだ。それでも突然ぱっと姿を消してしまったり。
    必死に一人でがむしゃらに生きている人としての面白みもあり、バタバタ倒れていく組織中で生き残って上に立つようになった親分も(仁義なき戦いの山守親分のように)老獪というよりは、組織の存続のために下の命は切り捨てつつ、きめ細かい思いやりをたまに見せたりする。矛盾を孕んでいる人間は面白い

    狂気の世界から帰ってこずに、どんどん勢力を拡大し最終的に数十人に襲われてなくなった人。
    何度も刺客が送り込まれてもなぜか事前に気づいて、返り討ちに成功。そのうちの一人は放浪している義兄弟だった。しとめてから、自分のお金でお寺に永久供養を頼んだという。

    殺すことは映画で見るほどあんなにさっぱり済まない。最期に凄まじい生命力を発揮して、周りが怖気ついてしまうこともある。また、一度人を殺した人は見た目ですぐ分かるくらい、精神的なダメージを被る。戦場でも初めて人を殺すと、生と死の境目がつかなくなり、死体から離れ難くなり傍でぼーっと煙草をふかすという光景がよく見られるそう。

    これは本筋とは関係ないが、「親は子供の本質を変えることができない。子供は親の無意識の行動や発言に傷ついたり、そこから学習して成長するものだ」といった記述があり、本当にそうだなと。

  • ≪総長賭博≫から≪仁義なき戦い≫まで東映の任侠、実録路線を作り支えた第一人者笠原和夫のエッセイ集で、ファンとしてはめちゃくちゃに面白い。

    映画の舞台裏の紹介、人物の紹介、さらにシナリオ作成のいろんなこと。また取材対象の昔から現在までのやくざさらには総会屋までを俎上に乗せている。タイトルからするとやや思想的に感じ、そういう面もなくはないのだがもっと気楽に読めるエッセイである。

    映画ができると監督の作品のようになるが、監督といっても現場カントクだ なんてのはシナリオ作家ならではの意見でしょうか。

    「やくざは相手の足の爪先を見ながら話をする、という。相手が不意打ちで行動に出てくる場合、かならず爪先から動き出すからである。」

    「よく間違えるのは、博打打ちだから朝から晩までバクチをしてる遊んでいるんだろうと見られることで、これはパチンコ屋の経営者がパチンコ好きだと断定するのと同じ誤りである。」

    「いまどきこんな口上を長々となっていては座が白けてしまって、「バカ、来る前に電話で言っとけ!」と怒鳴られるのがオチである。」

    「よほど肝っ玉の坐った極道でも、イザ匕首を抜いた瞬間から、もう目の前は真っ暗になつてしまうそうで、気がついたら女のアパートに転がり込んでいた、となるそうだ。」

    などなどどこを切っても面白い。

  • 破滅の美学 ヤクザ映画への鎮魂曲 笠原和夫

    カバー裏より
    『「仁義なき戦い」「総長賭博」など、数々のヤクザ映画の脚本家として名を残した笠原和夫。その彼が取材で知り得たヤクザたちのほんとうの姿とは?喧嘩、博奕、修業、放蕩、狂気、情欲……。男たちの行動と心情をいきいきと描き出す。映画のもとになった話、映画にできなかったエピソードなど、実際の映画以上に面白い内容に、ファンならずとも引きこまれる。』

    ヤクザ映画は観たことありませんし、観たいとも思いませんが(暴力シーンが無理)、文章だとなぜか読める。
    ヤクザとか暴力団のように、最終的に暴力(飛び道具込み)で手っ取り早く肩をつけるというのが好きではない。
    だけどこの本、まあまあ面白く読めたのですわ。

    “だいたいヤクザの裏話を聞いてきてそのままを映画にしたら、試写室で見た親分が、
    「こんな侠客、いやへんで、アホクサ!」
    と怒り出す。ウソ八百の義理人情で練り固めたドラマを見せると、
    「これや!これがホンマモンや!」
    と喜んでくれる。”
    つまりまあ、普段観ているヤクザ映画は事実に即してはいないらしい。

    三島由紀夫が、著者が脚本を書いたヤクザ映画を絶賛してから、ヤクザ映画が市民権を得たらしいが
    “わたしはじつは三島文学というものがよく分からない。あの人がしきりと軍人の格好をして見せていたのも、よく分からない。本当の軍人というものは、人前でそういうフリはして見せないものである。”

    ヤクザも、客(カモ)がいてなんぼのところがあるので、一般の人に凄んでみせることはほとんどないというのだけど、ホントかな。

    ヤクザといえば仁義口上だけど、今どき長々と仁義を切る人はいないのだとか。
    長々やるなら「事前に電話ですませろ」と言われるので、今では名刺の交換だけで終わってしまうのだそうで。

    一宿一飯の恩というけれど、これにもきちんとした作法がある。
    “食事は茶碗に二杯ときまっていて、出されたものは全部食べなくてはいけないから、二杯目の飯を残さないように、一膳目の飯の真ン中だけ少し箸をつけて穴をあけ、そこに二杯目をよそって貰うようにする。魚の骨も紙に包んで懐中に蔵(しま)う。”

    映画界の中で継子扱いされていたヤクザ映画。
    そんな中で脚本を書き続けていた著者は、本当はヤクザなんて大嫌いでありながら取材を重ね、作品を発表していく。

    “褒め言葉は、人を元気づける。しかし、それは潤滑油としての効用で、燃料にはならない。人を前に押し進めるものは、真正面から浴びせられた悪口雑言、痛罵、毒舌、「寸鉄人を刺す」皮肉などである。”

    暴力は嫌いだが、反骨精神は好きだ。

  • 渋い内容だった

  • 「日本侠客伝」「仁義なき戦い」シリーズなど
    の脚本家、笠原和夫がヤクザ映画の取材、執筆の裏側を明かす。労作、大作、傑作の「昭和の劇」とあわせて、ファン必読。泣く泣く映画から削った秘話満載。

  • 描く側も描かれる側も命がけ、という感じ。
    いったん戦争で命を賭けざるをえなかった体験がやはり大きいのではないか。

  • 戦後最強の(調査魔)脚本家、笠原和夫のネタ帳披露コラム集。

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著者プロフィール

昭和2年(1927)東京生まれ。新潟県長岡中学を卒業後、海軍特別幹部練習生となり、大竹海兵団に入団。復員後、様々な職につき、昭和29年東映株式会社宣伝部に常勤嘱託として採用される。昭和33年、脚本家デビュー。美空ひばりの主演作や時代劇、『日本侠客伝』シリーズ、『博奕打ち 総長賭博』をはじめとする東映任侠映画、『日本暗殺秘録』、『仁義なき戦い』四部作、『二百三高地』『大日本帝国』、『226』等を執筆。平成14年死去。

「2018年 『笠原和夫傑作選 日本暗殺秘録――昭和史~戦争映画篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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