新版 クラウド・コレクター (ちくま文庫)

  • 筑摩書房
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感想 : 137
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  • Amazon.co.jp ・本 (303ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480039279

感想・レビュー・書評

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  • 本棚の隅っこにいた本。
    単行本にはあった写真が文庫にはないことが、なんだかとても物足りない気がしてちゃんと読めずにいた。
    でも文庫は単行本よりも静かに「アゾット」の物語を語ってくれる気がして、今はむしろその静けさが嬉しい。

    「目に見えぬ「さかさまに降る雨」。
     わたしたちは、いつでもその中を歩いている。」

    今回1番心に残った箇所。
    いや、もしかしたらこの前もこの部分に感動したかもしれない。
    でもその時の感動はいつの間にか薄れ、ぼんやりとした輪郭を思い出せるだけになってしまった。

    この物語の中にはこの世界の秘密が書かれている気がしてならない。
    私の今立っている(正確には座っているけれど)この場所にも同じ秘密が隠されている。きっと。
    そういうことだったのか!と開眼しては忘れ、また読み耽り、まるで太陽王の暦を読むアゾットの人達そのものではないだろうか。

    でもこの本には秘密が書かれているということはきっと忘れない。
    この本とアゾットはいつまでも私の世界の隅っこにいてくれるはずだ。


    (以下は蛇足。隅っこについて考えたことを忘れないように)

    最近は片づけに憑りつかれて、本棚から(何があるかちゃんと分かっていない)隅っこを無くす方向で動いていた。
    何度も読むお気に入りの本だけが並ぶ本棚のイメージがキラキラ輝いて見えていた。
    でも、隅っこのない本棚は果たして本棚と呼べるのか?
    と、この物語を読みながら疑い始めてしまった。

    「アゾット」の物語だって今は使われていない旅行鞄の隠しポケットからやってきた。
    ずっとそこにあったのに気付かなかった冒険の物語なのだ。
    本棚で眠っていた古い本を開いたら…とか、お隣のお屋敷が実は…とか、
    よくよく考えてみれば、心ときめく謎や冒険はいつだって詳細不明な隅っこからやってくるのではなかっただろうか?
    「隅っこ」というのは結局私の世界における「隅っこ」で、視界には入っているけど注目していないところだ。
    もし私の世界がきっちり整理整頓されていて、「隅っこ」にはほこり一つ落ちていません!なんてことになったら…
    ドキドキ、ワクワクする謎や冒険はいったいどこに行ってしまうのだろうか。
    なんて、それが家や部屋が片付かない言い訳になったら情けないけれど。
    けれど、詳細不明なドキドキを秘めた「隅っこ」を永久追放してしまわないようにしなくては…!と物語には関係ない事をぐるぐると考える。

    • takanatsuさん
      kwosaさん、素敵なお話ありがとうございます!
      「遺跡の壁が剥がれて発見された輝く古代の絵のように」
      分かります、分かります!
      私も...
      kwosaさん、素敵なお話ありがとうございます!
      「遺跡の壁が剥がれて発見された輝く古代の絵のように」
      分かります、分かります!
      私も似たような経験があります!それは本棚の隅っこに相違ないと私は思います。
      本棚二重はずぼらですか…
      うちの本棚はさらに立てている本の上に横になった本が2、3乗っているのです…
      あわわ…やはりちと問題ですかね
      2014/04/20
    • kwosaさん
      takanatsuさん

      >うちの本棚はさらに立てている本の上に横になった本が2、3乗っているのです…

      あはは、一緒です。うちもま...
      takanatsuさん

      >うちの本棚はさらに立てている本の上に横になった本が2、3乗っているのです…

      あはは、一緒です。うちもまったく一緒です。
      自戒を込めて「ずぼら者」なんて言ってしまったのですが、まさかお仲間がいたとは。
      すみません。
      2014/04/20
    • takanatsuさん
      kwosaさん

      いえいえ、大丈夫です!
      お仲間でしたか。何やら心強いような…(笑)
      「理路整然としたものからはみ出す余白から生まれ...
      kwosaさん

      いえいえ、大丈夫です!
      お仲間でしたか。何やら心強いような…(笑)
      「理路整然としたものからはみ出す余白から生まれる「物語」は大切にしたいですよね。」
      どの程度はみ出すかが個人のバランス感覚ということなのかなと思いました。
      心地よいバランスを探っていきたいです。
      2014/04/21
  • 〝雲、賣ります〟
    祖父傳次郎(でんじろう)から譲り受けた「謎の品々」のひとつ…とある古い雑誌の広告頁。
    …はて、なんでしょう、これはいったい?

    永國はアゾットより…。

    祖父の残した「良く分からないものたち」の秘密とは…。
    永遠が見えるという〝望永遠鏡〟
    不思議なかたちの木の実らしきもの。
    ナンバーのついたお酒(多分)の壜たち。
    数冊の手帖…手帖の内容は全てアゾット旅行記でした。
    そして私たちは、傳次郎が旅した日記とともにアゾットを旅することになるのです。
    それではご一緒に
    ひぃ(1)ふぅ(2)みぃ(3)…と参りましょう。

    不思議と言うか、ホントに良くできてるなぁと読み進めるうちに〝面白さ〟より〝関心〟のほうが上回ってしまう不思議な物語。
    数字にしかり、回転にしかり、忘却にしかり、後ろ姿にしかり、虹にしかり…タロットにしかり、壜にしかり…
    よくもまぁこれだけ詰め込んだと思う…すごい!
    いやホントの話し!

    ただのファンタジーではない。
    この哲学的に美しい旅を是非とも味わって欲しい。


    今年の15冊目
    2021.9.24

  • クラフト・エヴィング商會の初代傳次郎さんが残した不思議な国「アゾット」の記録を主人公である三代目が読み解くお話。
    架空の国の冒険記なので、奇妙で不思議な人物や風景がたくさん出てきて読みながら自分もその世界に取り込まれる感じがした。人が色々なものを忘れていくのは歴史を繰り返すため…深いなぁ。たまに感じるデジャヴは、もしかしたら忘れてしまった何かなのかもしれないな。
    涙の事とか、音楽の事とか、星の事とか、雲の事とか、気に入ったフレーズがたくさんあった。私もいつかアゾットへ旅する日が来るだろう。

  • 雲をつかむような話でした。
    つかんだと思ったらふわふわ離れていく心許なさ……好きな旅です。
    アゾット、架空の国だけど行ってみたいなぁ。過客になりたい。えいえん……なにもかも忘却して戻ってこられそうにない。
    手帖部分のインクの色が好き。挿絵も旅行記も凝ってて素敵な世界でした。さすが、クラフト・エヴィング商會だと唸ってしまいます。

  • 旅行記とファンタジー、エッセイを読む高揚感を一度に浴びている気分になる 挿絵をポストカードセットで売ってほしい

  • 祖父の手帳から広がる不思議な世界の物語。想像の世界へ、あなたも旅してみませんか?すぐそこの遠い場所と合わせて読むのがおすすめ!

  • 3月に世田谷文学館で開催されていたクラフト・エヴィング商會の展覧会で購入しました。

    展覧会の説明を少ししますと、クラフト・エヴィング商會の扱う商品やら何やらを虫干しするついでに、ご紹介しちゃおうとコンセプトで、様々なものが展示されていたのであります。

    作品に関するものがほとんどで、この本に出てくる品々も多く展示されていたので、見終わった後、興味がわいて購入した次第です。
    展示品の中でこの小説にでてくるものだと、サラマンドルの尻尾やクラウドコレクターの小瓶、お酒のラベル、雲母でできた書物などが記憶に残っています。

    余談ですが、展示の中で強く印象に残っているのが、「入場券から切り取られた星」です。
    入場券はよく見る細長い長方形ではなく、正四角形で、入場するときに端を三角形に切り取るようになっていました。
    そして中央に星型の穴が開いていたのです。
    そのくりぬいた星、まさに星屑が収められた箱があって(展示品は多くが白い靴箱のような箱に収められていた)、
    "あなたの入場券の星もこの中にありますよ"という趣旨のことが説明に書いてありました。
    見ながら、くりぬいた数以上のお客さんがきたらどうするんだろう??日ごとに数は増えるのかしら?などと思っていました。


    展示会で見たものが出てきた!という感動の方が大きく、あまり話自体に入り込めなかったのですが(笑)、
    21種類のお酒がそれぞれが個性的で気に入りました。
    また、傅次郎さんの旅日記だけを読んでみたいなあとも思いました。
    一気に読まず、ちょっとずつ思い出したように読んでいたからかもしれませんが、読み終わって結局覚えていることといえば、雲は誰かが失った記憶だから、空をみていると懐かしい、切ない気持ちになる、というところぐらいでした…。
    クラウド・コレクターの"~がありますです"みたいな口調かわいかったです。

  • クラフト・エヴィング商會、吉田浩美氏、吉田篤弘氏を知ったきっかけ。記念すべき一冊。
    本屋で親友から「これいいよー」と勧めてもらい、後日購入したのが7年前?かな。
    以来、何度も読み返してる。
    独特で不思議な世界観や表現、素敵な挿絵。名作とは、このようの作品を指すのだろう。
    こんな世界を創りだせるってすごい。

    不思議な国アゾットに関する旅行記。
    読んでると、頭の中・心の中にアゾットがどんどん広がる。
    知らない土地にふらりと行ってみたい、そんな気分にもなる。

  • 大好きな本の1つ。

    主人公・クラフト・エヴィング商会の主が祖父のトランクから見つけた手帖。
    そこに書かれていた祖父によるファンタジーがそのままこの小説となっています。

    少し哲学的な雰囲気もありつつ心地よい空想の世界に誘ってくれる、大人向けのファンタジー。

    本の中で説明されている「言葉はどこにいくのか?」のくだりは沢山の人に読み聞かせたくなるほどのお気に入りです。

  • まるで大人のためのもうひとつの不思議の国のアリスを読んでいるような不思議な気分。
    全てが詩のようで言葉遊びのようで謎解きであって冒険であって。ゆっくりじっくり、疲れたときに味わいたい。
    忘却によって歴史は作られる。もしかして私もアゾットを旅したことがあるのかもしれない。すべて忘れて記憶は雲になり瓶の中に大切にしまわれているだけなのかも。そうだったら素敵。

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