安政江戸地震: 災害と政治権力 (ちくま新書 100)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480057006

作品紹介・あらすじ

大地震がいつ起きたかは決定的に重要であった。1703年の元禄地震では幕府はびくともしなかったが、1855年の安政地震ではがたがたになった。もう自然災害の範囲で食い止められなくなっていたのである。巨大災害は、一国の政治経済、社会生活、世相風俗に潜在していた諸内因をいちどきに顕在化する。江戸の地殻に走った亀裂が、やがて徳川幕府の基盤を掘り崩して政権瓦解に至る歴史のうねりを臨場感溢れる筆致で描く。

感想・レビュー・書評

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  • 以前読んだ本だったが、『青天を衝け』でちょうど安政江戸地震の回だったので、再読。本書は1855年の安政江戸地震を扱っているが、「角度を変えて見た幕府衰亡史であり、さらに権力衰亡の普遍史を読みとることをも眼目としている」(p.11)ものである。「巨大災害は、一国の政治経済、社会生活、世相風俗に潜在していた諸内因を急激に外化し、顕在させ、加速熟成する」(p.12)のであり、著者はこのような一国の歴史の動向に作用した地震を「歴史地震」とも呼ぶ。安政江戸地震はその「歴史地震」なのである。

    第3、4章では江戸中心の官庁街、そして庶民が住む日本橋、深川近辺の被害の様子が、諸先行研究などをもとに詳細に叙述され、第5章では被災後の救援活動が描写される。そして、第6章では当時の世相と合わせてこの大地震の位置付けがあらためてなされている。

    本書は阪神淡路大震災後の1997年に刊行されたものであり、阪神淡路大震災が執筆の直接の契機となっているが、2011年の東日本大震災を経てコロナ禍にある現在において益々示唆するところ大なる本である。

  • 1997年刊。著者は神戸大学文学部教授。◆文学史専攻の著者が、やや畑違いの江戸期の地震を叙述しようとしたきっかけは阪神・淡路大震災。そもそも古文献や絵巻から過去の地震を解読するのは重要である。周期性は勿論、被害状況から推察される地震規模も未来への重要な指標になるからだ。そういう意味で、江戸という当時大都市での直下型地震、安政江戸地震(1855年)を描く本書の刊行は実に意義深い。◆なお、この地震が幕府瓦解の一要因との点を検討する本書。倒幕が薩長の伸長という政治要因だけでないという新規の目線を得させる。

  • 「巨大災害は、一国の政治経済、社会生活、世相風俗に潜在していた諸内因をいちどきに顕在化する。江戸の地殻に走った亀裂が、やがて徳川幕府の基盤を掘り崩して政権瓦解に至る…」(カバー裏)

    「地震は政治のドラマの舞台装置」(p.233)ではない、と断ずる。さらに「本書がめざしたのは、災害史、政治史、社会史、民衆史等々のいずれでもなく、一定の周期性をもって国家権力を襲うカタクリズムの年代誌」(p.234)だという。優美な文章に史料による実証が入り込んでくる、独特の文体で語られるカタクリズムの描写は、筆者の独壇場とでもいうべき迫力をもって読み手に迫ってくる。

    ただ、地震と社会との関係が、もうひとつイメージしづらい。安政地震によって引き起こされた社会不安に対する政権の対応は詳述されているが、それにもかかわらず幕府が崩壊した理由を「すでに江戸時代は文化の飽和を迎えていた」という必要条件と、「周期性」という曖昧な根拠に求めているように思える。

    別のところでは、「物性と人性はどこか深い所で連動し、たがいに食い入っている」(p.233)とは述べている。しかし問題にすべきはその「どこか」がどこで、「食い入り方」がどのようなものか、ではないだろうか。

    ただ、これまでの何々史と違って「いずれでもない」と定義する著者の歴史叙述からすれば、このような見方が「政治史的」なのかもしれない。あるいは、構造主義的なのかもしれない。

  • 阪神淡路大震災を期に書かれた新書。

    数字的な部分はざっくり読んでしまったけど、大きくうなずいてしまう部分、また、新たな発見もあった。

    会津藩財政に関しても少し記述あり。

    災害は政治、民衆、文化等、たくさんのことを変えてしまうという事実が具体例で見られてよかった。

    学校の日本史で地震には、政治とは無関係であるかのように、ちょろっとしか触れない事実にさらに疑問を感じるようになった。

  •  自然現象は人間との利害にからむとき、資源ともなり災害とも位置づけられる。
     江戸が発展したことで、天明の噴火や安政の地震は、政権にも影響をあたえる一大事件にかわる。そのうえ記録が残り、その影響の大きさが後世に微細に報じられる。
     安政はその元号とうらはらに、外国勢力の接近をうけて動揺の時代であった。動揺は黒船ばかりでなかった。地震で文字通り、深刻に揺れたのである。

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著者プロフィール

野口武彦(のぐち・たけひこ)
1937年東京生まれ。文芸評論家。早稲田大学第一文学部卒業。東京大学大学院博士課程中退。神戸大学文学部教授を退官後、著述に専念する。日本文学・日本思想史専攻。1973年、『谷崎潤一郎論』(中央公論社)で亀井勝一郎賞、1980年、『江戸の歴史家─歴史という名の毒』(ちくま学芸文庫)でサントリー学芸賞受賞。1986年、『「源氏物語」を江戸から読む』(講談社学術文庫)で芸術選奨文部大臣賞、1992年、『江戸の兵学思想』(中公文庫)で和辻哲郎文化賞、2003年、『幕末気分』(講談社文庫)で読売文学賞、2021年に兵庫県文化賞を受賞。著書多数。最近の作品に『元禄六花撰』『元禄五芒星』(いずれも講談社)などがある。


「2022年 『開化奇譚集 明治伏魔殿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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