「わかる」とはどういうことか―認識の脳科学 (ちくま新書 339)

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  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480059390

作品紹介・あらすじ

われわれは、どんなときに「あ、わかった」「わけがわからない」「腑に落ちた!」などと感じるのだろうか。また「わかった」途端に快感が生じたりする。そのとき、脳ではなにが起こっているのか-脳の高次機能障害の臨床医である著者が、自身の経験(心像・知識・記憶)を総動員して、ヒトの認識のメカニズムを、きわめて平明に解き明かす刺激的な試み。

感想・レビュー・書評

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  • 「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学|みらいぶっく|学問・大学なび|河合塾
    https://miraibook.jp/book/book-detail/00043

    「わかる」とはどういうことか―認識の脳科学/山鳥重: DESIGN IT! w/LOVE(2007年12月05日)
    http://gitanez.seesaa.net/article/71145987.html

    「気づく人」と「気づかない人」は、どこが違うのか?|ちくま新書|山鳥 重|webちくま(2018年4月10日)
    https://www.webchikuma.jp/articles/-/1288

    インタビュー:神戸学院大・人文学部教授 山鳥重 「わかった!」にたどり着く力を育てる VIEW21[中学版] 2005.09 -ベネッセ教育総合研究所(2005/09)
    https://berd.benesse.jp/berd/center/open/chu/view21/2005/09/c01toku_17.shtml

    筑摩書房 「わかる」とはどういうことか ─認識の脳科学 / 山鳥 重 著
    https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480059390/

  • 本書は、「わかる」ということ、認識の仕組みをやさしくまとめたものです。

    「わかりました」って、本当にわかったのか。どこまでをどうわかったかという、いつもながらの疑問に応えるヒントの書です。

    脳科学から、「わかる」へのアプローチです。

    気になったのは、以下です。

    ・わからないことがあるからこそ、わかったがある。わからないのがわかったというのは考えたからです。考えなければわからないままです。
    ・こころの動きには2つあります。ひとつは感情で、もう一つは思考です。
      感情はこころの全体の動きである傾向を示します。なんとなく好き、なんとなく嫌い、なのであって、理由ははっきりしません
      思考は心像という心理的な単位を、縦にならべたり、横にならべたりそれらの間に関係を作りだす働きです。
    ・知覚を介して新しい経験を受け入れます。視覚、聴覚、臭覚、味覚、体性感覚などがあります。心像の獲得は知覚からはじまります。
    ・知覚のもっとも重要な働きは、対象を区別することです、違いがわかることです。
    ・知覚を十分に発揮するためには、注意という仕掛けが必要です。注意をかき立てるのは感情です。好奇心です。心は、好奇心⇒注意⇒知覚の流れで働きます。何事も好きになることが大事です。「好きこそものの上手なれ」です。
    ・視覚系の機能は、対象を区別し同定することです。
    ・心像には、現在まわりで起こっていることを知覚し続けている知覚心像と、すでに心に溜め込まれている記憶心像の2種類があります。
    ・知覚心像のままでは、意味をもちません。記憶心像という裏付けがあってこそ、意味を持ちます

    ・名前を付けるというは、記憶心像に音声記号を張り付けるということです。
    ・記号とは、なにかを表すためのしるしです。そのしるし自体には、もともと意味がありません。しるしはかくかくしかじかというモノを表しますという取り決めです。
    ・記号の中でもっとも重要なモノが言語です。単語を区別するための記憶心像を音韻といいます。
    ・正確な通信手段が集団としての行動を可能とし、危険を未然に防ぎ、種族を生き延びさせるのに大いに役立ったはずです。
    ・石原慎太郎の「「NO」といえる日本」。日本語にNOにあたる言葉がないので、わざわざNOを使っています。使う必要のない言葉は、生まれないのです。
    ・外来文化が大量に入ってくるときには、異なる概念である言葉が大量に入ってきます。これを自分の国の言葉に消化するのに時間がかかります。その時間がとれないと、消化不良の言葉が社会に溢れることになります。明治時代がそうでした。
    ・新しい概念は、解説付きの新しい言葉としてしか受け入れることができません。

    ・わかる、分かったという経験の第一歩は、なんといっても言語体験です。相手と同じ心像を喚起するためには、その手段である言葉とことばの意味を正しく覚えておく必要があります。記憶になりことはわからないのです。
    ・分からない言葉はきちんと辞書を引くか、その都度正しく覚えておかなければなりません。
    ・「IT」などという記号をなんとなく雰囲気や脈絡だけでつかうのはもっとも危険です。なんとなくわかったような気分になりますが、わかっているのは文脈から立ち上がる輪郭だけで、中身がありません。しっかりした記憶心像はきちんと記憶しておかない限り作れません。
    ・音だけを気分で使っていると頭の方がそれに馴れてきて、聞きなれない言葉を聞いても、「それ何?」と問いかけなくなります。
    ・わかるの原点は後にも先にもまず、言葉の正確な意味理解です。ここをおろそかにしてはいけません。

    ・単語の意味がわかるためには、その記号を自分が蓄積させている記憶心像と照合させる必要があります。その都度、辞書を引いて「あゝ、わかった」ではなかなか先へ進めません。自分でちゃんと記憶しておく必要があります。
    ・いろんな記憶
     ① 情動反応 悲しくなるとなけてくる、うれしくなると笑えてきます。この情動反応も記憶の1つです。
     ② 出来事の記憶 身の回りに起こる1回1回の出来事の記憶 出来事、場所、時間、感情、その時の考えなどさまざまな情報の複合体で、シーンの連続として記録されます
     ③ 意味の記憶 出来事のうちの変わらない部分です。生活に必要な概念や約束事の記憶です
        ことがらの記憶 あるまとまりを形成していることがらがそのまま記憶されていて、それを呼び出せばその記憶の働きが終了するタイプの記憶 何度も繰り返し経験することで少しずつ作り上げている記憶
        関係の意味 ことがらとことがらの関係 たとえば親子関係
        変化の概念 動詞のイメージ 隠れる、移るなどの概念
     ④ 手順の記憶
    ・すべて最初は出来事として記憶される

    ・いろいろな「わかる」
     ① 全体像で「わかる」 地図をイメージ、大局観、俯瞰、 「木を見ず、森を見よ」
     ② 整理すると「わかる」 分類できるとすっきりする
     ③ 筋が通ると「わかる」 説明がうまくつながれば「わかった」と感じられる。
     ④ 空間関係で「わかる」 2次元、3次元イメージでわかる。立体の理解、回転、移動、変型できるとわかる
     ⑤ 仕組みで「わかる」 物体の相互の動きを理解することでわかる 動きの背後・理由を知ることでわかる
     ⑥ 規則で「わかる」 原理原則を理解する 手順を進めてわかる わかったというのは感情なのでです。約束の手順を進めるにあたって何かを感じることはありません。

    ・どんなときに「わかる」
     ① 直観的に「わかる」 納得する、合点がいく、腑に落ちる
     ② まとまることで「わかる」 本を読み終えてわかる。ドラマを見終えてわかる。友人と会話をしてわかる
     ③ ルールを発見することで「わかる」 仮説検証してわかる
     ④ 置き換えることで「わかる」 比喩や、たとえ話をみてわかる

    ・「わかる」ためには何が必要か
     意味が分からないとわかりたいと感じる。わかるというのは秩序を生む心の動き。秩序が生まれると、心はわかったと感じてくれる、心に快感、落ち着きが生まれる
     わかるためには、記憶と知識の意味の網み目が必要、そのためには、何千語という言葉の知識の蓄積が必要
     知識の網の目にひっかかってくれるのが、「わからない」。わかること、知識がないと「わからない」は引っかからない
     そのためには、網の目を長い時間をかけて作る必要がある。近道はない
     わかるためには、「これはわからない」「ここまではわかった」ということに気がつく必要がある。「わからない」とは、新しい問題に直面したときに、これは自分の頭いんはおさまらないぞという、「心の異物感」である
     わかるとは自分でわかる必要があります。自分でわからないこと路を見つけ、自分でわかるようにならなくてはならない

    ・本当にわかったか
     図にしてみる わからなければ、図にかけない
     自分でやってみる 運動化できなければ本当にわかっていない
     自分のことばで説明し直してみる わからなければ、自分の言葉で表現はできない
     そうしてみれば本当にわかったのか、それとも、分かった気になっているが全然わかっていないのかがわかる
    ・全体のつながりを理解することが大きな意味、言葉や出来事、細かいことを理解するのが小さな意味。大きな意味を理解する必要がある。

    【結論】
    生きることは、自分の足で立ち、自分の足で歩くことです。世界に立ち向かうためには、自分が使えるしっかりした海図を自分で作っていく必要があります。そうやってはじめて、大きい意味や深い意味を発見することができるようになります。

    目次

    はじめに わかる・わからない・でもわかる
    第1章 「わかる」ための素材
    第2章 「わかる」ための手がかり
    第3章 「わかる」ための土台
    第4章 「わかる」にもいろいろある
    第5章 どんな時に「わかった」と思うのか
    第6章 「わかる」ためには何が必要か
    終章 より大きく深く「わかる」ために

    ISBN:9784480059390
    出版社:筑摩書房
    判型:新書
    ページ数:240ページ
    定価:800円(本体)
    発行年月日:2021年12月10日第25刷

  • 「わかる」ってどういう状態を指すんだろう、と思って読みはじめた。

    認知という意味で、物事の意味や概念を把握することには、経験や記憶が関わっている。
    経験や記憶を適切に処理するためには、言葉のように共有できる記号が役に立つ。

    それらが結び付いて、確かな心象となった時に「わかった」という感じが得られる。
    脳の一部が損傷してしまうと、この認知が出来なくなって、空間把握や時間把握、言語障害や記憶にまとまりがなくなってしまう。

    なるほど。

    もう一つ、見えないものを心象にしてしまえる人間固有の想像力にも触れている。
    たとえば虚数であったり、中性子であったり。
    これってある意味、幽霊みたいなものなのに。
    「わかっていること」を敷衍すると、「ない」ものを信じられるわけだから、すごいよなぁ。

    そこで、私はやっぱり共通感覚に至らざるを得ないんだけど、この話の一番感動した部分はエントロピーのくだりだった。

    形を保つにはエネルギーが必要で、エントロピーは常にそれを拡散させていく。
    人間が形を保っていられるのは、必要なものを取捨選択して取り込んで、エントロピーに逆らっているのだという。(説明間違ってたらごめん、平衡同定の話も思い出した)

    この、整理された必要なものを「情報」といい「秩序」と言い換えている。

    「わかる、というのは秩序を生む心の働きです。秩序が生まれると、心はわかった、という信号を出してくれます。つまり、わかったという感情です。その信号が出ると、心に快感、落ち着きが生まれます」

    人間にとって「わかること」が必要なのは何でなんだろうと、先天的にそれに共鳴する器官が備わっているのは何でなんだろうと思っていた。

    それは、快いことなんだなと思う。
    そして、美しいとか素晴らしいとか感じることには、秩序や摂理が働いていて、それは生物的に自分が生きているということと密接だということなのかもしれない。

  • わかるとは?
    1 全体像→24時間
    遠い距離から眺め、他の問題との関わりがどうなっているかという大枠を知ること
    ex自分の職業の決断をする上で、
    今何がしたいのか?それは自分の性格に合っているのか?その道を選んだらその後の生活はどうなるのか?
    後悔しない方向かどうか?

    全体像を掴むには?
    2 整理
    今目の前に同時にある様々なものを整理する
    分類するとわかる。
    物質→個体、液体、気体
    3筋道を立てる
    なぜ?
    時間的繋がりを理解する
    4空間関係
    空間認識能力
     視覚で認識する空間的なもの
    5仕組み
    地球が回って、昼と夜がかわる。
    時計のからくり。
    因果関係かな?
    6規則に合わせる
    先人たちの原理原則を参照する
    3-1=2

    どういう時にわなる?
    1直感的にわかる
    湯川秀樹 
    陽子と中性子の間。
    中間子を夢の中で思いついた。心理的な層でも考えているということ。
    2まとまることでわかる
    ex本を読んで内容がわかる
    上司との会話の内容がわかる
    →自分のものにすること。
    長々と文に表現されることが自分の概念としてひとつのイメージにまとめられること
    3ルールを発見することでわかる
    万有引力の法則
    4置き換えることでわかる
    新しく取り込んだ情報を、既知の情報に置き換えること
    野球で例えると。。。

    わかっていることをたしかめるには?
    わかっていることは行為に移せる。
    人に話して、紙にかいて理解を確かめよう。

    Q理解の深い、浅いとは何を指しているんだろうか?

  • 生きることは、自分の足で立ち、自分の足で歩くことです。世界に立ち向かうためには自分が使えるしっかりした海図を自分で作ってゆかなければなりません。そうやってはじめて大きい意味や深い意味を発見することができるようになるのです。

    それが快感や、落ち着きをもたらす、世界がもっと楽しくなるってことなんだよねー、わかるわかるわかるーーー!!!!!!

  • 読んだきっかけは息子がトライしている中学入試で塾が紹介したからだった。著者は神経内科が専門で高次機能障害学を研究しているらしい。私は「高次機能障害」にちょっと興味を持っていた。自分が1年前に適応障害にかかり、3か月くらいで治ったように思える部分と何か脳の一部に問題があるのではないかと感じたことがあった。なんとなく認知能力や記憶力の低下を年のせいにしていた。半分あってるかもしれないけど。

    息子と会話がかみあわず、お互いにイライラしていることが多かった。単なる息子の反抗期にも思えたのだが、それだけとは言えなさそうだ。会社の仕事で重要なことを記憶違いしてしまったり、記憶が欠落したかのようになってしまうことがあって、ショックを受けたこともあったからだ。このとき理由を調べてみると、うつ病や適応障害との関連で脳の認知機能障害や高次機能障害の話が出てきたため、関心を持つようになった。普通は高次機能障害というと脳卒中になったり、脳に事故などで損傷を受けた人がなりやすい病気らしい。でも脳の血流という捉え方をすれば、メンタルの問題でも同様のことが起きてもおかしくないと思う。

    ひとえに記憶力がなくなったといっても、短期記憶と長期記憶のどちらも記憶力かでも原因は異なるし、全体的な関係性の記憶と具体的な直近の記憶なのかなどで記憶に結びつけて「分かる」といっても様々だ。それを理解しやすく説明してくれているのは、ありがたい!

    心像(メンタルイメージ)は、普段聞きなれない言葉だから慣れるのに時間がかかったが、わかるということにおいて区別できる、特に言葉で違いを明確化できることは一つの重要な要素だと改めて思った。筆者が説明する知覚心像と記憶心像をふまえて読み進めると、人が語感をどうやって身に着けていくのかが理解できる。知覚と記憶のリンクで考えていくと、なるほどなあと思った。

    サイエンスの領域で「分かる」ことに対して「分類整理」、明らかにするものに対して分かっていることとわかっていないことの「識別」、「モデル」思考という概念が重視して取り組まれる理由がこの本を読んでいくと納得がいく。

    いろんな意味でなるほどねぇ、と「分かる」体験をさせてくれる本だった。

  • 例えが多く読みやすい文章だった。
    わかると心に秩序が生まれるため、人はわかりたいと願う。

    特に印象に残った点を2つ書くと、
    「わからない」ことに気づく
    自分から自発的にわからないことをはっきりさせ、それを自分で解決してゆかない限り、自分の能力にはならない。
    わからないことをはっきりさせるには応用すること。図にしたり関係性を説明してみる。
    わかったことは行為に移すことが出来る。

    世界に立ち向かうには、自分の解釈だけで世界を理解しようとするような理解力ではなく、仮説と検証によって答えを導き出すような発見的な理解力を身につけていかねばならない

  • 精神科の先生が書かれた本。
    「わかる」と一言にいっても様々なグラデーションと種類がある。
    同じ言葉でも人によって捉えている「心像(メンタルイメージ)」は異なり、それが共通しているとい前提が成り立つから会話も可能になるそうだ。
    たしかに、誰かと会話していて、ある言葉に対する認識が違っているせいで誤解が生まれて、衝突しているケースは多い。
    中には意味を理解せずに言葉だけが先走っていることもあり、コミュニケーションとは言葉の前提にあるメンタルイメージが共有できるからこそ成り立つものなのだと感じた。
    とはいえ、見えないし聞こえないメンタルイメージを共有するのは難しく、話し合ったり、同じ経験を共有したりする過程で理解できていくのだろう。

    そう考えると、多様性を意識して相手を理解しようとする姿勢を持ちたい!

  • ☆☆☆☆
    この本を読みながら常に頭に置かれていたのは【心像】と言うイメージです。記憶するにも、感じるにも自分の内部に存在するこの心像という器という自分の外に想像した心像という器に、砂を注いで満たしていくそんなイメージで読み続けました。
    ・「知識の網の目のお話し」は『天網恢々疎にして漏らさず』という老子の言葉が良いイメージ創りをしてくれました。
    ・「絵の極意はひたすら見ることにある」という高名な日本画家の言わんとすることも、外の心像が自分の内部の心像の器に砂を注いでそれを創り上げていくことをイメージして読んでいました。
    そのほかにも、「いい表現だなぁ」「そう言うとらえ方もあるなぁ」と自分の心像を大きくしたり、知識の網の目を細かくしてくれるというイメージをたくさんのいただけました。
    本の最後にも、帯にも書かれていることが山鳥氏のメッセージだと思います。「『自発性という色を持った知識』が海図なき航海という人生には必要なんだよ」
    というメッセージです。ここにある自発性とは自分の内部にある心像を育てるというイメージを持つことで近づけたような気がします。
    2017/1/11

    「わかる」って表現は、 「頻繁に使う割には、物凄く大雑把な感覚表現だなぁ」「もう少しスッキリしたいなぁ」と思ったので、この本を手にしてみました。

    スッキリはしないまでも、「そういうものなのか」という読後感があります。

    この本を手にした目的の達成度とは別に、

    ①【「わかりたい」と思うのはなぜか】の章で説明されていたエントロピーの話、たいへん興味を持ちました。(著者は謙遜に拙い説明と言っていますが、私には興味を抱き「わかりたい」と感じさせてくれる良い内容でした。)
    〜〜ある装置と知識(動き回る分子を見分ける)があると、混沌の中から秩序を作り出せるのです。分子のレベルでは、たとえば、空気の中から酸素だけを選び出しています。あるいは食事の中から鉄や銅だけを選び出しています。分子より上の、もう少し複雑な物質だと、たんぱく質や、脂肪や、炭水化物だけを選び出しています。つまり、生命の本質はエントロピーを減少させることにあると考えることが出来ます(物理学者エルヴィン・シュレディンガー)
    この原理は物質的部分だけでなく、心理的現象にも貫徹しています。〜〜

    それと、
    ②「天網恢々(かいかい)疎にして漏らさず」
    の引用がされている部分での、人間の知識の獲得のイメージを描いた文章は、意味が違いますが上記の老子の言葉とともに、私の記憶に深く刻まれました。
    〜〜知識は意味の網の目を作ります。網の目は逆に知識を支えます。ひとつひとつだと不安定ですが、網の目になると安定度を増します。ひとつの知識だと不安定ですが、100の関連知識に支えられると、その知識は安定度を増します。
    心理過程はすべての記憶の重なりです。知らず知らずに覚えこんだか、意識して覚え込んだかの違いはあっても、覚えこんだものが積み重なった結果が現在の心です。
    記憶の網の目ができると、何がわかっていて、何がわかっていないのかがはっきりするようになります。網の目が変なものをひっかけてくれるのです。
    知識の網のおかげで、わかるところとわからないところが区別できるのです。まったく何も知識がなければそもそも網の目ができていませんから、網にひっかけること自体ができません。すべてのものは網を遠く外れたところをどんどん流れていってしまいます。
    何事であっても、わかるためには、それ相応の知識が要ります。知識の網の目を作らなければなりません。〜〜



    〜〜社会で生きてゆくには自分で自分のわからないところをはっきりさせ、自分でそれを解決してゆく力が必要です。
    人間は生物です。生物の特徴は生きることです。それも自分で生き抜くことです。知識も同じで、よくわかるためには自分でわかる必要があります。自分でわからないところを見つけ、自分でわかるようにならなければなりません。自発性という色がつかないと、わかっているようなみえても、借り物にすぎません。実地の役には立たないことが多いのです。〜〜

  • 高次脳機能について「高次脳機能」という用語を使わずに平易な言葉で説明されており、大変わかりやすくイメージ(心像)しやすい。

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著者プロフィール

現在、神戸学院大学人文学部教授。
1939年兵庫県生まれ。神戸大学大学院医学研究科修了。医学博士。ボストン大学神経内科、神戸大学医学部神経科助教授、東北大学医学系教授を歴任。専門は神経心理学。失語症、記憶障害など高次機能障害を研究。
著書:『脳からみた心』(NHKブックス)『神経心理学入門』(医学書院)『ヒトはなぜことばを使えるか』(講談社現代新書)『「わかる」とはどういうことか』(ちくま新書)『記憶の神経心理学』(医学書院)

「2008年 『知・情・意の神経心理学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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