大学受験のための小説講義 (ちくま新書 371)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480059710

作品紹介・あらすじ

毎年、数十万人もが受験する「大学入試センター試験」の国語には、小説問題が必ず出題される。しかし、これらの問題には高校の授業では教えてくれないルールが隠されていて、選択肢もそのルールをふまえた五つの法則によって作られているから、それを知らなければ太刀打ちできないのだ。また、国公立大学の二次試験にも小説問題が出題されるが、これもそのルールを前提とした独特の読解法が求められている。本書では、最近の受験小説の中から代表的な問題を選び、入試国語の隠されたルールを暴きながら、独自の読解法をあなただけに伝授する。もう一度、小説の醍醐味を味わいたいと思っている社会人にも必読の一冊。

感想・レビュー・書評

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  • 今まで国語は苦手科目だったけど、
    小説を解くには道徳が必要と知って、苦手な理由に納得がいった。

    小説は、学校空間に限らず自分が想像もしないような考えを知るために読んでいる。
    なので、学校空間における道徳がないと解けないなら、一生国語はできなくてもいいや、と思ってしまった。


    これは大学受験の小説をできるようにする本ではなくて、国語が苦手な人を肯定してくれる本だと思った。

  •  小説を読む事は出来ない。何故なら、自分の視点と興味に従って私的な解釈を行う以外に、内包された物語は見えてこないからだ。だが、受験の場合における小説的読みの問題は、特殊な様相を見せる。学校とは子供に対して、道徳的な規範という暴力を押し付ける空間。そのような特殊事情が、受験にも深く関与する。学校教育は、生徒にそのような規範的道徳を学ばせ、身に付けさせようとする意図の元で、施されるものだ。小説の読みに関しても、道徳的な解釈を子供たちに要求する。
     学校空間では、人生における負の側面を一切排除した前向きな読み方しか許されない。そんな狭隘さが、子供達を縛り付ける事になる。善なる価値観を、小説の読みの中でも貫き通すよう強制させる、そんな学校側の方針に、受験生は逆らう事があってはならない決まりなのだ。受験に合格する為には、無理してでも学校側の要請に従って解答を作成する以外に、道はない。
     著者は、受験国語に毒される事を危惧するような発言を、本書の随所に差し挟んでいる。小説の読みは、実際もっと広く開放された視点から行われるべきだ、と主張している。だから、本書の後半に行くに従い、受験的な読み方から逸脱した、自由なる混沌の方向へ読者を導こうと苦心しているように思われて仕方ない。それは、小説を本当に読む為には、どうしても必要なプロセスだと考えているかのようだ。
     奇跡。そう、小説を読み込む作業は、奇跡に接近する為のテストパイロットのような営みなのだ。固定された規範から、更に深みを目指して自己の思考を高める事こそが、本来の小説的な読み方だから。答えのない混沌に向かって、言葉、意味、メタファーの茂みに突き進んでいこう。芸術とは、そういう次元の闇を模索する世界なのだ。

  • 大学受験の現代文で必要とされるのは、一貫して、要約力とそれを利用した解答力だけ。

    小説の場合でも、同様で、要約力と解答力である。ただし、要約力の中身が評論文の要約とは異なり、「場面、登場人物の心情の変化、特異な背景描写」の三点を踏まえて要約する。そして、そこを手掛かりにして解答していく。

    これをしっかり踏まえた参考書or過去問で演習すれば、落とすことはなくなる。

    そうゆう意味で、この本はそれ以上が書かれている本。つまり、時間のない受験生には必要ないかもしれない。

    ただし、純粋に小説の読み方を知りたければ、とてもお勧めする本である。

    小説は自由に読んで良いとされてしまいがちだが、絵画と一緒で、そこには、ちゃんと明確な鑑賞視点というものがある。

    簡単にそのことを把握したければ、岡田斗司夫の「オタク学入門」が読みやすいが、小説に特化した場合この本が視点を提供してくれる。

  • 2002年刊行。大学入試国語問題のうち小説を題材文としたものを素材に、その解答への道筋を明らかにしようとするもの。しかし、本書の意味合いは、それに留まらない。むしろテキストの「読み方」を著者とともに追体験し、その過程を辿っていく中で方法論を見出していく書。個々人で差が生じるとはいうものの、この体験は「小説を読むこととはどういう営みなのか」を知ることに他ならない。さらに言えば、読者のキャリア、知識、経験、心理状態に、小説の読みが左右されるのはなぜか、この理由を考える上で、本書の味読がよい経験となりそう。

  •  センター試験や国公立二次の小説問題を解きながら、大学受験としての小説の読み方と問題の解法を提示するもの。太宰治の『故郷』や堀辰雄『鼠』などセンター試験が4問、津村節子『麦藁帽子』(岡山大学)や三島由紀夫『白鳥』(大阪大学)、横光利一『夜の靴』(東北大学)など国公立二次が10問の計14の過去問を解くことが出来る。
     おれは高校のときセンターの国語が苦手で、評論以外はほんと出来なかった。古文・漢文は高3の半ばで古文単語や句形を徹底的に覚えたら何とかなったが、小説だけは点を落としてしまい、問題を解くのが嫌いではないが、苦手意識が結構あった。特に国語は1問の配点が大きいので、ほんと怖い科目だと思っていた。
     それでもこの本を読むと、ちょっとしたコツが掴めそうな感じがする。心情把握問題=情報処理、積極的な正解でもないが間違いでもないものが答え、といった「受験小説の法則」が紹介されていて、面白い。(面白いと思えるのはもう自分に受験生としてのプレッシャーがないからかもしれないが。)
     文学者である著者からの、この問題は暴力的だ、とかこの部分はこう読んで欲しいんだろうけどこうとも読める、というような見解がいっぱいあって、文学を読むという作業がいかに知的で洞察力を必要とするかが分かった。それだけでなく、おれにとっては何となく分かるような分からないような(=つまり分かっていない)部分を、答案として的確に表現できる能力、というのもすごいと思った。国語の先生はすごい。例えば広島大学の野上弥生子『茶料理』の問一「犯さぬ罪を惜しんだ」が「肉体関係を持たなかったことを悔やんでいる」なんて、言われてみて「そうそう、つまりそういうこと」と思うんだけど、答えは自力で答えは出せない。というのばっかりで、ほんと国語難しいと思った。
     最後に受験小説の読み方とは関係ないが、福島大学の吉村昭『ハタハタ』の解説が面白い。「組織は生き残ることが『善』であり、組織は自立した生き物であるから、組織の本質を変えることは誰にもできず、だから組織を嫌悪し始めたらそこから降りること、しか出来ることはない」という解説(pp.203-4)が、なんか今のおれとおれの働いている組織に照らして考えてしまった。さらにp205の「『貧しい』ことはただひたすら悲しいこと」というのも、やっぱり現実はそうなんだよな、お金がないのに幸せ、というのも、あんまりお金がなくなり過ぎるとそうは言ってられないよな、という感じで、納得した。
     他にも「小説と物語の違い」など、とても勉強になった。おれは少し洋書を読むけれど、完全に「物語」じゃないと英語では読めないなあと思う。だから英語で「小説」が読める人、という英文学をやる人もまたなかなかすごい人たちだなあとあらためて思った。(14/08/--)

  • これ買ったのって十年前くらい?私がこの本をずっと手放さなかったのは、自分が普通の当たり前の人間だと思いたかったから、なんだろうなぁ。

    石原千秋はちょっとひねくれてるけどいい人だ。彼の本の審美眼は信頼できる。他の本を読もう。

  •  石原千秋先生による「受験小説」論。「大学受験国語」というと、どうしても「評論」の読解に重きが置かれがちだ。だから、ふと「小説」の読み方を問われると答えに窮する。そんな状況にあって、ヒントを得たいと本書を手にしてみた。
     受験生に向けた「解説」の側面もあるし、本書を読んで「なるほど」と思った部分は数知れず。その意味で大変「タメ」にはなるのだが、求めていたものと若干のズレは感じてしまった。

     僕は「受験」というものを無駄なものとは思いたくない。だから、僕の理想としては「英語で活躍をする」という人生の目的を叶えるための延長線上に「英語」の試験はあってほしい。「理系分野で大活躍」するために「受験数学」を通る道があってほしい。そして、たとえば「文学研究」などの視点を養うために「受験国語」はあるのだと思いたい。
     ところが、本書は少し「ぶっちゃけ」すぎている。「所詮、『受験国語』などこの程度」という考えが透けて見える。だから、本書からわかるのは「受験国語」には「受験国語」のルールがあって、そしてそれだけだということだ。
     もちろん、それはつまり、僕の見方が甘かったというだけの話だ。けれど「それはそれ、これはこれ」とする物の見方は「結局、受験勉強って何のためにあるのさ?」というアリガチな疑問を強化する役割しか持たない。「結局それかい」というわけだ。

     また、本書「あとがき」には「どうやらこの本は研究者としての僕の自己確認のための本にもなったようだ」と述べており、本書は一つの起点であることが示されている。本書にある記述が、その後、どう発展していっているのか。今度はそれを見なきゃいけないなあと思う。


    【目次】
    はじめに
    序章 小説は何を読むのか、あるいは小説は読めない
    第一部 小説とはどういうものか――センター試験を解く
     第一章 学校空間と小説、あるいは受験小説のルールを暴く
      過去問①学校空間の掟――山田詠美『眠れる分度器』
     第二章 崩れゆく母、あるいは記号の迷路
      過去問②メタファーを生きる子供――堀辰雄『鼠』
     第三章 物語文、あるいは消去法との闘争
      過去問③女は水のように自立する――津島佑子『水辺』
      過去問④男は涙をこらえて自立する――太宰治『故郷』
    第二部 物語と小説はどう違うのか――国公立大学二次試験を解く
     第四章 物語を読むこと、あるいは先を急ぐ旅
      過去問⑤血統という喜び――津村節子『麦藁帽子』
      過去問⑥貧しさは命を奪う――吉村昭『ハタハタ』
      過去問⑦気づかない恋――志賀直哉『赤西蠣太』
     第五章 小説的物語を読むこと、あるいは恋は時間で忘れさせる
      過去問⑧ラブ・ストーリーは突然に――三島由紀夫『白鳥』
      過去問⑨恋は遠い日の花火ではない――野上弥生子『茶料理』
     第六章 物語的小説を読むこと、あるいは重なり合う時間
      過去問⑩母と同じになる「私」――梅宮創造『児戯録』
      過去問⑪父と同じになる「私」――横光利一『夜の靴』
     第七章 小説を読むこと、あるいは時間を止める病
      過去問⑫自然の中で生きる「私」――島木健作『ジガ蜂』
      過去問⑬人の心を試す病――堀辰雄『菜穂子』
      過去問⑭いっしょに死んで下さい――横光利一『春は馬車に乗って』

  • とにかく小説を試験問題にするのは難しいよ・・・
    ということを改めて実感しました。
    とはいえ、今年の京大は大問1に小説出してきたし。
    避けては通れない問題ですよねぇ。

    面白かったのは、
    小説は解答者の力量をはかると同時に、
    採点者の技量も問われているということ。
    生徒の時は何も思っていませんでしたが、
    教師になってつくづく実感です。

  • 小説から「物語」を抽出する。「物語」の抽出方は何通りもある。小説を読むことは行間を読むこと。
    そんな読み方とは異なる現代文・小説の世界。「行間を読む」というルールは同じでも。

  • [ 内容 ]
    毎年、数十万人もが受験する「大学入試センター試験」の国語には、小説問題が必ず出題される。
    しかし、これらの問題には高校の授業では教えてくれないルールが隠されていて、選択肢もそのルールをふまえた五つの法則によって作られているから、それを知らなければ太刀打ちできないのだ。
    また、国公立大学の二次試験にも小説問題が出題されるが、これもそのルールを前提とした独特の読解法が求められている。
    本書では、最近の受験小説の中から代表的な問題を選び、入試国語の隠されたルールを暴きながら、独自の読解法をあなただけに伝授する。
    もう一度、小説の醍醐味を味わいたいと思っている社会人にも必読の一冊。

    [ 目次 ]
    小説は何を読むのか、あるいは小説は読めない
    第1部 小説とはどういうものか―センター試験を解く(学校空間と小説、あるいは受験小説のルールを暴く;崩れゆく母、あるいは記号の迷路;物語文、あるいは消去法との闘争)
    第2部 物語と小説はどう違うのか―国公立大学二次試験を解く(物語を読むこと、あるいは先を急ぐ旅;小説的物語を読むこと、あるいは恋は時間を忘れさせる;物語的小説を読むこと、あるいは重なり合う時間)

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著者プロフィール

1955年生。早稲田大学教授。著書に『漱石入門』(河出文庫)、『『こころ』で読みなおす漱石文学』(朝日文庫)、『夏目漱石『こころ』をどう読むか』(責任編集、河出書房新社)など。

「2016年 『漱石における〈文学の力〉とは』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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