「こころ」の本質とは何か (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (219ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480059956

感想・レビュー・書評

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  •  精神病・精神障害は「異常」な状態ではない。むしろこころの「本質」から発生するものだ……という観点に立って、統合失調症・自閉症・不登校といったこころの「ふしぎ」に迫っていく。

     近年、フロイトの流れをくむ「心」の側からのアプローチをとる精神医学は肩身が狭そうだ。より実証を求める「脳」の側からの精神医学ばかりがクローズアップされている印象を受ける。
     しかし、「ふつうの子」がこんなに「とんでもないこと」をしでかして! というとき、やれゲーム脳が原因だの、環境ホルモンの影響がどうだの言い出すのは、一面的すぎるのではないか。「正常」「異常」という分け方よりも、むしろ人間はそのように不合理なものであって、しかも成長過程にあるのならばなおさらだ、というとらえ方でないと見えないものがあるのではないか。そう説明されると、著者のアプローチは、なるほど魅力的なものに思えてくる。

     とくに「自閉症」をどう理解するかという問題で、このアプローチは生きてくる。人間の精神発達の構造を 1)「認識」の発達 2)「関係」の発達 の2軸に分け、2)が「遅れる」ことが「自閉症」の本質である、と説明していくのだが、これは「自閉症候群」(アスペルガー症候群、高機能自閉症など)を統合して理解するために非常に納得のいくモデルだと感じた。足の速い子もいれば、遅い子もいる。同様に、「関係」の発達にも、早い子・遅い子がいる。自閉症は「病気」ではない、とはよく言われるが、この本で初めて「腑に落ちる」説明をしてもらったと思う。

     この本は、他人の学説をずらーっと並べて紹介するだけの「入門書」ではない。実際に臨床に携わってきた医師が、どのように「こころの本質」を理解しようとしてきたかが見える本になっている。
     たしかに、ただ「病」の原因を探すというだけでは見えてこないものがありそうだ。社会との関係・こころの発達のしくみなどを併せて考えていくことで、初めて得られる理解がある。部分からではない、こころの「全体像」から本質に迫る、非常に興味深い試みなのである。

  • 小浜逸郎氏が主宰する「人間学アカデミー」という講座で、精神科医の著者が人間の「こころ」の本質に迫るべく、特に統合失調症、発達障害(特に自閉症)、不登校に絞って講演した内容を、加筆修正しつつまとめた一冊。

    講演が元なだけに、表現は口語調でわかりやすい。
    だからといって内容が浅いかといえば全くそんなことはなく、それらの病態を非常に平易な言葉で、且つより実態に即した表現で噛み砕いて説明、さらには一般の人々が陥りがちな間違った認識や偏見を正しく導き、また身近にそのような問題を抱えて苦しむ当事者をもつ人々にも寄り添うような、当事者とその周囲の人々への深い愛情すら感じさせる、非常に示唆に富む内容だ。

    精神医学の歴史というかその変遷のなかで、どのように統合失調症や自閉症が受け止められてきたのか、それが今またどのように変わりつつあるのか、社会の中での在り方も考え合わせながら、その病気の本質を読み解いていく。そしてつまりは、それにこそ、人間の「こころ」の本質が隠れているのだ、と。

    たとえば精神医学や心理学系の勉強をしたい人、教職を目指す人、また今実際に教育現場にいる先生方や保護者達、そして家族や周囲に精神疾患に苦しむ人を持つ方たちにはもちろんだが、統合失調症や自閉症について、あまりよく知らない人にも是非読んで欲しい。
    彼らは決していわゆる「健常者」とは切り離された特別な人々ではなく、人間という生体が存在する中で、あくまで個々のばらつきの中のひとり、それぞれの人間の個体差の中に存在するひとりでしかないのだ。
    私たちと連続する繋がりの中のひとりなのだ。

    実は、引用登録しようと、これはと思う箇所に付箋を貼っていったら、10ページと置かずに付箋を貼り付けまくる派目に陥ってしまった。
    それくらい、著者の言葉には説得力があり、こころの病に苦しむ人々への愛情があり、周囲の人々を救うものだ。
    本作を読んで、「救われた」と感じる人は多いはず。

  • 精神医学の大家、滝川一廣先生の本。統合失調症、自閉症、不登校を題材に、「こころ」とは何かについて迫っている。この本の面白いところは、医学的・化学的な視点と生活上の実感を重ね合わせ、異常と切り分けて理解不可能としていた問題について、理解を可能にしてくれるところだと思う。
    自閉症や不登校については、同著者の近年の名著『子どものための精神医学』により詳しく載っている。そのため、個人的には本書で統合失調症について、ここまで理解可能にしてくれた本は他にないと感じた。

  • 統合失調症は、こころの異常な病気ではなく、誰にでも起こりうる、ココロの状態である。

  • 2004年刊。
    著者は大正大学人間福祉学科教授。

     「笑ウせぇるすまん」の喪黒腹蔵ではないが、「こころ」とは不可思議だ。
     全ての人が有しているはずだが、その共通項を括りだすのも不可能に思えるほど。それが明瞭に現れるのが、心の病と健常性との連続性である。

     本書は精神科医でもある著者が、不登校・統合失調症・自閉性障碍を素材にして、病の観点から心の問題を見つめようとする書である。

     あまり纏めようとはしていない本書につき、要約は容易ではないが、心(病を含む)が環境応答の産物であり、環境とそれへの応答は共に多義的かつ個別的であって、それが明敏に見えてくるのが、心の病かどうかの境目が分明ならざる点ということは理解できる。
     とはいえ、本書をみても掴みどころがないなという感慨しか生まれなかったが…。


     もっとも、本書自体も問題がないではない。
     心の病に関し、認知(枠組や特性)が疾病に影響をするということは踏まえているようだが、その認知を生むのは脳の感覚器官から入った情報が起因である点は分析的ではない。捨象しているわけでもないが、殆ど何も語らない。
     人間が受け取る情報とその脳内と対外応答とを捨象する。いわば情報入手に関しマクロ的に見て、殊更考慮因子から除外しているよう。

     そうなると情報受領とその応答のダイナミズム。この動的側面が過少となり、何とも概括的、外形的な、また静的な病因分析だなぁとは思わされた。
     例えば、自閉性障碍において高い不安緊張にあり、また感覚過敏が顕著であるという。
     しかし、どういう感覚過敏なのか、高い不安緊張を生むことと感覚過敏の内実との関係性は?、長期にわたる感覚過敏が認知枠組みに与える影響など、全く言及がない。

     が、ここにメスを入れねば、自閉性障碍児に対する療育方法として注目を集めるTEECHプログラムの如き、環境調整の正しい有り方(例えるなら、眼鏡の度数の合わせ方)を個別具体的、かつ科学的に提示することはできないだろう。
     まぁ未だ測定手段ないのかもしれないが…。抽象化に馴染みにくい。

  • 滝川先生がおっしゃるには、「この本は、一冊で統合失調症、自閉症、不登校の概略を学ぶことのできる内容になっています。」とのこと。確かに、緻密にしてわかりやすい社会認識及び対人関係論をベースとする疾病論は秀逸。

  • 体内の器官を、「臓器」としてみることは、そのものが本来持つ、感覚器としても意味を無くすことになる。それは、西洋医学が、人の身体を、内部と外部に分けて、絶対化したことの副作用だ。人の身体も、自然のモノ、どのように感じ、生きていくにも、存在するということは、西洋がいうような外部との関係性を持つということだ。決してそれは、他人というような遠い存在ではない。もっと身近でいて、もっと優しいものだ。人の心もそういうものだと思う。

  • [ 内容 ]
    マニュアル化された現代の精神医学は「こころ」を身体メカニズムの一種ととらえ、正常と異常の境界線をひいてゆく。
    これに対して本書は、「こころ」の病はけっして「異常」ではなく、人間の「こころ」の本質の、ある現われとして把握する。
    こうした立場から本書は、統合失調症、自閉症、不登校という三つの「ふしぎ」を取り上げ、「個的」でありながら「共同的」でもある「こころ」の本質に迫ってゆく。
    私たちの「こころ」を根本から考え直す上で示唆に富む、人間学的精神医学の試みである。

    [ 目次 ]
    第1章 「精神医学」とはどんな学問か(「人間学的精神病理学」という流れ 人間の原理論から症状論・局在論 ほか)
    第2章 統合失調症というこころの体験(統合失調症のふしぎ 統合失調症の苦しみと三つの可能性 ほか)
    第3章 「精神遅滞」と呼ばれる子どもたち(精神遅滞と自閉症 精神発達とはなにか ほか)
    第4章 自閉症のこころの世界(自閉症の発見と研究のはじまり カナーは自閉症をどうとらえたか ほか)
    第5章 不登校と共同性(学校制度のはじまり わが国の学校の成功 ほか)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 高校時代、校内カウンセラーの先生に薦められて読みました。
    心理学のなかでも、「コミュニケーション」の問題に触れるには、とても良い本だと思います。

     ものごころついたら、知識をもって現実を捉えることができるし、自分の考えていることを、言葉にすることもできる。
     どうしてそれが可能かというと、親や兄弟や、自分に親しい他者に、教わるから。コミュニケーションの発達は、知能の発達につよく関係しているということです。

     自閉症スペクトラムの話とかが出て来ます。心理学に興味があったら、平明な文章なのでわかりやすくて面白い本です。

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著者プロフィール

学習院大学 文学部 心理学科 教授

「2023年 『そだちの科学 40号』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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