思想なんかいらない生活 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
3.48
  • (3)
  • (15)
  • (20)
  • (2)
  • (0)
本棚登録 : 115
感想 : 19
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480061799

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 並いる思想家、批評家、哲学者を名指しで罵倒している本です。

    竹田青嗣、加藤典洋、橋爪大三郎、小浜逸郎の4人については、社会的現実性を手放そうとしないことをそれなりに評価しつつも、なお思想的・哲学的思弁に終始しており、「生活」している「ふつうの人」にとって彼らの「思想」など何の意味もないと著者はいいきります。柄谷行人、蓮實重彦に対してはさらに手厳しく、柄谷を「ぬけ作」呼ばわりし、蓮實の発言をつかまえて「バカ丸出し」と、いいたい放題です。大澤真幸には「言葉の見栄えを気にしているだけ」、福田和也には「やっていることは贅沢なことばかりなのに、佇まいが貧乏くさすぎる」、姜尚中には「食わせ者」、中島義道、永井均、池田晶子といった哲学者たちには勝手にやってろといった調子です。ついでに副島隆彦のトンデモ本にまで批判の刃は及んでいます。こうした「インテリさん」たちの醜態と対比して、E・ホッファーの生き方や、大岡昇平の嫌味のない知的探究心、そしてS・ヴェイユの真摯さが論じられています。

    こう書くと、ただ品のないだけの本のように思われるかもしれませんが、著者の痛快無比な論罵が「芸」になっていてけっこう読ませる文章になっています。もっとも本書は、これまで「思想」とは無縁の「生活」を送ってきたひとに向けて書かれた本ではなく、一度は「思想」の持つ毒気にあてられた読者を対象にした本であることはまちがいありません。人生を豊かにしたり現在の状況を打開するといった役割を本気で「思想」に期待している読者なんているのだろうか、「思想」にこだわっているのはいまや「思想オタク」だけじゃないのか、という疑問もありますが、そんなことよりもなによりも、とにかくおもしろい本でした。そしてもちろん、それで十分であり、それ以外になにかを求める必要などないのでしょう。

  • 評論家を評価する

  • 「知」の脅迫と「知」への強迫。これがひとつのコンプレックスビジネスになっている事は否定できない。本を全く読まずにそういうのとは無縁に楽しく生きている人々は大勢いる。
    人生に意味などないから意味を求める。世界は具象であり、現実・事実を生きるだけ。人生に必要な3つのものはカネ・健康・同伴者。この有無によって絶望と希望(という人生の意味)が決まるとの事だが、全くその通りだと思う。だから、思想はイラナイのか???
    自称「思想くずれ」の著者のルサンチマンに満ちてはいるのだが、高卒程度の学力で理解できない<難しい>思想は確かにイラナイだろう。また、「考える」事は結局はエゴイズムにしかならないというのも頷ける。
    だから、思想はいらないのか?って事はなくて、著者が延々と述べているのも立派な思想である(特に「自分一身の思想」はよくできている)。構成は滅茶苦茶で特に4章は辟易するのだが、書籍全体の問題提起としてはオモシロくて、これもひとつの「思想ビジネス」になっているのかと。そもそも新書ってのが大衆向け思想ビジネスなわけで。

    ちなみに「知」に「やまいだれ」をつけると「痴」
    漢字って良くできてるなあと勉強になりました。

  • 第四章が長すぎて挫折しそうになったが(言い回しにもセンスが感じられなかった)どんでん返しを期待して、最後まで読んだ。結果、あの長い批判が功を奏して、最後の作者の伝えたいことが鮮明になったと思う。

  • 教養と呼ばれるものを少しでも身につけようと、新書などで思想だ哲学だというようなものを読んだりするけど、たしかに分かったような気になって、より深い思慮を得たように感じたり、根拠も無く自分を一段上のレベルに上げられたと思いたかっただけとも思う。
    やたらと難解な語句の連なりに理解が進まず、自分の頭の悪さに辟易したりすることも多々あるが、そんなことで頭を悩ます必要なんてないんだと言われてスッキリする感じがあった。
    ちょっと長かったけど。。
    知的善、無知的善、知的悪、無知的悪の分類とその推移には同感。

  • 大学2,3年生の時に読んで面白かったものを購入して再読。
    今となっては詮無いことだが、哲学なんて世界を知らなければ、
    知っていても私にもう少しの現実生活を楽しもうという気力があれば、
    私の人生はまったく違ったものになっていただろう。

    34
    自分一個を救えるか。それが私にとっての「知」の意味だった。だが、「知」は仕事を救えず、人間関係を救えず、生活を救えない。
    262
    「思想」や「哲学」は、学者先生や評論家にとっての「仕事」にすぎないのではないか。
    263
    たしかに埒もない人名や本の題名や思想語だけならいくらかは覚えた。だが自尊心が妙に浮ついただけで、生活にはほとんどなんの役にも立っていないのである。自分を律することもできない。人間関係を円滑にするにも無益である。斬新なアイデアが出てくる助力にもならない。
    264
    思想などという大層なものは人間を立派にしない。自分を深めない。仕事にも役立たない。愛にも不要である。人生が豊かになるわけでもない。
    ようするに「思想」も「哲学」も一生必要ではない。すくなくとも「ふつう」の人間にとっては全く必要ない。

  • これを純粋に「批判書」だと思って読むと著者の思うつぼだと思いました(笑) 批判書であることは間違いないもののやっぱり元の思想家がどういう人たちであるかをかなり詳細に知っている人でないとおもしろさが全部伝わらないので、結局はかなり知ってる人向けです。
    ただワンパターンな突っ込みが多いと言うレビューが見受けられますが、それは著者の責任というよりもこの本の俎上に乗せられるような思想家がみんな同じ穴のムジナなのだ、と個人的には思います。結局日本の思想界はみな同じようなことをやってる仲良しグループだってところに問題があるわけで、それを群像劇のように書き出しているのがこの本だ、と思います。

  • 個々の知識人批判には内容にばらつきがある。竹田、加藤、橋爪、小浜ら団塊四天王については、著者自身も団塊の世代だからかなかなか読める。ついでに言うと著者も含めこの五人は、吉本隆明の思想を最も誠実に対象化し、それぞれ消化した論客たちでもある


    それ以降はゴシップやら難癖成分が濃いが副島批判は完璧に正しいおまけに批判のしかたがいちいち笑えて大傑作

    著者のメッセージはだいたい六章七章に集約されてるがこの前で挫折する確率も高そうだ。そしてもったいない。思い上がった知的大衆に突き付けたい本だが勢古節の本領は毒舌罵詈雑言だけじゃない。勢古の「挫折したインテリ」感が色濃く出てて他の本よりは内容の真情、誠実さが劣る印象があるが、しかしやっぱり名著だった

  • 蒟蒻問答に自己撞着している知識人批判は痛快だけど、途中でちょっと飽きてきた。ちょっとワンパターンだ。

    自分も若い頃に患ったが、知らない事実が世の中には山のようにあるということに気がついたことから始まる、社会的に共有された知性へのコンプレックスってやつが煮え立つ時期があるのは「わかる」んだよな。そしてそれってある程度本を追いかけて集めて読まなきゃおさまらないものなんだとは思う。

    「ああ、どうでもいい」という気持ちへ落ち着くまでは無駄なお金を沢山使って、無駄な時間もたくさん使って、しかも最後は全部手放すというか、そういう過程が必要なんだろうか。無駄なことしたなぁ、というか。

    また、読みもしない思想本を買って古本屋にたたき売るって……やってることが自分と似すぎてる。その部分は読んでいて、かなりの自己嫌悪に陥ったなぁ。こういうのって誰もが患う「病」なんだろうか。

  • [ 内容 ]
    「思想」というものは、私たちの生活に必要なのだろうか?
    あるいは、思想や哲学が、今のこの状況下の私たちに、果たして有効な何かを示唆してくれるのだろうか?
    本書では、日本の各方面で活躍中の知識人を片っ端から取り上げて、彼らの思考・表現活動が、いったいどれだけの意味をもち、一般読者大衆にどれだけの影響を与えているのかを考え、「ふつうに暮らすふつうの人びと」の立場から「思想・哲学」を問いなおす。

    [ 目次 ]
    第1章 知識人にご用心
    第2章 「ふつうの人」、インテリに叱られる
    第3章 いったいなんのための思想か
    第4章 インテリさんがゆく
    第5章 本は恥ずかしい
    第6章 勝手に「大衆」と呼ばれて
    第7章 思想なんかいらない生活

    [ POP ]


    [ おすすめ度 ]

    ☆☆☆☆☆☆☆ おすすめ度
    ☆☆☆☆☆☆☆ 文章
    ☆☆☆☆☆☆☆ ストーリー
    ☆☆☆☆☆☆☆ メッセージ性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 冒険性
    ☆☆☆☆☆☆☆ 読後の個人的な満足度
    共感度(空振り三振・一部・参った!)
    読書の速度(時間がかかった・普通・一気に読んだ)

    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

全19件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1947年大分県生まれ。明治大学政治経済学部卒業。洋書輸入会社に入社したが2006年に退社、執筆活動に専念。「ふつうの人」の立場から「自分」が生きていくことの意味を問いつづけ、『まれに見るバカ』(洋泉社・新書y)で話題に。その後も『アマチュア論。』(ミシマ社)、『会社員の父から息子へ』(ちくま新書)、『定年後のリアル』(草思社文庫)など著書多数。

「2017年 『ウソつきの国』 で使われていた紹介文から引用しています。」

勢古浩爾の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
ヴィクトール・E...
パオロ・マッツァ...
フランツ・カフカ
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×