恋愛結婚は何をもたらしたか (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
3.37
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本棚登録 : 194
感想 : 28
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480061874

作品紹介・あらすじ

夫婦別姓論議や少子化、不倫、熟年離婚など「結婚=家族」という主題が、ここ十数年メディアを賑わしてきた。だが、こうした話題の前提として、「一夫一婦制」自体が論議されることがなかったのはなぜか?そもそも明治期に唱導された一夫一婦制は、単なる精神論や道徳談義ではなく、「総体日本人」の、改良という国家戦略と共存していた。本書では、一夫一婦制と恋愛結婚をめぐる言説が、優生学という危険な部分と表裏一体であったことを検証し、恋愛・結婚・家族という制度の「近代性」の複雑さを明らかにする。

感想・レビュー・書評

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  •  本書は明治期に西欧諸国から輸入したLove=恋愛の概念がどのように国家体制と関係したかに触れ、優生学と恋愛結婚がどのような流れで結びついていったかを紐解いた論説書である。
     時代ごとの論客・活動家の言説(あるいはそれを研究した専門書)を参照しながらその変遷に触れ、丁寧に論説している様には唸る他なかった。その慎重で丁寧な研究・論述には頭が下がる。
     すでに述べたように、この書の中では引用している多くの研究が紹介されている。ジェンダーに関係する結婚の問題についての入り口には適した一冊だろう。
     語り口の柔らかさも、学術書の硬い文体を敬遠してしまう層には大変助かるものである。新書として適している文体だ。

     ふとした拍子に借りた本だったが、非常に面白い本だった。良い読書をさせていただいた。
     星五つで評価したい。この方の著作はもう少し色々読んでみたい。

  • とてもいい本だった。
    陳腐な表題とは裏腹に、明治から戦前と戦後すぐまでの恋愛、母性という単語がもつ概念がどのようなものかを考察していくという構成。
    明治以降一般的に使われてきたその単語に、主観ではなく体制側から押し付けられた幸福概念、そして全体主義、差別思想に結びついたイデオロギーがまとわりついていることを論証する。
    そして何より面白いのが、考察の端々で今日の社会状況と照らし合わせながら鋭い社会批判を行うところである。著者の面目躍如といったところか。
    誰でもわかるような平易な理論構成の中に何度も光る、我々の社会に潜むイデオロギーにたいする視線にはっとされられる。そういうものに対するアンテナが高い人にこそ読んでもらいたい一冊である。

  • 福沢諭吉にはじまり、近代思想を紐解きながら、日本人の結婚観を追跡した一冊。2004年に書かれた少し古い作品であるが、2011年現在こんなにも女子の婚活・男子の草食化の時代を筆者はどう見ているか知りたい、と思わせるくらい丁寧に研究してある。家の存続のための結婚から、優性学的見地での結婚観があり、現在の恋愛結婚の姿に至るまでの過程を、思想家や、文豪などの、雑誌寄稿などから時代の空気の変化を追跡している。面白い。

  • 38238

  • 明治期以降の「恋愛結婚」をめぐる言説をたどり、とくにそれが優生学と結びついて人びとの意識のなかに入り込んでいったことを明らかにするとともに、そうした思想がいまなおわれわれの恋愛と結婚についての考えのなかにも受け継がれてしまっているのではないかという問題を提起している本です。

    性や愛に関する言説の歴史をていねいにたどっており、興味深く読むことができました。その一方で、本書の議論がこんにちのわれわれに対して投げかけている問題に対して、いったいどのように向きあっていけばよいのかということについて、もう少し踏み込んだ議論が欲しかったようにも思います。たとえば独自の「生命学」を提唱している森岡正博は『生命学に何ができるか―脳死・フェミニズム・優生思想』(勁草書房)や『感じない男』(ちくま新書)などで、性や愛をめぐるフェミニズムからの問題提起を、みずからの感受性を問いなおすことを迫る、鋭い痛みを伴う問いかけとして受け止めたうえで、そこから手探りで問題を掘り下げようと試みています。ただ、森岡の方法はいささか無手勝流のきらいがあるので、著者のように近代以降の日本社会について幅広い知識をもっている論者が、ここで提起されているような問題をあらためて一人ひとりがみずからの問いとして引き受けていくためには何が必要なのかということを、積極的に語ってほしいように思いました。

  • 優生学の歴史を勉強するには良いと思いますが、タイトルの恋愛結婚についてはあんまり触れられていません。僕はその恋愛結婚の歴史を知りたかったのに、そこが載ってなくて残念でした。
    しかし、明治以来の優生学の政府方針は恐ろしいものですね。全体主義の合理性は分かりますが、だからと言って奇形児や障害者を排除しようとするのは反対だし、それを推し進めるのも問題だと思います。確かに、生まれてくる子には障害なく元気に育ってほしいと願うのが親ですが、先ず子供を作るか作らないかを選択するのを政府に決められたくはないですし、また仮に障害を持って生まれたとしても、そこは政府がサポートして国家全体の取り組みとして支援していくべきだと思います。命のバトンを繋いでいくことは尊い事ですし、それを損得で考えるのは命の軽く見ていると感じます。
    明治から続く優生学の論争ですが、現在の医療科学の進展が早すぎて、法律が追い付いていません。遺伝子操作によって優秀な人材を作ることができるのは時間の問題だし、精子バンクや凍結卵子も実用化されていますから、そろそろ日本のスタンスを決めなくてはなりません。
    『俺は優秀な遺伝子から生まれたんだ、お前たちのような凡人ではないんだぞ』、『僕は平凡な遺伝子から生まれたから不遇な人生なんだ、僕の人生が惨めなのは遺伝子のせいだ』のような、副次的な根本問題も浮上してきそうです。まぁ全ては遺伝子によって決まるわけではありませんが、今まで以上に『生まれた時点でスタートラインが違う』事から来る不平等問題も看過できません。こういった議論は、政府は真摯に取り組んでいるのでしょうか……。
    優生学はこれくらいにして。
    恋愛結婚の行方というタイトル、前時代の『家柄の結婚』『お見合い結婚』は、殆ど相手の事が分からない状態からの結婚生活なので離婚率が高いのは仕方ないことでしょう。ただ、男尊女卑の風習がどれくらいあったのかによって、離婚率が変わってきたのではないかと思います。江戸以降の地域別で離婚率の統計があれば面白そうです。
    現代に話を戻して、 今の恋愛は、『好きになる→交際する→結婚する』という流れですが、昔は『結婚する→(出来れば)好きになる』という流れで、いわば逆方向によって結婚が成り立っています。現代は、『えっ、結婚したの!?おめでとう!』という会話には、当人同士の『好き合っている』が暗黙の了解になっていて、昔のように、『結婚してから好きになっていく(なっていこうとする)』事が出来ないのかも知れません。言わば感情のコントロールが不器用になっているんじゃないかと。
    僕の評価はA-にします。

  • 「恋愛」結婚の歴史を紐解きつつ、そこに現れる優生学的思想について、戦前の話をまとめた本。
    望ましい結婚とは、幸せな家庭とは、そこに国家や科学や、当時の常識、思想がいかに反映されてきたか。平塚雷鳥と与謝野晶子の話なんかは、平塚雷鳥の知らなかった一面を見た。

    今日の僕たちの暮らし、考え方の根本と思っていたものがほんの数十年前の明治近代にその萌芽があったに過ぎない事実を思い起こさせるとともに、となると、自分の価値観とかの危うさ、脆さみたいなものを改めて感じる。

  • 明治から昭和の結婚に対する国、世間の意識を少し知ることができた。善良な子孫を残そうととなえられた優生学、産めよ増やせよの戦争時代、そして少子高齢化による年金問題のために子供を求められる現在。
    著者は、国や世間がどうであれ、そういったことに流される必要はないと伝えたかったのだろうと感じた。

  • 恋愛結婚とは何か

    結婚の定義と、結婚観についての日本の歴史を通して恋愛結婚とは何かを学べる本でした。

    しかし、私が唯一汲み取ったのは、恋愛は無駄な事をする為の物である。

    その1点でした。。。
    なんかすみません。。。。

  • 明治~昭和初期の恋愛結婚の台頭に影響をもたらした事件や思想家を追っている本。
    歴史的背景も重要だが、現代の恋愛についての著者の考察が読みたかった。

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著者プロフィール

明治学院大学教授

「2017年 『はじめてのジェンダー論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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