靖国問題 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 884
レビュー : 120
  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480062321

作品紹介・あらすじ

二十一世紀の今も、なお「問題」であり続ける「靖国」。「A級戦犯合祀」「政教分離」「首相参拝」などの諸点については、いまも多くの意見が対立し、その議論は、多くの激しい「思い」を引き起こす。だが、その「思い」に共感するだけでは、あるいは「政治的決着」を図るだけでは、なんの解決にもならないだろう。本書では、靖国を具体的な歴史の場に置き直しながら、それが「国家」の装置としてどのような機能と役割を担ってきたのかを明らかにし、犀利な哲学的論理で解決の地平を示す。決定的論考。

感想・レビュー・書評

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  •  まず、本書を読むまで勘違いをしていたことが一つある。いや、正確には勘違いというより、忘れてしまっていたという感じなのだけど。それは、靖国神社は決して「悲劇のヒロイン」なんかではないということだ。つまり、日本くんと中国くんが靖国神社ちゃんをめぐって小競り合いをしている、というだけではなく、靖国神社ちゃん自身もかなりの食わせ者だということだ。靖国神社ちゃんだって、自分の思想を持っている。さしずめ、靖国神社ちゃんは『機動戦士Vガンダム』のヒロイン「カテジナ」のようなポジションである。靖国神社ちゃんが日本くんと中国くんを無駄に小競り合いさせているという面もある。このことが本書を読むまで、すっぽり頭から抜けていた。

     さて、そのことを教えてくれた本書には感謝をしているし、それ以外にも「なるほど」ポイントが本書に多くあることは認める。だが、本書はときどき何を言っているかわからなくなる。全体を通して、現行の「靖国」に批判的であるというスタンスにブレはないにしても、さらに小さな視点での立場がわかりづらいことがあった。また、論に若干の強引さもあり、手放しに本書の内容を信じるというわけにはいかないように感じる。
     とはいえ、本書のように明らかな感じで「靖国」に対する立場を表明し、意見を述べる本は貴重なものだ。本書「あとがき」にもあるように、この本をきっかけとして、多くの人が「靖国」について自分の意見を持てるようになればいいと、素直にそう思う。


    【目次】
    はじめに
    第一章 感情の問題―追悼と顕彰のあいだ
    第二章 歴史認識の問題―戦争責任論の向うへ
    第三章 宗教の問題―神社非宗教の陥穽
    第四章 文化の問題―死者と生者のポリティクス
    第五章 国立追悼施設の問題―問われるべきは何か
    おわりに
    あとがき

  • イデオロギー以前のそもそも論。

  • 靖国神社について、素朴な疑問を抱いていた。

    (1)靖国神社とは何か?
    (2)「A級戦犯」とはいえ、既に死刑が執行されている。なぜ中国等は問題視するのか?
    (3)公式参拝に違憲判決が出ているのに、なぜ小泉氏に何らのペナルティーもないのか?
    (4)内外の圧力に対して、小泉氏はなぜああも頑ななのか?
    (5)つまるところ、靖国神社は是なのか非なのか?

    そこで、この本を手に取ってみた。

    「感情の問題」「歴史認識の問題」「宗教の問題」「文化の問題」「国立追悼施設の問題」と章を区切り、それぞれの切り口から問題の所在を明らかにしていく。

    著者は哲学者なんだそうだが、それだけに筆致は論理的であり、公平に思える。そして「素朴な疑問」への答えもおおむね書いてあるように思った。
    ごくごくかいつまむと、以下のような感じ。
    (必ずしも本にこう書いてあるというわけではなく、私がこう理解したということ)

    (1)への答え…国民を喜んで死地に赴かせるために作られた顕彰装置である。
    (2)への答え…刑を全うしていない者も合祀されている。それより以前に「A級戦犯」を問題視するのは、むしろ問題を矮小化して解決を図ろうとする中国指導層の戦略である;「A級戦犯」だけではなく、「靖国の存在」自体が真の問題である。
    (3)への答え…直接合憲か違憲かを問う裁判は起こせない…らしい(起こされた裁判はいずれも「公的参拝」によって原告の利益や権利を侵害されたかどうかについての争い)。その中で「違憲」判断を示したのは2004年4月の福岡地裁判決があり、係争中が6件あるが、少なくとも「合憲」とした判決は現在までにひとつもない。ちなみに7月26日にも大阪高裁で同様裁判の判決があったが、憲法判断には踏み込まなかった。
    (4)への答え…は、明確ではない。てゆーか、小泉氏の胸の中を推し量るしかない。没論理の説明しかしていないのは確か。
    (5)への答え…戦争を非とするならば、靖国も非だ。興味深かったのは、歴史認識を明確にしないまま「国立追悼施設」を作っても第二の靖国となるだけだという指摘。

    非常に「面白い」本だった。

  • 【要約】


    【ノート】
    ・「グーグル・アマゾン化する社会」の関連本宣伝で

  • "靖国神社への参拝は、なぜ問題となるのかを整理する目的で本書を手にする。この本は、歴史家ではなく哲学者が論理的に伝えることに重きをおいたもの。
    1.感情の問題
     当時、戦死による悲哀を幸福に転化していく装置が靖国神社だった。
     戦死者の追悼ではなく、顕彰こそが本質的な役割。
     (追悼とは、死者を偲び悼み悲しむこと。
      顕彰とは、功績などを世間に知らせ表彰すること)
    2.歴史認識の問題
     A級戦犯の分祀が実現したとしても、政治決着にしかならない。靖国神社への歴史認識は戦争責任を超えて植民地主義の問題として捉えるべき
    3.宗教の問題
    4.文化の問題
    5.国立追悼施設の問題

    歴史を再び学びたくなった。山田風太郎の戦中日記など後に読むきっかけになった。"

  • 読んでおいて損はない

  • 靖国問題について、①遺族感情 ②戦争責任 ③宗教性 ④文化 ⑤追悼施設 という観点からわかりやすく説明されている。
    今までは、靖国神社を、国のために戦ってくれた人への感謝を表する場だと考えていたのだけれども、それ自体に政治的な問題があるのだとわかりはっとさせられた。追悼施設ではなく、顕彰施設。人々の悲しみを喜びへと変えてしまったこと。個々人が靖国に賛成するか否かという問題ではなく、この神社はいまだに天皇主義が色濃く残った場なのだ。それをよすがとする者もいれば拒否反応を示す者がいるのも納得できる。
    戦後処理がもともと曖昧に終わってきた日本では、この問題が収束することはないのだろう。しかし、多くの政治的問題を孕むことは明らかに理解することができた。
    公式参拝を正当化するのは無理だ。

    靖国神社は政治性がありすぎて、純粋に平和を願って参拝するのにはなんだが気後れしてしまう。
    第二の靖国とならない、追悼施設をつくってほしい。でも無理なんだろうな。

  • 個人的にもやもや感の残る靖国神社に関し、①感情面(遺族及び戦争被害者)、②戦争責任、③宗教・憲法問題、④文化・伝統から論じ、靖国神社以外の国立追悼施設の是非・問題点を解説。③は公式参拝が政教分離に反するのは当然。靖国の宗教性の剥奪は非神社化を意味し容認しないだろう。が、③だけでは分祀訴訟には対応困難(靖国と分祀希望者の信教の自由が交錯、私人間効)。靖国は追悼ではなく顕彰目的施設。国家が戦死の顕彰を遂行する場合は、戦死の賛美に加え、国家による死の強制・命令への道を開くとする点は成程の感。戦前の靖国がそれ。
    文化・伝統面での靖国の正当性は、史的事実を証明できるはずがないし、賛否何れもが自己に有利な事象を証拠として利用するだけだと思っていたが、やはりそのようだ。ただ、靖国以外の国立顕彰施設への否定的見解は難しい。自衛官や軍人はともかく、消防士や警察官の殉職には、何らかの顕彰は要るはず。また、救難活動中(例えば地震)の自衛官、津波接近を最後まで報じ続けた公務員が事故死した場合は? もう少し考えたいが、本書が参考になるのは間違いない。
    他国との比較にもう少し頁を割いてほしかったところ。また、旧植民地出身者の戦死者が靖国に祀られている点につき「『英霊』という名の捕囚」と称するのは、上手いフレーズである。

  •  哲学者が靖国問題とは何か、どうすべきか考える。

     靖国神社がどんな人が祀られ、どんな人が祀られないのか、誰に向けて何をしているところなのか、などを丁寧に説明していき、靖国神社とは何かを明らかにしていく。問題が何なのかが非常に分かりやすく感じられた。
     靖国神社はあの当時の日本という国の体制を前提とした機関だから、あの当時の日本がなくなった今、そこだけ宙に浮いているようなものなのだと思った。

  • 靖国自体についての知識を提供するというより、本のタイトルどおり「靖国問題」についての意見表明がこの本の目的のように思えた。靖国神社をどうのこうのという前に事の本質を見極めよということのようだ。つまり大東亜戦争へのオフィシャルな解決ができていないことを認識する必要があるということだろう。そういう意見自体には全く異論はない。ただ書かれている主張はまともではあるが既知のものであり、いまさらそういった主張を求めてこの本をてにとったのでもない気がした。

    そうはいっても冒頭の靖国神社の持つ感情転換機能についての考察はなるほどと思った。
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    靖国神社は、大日本帝国の軍国主義の支柱であった。確かにそうなのだが、この問題のポイントの一つは、靖国信仰がかつての日本人を「軍国主義者」にしたかどうかというレベルにおいてだけではなく、より深層において、当時の日本人の<b>生と死そのものの意味を吸収し尽くす機能を持っていた点にあるのではないか</b>、と私は思う。
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    <b>戦争のおぞましいもの、悲惨なもの、腐ったものすべてが一切拭い去られ、土着的な「懐かしさ」をともなった独特の「崇高」(サブライム)のイメージが作り出されているのである。</b>
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著者プロフィール

東京大学大学院教授

「2019年 『増補改訂版 無意識の植民地主義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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