「かわいい」論 (ちくま新書 578)

著者 :
  • 筑摩書房
3.30
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本棚登録 : 886
感想 : 107
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480062819

作品紹介・あらすじ

世界に冠たる「かわいい」大国ニッポン。キティちゃん、ポケモン、セーラームーンなどなど、日本製のキャラクター商品が世界中を席巻している。その市場規模は二兆円ともいわれ、消費社会の文化商品として大きな意味を担うようになった。では、なぜ、日本の「かわいい」は、これほどまでに眩しげな光を放つのか?本書は、「かわいい」を21世紀の美学として位置づけ、その構造を通時的かつ共時的に分析する、はじめての試みである。

感想・レビュー・書評

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  • 時代のせいなのかもだけど女性の視点における「かわいい」研究に思えた。大学生のアンケートのところの性差から一歩踏み込んで欲しい!と思ってしまった。

    最後の章の

    「『かわいい』という言葉のもとに現実から離反された同語反復のまどろみの中で次第に輪郭を失っていく」っていう記述は、完全に今を言い当ててなあって思った。

  • 2006年発行の本とは思えないほどの現代に通じる内容に思えた。「かわいい」というものへの深堀というよりも、文化的な観点での「かわいい」であった。筆者の思想に、文化に優劣や貴賤が無いというものが感じられその辺が好印象であった。
    他の感想に、「卒論のような印象」とあったが言い得て妙だと思った。確かに、出典やアンケートなどがしっかりしていた。特に面白かった視点として、女性男性以外の層としてゲイやレズがあったのが面白かった。普通に生きててデータが集まりにくい要素なので最も読んだ甲斐のあるポイントだった。

  • 漠然とした「かわいい」という感情に補助線が引かれるような本。

  • ♠太宰の「女生徒」や枕草子でみられる「かわいい」、海外での「かわいい」、「かわいい」と、グロテスクやちいさいものの関係、かわいいの対義語やナチスの収容所で見られたかわいい壁画など色々な題材をもとにしていてそれは面白いと思った。ただ抽象的なことが多くて結論どういうことを述べているのかがあまり分からなかった。理解力不足かな…
    ♠発売が2006年と少し前なので今の「かわいい」はもまた違うのかなと思った。現在も研究をしているのだとしたら少し気になる。

  • 2015.11記。

    「かわいい」とはそもそもなんなのか。

    古代ギリシアが「調和・均衡」を最も尊び、また西欧でも「成熟」こそ優れたものと捉えていたこととの対比において、古くは枕草子に「かわいいもの。スズメがちゅんちゅんと寄ってくるところ」とあるように、小さく、かよわい、といったものに対する愛着は日本人の感性に深く根ざしている。

    しかし議論がより迫力を増すのは、「きれい、美しい」よりも実は「グロテスク」のほうがより「かわいい」に隣接した概念である、といった辺りから。グロテスクさを直視しない社会的な装置、イデオロギーとしての「かわいい」の可能性が検討される(いびつなものを「かわいい」と呼ぶなど)。

    日本における「かわいい」があまりにも多義的であるために、ジェンダー論からノスタルジア論まで、章ごとの「かわいい」の諸相のリンケージはあいまいであり、中核的な概念には辿り着かない。その終着駅が「かわいい、海を渡る」の章。著者が告白しているとおり、結局「日本独自の感覚としての『かわいい』が、世界に受け入れられた」のか「世界に普遍の概念としての『かわいい』を、日本がうまく商品化した」のか、という私が一番関心のあった点については解決できていない。

    四方田氏ほどの碩学にして「とらえどころのない何物か」(P.21)と総括せざるを得ない代物、それが「かわいい」、であった。というわけで要関心継続。

  • いわゆるオタク文化の紹介ではなく、もう少し広い意味での文化現象としての「かわいい」現象の実態に、文化人類学的な観点からメスを入れる試みです。歴史的な考察や、学生たちへのアンケート、秋葉原などへのフィールド・ワークなどが含まれています。

    本書の中で、「かわいい」という言葉についてフェミニストの上野千鶴子が放った批判が紹介されています。上野は、「かわいい」とは「女が生存戦略のために、ずっと採用してきた」媚態だといい、「かわいい」にまつわる言説が、女性を旧来の依存的存在に押しとどめておくためのイデオロギー的な役割を果たしていることを批判しています。

    一方著者は、現在の「かわいい」現象を、フランスの批評家ロラン・バルトの「神話作用」として理解することを試みていると本書で述べています。「神話」とは誤認であり、不自然なものに自然の衣装を被せる意味論的体系を意味しており、うした観点に立つとき、上野のようにイデオロギー的な欺瞞を暴露するという戦術は効をなさないとされます。「かわいい」という「神話」が受け容れられるに際して、その受け手のほうからの積極的な働きかけが必要だと著者はいいます。この複雑な共犯関係に肉薄することが、本書の目標といってよいでしょう。

    さらにエピローグでは、アウシュヴィッツの収容所内の壁に描かれたかわいい猫の絵を見たときのことが記されています。「かわいい」は歴史を無効にし、その享受者を永遠の多幸症というべき状態にいざなうと著者は考えます。このことは、「かわいい」という「神話」のヴェールを一枚取り除けば、そこには大量虐殺というおぞましい事態が存在しているということを知っておかなければならないということを、印象的に示しています。

    かなり深いレヴェルに考察が及んでいるのですが、具体的な事例紹介とあまりうまく噛みあっておらず、議論が空転しているような印象もあります。

  • 面白かった。特に大学生のアンケート結果が興味深かった。女子と男子とではもちろん違うだろうと予想はしていたが、斜め上の発想や個性的な回答が多くて楽しかったし、そこはかとない時代感を感じた。記載されていた女子の回答の、イラスト付の回答がノスタルジック。

    「かわいい」ものが好きでかわいいものを見たり聞いたり身の回りに存在を感じたりするのが好きだ。でもどことなく危うさも感じていた。しかしその感覚に取っ付かず流してきたが、この本を読んで改めて「かわいい」とそれを作り上げたり求めたり、享受する人間の心理的な面白さ、みたいなものを感じた。
    深く一つを追求するのでなく、広くそこそこ深く「かわいい」を論じている取っ付きやすさが好きだった。

    ぼんやりと、今は「かわいい」じゃなくてより広範囲の意味になる「いいね」なんじゃないかと思ったりした。

  • 2023年度【国際学部】入学前知トラ「課題図書」推薦作品

    OPAC(附属図書館蔵書検索)リンク
    https://opac.lib.hiroshima-cu.ac.jp/opac/volume/277402?locale=ja&target=l

  • 古典タイトルを引きながらもその内容が象徴する概念に関する解説を欠く分かりにくい衒学的例示が数多くあり、無学者の私には本論の筋をよどみなく読み進める意味で滞りを感じる文章であった。

    「かわいい」は対象を人畜無害の領域へと置き、それを愛でる対象とすることを通してある種の夢想的ユートピアを築き上げる。

    そのような「かわいい」の概念は未完であることを悪とせず自己決定を避ける日本人の気質の反映ともいうべきもので、ここには西洋の進歩主義的思想との相反がある。

    自由資本主義は進歩主義を内包するものであり、日本人はこの自国文化の明文化なしには泥沼から脱することは出来ないのかもしれないなどと思索した。

  • 後世の研究者からしたら、アンガールズは注釈付き芸人になるんだな

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著者プロフィール

四方田 犬彦(よもた・いぬひこ):1953年生れ。批評家・エッセイスト・詩人。著作に『見ることの塩』(河出文庫)、翻訳に『パゾリーニ詩集』(みすず書房)がある。

「2024年 『パレスチナ詩集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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