- Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480063533
作品紹介・あらすじ
明治維新は尊王攘夷と佐幕開国の対立が一転して尊王開国になり、大政奉還の後に王政復古と討幕がやってくるという、激しく揺れ動いた革命だった。そのために維新が成就した後、大久保利通の殖産興業による富国、西郷隆盛の強兵を用いた外征、木戸孝允の憲法政治への移行、板垣退助の民撰議院の設立の四つの目標がせめぎあい、極度に不安定な国家運営を迫られることになった。様々な史料を新しい視点で読みとき、「武士の革命」の意外な実像を描き出す。
感想・レビュー・書評
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「武士のデモクラシー」として明治維新を描く。歴史叙述というよりは概念的フレームワークを用いて解釈していくという社会科学的アプローチであり、スッキリしていてわかりやすさという点においては評価できるし、好みでもある。他方、「維新四傑」がこんなにスッキリと科学的にカテゴライズされてしまう事に違和感もある。
題名は新書なのでキャッチーにしたのかもしれないし(あとがきには編集者がつけたとある)、少々気負いすぎのようにも思えるし、そもそも内容がイメージしにくくわかりにくいし、内容にも合致していないように思えるが。 -
維新以降、殖産興業(大久保利通)・外征(西郷隆盛)・憲法制定(木戸孝允)・議会設立(板垣退助)と、列強に伍するべく、それぞれが対立・協力してきた歩みを詳説します。やがて「革命派武士」から「文武の官僚」の時代に主体が代わります。筆者は1880年を明治維新の終焉とします。国家が貧しいなか、よくぞ達成した!陸奥宗光の言葉に感動しますね。日本は明治以降戦前まで、常にデモクラシーを希求し、理論的にも実践的にも高みにあったという“あとがき”は、全く同感です。だからこそ切なく、そこに歴史を学ぶ意味があるのでしょう。
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大久保利通=産業殖産による「富国」、西郷隆盛=外征のための「強兵」
、木戸孝允=国民統治の「憲法」、板垣退助=自由民権の「議会」と、維新の立役者たちが目指した政治的方向性は微妙に異なっており、タイミング毎に離合集散を繰り返して日本の国づくりが進められていった。
「富国強兵」とは一緒くたにされることが多いが、方向性としては富国=内治であり、強兵=侵略であるため、実は対立構図にある。指導者であった大久保と西郷は薩摩での盟友であったために、2人の間でこの対立が表面化することはなかったが、新政府の官僚機構と幕藩体制の旧秩序における士族階級による西南戦争をもたらした。
明治10年までの台湾出兵や西南戦争による戦費負担は新政府に重くのしかかり、結果としてしばらく内治に専念せざるを得ない状況となる。ところが富国派の指導者であった大久保は暗殺され、維新の元勲である薩摩の2人がいなくなったために「富国強兵」路線は頓挫する。
近代国家成立のための憲法制定を目指していた木戸ら旧長州閥と、市民平等な国民議会による上下院の設置を目指していた板垣ら旧土佐閥は、薩摩閥を中心とした「富国強兵」路線に対抗するために当初は共闘していた。
大久保・西郷亡き後に立憲派と議会派は勢いづくも、ドイツ流とイギリス流で対立するようになる。皇帝=天皇の権限を強く設定したドイツ流立憲君主制を主張する木戸と、上下院議会によって民主化された政治体制を目指すイギリス流の板垣の意見は、木戸の病死と板垣の下野によって痛み分けとなる。
これら緊縮財政下において起こったインフレによって、地方の農村地主が力を持つようになる。これら民間の有力者が国債を買い支えることで新政府の財政規律は持ち直すようになる。また、当初は上院=華族(旧藩主)、下院=士族(旧藩士)と構想されていた政治体制は、これら力を持った有力者たちにも開かれるようになり、民選での議会制民主主義が実現していった。
大久保、西郷、木戸、板垣という維新の元勲たちの夢は半ばで潰えるも、明治中期には日清戦争に勝つまでに富国強兵は実現し、大日本帝国憲法は制定され、議会制民主主義による国内統治が進んでいったのであった。 -
明治維新を掲げた勇士たちはそれぞれどのような理想を掲げたのか。富国、強兵、議会、世論など江戸時代末期から明治時代中盤までにそれぞれの理想が盛り上がっては沈む時代が分かりやすく整理される。日本が迎えた近代化の裏にこのようなやりとりがあったことを忘れてはならない。
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普段から「明治維新」というのはわかりにくいと思っていた。
「尊王攘夷」で政権を奪取した政治勢力が、すぐに「開国」をしたり、「征韓論」に反対した勢力が反対派を政権から追い落としたあとに「台湾出兵」を行うなど、歴史上の出来事は分かっていても、なぜそのようなことになったのかの「政治路線」と「現実政治」の関係がどうもよくわからない。
本書は、明治初期の政治勢力を「大久保利通(殖産興業)」「西郷隆盛(外征)」「板垣退助(議会設立)」「木戸孝允(憲法制定)」と分類し考察している。なるほど、このように解釈すれば当時の状況はある程度わかる。
しかし、同時にちょっと議論が荒いようにも思えた。本書で扱っている時代は明治初期の激動期であり、登場人物も歴史上大きく取り上げられた人々である。多くの登場人物が活躍するこの時代全般を一冊の新書で扱うにはちょっと無理があるようにも思えた。
本書の視点が正しいのかどうなのかは、上記それぞれの登場人物のそれぞれの活動内容を本書の視点から詳細に検討すべきなのだろう。
しかし、「明治維新」という日本の生い立ちを本書のように考察することは実に興味深く面白い。 -
1864年の勝海舟・西郷隆盛会談を始点とし、1880年の地租米納議論を終点とする幕末維新期政治構想小史。「富国(殖産興業)」「強兵(外征)」「立憲制」「議会制」の4つの構想をめぐる抗争と挫折を描く。先行研究を比較的軽視していること、伝記史料を多用していることが特色。個別の論点・論証には疑問あり。特に1880年を終点としているため、翌年の「明治14年政変」への見通しを全く欠いているのは問題である(本書では大久保利通や大隈重信ら「富国」派は立憲制導入に消極・批判的であったと評されるが、その「富国」派の大隈がなぜ立憲論で急進化して政変を引き起こしたのか不明)。
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維新三傑没後の旧大久保派を大隈・黒田・五代、旧木戸派を伊藤・井上・山縣他で分けるのは無理あるんじゃないのだろうか?
木戸派が木戸没後に繁栄した、とか。
この分類だと大隈の政敵として伊藤を掲げてるのは大久保の政敵としてるようにすら読めるし。
大久保の後継者は大隈でなく伊藤だと思ってたのだけれど…。 -
[ 内容 ]
明治維新は尊王攘夷と佐幕開国の対立が一転して尊王開国になり、大政奉還の後に王政復古と討幕がやってくるという、激しく揺れ動いた革命だった。
そのために維新が成就した後、大久保利通の殖産興業による富国、西郷隆盛の強兵を用いた外征、木戸孝允の憲法政治への移行、板垣退助の民撰議院の設立の四つの目標がせめぎあい、極度に不安定な国家運営を迫られることになった。
様々な史料を新しい視点で読みとき、「武士の革命」の意外な実像を描き出す。
[ 目次 ]
第1章 明治維新の基本構想
第2章 幕府か薩長か
第3章 大蔵官僚の誕生
第4章 三つの「官軍」と「征韓論」
第5章 木戸孝允と板垣退助の対立
第6章 大久保利通の「富国」路線
第7章 「維新の三傑」の死
第8章 立憲派の後退
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