ルポ 最底辺―不安定就労と野宿 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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レビュー : 38
  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480063779

作品紹介・あらすじ

野宿者(=ホームレス)問題が深刻化している。失業した中高年、二十代の若者、夫の暴力に脅かされる母子。いま、帰る場所を失った多くの人びとが路上生活に追い込まれている。他方では、多くの若者がフリーターや派遣社員として働いている。その数およそ400万人。遠くない将来、彼らも「若者」ではなくなる。そのとき、社会はどうなるのか…。大阪・釜ヶ崎で野宿者支援活動に20年間携わってきた著者が、野宿者とフリーターの問題を同じ位相でとらえ、日本社会の最底辺で人びとが直面している現実を報告する。「究極の貧困」を問うルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • あいりん地区や釜ヶ崎という地名を聞いても、遠くに住む人にはあまりピンと来ず馴染みがない。そうした場所がどんな様子かは、ニュースや本を通じて想像するものの、実態はどうなのだろうか。

    本著はホームレスの実態を取り上げたルポだが、著者自らホームレス体験をした上で、ホームレスに好意的な立場から書かれている。これらの人に対し、自己責任論を押し付けるのは間違っていて、これは椅子取りゲームの結果としての構造的問題だろうと。

    しかし、個人の感想として、やはり自己責任論は拭えない。ホームレスの状態を、誰にでも起こりうる仕方ないものと100パーセント言い切るのはおかしな論理で、それが正しいならば、窃盗なども、構造的に仕方ない事象となるだろうし、ホームレス虐待も仕方ないとなる。自ら選択し歩んだ結果がホームレスならば、やはり個人に責任はある。勿論そこに不運な事情もあるだろうから、再起のためのセーフティネットは仕方ないが。

    ただ、ホームレスに肯定的な価値観、視点を感じてみるには良い一冊である。そうでもしないと、中々、彼らを肯定的に見るのは難しいものだから。

  •  大阪・釜ヶ崎を中心に、日雇い労働運動と野宿者支援活動を20年来つづけてきた著者による、「究極の貧困問題」――野宿者(ホームレス)問題のルポルタージュ。
     通りいっぺんの取材ではなく、問題の最前線に長年身を置いて書かれたものだけに、重みと深みがすごい。著者は、自らも日雇い肉体労働で生計を立てながら野宿者支援をつづけてきたのだ。

     ネットカフェ難民や若年層ワーキングプアについても少し言及があるが、中心となるのは高齢の野宿者の素顔である。

     衝撃的な内容で、打ちのめされた。著者の筆致にサヨ臭はなく、むしろ文学的香気すら漂う。というか、この本自体すでに「文学」だと思う。

     まず、野宿者たちが置かれた現実の過酷さに驚く。
     たとえば、主として少年グループによる野宿者襲撃の頻発。死に至る襲撃事件はときおりニュースになるが、著者によれば報道されるのは氷山の一角でしかなく、「襲撃は日本全国で日常的に起こり続けている」のだという。
     
    《ぼく自身、(野宿者支援の)夜回りで何百という襲撃の話を聞き続けてきた。その内容は、殴る蹴る、エアガンで撃たれる、ダンボールハウスに放火される、消火器を噴霧状態で投げ込まれる、花火を打ち込まれるなど様々だ。ぼくが今まで聞いたなかで一番エグい話は、「寝ているとき、眼球を突然ナイフでグサッと刺された」というものだった。》

     しかも、そうした襲撃は学校が夏休みや冬休みに入ったとたん「一気に増える」のだとか。ぞっとする話だ。

     また、著者の実感によれば、ここ数年、若者と女性のホームレスが明らかに増加傾向にあるという。“男性日雇い労働者が高齢や病気で働けなくなり、ホームレスになる”という従来のパターンにあてはまらない事例が増え、問題は多様化したのだ。
     
    《女性野宿者の多くは「家族のトラブル、特に夫の暴力」と「不安定で低収入な就労」によって野宿に至っている。(中略)女性野宿者の男性と明らかに異なる特徴のひとつは、彼女たちの多くが「元の生活」に戻ることを強く拒否するということである。》

     男性ホームレスの多くが元の仕事・住まいに戻りたがるのに対し、多くの女性ホームレスにとって、苛酷な野宿生活でさえ元の生活よりはマシなのだ。

     ホームレスを食い物にするさまざまな「裏ビジネス」の実態にも、慄然とさせられる。
     「戸籍売買」や「偽装結婚」については聞いたことがあったが、生活保護のピンハネが大規模なビジネスになっているという話には驚いた。「ボランティア」や「支援団体」を名乗る「業者」が、「『アパートに入って生活保護を受けられるよ』と野宿者をスカウト」し、「アパートに集めた元野宿者から月々に受給する生活費をピンハネし、本人には月に1万円程度の『お小遣い』しか渡さないようにする」のだという。
     
    《元野宿者としては、野宿していたところを、まがりなりにも「部屋に住めるようにしてくれた」という恩を感じているので文句が言えない。文句を言ったら、追い出されてまた野宿になるのではないかという恐怖がある。そもそも、「業者」が元野宿者に恫喝をかけていたりする。そうして生活保護費が、本人が逃げ出すかあるいは死ぬまでピンハネされ続ける。》
      
     ホームレスを見る目が一変する本でもある。たとえば、次のような記述がある。
     
    《こうして、ダンボールやアルミ缶を1日に「大体、10時間ぐらい」集めて1000円程度の収入を得る。これは、時給でいうと100円ぐらいである。「足を棒にして」の大変な労働なのに、時給が100円。そうやって稼いだ金で、安い食堂で食べたり路上や公園で自炊して生活している。多くの人が野宿者についてイメージする「仕事をするのがイヤ」どころか、とんでもない低賃金重労働だ。ふつう、誰でもこんな割に合わない仕事は好き好んでしない。では、なぜそうするかというと、ひとえに「他に仕事がない」からである。》

     著者の筆致は押しつけがましくないやさしさに満ち、ホームレスの人々の素顔がじつにあたたかく描き出されている。

     なお、著者は「群像新人文学賞」評論部門優秀賞を受賞(2000年)した経歴の持ち主。
     であれば、20年以上見つめつづけてきたホームレスの人々の姿を、ぜひ小説の形で表現してほしい(短編連作がよいと思う)。それは、“21世紀の『蟹工船』”ともいうべき作品になるのではないか。
     もっとも、目端が利く編集者がとっくに著者にオファーしているかもしれないが……。

  • この本を読むまでは、路上生活者は気楽な自由人で、
    一日寝て、のんびりとした生活を送っていると
    思っていたが、思い違いをしていたかもしれない。
    野宿をしている人が何気ない人から、理由もないのに
    暴力を振るわれて、生命を失い、また、不貞になることもあり、また、不貞になると、野宿から抜け出すことが難しくなる。また、生活保護も役所から、なかなか、受けることができず、最終的に路上で、命を失うこともあることが分かった。しかし、でも、新宿の動く歩道で、浮浪者がたむろして、においがすごくて、地下道を歩く人も少なくなり、スラム化しつつあったので、天幕の撤去は、今では、正しかったと思っている。それら、野宿の人は、かわいそうだが、周りの人の迷惑も考慮してほしい。そこで、4つにしました。しかし、筆者は、支援者としての傍観者ではなくて、実際に日雇いに参加してのルポで説得力があり、また、日雇い労働の過酷さがよく描かれて、実態がはじめて知りました。

  • 大阪市西成区でホームレス問題に長年関わっている著者が記したルポタージュ。ホームレスと日雇い労働は切っても切れない関係にあるが筆者も日雇い労働者としての経験があり、現在は日雇い労働者を支援する側として働いている。
    ホームレスに対して「よく言われるセリフ」にも根拠を示した論理的な説明がなされている。
    「みんなが使う場所にいるのは迷惑だ」→世の中には公有地か私有地しか無い。行き場のないホームレスが公有地に野宿するのは必然。
    「家に帰ればいいのでは」→家族の絆が切れているためにホームレス化、もしくはホームレスになると同時に家族の絆が切れる。
    「福祉に相談に行けばいい」→福祉事務所はホームレスに対して十分な支援ができていない。
    「努力が足りない。仕事をしようとしない。自己責任。」→自己の責任と社会のせいの境界は曖昧である。雇用をイス取りゲームに例えると、必ずあぶれる人が出てくることがよく分かる。
    これらのよく言われるセリフは、発言者の市場、国家、家族に対する思い込みの上に成り立っているセリフだということがわかる。

    他の社会学関係の書籍でも言われているように、「経済的貧困」と「関係的貧困」の2つが大きな要因となっており、人と人とのつながりが大きな財産であることもよく分かる。
    これからの格差社会の先端を行っているルポであり、人事とは思えない切実さがある。

  • <内容>
    野宿生活者に焦点を当てて書かれたルポタージュ。
    筆者自身が参与観察を用いて書かれているので、説得力がある。

    野宿生活者を考えるにあたり、重要なのが「ホームレスを公共空間から抹殺する事が正当(手段は物理的なものでなく、制度等から排除して生存する事を不可能にすること)だと考える市民が増えてきたときどうするのだろうか?

  • ネカフェ難民 寄せ場 ホームレスとhomeless(意味が全く異なる) 釜ヶ崎 シモーヌ・ヴェイユ ドヤ街 コンドラチェフの長期波動 釜ヶ崎暴動(1961) 結核(釜ヶ崎は世界最悪の感染地とも呼ばれた事がある) シノギ(路上強盗) みやうち沙矢『勉強しまっせ』(西成について差別的な説明がなされ、話し合いの場が生じた) 加藤組(かつて存在した暴力的な土建会社。同様の会社に山梨県の朝日建設がある) カイザ南津守(建設中に崩壊したマンション) アスベスト除去 アジアンフレンド(アジアからの出稼ぎ労働者のための支援組織) 90年釜ヶ崎暴動 エコノミークラス症候群(車中に住んでいる人がたまになる) 『バカの壁』(文中にホームレスについて触れている箇所がある) 行路病院(釜ヶ崎の人が運ばれる病院の通称。点数稼ぎ、身分の為に不適切な診療が行われる事がある) ホームレス襲撃(放火、刺傷、爆破など) 景観置物(ホームレスが寝るのを防ぐ為に置かれる事がある) 椅子取りゲーム カフカの階段(作家、カフカの父への手紙を引用して作られた考え方) 

  • 釜ヶ崎地区に20年にも及んで自信をその場に置いた完璧なエスノグラフィーと、多大な参考文献で構成された非常に示唆に富んだ一冊。
    私自身も誤解していたのだが、野宿者(ホームレス)というのは「これまでの努力が足りなかったんだろう」くらいにしか思っていなかったのだが、実はそうではなく、市場が“ゼロサムゲーム”であるがため、その瞬間の競争に負けたためにしかたなくそうなってしまっているとのことだ。働く意欲がないという人は非常に少なく、働きたいが働けないという人間が多いという。
    これまではそれを家族が支えたり、国家が支えたりしているのだが、この市場、家族、国家の3つの輪のバランスがうまく行かないところにブラックホールのように野宿者問題というのが存在しているのだという。
    なかなか自分では支援することができないのだが、なにか機会があれば支援してみたいと思う。良書。

  • 講演会で生田さんのナマの話を伺う機会がありました。その前に本は読んでいたのですが、想像していたより声のトーンも静かな、押し付けがましくない包容力を感じさせる人だったのが印象的でした。生涯を社会問題の活動に投じる覚悟とその行動力に感銘を受けました。この本も薄い社会調査などを吹き飛ばす厚みがあります。

  • 足で書いたルポ。緻密な取材は、読み応えがある。

  • 貧困や格差社会に興味があり読んだ。ホームレスの事、釜ヶ崎の事が広く浅くわかった。一気に読める分かりやすい本である。

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著者プロフィール

一九六四年生まれ。同志社大学在学中から釜ヶ崎に通い、現在までさまざまな日雇い労働運動・野宿者支援活動に携わる。「つぎ合わせの器は、ナイフで切られた果物となりえるか?」で群像新人文学賞・評論部門優秀賞(二〇〇〇年六月)を受賞。現在、野宿者ネットワーク、釜ヶ崎・反失業連絡会などに参加。主な著書に、『釜ヶ崎から』(ちくま文庫)、『貧困を考えよう』(岩波ジュニア新書)『〈野宿者襲撃〉論』(人文書院)がある。

「2019年 『いのちへの礼儀』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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