独学の精神 (ちくま新書 769)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480064691

作品紹介・あらすじ

漢字が読めない、歴史を知らない、計算ができない…大学生の「基礎学力」のなさが言われて久しい。だが、「教育」に過剰なこの国の若者が「学力」を欠いているとは驚くべきことではないか。なぜ私たちはかくも「無教養」になったのか。本書は、現代の日本人が見失った「独学の精神」をめぐる思索である。「ほんとうに大事なことは何ひとつ教えることなどできない」「学ぶことは身ひとつで生きる自分が学ぶというあり方でしかなされえない」-こうした単純で大切な事実について、その当たり前の事実が行き着く先について、根っこから考え抜く。

感想・レビュー・書評

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  • 正直、やや読みにくい文章だと感じた。しかし、筆者も書いているように、私立中学の試験問題などにも出される、いわゆる「読解力」を試される文章構成ということなのだろうか。筆者自身が「読解力」を試すことのおかしさをやや皮肉めいてかいている個所はおもしろい。
    全体を通して、勉強法や教育論というよりは、筆者が日頃感じていることがつづられていると思う。最初の「二宮金次郎」の身ひとつで学ぶという項は勉強になった。

  • この本では、大学生の基礎学力がなくなった理由について、いわゆる「指示待ち」の「教えて君」となってしまって、「独学の精神」が足りないからだということを論じています

    二宮金次郎や職人を例に、独学こそが素晴らしく、知識の押しつけは駄目だし、授業時間を増やしたり教科書の記載項目を増やしても無駄であるというようなことを言っている
    著者はあとがきで本書を「教育論ではない」「学者の教育論など信用していない」と言っているが、間違いなく本書は教育のあり方について論じている「教育論」になります

    このあとがきの部分もだが、文中に大学生と子供と若い大工(弟子)などをごちゃごちゃに論じていて、理論展開が無茶苦茶に感じました
    二宮金次郎が持っていた独学の精神も、職人が自ら師匠の仕事を見て考えて成長することの大切さも十分に分かるが、大学生の基礎学力が落ちた理由に無理やり結びつける論理展開は強引すぎる

  • 社会
    思索

  • 「漢意」→<欧米ごころ>で、本居宣長と内村鑑三を対比する思考は面白い。基本的にはデカルト的な近代合理主義・理性主義批判が著者のスタンスなのだろうが、文章が少々読みにくいのと説教クサイのが難点か。

  • 文通を通して意見交換した「剣の思想」とは
    打って変わってこの本は遠慮のない文体なので
    読みやすいし気兼ねなく反論を覚えたり共感したりできる
    読み出しの「まえがき」からして愉しく読み出せた

    人間は産まれると同時に辺りを探り相手と出合うことの
    独学によって自分の存在を確認してきた

    それが歴史のある縄張りほど責任転嫁と依存に逃げ込むための
    官僚制度に頼ることになる
    それは結局騙された形での
    暴力支配による恩恵に浴することを願っているのだ

    学問が外目線で始まると単なる物知りの知識になる
    学問を冒険にできれば出合いを切磋琢磨にして発見をつなげて
    人生と宇宙を舞台に遊ぶことができる

    この点で前田さんの生き方を尊敬する
    前田さんは世間とは違う面で二宮金次郎の生様を
    引き合いに出して独学を説く

    社会性とか損得とか価値観とかに縛られて
    競争することで権利権限を得て搾取支配に
    安全地帯を求めることを嫌い
    出合いの人生を謳歌すために学ぶことが幸せに繋がるという

    更に独学者を歴史から拾い上げて人生を説く
    孟子・中庸・大学を比較して金次郎は
    「孟子は難し中庸は易し」と言う
    官僚的で机上的で部分的な孟子の理に対して
    全体的の俯瞰した真理を説く中庸を生きた理と説く
    私学者伊藤仁斎=空言・都合よく読まずに真意を探る
    大小にかかわらず一身を持つものには一身で受けなければならない
    本居宣長=身一つで生きる
    パスカル=人間は考える葦である 時空を超えて考える
    柳宗悦=民芸運動・購買運動
    手仕事の民芸品と機械作りの量産品と頭作りの芸術品
    奇をてらった独創的な作品と日常の中の工夫による作品との違い
    人力による生産の限界と生活に沿った物の量とは調和している
    この調和を壊すのは不自然な競争による欲望である

  • 思い込みの強い偏狭な視点と論理的な飛躍。不満の募る愚痴っぽい文章。何かいいことを伝えたい気持ちは分かるだけに、なんだかとっても残念な感じ。読んでいると、いちいち引っかかる部分があり、読めば読むほど捏ねくり回された退屈さを感じてしまった。あくまでも個人的な感覚としてタイトルから想像する内容ではなかったかな。

  • 二宮尊徳や本居宣長といった人物を取り上げながら、学ぶということについて、思索をめぐらす一冊。異端の学者による極端な説が開陳されるのかと思いきや、述べられている内容はうなずけるものが多い。特に、第三章の職人の話題はおもしろかった。一人ひとり人間が違うからやり方も異なるという話は、当たり前ではあるのだが、普段見過ごしていることだなと感じた。

  • 二宮尊徳のことから始まって目から鱗の連続だった。自らの無知を恥じ入るばかりだ。目次から内容が予想できなかったここ最近初めての本である。最後は具体性をもって、幸福と平和の本質に迫っていた。

    ・畏怖や讃仰のないところに、教育は成り立ちようがない。
    ・人生のなかでほんとうに考え、学んだことは、みな口には出し難いものだ。
    ・国際人である必要など少しもない。
    ・進歩の思想ほど退屈なものはない。
    ・何から何まで人任せで、あれが旨いだのまずいだのと言っている。このことが、精神の独立性に影響を与えないはずはない。
    ・戦争の残酷さ、怖さを伝えるのは逆効果だろう。
    ・努力して生きることへの根本からの自信のなさがある。

  • 世の中には数値化・マニュアル化・標準化された「教えられること」よりも、体験や思考や錯誤を繰り返すことでのみ得られる「教えられないこと」の方が多い。教えてもらうのではなく、自ら学ぶ・・・それが「独立心」という精神につながる。そういった人間観をベースに、二宮尊徳や高橋さん(著者の知る大工職人)などの例を引き、科学至上で合理性や効率や均質性を求める現代人の価値観を斬っている。各章の部分部分を見ると、余所でも見聞きする内容だし、正直言って、単純な論理や浅い知識では納得いかない記述も多々あるが、それこそが本書が戒めている考えなのだろう。
    簡単だが希薄な情報や人間関係が共有されるこの時代にこそ、時折思い出したい精神性が書き連ねられている。

    印象的だった一節:
    ~大切なものは、知るべきものへのしっかりした尊敬を育てる工夫である。

  •  建築、大工、農業がいかに学問とむすびついたものであるか著者自身の言葉で書いてあり説得力がある。しかし近代西洋の合理的考えをやたらと排斥しているのがいただけない。東洋と西洋の間をとるのがいいのだと思うが。

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著者プロフィール

1951年大阪生まれ。批評家。中央大学大学院文学研究科修了。立教大学現代心理学部教授などを歴任。主な著書に『剣の法』(筑摩書房)、『日本人の信仰心』(筑摩選書)、『独学の精神』(ちくま新書)、『批評の魂』(新潮社)、『小津安二郎の喜び』『民俗と民藝』(講談社選書メチエ)、『ベルクソン哲学の遺言』(岩波現代全書)、『信徒内村鑑三』(河出ブックス)、『沈黙するソシュール』(講談社学術文庫)、『倫理という力』(講談社現代新書)など多数。

「2018年 『愛読の方法』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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