マ-ケティングを学ぶ (ちくま新書 822)

著者 :
  • 筑摩書房
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感想 : 55
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  • Amazon.co.jp ・本 (318ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480065308

作品紹介・あらすじ

供給が過剰となり、従来的な手法だけでは容易にモノが売れない時代を迎えている。グローバルな企業間競争もそれを加速させてやまない。だからこそ、企業にとっては生活者や顧客との関係をいかにデザインするかが喫緊の課題となってくる。つまり、市場に向けて、どのような戦略を練り、どう組織体制を整えていくか、というマーケティング・マネジメントの見直しだ。本書は、先進的な企業の取り組みを考察しながら、これからのマーケティング像を描いた、実践的入門書である。企業関係者、必読必携。

感想・レビュー・書評

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  • わたしのようなマーケティング初学者からすると、マーケティングとはいかにモノを売らせるための技術である、なんていうひどく雑でひねくれた見方をしてしまうが、「本書では、企業の生活者・顧客との接点を、どうデザインするかに焦点を絞り検討してきた」(P301)とあるように、本書の目的にあるのは「生活者」といかに「接点」をみつけ、それを構築(「デザイン」)するかというのがマーケティングであると示され、曚を啓かされた。

    こんな始まり方をすると堅苦しいように感じるかもしれないが、誰もが知る企業の、成功例も失敗例もふくめた豊富な事例(ソニー、パナソニック、サントリー、伊藤園、P&G、花王、JTB、アート引越センターetc.)が紹介され、新書にしては厚めの300ページ超だが、読んでいて飽きなかった。また細かく章が分かれているので、拾い読みもできると思うし、デスクの脇にでも置いて都度振り返っておきたくなる本だと感じた。

    本書の結論は、現代の低成長・低収益の時代には、たんなる技術のイノベーションではなく、商品・ブランドと生活者との新しい接点を見つけ、意味や価値を創造する「コマーシャル・イノベーション」が求められるのだ、ということだ(「終章 コマーシャルイノベーションに向かって」)。いいかえれば現代は、ハードパワー〈機能/効能/性能〉の時代から、ソフトパワー〈経験/意味/価値〉の時代へのマーケティング転換期なのだ。

    たとえば、P&Gは二十世紀末に、「世界の【消費者のニーズに最も適した】、秀でた品質と価値をもつ製品を提供する」、という宣言を、「世界の【消費者の生活を向上させる】、優れた品質と価値をもつ宣言へと変えているという(P173、【】は本書内傍点)。その意味するところは、既存のニーズに向けて商品を提供するのではなく、生活を向上するという切り口で商品価値を創造するという転換なのだ。

    技術から生活価値への転換を果たした事例として、ウォークマンやiPodなどのほか、キットカットを挙げている。キットカットはかつて安いチョコ菓子というポジションだったが、ひとつのキャンペーンを打ったことで、ほかのチョコ菓子とは違った生活者との接点を得てポジショニングを達成した。それは「キットカット→きっと勝つ」の語呂合わせから出た受験のゲン担ぎをしている、という受験生のキットカットとの関係から発想を得ている。商品の中身は変わっていないが、生活者との関係が変わることで価値創造した好事例だ。

    個人的に気になったところは、ブランドやリサーチということを考えるなかで、企業/組織の強さをいかに高めるか、という視点を強調していた点だ。自分の過去の仕事を考えると、組織というより個人を重きにおいた仕事内容だったので、たいへん勉強になった。

    ニーズが細分化されている現代において、大企業ほど動きが遅くキャッチアップできない、と「大企業病」などと非難がちだが、これを読んでると大企業だからこそ、細やかなニーズをキャッチアップできるマネジメントができるのではないかと感じた(第Ⅳ部など)。そう思わせたほど事例が大企業が多いので、リソースのない中小企業が市場という複雑性にどう対処するか、という事例も多くほしい気もした。

    とはいえ、そのなかでも第1章で例示された、地方の地場産業による障がい者スプーンの例は、生活者に向き合うことでニーズを発見するという好事例で印象に残った。

    また「指標化」(P255)という概念は、わたしとしては学ぶものが多かった。「指標化」とはマーケティングの接点を考える際に、「あらかじめみずからの可能性・選択肢を限定」し、「自分たちの力に見合った形で処理可能な状態にする(架け橋を架ける)という作業」を指す(第Ⅲ部結論~第Ⅳ部あたり)。

    なぜ「あらかじめみずからの可能性・選択肢を限定」する必要があるのか。それは、市場環境は無限に複雑なので、それをすべて処理できず成り行きでこなしてしまっては、マーケティングを長期に渡りマネジメントできず、成長もしない。「組織が存続するためには、自分たちの処理可能な状態に、できれば意識的に環境を作り替えておくことである」(P244)。

    マーケティングとは話はずれるが、個人的に仕事の優先順位がつかないことが多く、苦労することが多かったので、「指標化」の概念はマーケティング以外にも役立つのではないかと思った。本書のなかで、そんなカオス状態のとき組織の指示として重要になるのは、「いろいろ起こっていて、気になることも多いだろうが、とりあえず『店頭品質』の諸要素に注目するだけでよし。他のいろいろある出来事は、無視してもかまわない」(P244)と書かれていて、なにか思わずほっとさせられるものがあった。

    読み応えがありつつかつ読みやすいので、マーケティングの入門書をさがしているひとは、ぜひ本書を手にとってほしい。わたしの場合、本書を読む前に著者のべつの本『マーケティングの神話』(岩波現代文庫)を読み、たいへん面白かったので、他にないかと探したところ本書に出会った。『神話』のほうは、文化人類学や哲学、記号論など人文系の知識を用いて、マーケティングの本質に迫っている名著だと感じた。興味がある人はこちらも一読を。

  • タイトルの通り、“マーケティングを学ぶ”ための本だが、教科書的ではなく読み物のようなスタイルで書かれているのでスラスラ読むことができる。

    前半から中盤にかけてはSTP、後半は顧客へのアプローチと顧客管理、マーケティング組織のマネジメントが中心となっている。

    10年以上前に出版されたものであるためケースは古いが、今でも十分通用するものである。

  • 様々な事例を交えマーケティングの基本的な考え方を学べます。一方で事例の羅列ではなくなぜそれが大切なのかが抑えられており、新書でさっとマーケティングについて学びたい場合におすすめの一冊です。

  • 一般的な表層的なことばかり記載してあって、つまらなかった。

  • マーケティング・マネジメントを求めて
    第1部 市場志向の戦略づくり
    第2部 戦略志向の組織体制づくり
    第3部 顧客との接点のマネジメント
    第4部 組織の情報リテラシーを確立する
    コマーシャル・イノベーションに向かって

    著者:石井淳蔵(1947-、大阪府、経営学)

  • かつての「作れば売れた」という大量生産・大量消費の時代を終え、供給過剰になった現在のビジネスシーンにおけるマーケティングについてまとめた書籍です。
    初歩的なセグメント、ターゲティング、ポジショニングと、ブランド戦略について、各々実際の事例を交えて論じていますので、理解しやすい入門書と言えます。

  • "事業を定義する上で、「誰のために、何をしたいか」が重要

    "

  • マーケティングマネジメントに関する本。
    SMP MMというフレームワーク的な話ではなく、
    顧客を見たもっと本質的な点から話が展開されている良本。

    <メモ>
    ・市場をの関係を自分の意思が反映できるよう、マネジメントできるようどうデザインするか。そのためには戦略上の工夫、組織上の工夫が必要。
    ・市場関係のデザインは 1生活者顧客志向の戦略づくり2戦略に合わせた組織づくり3市場接点のマネジメント4組織の情報リテラシーの確率の4点で構成される。
    ・スプーンとはそもそも何かという根本的な価値から考える。
    ・向き合う消費者を絞り、彼らの欲しい価値を知るところからビジネスは始まる。生活者はドリルを求めているのでなく、穴を求めている。
    ・生活者の深い理解に立った事業の定義が重要。
    ・誰のために何をするのかという事業ミッションに加え、どう実現するのかが必要。
    ・例えば顧客層、技術、提供価値機能で三軸で考えてみる。
    ・緑茶はどういう飲料でありたいのかという夢から戦略がスタートする場合もある。
    ・チャネルを持つとそれを維持する必要が生じる。複数製品の継続的な供給など。製品ラインも広げる必要がある。
    ・コーポポレートブランド戦略は1広い製品と多数の製品ブランドの保有、2新製品導入サイクルの短縮化、3コーポレートブランドのアピールが必要。チャネルを通じた顧客関係の構築を行っている。
    ・商品ブランド戦略は商品ブランドを通じた顧客関係を構築しており、選択と集中でメガブランドづくりとポジショニングが重要要素となる。
    ・ブランド別組織か機能別組織かによって、新たなブランドへの取り組み方が異なってくる。機能別だと調整が先に生じてしまい、新たなものが育ちにくくなる
    ・商品と顧客の関係を変えるコマーシャルイノベーションという試み。キットカットの例。
    ・ブランドを拡張すると拡張した商品に引っ張られてブランド自体の価値が下がってしまうことなども起こりうる。
    ・確立したブランドでも都度市場変化に合わせてブランド統合、ブランド拡張、新規ブランド導入という選択肢を選びなおす必要性がある。
    ・ブランド拡張にはコストとリスクがある。拡張した先の分野でメガブランドと競合する可能性。うまくいかないとブランドエクイティが毀損しうる。
    ・ハイチオールCがターゲットを変えて新市場を創造したように、これまでになかった切り口で新しい市場カテゴリを作り、そこで一番になることを考える。そして新しいカテゴリとブランドとの絆を強化する。人類初に女性という切り口を入れ、女性初という見方を作り出したことからアメリアエアハート効果という。
    ・これまでの市場カテゴリと対応するブランドに強い絆を作り出す。生活者の頭の中の特定市場カテゴリにおいてブランドをポジショニングするやり方。ファブリーズなど。ポジショニングのこの工夫こそが長きに渡るブランドエクイティを確立する方策。企業が長きに渡る成長を可能にする方策。
    ・市場に向けた事業の成長の方向として、二つの選択肢がある。ポジショニングによる成長。生活者の頭の中に自社のブランド製品カテゴリとの強い絆があることを刻み込むやり方。当該製品分野の定番商品となること。さらには少しずつポジショニングを変えて、自身お属している製品市場カテゴリの着実な拡大に努めること。
    もう一つの選択肢はブランド拡張。確立したブランドエクイティを他製品に拡張するやり方。
    ・ポジショニング方式を徹底してやり続けると、どうしても新ブランドの導入が増える。あまりにリスクとコストが大きい。それを避けるべくブランド拡張方式が選ばれる。成長期にはポジショニング方式、成熟期にはブランド拡張方式と市場状況の変化に合わせて慎重に成長対応を考えなければならないということ。
    ・一つのブランドにいくつものキャンペーンが時間を経て実施される。これはブランドエクイティを育てていることに違いない。今回のキャンペーンにおいてはどの層に訴求すべきなのかを決めることが重要。顧客規模縮小時には新しい生活者を狙うだろうし、ブランド自体のアイデンティティが弱っているのであればヘビーユーザー向けに改めて高いロイヤルティを維持・高揚すべくコミュニケーションを図るだろう。
    大事なことは自分のブランドの目指す層を定めることである。
    ・ブランドパワー測定の最大のメリットはそれによって改善すべき点がわかる。
    1生活者との長期にわたる交流の架け橋となるブランドを構築する
    2ブランドの健康診断を行う
    3その架け橋に悪いところがあれば、そこだけをピンポイントで改良していく。
    ・メーカーのチャネルマネジメントの重要要素
    チャネル営業のプロセスマネジメント 売上利益は様々なマーケティング活動の成果。営業のみの成果ではない。商品を売るのではなく、商品を置いてもらう状況を作るのが営業の仕事であったりする。営業は組織の仕事であり、市場を創造すること。
    ・マーケティングマネジメントとは、情報をしまう棚を作り(指標化)、センサーを備え付け、羅針盤を作る(打つ手を準備する)こと。
    ・組織に上がってくる情報は市場調査を通じて、営業から、お客様相談室の三つ。

    ・市場関係のデザインは市場に向けた戦略づくり(誰に向けて価値を提供するのか)、戦略に合わせた組織体制作り、市場と組織の接点のマネジメント、組織の情報リテラシーの確立から成り立つ。

  • 【お仕事本】有名企業を例に挙げたマーケティング入門本。専門用語も多く理解するのに最初は時間がかかったが、有名企業はどこも当たり前のように企業努力をしているのだと今更ながら感嘆した。勉強になりました。

  • 事例が豊富でひとつずつの事例分析は興味深く示唆に富んでいる。
    残念なのはマーケティング初心者には全体像が見えにくいことだ。各章にもまとめがあり最後に全体をまとめた終章も用意されているのに全体像は繋がりにくかった。
    とはいえ、商品開発、ブランドマネージャー、営業、カスタマーサポート、など各部署が顧客を見て行動することを具体的に書いている本書の価値は大きいように思う。



    読みやすさ ★★☆☆☆
    学び ★★★★☆
    実践 ★★☆☆☆

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著者プロフィール

流通科学大学特別教授、神戸大学名誉教授

「2017年 『中内功 理想に燃えた流通革命の先導者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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