道州制 (ちくま新書 873)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (236ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480065704

作品紹介・あらすじ

中央集権国家としての日本はすでに破綻に瀕している。疲弊した制度は、もはや小手先の改革ではどうにもならない。いまこそ、新しい地方分権の在り方を構想することが必要である。「道州制」を考えることは、この国のかたちを考えることなのだ。東京をはじめとした大都市をどうするか。また、道州制にふさわしいガバナンスとは何か。地方分権の理念を分かりやすく説きながら、諸外国との比較、様々なデータを参照しつつ、この国の将来を考える。

感想・レビュー・書評

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  • 今日の書評は「道州制」佐々木信夫著。なぜ道州制かというと、大野は法政大学教授・水野和夫先生の主張する「ゼロ成長でも持続可能な日本」を希求しています。

    それで、その議論で避けて通れないのが、地方分権・道州制。これをざっくり言うと、地方に予算(お金)と権限(仕事)を与えて、現在のように中央集権国家でなく地方独自の裁量で国家を運営するというものです。

    そうすると、公務員・地方及び国会議員の数を大幅に削減できる。佐々木先生のご著書では定量的な分析は少ないが、約年間20兆円は削減できる、と試算している。

    では、前置きはこのくらいとして、本書「道州制」の書評スタート。

    まず地域主権型道州制の国づくりのため、佐々木先生は以下のような改革案を提唱している。

    ① 府県制を廃止し10の「道州」とする。内政の権限を州に移し内政の拠点とする
    ② 国は、外交、防衛、司法、通貨管理、年金など国家行政にふさわしい業務に限定
    ③ その他の業務は、二層制の地方政府(州、特別市及び市町村)の役割とする
    ④ 国の出先機関は、検疫、司法、検察などを除き廃止し、業務は州と特別市に移管する
    ⑤ 道州間の格差是正は道州間で調整し、道州内の市町村格差は道州の責任で是正する
    ⑥ 特別区や政令市など大都市制度を見直し、東京、横浜、名古屋、大阪は都市州にする

    このような道州制の導入をめぐっては賛否さまざまな意見がある。幾つか紹介しよう。

    「地域の特性、状況が拡がる中で、地域に各権限を移すことにより柔軟に対応する目的をもった道州制には賛成。政府機関の効率化や小さな政府、経費削減が可能だと思うから」

    「財政のムダを減らし、国の負担を軽減するというのは、今の日本では急務。ただ道州制移行にかかわるコストの問題や地域間格差の拡大、国家統一の乱れなどが心配だ」

    「一定範囲の地域で、国の政策に囚われず、それぞれの地域に合った行政運営を行える点はよい。ただ住民がどの程度かかわれるのか、州のなかの市町村の位置づけ、役割がどうかも疑問が残る」

    「交通の便がよくなり、生活圏も経済圏も広域化した現代において、100年以上も前に定められた「県」という小さな行政単位を維持することは時代錯誤といえる」

    「地方分権が叫ばれるようになって久しいが、現行の政治体制を変えなければ、小手先の税源移譲や交付税の削減では地方が国から独立した運営は難しい」

    「自治体が財政難の中、道州制は行政サービスの効率化や産業の創出という面で有効だ」

    「道州制には賛成だが、それには国から道州への税源移譲が不可欠。そうでなければある程度繁栄している地域に貧しい地域が面倒をタダ見てくれと言っているようなもの」

    このように道州制を前向きに評価する意見がある一方、懸念する意見も少なくない。

    「国民がほんとうに“幸せ”になるだろうか。小泉政権の進めた新自由主義的な改革は、聞こえは良かったが、結果大企業が富み、大多数の国民は疲弊した」

    「国民が判断すべき材料が不足している。国民がなぜ支持しないかといえば、将来のビジジョンが見えてこないからである」

    「目的は地域主権を実現するために財源を国から移譲することにあると思う。それは道州制を導入しなくても、広域連合をつくり様子をみたらどうか」

    「時期尚早だと思う。10~20年かけて広域連合から道州制へ移行すべきだ」

    「地方出身者には自分の故郷が変わるという点に違和感があり、寂しく思う。ただ今の税制問題には大変危機感があり、何らかの思い切った改革が必要だと思う」

    「現在の日本人のアイデンティティの大きな要素である都道府県民としての意識や文化、習慣をそう簡単に取り払うことはできない。道州によるトップダウン的な政策決定では地域住民のニーズに適ったものにはなりにくいと思う」
    「大規模な改革を実行できる強い政権ができるか。官僚の抵抗を抑え込み、憲法や関連法律を改正していけるだけのリーダーがいるかどうか。綿密な制度設計がなければ、道州制は形だけの行財政権限の委譲に止まり、骨抜きになる」

    「今の日本が道州制になる姿は、まだ想像がつかない。地域住民は“県(ふるさと)への愛着をなんだかんだ持っていると思う。制度を変えるだけでは不十分で、現状とあまり変わらないなら、国民の望みとは違う」

    「国民は新しい制度に対して肯定的になるとは思えない。政府自体がまず安定して、地方分権のメリットを国民にしっかり伝える必要がある。ただ、国民の道州制への関心は薄いとはいえ、政治が郵政民営化の時のようなアプローチで進めれば活路はある」

    「道州制のような国の形態を一変させるような改革は、どうしても議論の最終段階まで進むのが困難だと思うので、何らかの非常事態が起こった時、変えるとよい」

    2000年に地方分権一括法が施行されて以来、地方分権を進めようという気運は強いが、官僚の抵抗は強く(わが国ではいわゆる出先機関という国家公務員の職場が地方にはある)、保守政治家には改革に不熱心である(道州制を進めると、国家の議員(衆議院及び参議院)数を減らすことができる。また道州制を導入すると、現在の都道府県議員は不要になる)。

    NPOの法人地域自立政策研究所の明確化研究会が、各レベルの政府の役割を整理し道州制へ移行するなど本格的な改革を行うなら、地方だけで14兆円、国を含めると20兆円の歳出削減が可能だと報告している。またPHP総合研究所は国の出先機関と特別会計の道州移管で「国家公務員12万人が削減可能」と試算している。

    「道州制」以降は、明治維新以来の大改革となると、簡素で効率的な「賢い政府」づくりの切り札と考えられる。要は、そうした改革に踏み込む改革意志があるかどうかだ。

    そこで、私からの提案だが、道州制に当たって国・地方で余剰になった公務員は、早期割増退職金制度を創設して、退職を迫るか、それとも道州でそれなりの職場を確保させるというのはどうだろうか?

    また、それは国会議員についても同じで、佐々木先生の本著では衆議院議員及び参議院銀の数は現行の3分の1程度に減らせることが可能だとの説を展開させている。

    したがって、彼らにも割増退職金を充てるか、道州で議員や首長の職を確保する等、適宜ケアをして、(一時的には悪化するであろう)プライマリーバランスを黒字化するように、日本国家全体で鋭意努力していくべきではないか?と考える。

    本著「道州制」はなかなかの力作ではあるが、如何せん、私の読解力では論旨を十二分に把握することができなかった。これは「道州制」についての議論が日本ではまだまだ醸成されてないかもしれない(ただ単に私がアホだからという説もある)。

    現在の東京の過度な一極集中といった現状を解決するためにも、道州制は避けて通れない議論だと読了後思いました。

  • 読みにくかった

    道州制の推進の根拠
    ①地方分権
    ②広域化時代への対応
    ③行財政効率化
    道州制によって二重行政や行政の空洞化など行政のムダは解消できるか?財政再建のための手段として有効か?

    中央地方関係を、“権限の所在×事務の帰属”で分類すると、①集権・分離型②分権・分離型③集権・融合型④分権・融合型となる。現在日本は③であるが、ひとくちに地方分権といっても、目指すのは、②なのか④なのかはっきりしない。
    ↑このへんの指摘はナルホドと思った。

  • [ 内容 ]
    中央集権国家としての日本はすでに破綻に瀕している。
    疲弊した制度は、もはや小手先の改革ではどうにもならない。
    いまこそ、新しい地方分権の在り方を構想することが必要である。
    「道州制」を考えることは、この国のかたちを考えることなのだ。
    東京をはじめとした大都市をどうするか。
    また、道州制にふさわしいガバナンスとは何か。
    地方分権の理念を分かりやすく説きながら、諸外国との比較、様々なデータを参照しつつ、この国の将来を考える。

    [ 目次 ]
    第1章 地域主権国家とは
    第2章 なぜ、道州制なのか
    第3章 道州制とは何か
    第4章 道州制の設計
    第5章 道州制と税財政
    第6章 東京をどうする
    第7章 大都市をどうする
    第8章 変わる海外の自治制度

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 道州制に賛成している議論ってどんなんか知りたくて購入。文化や生活圏の問題は、ほとんど問題にされていない。廃藩置県の理解も、歴史的とは言い難い。

    それでも経済的側面から道州制を推進するだけならまだいいのだが、懸念する意見をいくつか挙げたうえで(しかもそれは自分が授業している学生の意見をもとにしている)それを論破していくというスタイルを取っているのが気になる。学問的なレベルで発信されている道州制反対論を取り上げずに、根拠があやふやな意見を反対意見の立脚点に位置づけて自説を補強するのは、学問的に誠実なのか。

  • 道州制のメリット、デメリット。
    地域自立にしてもどのような形にするのか?政治などをふまえて。
    めも
    画一的な地域づくり、中央集権的
    東京一点集中から脱却するための地方分権

    「増税しなくても効率的な公共サービスを提供できる」ための道州制

    固定観念
    豊かさ=人口増加、経済成長

    府県制の問題点
    1.狭い 交通ネットワークの発達に伴いユニットの拡大が必要に
    2.非効率な二重行政

    外交に強い中央政府
    内政に強い地方政府

    財政的な公平性ありきではなく、自立が目的

    ①地方分権のとりくみ
    自民党政権下、小泉が始まり
    官僚依存体制であり、中央集権を崩すだけの分権化にはいたらず
    地方財政縮小という財務省のいいなりになったにすぎない

    民主党の「地方分権下」の問題点
    ・ナショナルミニマムが過大にならないか
    ・二層制で政府をどこまでスリム化できるのか
    ・国の出先機関を大幅に整理統合、廃止するが、その仕事の受け皿は?

    地方議会のありかた
    地方分権を実行できるだけの力が地方政府にあるか?

    日本=集権的分散システム
    パターナリズムでは甘えの構造を維持する方が楽
    分権化⇄集権化
    アングロサクソン系:地方政府の権限を「概括例示方式」により決定
    =一つ一つの個別列挙ではなく、重複がおこりやすい

    分権/融合型=北欧or 分離/分散=英米
    日本では目指すべき国家像がめいかくになっていない!(問題!)

    どんな素晴らしい仕組みも100年すると時代に合わなくなる

    道州制+さらに細分化された自治で住民自治を実現

  • 近年、メディアや国政の場で騒がれることが多くなった道州制について、一般の人にもわかりやすく記述されてある本です。

    【長崎大学】ペンネーム:ジェームス・キー

  •  難しくて挫折・・・

  • 道州制とは、都や県という行政の区割りを変えるというだけの話ではない。
    日本がかかえる膨大の借金をどうやって減らしていくか。また返済していくか。ここに、道州制議論の焦点がある。
    日本は、東京を一人勝ちさせて、その恩恵を全国に還元していくという方針で、ここまでの経済大国にのし上がってきた。霞ヶ関の省庁が打ち出す施策を全国の出先機関と都道府県が受け止めるという中央集権的な手法で日本全体をコントロールしてきた結果だ。
    しかし、時代は大きく変わろうとしている。価値観が多様化し、世界はフラット化している。この時代の変化に合わせて、行政のあり方も変わる必要がある。
    しかし、人間は過去に生きる動物だ。今までのやり方を変えたがらないのが人間だ。借金が膨らみ続けているにも関わらず、返済の具体的な方策が出てこない。借金を減らすためには、根本的な何かを大きく変えなければならないことを知っているからだ。
    そこで、道州制議論である。
    二重行政、三重行政を廃止し、各自治体が責任を持って、各地域を経営していく。各地域のニーズに合った施策を迅速に打っていく。そのための道州制だ。
    しかし、どんな制度も、それを運用する人間次第で、良くも悪くもなる。生かすも殺すも人間次第だ。その意味で、道州制の話は、人々の意識をどう変えるかという問題なのだ。「自分さえ良ければ」という個人主義の風潮を打破して、「地域のために」という思いを持てなければ、道州制も絵に描いた餅になってしまう。

  • 行政改革のひとつである道州制について賛成、反対の意見を幅広く網羅した本、入門書として最適です。中央集権国家としての日本は中央がコントロールを失っているため、今後転換を強いられるのは確実じゃないかなと考える。都道府県の空洞化と言われてるけど、確かに県から何を受けているか実感はない。秩序から無秩序に向かい混沌とするなか中央に依存する形態はもう難しいのかもしれない。それは会社組織も同じだと思う。それぞれが自身の責任において成長できるような仕組みが必要なのだろう。

  • 道州制賛成の立場から、課題と仕組み、歴史や海外の行政まで網羅的に解説した話。行政改革が必要なのは言うまでもないが、果たして誰がやるんだろうか。

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著者プロフィール

中央大学教授 法学博士

「2013年 『大都市行政とガバナンス』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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