創造的福祉社会: 「成長」後の社会構想と人間・地域・価値 (ちくま新書 914)

著者 :
  • 筑摩書房
3.63
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感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066190

作品紹介・あらすじ

「限りない経済成長」を追求する時代は終焉を迎えた。私たちは、人類史上三度目の「定常期」に直面している-。飽和した市場経済のもと、われわれの社会は「平等と持続可能性と効率性」の関係をいかに再定義するべきか。「拡大・成長」のベクトルにとらわれたグローバル化の果てに、都市や地域社会のありようはどう変化するのか。そして、こうした「危機の時代」に追求される新たな価値原理とは、人間と社会をめぐる根底的思想とは、いかなるものか。再生の時代に実現されるべき社会像を、政策と理念とを有機的に結びつけ構想する。

感想・レビュー・書評

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  • 近年、中国やインドなど新興国の台頭とともに、エネルギーの枯渇やそれにともなう環境破壊が現実的な問題となるなか、いま世界中が従来の成長モデルを基本とした価値観からの転換にせまられている。しかも、日本は急激な少子高齢化を迎え、これまでのような成長路線は期待できないことを考えると、日本こそがこの問題の最前線にたっているといえるだろう。本書はそんな視点から、これからの時代の持続可能な社会のあり方を探っている。

    筆者の言うとおり、今までの大量消費型の社会、ことにアメリカやそのモデルに追従してきた日本では、即効性のあることに価値がおかれ、環境保全や福祉のような長期的な視点を要する分野は軽視されてきた。しかし、これからは後者への不当な評価を改めていかなければならない。つまり、フローよりもストックを重視する社会への転換だ。また、本書では「心のビッグバン」といった言葉をあげながら、歴史上でも現代と同じような危機的な時代があって、そんなときに創造的な思想や文化が開花したことを紹介しているのも興味深く感じた。

    とりわけ、私が筆者に共感するのは「福祉」というものを限定された分野・領域として考えているのではなく、広い視野からとらえている点だ。一般的に福祉というと高齢者や障害者のための施設など、一般から隔離されたイメージをもたれることが多い。しかし、いくら福祉の専門家をそろえて対応したところで、閉じた空間では十全なケアは期待できないだろう。地域社会、コミュニティーが機能してこそ、子どももお年寄りも安心して暮らすことができる社会が実現されるのだ。そういう意味から言っても、ヨーロッパの街を例に商店街や市場の福祉的役割を見出しているところは大いに納得できた。

    以上、全体的に流れる主張やテーマについては高く評価したいが、価値観の転換について哲学・思想史的な視点から詳述している第3章については、本書全体のテーマに沿いながらも少し散漫になるような気がした。興味深い内容ではあるが、手を広げすぎてしまっためにインパクトが薄れてしまったといえないだろうか。もうちょっとすっきりまとめて欲しかった。

  • 第1章、資本主義の次の社会を展望して語られる環境・福祉・コミュニティの課題を統合した社会のビジョンは非常に刺激的かつ魅力的だが、第2章、第3章と進むにしたがってだんだん退屈になる。

    とくに人類史の起源から遡って将来を展望した第3章は、著者の優秀さや博識さは分かるんだけれども、そういう人が描いた無味乾燥な歴史SFを読まされている感じで関心がわきませんでした。

  • 2012.05.30 現代は、3次定常社会という考え方に共感。よく理解することができた。最後で、福祉という概念の再規定をしており参考になったが、もう少し3次定常社会の生き方、ソリューションがあるとよかった。そんな気がする。

  • ▼福島大学附属図書館の貸出状況
    https://www.lib.fukushima-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/TB90235418

    (推薦者:経済経営学類 藤原 一哉先生)

  • A                             横浜ボラセン:キャビネ保管

  • 変化は時間軸から、空間軸へ。
    第三の定常化で、環境効率の時代へ。
    人間の本質としてのケアコミュニティへ。

  • 第3章「私たちは人間と社会をどのように理解したらよいか」圧巻です。タコツボ化と言われるほど分化しすぎてしまった現在において、とてつもなく広範囲なテーマに果敢に挑戦されることに畏怖の念さえ抱きます。ひとつ残念なのは書籍タイトルが、本書の一部しか表現できていないことではないかと感じています。

  • 最初はおもしろかったけど、最後は話が福祉から離れて行ってる感じでちょっとモヤモヤ。
    というか、時間的な問題で一気に読み終わることができず、読み終わるまで何度も中断するので、毎回「何の話だっけ?」から始まってしまうという、イタさの問題かもしれない。50過ぎたら、本は一気に話み終わろう。一週間以上間を開けてはいけない。

  • 前半具体的な話はわかりやすく読みやすかったけれど、後半原理的な話は字面を追うだけになった部分が多い。著者の本は複数読んでいるが、いつも同じような経験をする。地域再生についての節で。成長・拡大志向より定常志向。グローバル化よりローカル化。自立より再分配。低福祉・低負担より高福祉・高負担。私の考えもほぼ著者のそれに等しい。地域総合プランナーともいうべき人材が必要という。私自身、福祉や経済・産業振興という部分はかなり勉強が必要だが、教育・文化については何らか地域に役立てるものがあるかもしれない。それも、また探っていかなければならない。本書の中で土地についての記述があった。東北の地震のあとどのような措置をとっていくのかわからないが、いったん土地の個人所有という発想をなくしてみてもいいのかもしれない。現在、人類史上三度目の定常期にさしかかっていると著者はいう。そのためになにをすべきかのヒントがたくさん書かれている。

  • [ 内容 ]
    「限りない経済成長」を追求する時代は終焉を迎えた。
    私たちは、人類史上三度目の「定常期」に直面している―。
    飽和した市場経済のもと、われわれの社会は「平等と持続可能性と効率性」の関係をいかに再定義するべきか。
    「拡大・成長」のベクトルにとらわれたグローバル化の果てに、都市や地域社会のありようはどう変化するのか。
    そして、こうした「危機の時代」に追求される新たな価値原理とは、人間と社会をめぐる根底的思想とは、いかなるものか。
    再生の時代に実現されるべき社会像を、政策と理念とを有機的に結びつけ構想する。

    [ 目次 ]
    時間軸/歴史軸―私たちはどのような時代を生きているか(創造的定常経済システムの構想―資本主義・社会主義・エコロジーの交差)
    空間軸―グローバル化とローカル化はどのような関係にあるか(グローバル化の先のローカル化―地域からの“離陸”と“着陸”(コミュニティとしての都市―コミュニティ感覚と空間構造;地域の「豊かさ」とは何だろうか))
    原理軸―私たちは人間と社会をどのように理解したらよいか(進化と福祉社会―人間性とコミュニティの進化(はじめに―「人間についての探求」と「社会に関する構想」をつなぐ;ケア/コミュニティの進化―人間社会の起源 ほか))

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

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著者プロフィール

広井 良典(ひろい・よしのり):1961年生まれ。京都大学人と社会の未来研究院教授。専攻は公共政策、科学哲学。環境・福祉・経済が調和した「定常型社会=持続可能な福祉社会」を一貫して提唱。社会保障、医療、環境、都市・地域等に関する政策研究から、ケア、死生観、時間、コミュニティ等の主題をめぐる哲学的考察まで、幅広い活動を行っている。著書『コミュニティを問いなおす』(ちくま新書、2009年)で大佛次郎論壇賞受賞。『日本の社会保障』(岩波新書、1999年)でエコノミスト賞、『人口減少社会のデザイン』(東洋経済新報社、2019年)で不動産協会賞受賞。他に『ケアを問いなおす』(ちくま新書)、『ポスト資本主義』(岩波新書)、『科学と資本主義の未来』(東洋経済新報社)など著書多数。


「2024年 『商店街の復権』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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