ルポ賃金差別 (ちくま新書 955)

著者 :
  • 筑摩書房
3.71
  • (7)
  • (18)
  • (14)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 151
感想 : 23
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (222ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480066602

作品紹介・あらすじ

同じ職場で同じ働き方をしていても、賃金に差が生じるのはなぜなのか?労働者の三人に一人が非正規雇用となり、受け取る生涯賃金にも大きな格差が生まれている。本書はアルバイト・パート・嘱託・派遣社員・契約社員など「働く人の賃金」に焦点を当て、現代日本の労働問題を考察する。賃金というものさしから、いま働く現場で何が起きているのかを読み解き、現代日本の「身分制」を明らかにする、衝撃のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • SDGs|目標10 人や国の不平等をなくそう|

    【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/709830

  • ルポ 賃金差別

    竹信三恵子著
    ちくま新書
    2012年4月10日発行

    読み間違えやすいタイトル。「賃金差別(さべつ)」が正解。「賃金格差(かくさ)」ではありません。
    著者はジャーナリストで和光大学教授、元朝日新聞記者。ベテランらしく、読みやすく、整理された内容でした。
    「現代社会福祉辞典」での定義、「差別」とは「人々が他者に対してある社会的カテゴリーをあてはめることで他者の具体的生それ自体を理解する回路を述断し、他者を忌避・排除する具体的な行為の総体」を引用しつつ、性別、組合活動との関わり、雇用形態(パート、契約)、所属会社の違い(派遣、下請け)などの違いでレッテルを張ってしまい、賃金が差別されている実体を取材、解き明かす。裁判になっているケースがほとんどなので、暴露もの、告発ものではなく、実体を広く知らしめ、国などに対策を求めていくという主旨の本でした。

    それぞれのケースの実例が挙げられているが、最後に、「最悪の賃下げ装置」になっているのが、賃金差別だと結論づけています。経営側が賃下げをするが、労組の組織率が下がって交渉力が落ちているので、正社員も「あの人たちよりましだから」という目で賃金差別されている派遣やパートなどを見て、賃金抑制に怒らない正社員の群れが増えているというわけ。まあ、そうでしょうね。
    だから、この本を読み、賃金差別を受けてきた人たちの実体を知り、「オレの方がまだましだな」と我慢してしまっては逆効果ではあります。

    例えば、こんな実例。

    近藤聖子さん(56)、福岡市、食品工場のパート。時給720円。正社員、派遣、パートが同じラインで入り乱れて働く。正社員が月20万円台以上、派遣が15万円、パートはめいっぱい残業しても10万円程度。熟練度が足りない派遣社員が「たったの15万円」と愚痴っているのを聞いて愕然とした。
    会社側がパートの賃金を10円上げると言ってきてよかったと思ったら、正社員が猛反発。自分たちに回るはずの賃金をパートに回すのはおかしいと。時給730円になるだけなのに、それでも許せないというのは、仕事ではなく、パートという身分を見ているからだと思った。

    あるいは、こんな皮肉な例も。

    りそな銀行は正社員もパートも同じ職務には同じ賃金の「同一価値労働同一賃金の会社」として知られる。同銀行の社外取締役だった渡邊正太郎さんは、賃金体系の切り変えには、経営危機の影響が大きかったと分析している。同行は2003年、自己資本が足りなくなって政府から公的資金の注入を受け、社員の賃金水準を大幅に引き下げた。その結果、パートとの賃金水準が接近し、賃金格差を是正しやすくなったという見方だ。

    男女差別をなくして、また復活させた例。

    兼松江商は、1960年代にお茶くみ廃止、1977年に労組婦人部の求めで22才男女同一初任給に。しかし、1983年、「コース別雇用管理」を含む人事改定案を会社が示す。男女別賃金は廃止する代わりに、「一般職(他の企業の総合職)」と「事務職(他の企業の一般職)」というふたつのコースを設ける。男性社員は全員「一般職」に、女性社員は全員「事務職」にふり分けられ、これまでの男女別賃金とほぼ同じ内容に固定されることに。しかも、1977年に勝ち取った男女同一初任給は、コースが違うので初任給も異なるとして、ふたたび差がつけられた。
    「ニュースステーション」(当時)が取り上げ、社内は大騒ぎになった。閉じられた差別の秩序の中では「当たり前」とされていた差別が、外の世界の風にあてられたとたん、そのいびつさをさらすことになった。
    性差別禁止を乗り切る、というアクロバットの支えとなったのが、コース別を容認した当時の労働省(現厚生労働省)均等法指針だった。

    情けないことする社員たちの実例

    名古屋銀行で1年契約パート勤めを長年してきた女性が、職業病を患ったので労災申請した。銀行としては職業病が世間に分かるのを嫌い、申請を取り消させようとした。拒否すると、夫が勤める会社に行き「アカの工員がいる会社とは取引せん」と圧力をかけた。
    労災が認められると、休ませて退職させようとした。しかし、銀行に出勤すると、周囲は口をきいてくれず、同僚が出張で買ってきたみやげの菓子も配られなくなった。


    その他

    先進国が加盟する経済協力開発機構(OECD)の2009年の調査では、「相対的貧困ライン以下(その国の中程度の所得の半分以下)の家庭のうちで働き手が2人以上いる家庭の割合は、日本は39%と、OECD加盟国平均の17%を大きく上回る。主要先進国中もっとも高い比率だ。既婚女性の多くが低賃金の非正社員で、共働きしても貧困から抜け出せない日本の現状を示す数字だが、ここにも賃金差別は影を落とす。


    大学教授でもある著者が、2011年秋、大学の授業で、パートの賃金差別訴訟について講義、感想を書かせた。学生の一人から次のようなコメントが返ってきた。「賃金は会社が決めるものでしょう。働き手がいろいろ言うのは変です。会社は慈善事業じゃないんですから」。

  • 津田マグ Vol.36『速水健朗の「本を読まない津田に成り代わってブックレビュー」《第19回》』で紹介されてた本。

    <blockquote>僕は平等な競争の結果、格差が生まれる社会は、よい社会だと考えます。「機
    会の平等、結果の不平等」ということです。しかし現実には、同じ労働内容でもまったく違った賃金が与えられるという機会も結果も不平等な現実が、日本の労働市場に渦巻いていると『ルポ賃金差別』は記しています。(速水)</blockquote>

  • 良かった。女性差別はもはや時代遅れと言われているが、実態は全く違うことがわかる。現実として賃金に差別は存在し、賃金格差を訴えても女性が付いていた職業は補助的な役割だから、という判決が出てることに驚きを禁じ得ない。

    派遣労働も同じ。やはり経営者側に寄った法律で、まだまだ自民党の支持基盤である中小の経営者にいかに媚びてるかがわかる。

    日本はこれからますます厳しくなる。パイがうまく分けられるようにしないと、酷いことになるのは想像に難くない。女性活躍を謳う現代、この本にあげられてるような事例がなくなっていくと良い。

  • パート労働は、所詮夫の収入がある女性たちの仕事、生活費がいらない女性たちの小遣い稼ぎ。こういった位置づけが、非正規の低処遇に対する社会的抵抗を阻んできた。女性の家計補助だからと、仕事の内容を問うことなく容認されてきた非正規は、いまや、男性たちにまで広がっている。また、シングルマザーも男性ではない、新卒ではないというだけで低賃金で不安定な働き方を余儀なくされている。非正規は理不尽に特定のカテゴリーへ押し込められ、低賃金でも当然だというレッテルを貼られ、働く意欲や気力を奪われている。安くても当然の人たちを作ることにより企業は人件費を抑え、労組の組織率を下げ賃金交渉力を弱体化させた。正社員は正社員で、あの人たちよりもましだからと賃金抑制にも怒らない羊と成り果てた。高齢者の低賃金再雇用は労働ダンピングを加速させている。著者は警鐘を鳴らす。この状況を放置しておれば、必ずそのツケがまわってくる時が来ると。

  • 正規雇用と非正規雇用の賃金格差の問題を、多くの実例ともに解説。分かりやすい本です。

  • [ 内容 ]
    同じ職場で同じ働き方をしていても、賃金に差が生じるのはなぜなのか?
    労働者の三人に一人が非正規雇用となり、受け取る生涯賃金にも大きな格差が生まれている。
    本書はアルバイト・パート・嘱託・派遣社員・契約社員など「働く人の賃金」に焦点を当て、現代日本の労働問題を考察する。
    賃金というものさしから、いま働く現場で何が起きているのかを読み解き、現代日本の「身分制」を明らかにする、衝撃のノンフィクション。

    [ 目次 ]
    第1章 賃金差別がつれてきた世界
    第2章 かけ替えられた看板
    第3章 「能力」と「成果」の罠
    第4章 労働と「ボランティア」の狭間で
    第5章 「派遣」という名の排除
    第6章 最悪の賃下げ装置

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 日本社会は、同じ仕事でも、出身地・性別・採用形態・雇用形態と様々な線引きによって自在に賃金に差をつけられる賃金差別大国である。

    同一価値労働同一賃金はよく聞く言葉だけれど、その意味の重要性を改めて認識しました。

  • 一章
    2011年、元京都大学図書館の雇用職員らによる「くびくびカフェ」が閉鎖された。運営者の一人である井上昌哉さんは、就活に苦しみ、内定後も苦労している同級生の姿を見るうちに正社員としての生き方に疑問を抱き、非正規職員としての生き方を選択した。そこへ上司からの雇用形態差別ともとれる言動、突然の整理解雇通告という、「人を人として扱わない対応」に怒り、ユニオンを結成した。裁判にまで進展したが、「彼らの労働はあくまで家計補助的労働」と位置づけられ、裁判長(京大卒)からは「なんで京大を出た人間がそんな仕事を選択したのか理解出来ない」という趣旨の説諭を受けた。






    自分用キーワード
    すかいらーくの過労死問題(店長という立場と、残業月200時間にも関わらず、契約社員のため同じ勤務年数の社員の八割しか給料を貰えていなかった) 釜田慧『自動車絶望工場』 公契約条例 職務評価(異なる仕事を比較するために行う) 

  • 図書館で借りた。

    就業の形態が正規か非正規かというのは、もはや身分制度として機能しており、職務内容とほぼ無関係に賃金が大幅に異なる状況を生み出している。ただ差がある格差ではなく、不合理なレッテルによる差別であると主張している。

    短時間職員が京大を訴えた2011年の事例、女性職員の差別を訴えた兼松訴訟など、ルポだけに色々な人の体験が読めて現在の非正規を取り巻く状況が実感できる。
    判決では原告の訴えを理解している部分があるけれど、なぜか敗訴していたり、裁判というものが分からなくなる。
    読んでいて不思議なことは、過去につくられた「妻つき男性モデル」のような考え方に企業が縛られていて、そこに当てはまらない人たちが安く使われていることだった。
    なぜ、妙なモデルをつくって給与を決めたのか、もう実体が崩れている考え方を変えようと思わないのか、仕事なのだから本書でも紹介されているような職務評価を行い仕事外の条件を持ち込まない評価をすべきではないか、と疑問がわいてくる。

    職務評価は介護の事例が載っていたので参考になる。これだけ派遣や委託が一般化しているのだから公契約条例ももっと知られるべきものだと思う。

全23件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

ジャーナリスト

「2021年 『POSSE vol.47』 で使われていた紹介文から引用しています。」

竹信三恵子の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×