近代中国史 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067241

感想・レビュー・書評

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  •  タイトルから筆者の他の著作にもある清末期の歴史本かと思っていたが、実際はより長い期間の社会経済史とでも呼ぶべきものだった。
     筆者は、国庫がない、「『官』『民』の乖離・政府権力の民間経済への不干渉」という特質を持つ「伝統経済」「『地域』経済」が明清期以降続いてきたとした上で、アヘン戦争後の「西洋の衝撃」でも基本的には変わらず、大きな転機は日清戦争だったと述べている。社会的には、中央政府が直接民衆を支配するのではなく、各地の「士」や秘密結社という中間団体が介在していたということだ。そしてこの体制は中華人民共和国の土地革命と管理通貨の実現でやっと解消されたとしている。
     太平天国相手に活躍したのが湘軍・淮軍のような私有の軍隊であったことや、その後の軍閥割拠の状況を考えるとイメージしやすい。また、筆者は「袁世凱」(岩波新書)でも清の中央政府の弱さを述べている。あれだけ広い国土だから仕方なかったとは思うが。

  • 中華というものができてからのこの国のストーリーが始まるのだが、実に濃い内容で読み切るまでに時間がかかってしまった。一度読むだけではそれぞれ細かい点が理解できないので、再読をして知識を深めたい。
    このところの情勢、中国の世界に対する影響度、日本の隣国という点を鑑みると、中国のことを学ばずに生きていくというのは、あまりに無学ではないかと本著で認識させられました。
    数多くの伝統と文化を日本に伝えてくれた中国。この機会に学を深めるのはいかがでしょうか。

    初読の学びとして、中国には中国なりのやり方があり、西洋の手法を単純に真似できないのは人口の多さが要因だと考えられること。そして物作りは歴史的に重要視されていて、得意な地域が群をなして独自の経済圏をそれぞれ作り上げていったそうだ。

    最後に余談だが、個人的にゆかりのある土地、上海蘇州一帯が、これまでの中国においていかに重要であったかを知ることができて誇らしく思った。そしてこれからも、引き続き大事な拠点となり続けるであろう。

  • 中国の社会経済構造を歴史的に解きほぐして語られており読みやすい。ただところどころに「反日」みたいな言葉が出てくるのはご時世なのかもしれないが歴史書として読んでいるととても引っかかってしまう。

  • OT7a

  • タイトルは「中国近代史」だけど内容は「中国近代経済史」。ただ経済史の側面から語られると政治史の流れもよく見える。「官」と「民」、「士」と「庶」が隔絶した伝統経済が長く続いたことが中国史の特徴。それは政治的には、支配階層は社会のごく一部の上層を支配しているだけで、民の末端まで支配は行き渡らない。秘密結社や地方組織の中間組織の上澄みをおさめてるだけで、中間組織は中間組織でその下をおさめるが、それすらすべてを治めるにはあたらず。中間組織も支配者をあてにできる部分はほぼないから、時に武装し、時に徴税する、それゆえひとたび歯車が狂えば、容易に支配者へ牙を向く、という見取り図。

  • 中国といふ国を考へるのに、非常に有益な本。多くの人に薦めたい。あとがきに、日本の中国研究は世界一の水準だとあつて、意外な感じがしたが、歴史的な日中の深い関係を想へば、当然か。教育が相変はらず欧米偏重で、自分を含めて、一般的な日本人の中国に関する知識水準が低いのが問題なのだらう。

  • 中国史を専門とする学者による近代中国史についてまとめたもの。緻密な研究に基づく詳細な記述がなされている。特に統治や経済のシステムの分析は詳しく、説得力がある。極めて論理的かつ学術的な良書。
    「(日本に比べれば)中国は行政上の都市化率がはるかに低い。つまり権力のコントロールがゆきとどいていないのである」p50
    「現代中国の歳入規模は、日本円に換算しておよそ90兆円、税収がその9割をしめる。GDPに大差のない日本では、税収は37兆円くらい。政府組織の差異や公債の発行を考慮に入れていないので、厳密な比較にならないものの、納税負担は中国が倍以上大きい計算である」p59
    「(モース)中国の官僚は、自己の保存、および自分の同僚、上司、部下の生存のためだけに存在しているといえる」p80
    「(イギリスは)ランカシャーの綿工業が興隆してくると、原料の綿花をはじめ、アメリカからいよいよ多くの輸入に依存しなければならない。アメリカもイギリスと同じく、中国茶の購入者であったので、アメリカに対するイギリスの支払いも、アヘン輸出の黒字でまかなえるような貿易構造とし、最終的な決済をロンドンの国際金融市場に集約させるグローバルな規模の多角的決済網をつくりあげた。いわゆる世界経済の形成にほかならない。これをイギリスと中国という場に限ってみると、イギリスの産業革命が進めば進むほど、より多くのアヘンが中国に流れ込む、という現象を呈する。アヘン貿易がなくなったら、産業革命のイギリス経済のみならず、世界経済もたちゆかなくなる可能性もある。そこにアヘン戦争が起こらざるを得ない必然性があった」p190
    「アヘンを持ち込み、売りつけたのは、確かにイギリスである。しかし中国には、その禁制品を欲する社会的需要と禁じ得ない政治的構造とがそなわっており、政府権力がいかに禁じても、その禁止令を骨抜きにしてしまう厖大、強力な受け入れ態勢が民間会社にあった。くりかえし禁止令を発したにもかかわらず、実現できなかったのは、政府当局が取り締まる有効な手段を持たなかったからである。それは民間の経済活動に対する権力の不干渉という清朝統治の体質に根ざしていた」p192

  • 170301読了 図書館

  • 【書誌情報】
    シリーズ:ちくま新書
    定価:本体880円+税
    Cコード:0222
    整理番号:1019
    刊行日: 2013/07/08
    判型:新書判
    ページ数:288
    ISBN:978-4-480-06724-1
    JANコード:9784480067241

     中国とは何か。その原理を理解するための鍵は、近代史に隠されている。この時代に、「幇」とよばれる中国団体をはじめ、貨弊システム・財政制度・市場秩序など、中国固有の構造がつくられたからだ。本書は経済史の視座から一六世紀以降の中国を俯瞰し、その見取り図を明快に描く。かつて世界に先んじた中華帝国は、なぜ近代化に遅れたのか。現代中国の矛盾はどこに由来するのか。グローバル経済の奔流が渦巻きはじめた時代から、激動の歴史を構造的にとらえなおす。
    http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480067241/


    【目次】
    目次 [003-007]
    中国全土図 [008]

    プロローグ――中国経済と近代中国史 009
    成長と謎の中国経済/異形の経済/中国を理解するために

    I ステージ ――環境と経済 017
    1 自然環境と開発の歴史 08
    中国という世界/黄河と黄土/黄河流域の灌漑/長江と江南世界/江南の開発/外界との関係/南北の対外関係
    2 人口動態と聚落形態 033
    人口の中国史/人口変動と時期区分――一四世紀まで/人口変動と時期区分――一五世紀以降/「邑」と「村」/「市鎮」とその増加/聚落形態と時代区分/日中の対比

    II アクター ――社会の編成 051
    1 政府権力 052
    財政への着眼/財政支出/汚職の慣習/財政収入/清代の納税/権力の位置
    2 科挙と官僚制 065
    「国」と「民」/二重構造/「士」「庶」の分岐/科挙の設立/特権階級の形成/科挙存続のメカニズム/官僚制のありかた/徴税と汚職
    3 民間社会 083
    「官」と「士」/「士」の分化/郷紳の役割/中間団体とその機能/宗族と同郷同業団体/人口増加とその影響/移住民の動向/秘密結社の叢生/一九世紀の世相と社会構造

    III パフォーマンス ――明清時代と伝統経済 105
    1 思想と行為 106
    言行不一致の中国/中国の統計/「ものづくり」と中国史/「重農」の虚構/「地大物博」と貿易/商業の位置
    2 明朝の成立と中国経済 118
    唐宋変革からモンゴル帝国へ/明朝のイデオロギーと現物主義/税制・徭役・貨幣/朝貢と海禁
    3 転換と形成 128
    遷都と大運河/銀納化の進展/「湖広熟天下足」――地方間分業の形成/貨幣制度の破綻/通貨の生成
    4 伝統経済の確立 138
    密貿易の盛行/「北虜南倭」/明清交代/明代の「商業革命」/「革命」と伝統経済
    5 伝統経済の特徴 148
    現物主義の残存/中央と地方/原額主義と請負/通貨としての銀/通貨としての銭/内と外/徳川日本との対比/財産・契約の保護――権力の不干渉/中間団体の役割
    6 景気の変動 166
    デフレの時代/「危機」の構造/回復の契機/貿易の発展と「盛世」
    7 経済体制と社会構成の定着 174
    人口の増加と移民/中国のマルサス/零細な生業/貧民の生活/固定的で不安定な重層社会

    IV モダニゼーション ――国民経済へ向かって 187
    1 序曲―― 一八七〇年代まで 188
    伝統と近代/貿易の旋回/密貿易の位置/買辦の起源/戦争・条約・開港の意味/伝統経済と綿布/貿易の増加と上海の勃興/外國と不平等条約/内乱と秩序の回復/釐金とは何か/督撫重権
    2 胎動―― 一八九〇年代まで 210
    輸出貿易の変化/地方の分業から分立へ/インド綿糸の流入/変化の様相/保護関税の成否/工業化の動き/企業経営/会社と合股/産業化の挫折/貿易と財政/財政再編の胎動
    3 進展――日中戦争まで 232
    観念の転換/借款・賠償金と中央財政/督撫重権から各省分立へ/「満洲国」の成立へ/軍閥の割拠/中央の挫折/袁世凱の遺産/第一次大戦と財政金融/「黄金時期」/対内凝集/国民政府の登場

    エピローグ――中国革命とは何だったのか 259
    限界/崩潰/共産党の登場/革命の展望――「改革開放」へ/現代中国と近代中国史

    あとがき(二〇一三年四月 晴れわたった賀茂の畔にて 岡本隆司) [270-273]
    参考文献 [viii-x]
    索引 [iii-vii]
    関連年表【BC221~2008】 [i-ii]

  • ・「いまの日本で、どんな職業・地位のものであれ、中国のことをまったく知らずに自由にふるまってよい、というのは軽率に失する」
    というようなことがこの本のあとがきにあって、いやはやごもっとも、
    と考えてしまうほど、日を追うごとに日本に差す中国の影がどんどん大きくなっています。

    ・「伝統」経済とは、つまり中国独自の社会趨勢や経済観に依拠した弾力的な構造であり、
    すなわち根本的に、中国人の価値観・行動原理に深く根刺しています。
    そしてそれはやはり、現代の中国人のなかにも脈々とうけつがれているようです(別の本も合わせて読んだ感想ですが…)

    ・どうして日本と中国は違うのか?という些細な問いにヒントをくれたような気もします。

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著者プロフィール

1965年、京都市に生まれる。現在、京都府立大学文学部教授。著書、『近代中国と海関』(名古屋大学出版会、1999年、大平正芳記念賞)、『属国と自主のあいだ』(名古屋大学出版会、2004年、サントリー学芸賞)、『中国経済史』(編著、名古屋大学出版会、2013年)、『出使日記の時代』(共著、名古屋大学出版会、2014年)、『宗主権の世界史』(編著、名古屋大学出版会、2014年)、『中国の誕生』(名古屋大学出版会、2017年、アジア・太平洋賞特別賞、樫山純三賞)ほか

「2021年 『交隣と東アジア 近世から近代へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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