- Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480067272
感想・レビュー・書評
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何しろ新書らしく分かりやすいのがいい。各国中央銀行の成立過程や役割といった基礎的知識から、日本のバブル前後の金融政策の変遷、貨幣数量説の限界を経て、非伝統的金融政策ひいては黒田緩和の問題点に至るまでの流れに澱みがなく、まさに一気に読める。同氏の「ポストマネタリズムの金融政策」が、主に(日本の異次元緩和前であったこともあり)米FRBにおけるマネタリストの挫折に重点が置かれているのに比べると、本書は題名どおり日本における金融政策にフォーカスしているためはるかに読みやすい。
同氏の従来からの主張は「ゼロ金利下での量的緩和は総需要に影響しない」というもの。大規模緩和後、マネーが流れ込んでいるのは主に株や不動産等、その都度生産されるわけではない「既存アセット」であり、消費者物価の上昇はいまひとつということをみると、同氏の主張は現状では当を得ているなと感じてしまう。また、クルーグマンのいう「無責任な中銀」に対する反論も直感的に納得できる。そもそも、「中央銀行がインフレ的な政策をとるからインフレが起こるに違いない」という期待には同語反復的な怪しさがあるし、本当にインフレを起こす勇気も事後策も、日銀にはないと思えるからだ。
おそらく黒田総裁もクルーグマンと同様、インフレ政策が有効であると頭から信じ込んではいまい。「やらないよりまし」だからだろう。だが、本書の最終章ではそれが巨額の財政コストとなり日銀のBSを両側から苛むことが指摘されている。このことも理解していながら、ここに市場がフォーカスを当てることを巧妙に避けようとしているのだとしたら、もの凄い胆力だと思う。
そもそも量的・質的金融緩和は、政治サイドからすれば中央銀行側に負担を押し付けながら緊縮財政という不人気政策をバイパスすることができるという、完全なフリーランチ。これが日米欧どの国でも選挙で真っ当に選ばれた政権に要請されたものだということに問題の根深さを感じる。民主主義の限界という言葉が頭をよぎる。
ところで、最近の日銀の発表(H26.4)によれば、日本の需給ギャップはゼロに近づいているのだという。失業にトラウマ意識のない日本人にとって、完全雇用水準に近づきつつあるにもかかわらずインフレ率を上昇させる意味はどのくらいあるのだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
[円の守護神]日本経済・金融において欠かせない存在でありながら、その歴史や業務についてはあまり広く知られていない日本銀行。一般的に中央銀行とは何かという議論から始まり、近年のアベノミクスに関する議論まで、日本銀行とそれを取り巻く事象を広く取り上げた作品です。著者は、自身も日本銀行へ入行した経歴を持つ翁邦雄。
昨今ではデフレ脱却の先導役としても大きな注目を集めている日本銀行ですが、実際に何をやっている組織なのかわからないという、初歩の初歩を知りたい方が手にするには本当にオススメの一冊。専門的になりすぎる(おそらくは)一歩手前で止めてくれているので、無理なく読み通すことができます。また、「日銀トリビア」的な情報も各所に散りばめられており、それがまた読書中に困難を覚えない一助になっているかと。
個人的に興味深かったのは、各国の中央銀行の歴史を比較した上で、その国や銀行が経験したトラウマが大きく中央銀行の政策決定に影響を与えているという点と、日本が非伝統的な金融政策を含め、世界各国と比較しても多くの実験的な政策をこれまで実施してきたという点。また、日本銀行はそもそもどういう役割を果たすべきかという根本的な点に筆を進めてくれたところに好感が持てました。
〜金融政策は万能薬ではない。高まる期待に対し中央銀行がどう折り合いをつけるか。そこに中央銀行の悩みがある。〜
網羅的かつわかりやすい解説書として☆5つ -
当時は初版が出てすぐの頃だったが、大学の図書館でこの本を見つけ一度読んでおり、今回約8年越しに改めて読み直してみた。自分が随分長く経済や企業活動に興味を持っているものだと気づいた。集中して目を通したのは7,8章のデフレ脱却の話。ここ最近読んだ本の主張は、デフレ脱却の道は緊縮財政ではなく、積極的な量的緩和(財政出動)の継続であることで一致していたが、本書では、中央銀行の限界を指摘。中央銀行による国債の購入(通貨量の増加)それ自体が財・サービスの購入に結びつかないことを読者に認識させ、波及経路をどこに求めるかというところまで検討している。日本におけるデフレの長期化については、ある知識人の、「中央銀行(日本銀行)が無責任な中央銀行であることを人々に確信させることが必要(インフレ期待を持たせる)」という主張を紹介し、それに対する日本銀行の対応が量的・質的量的緩和であるが、それが最適解になっていないと考察。日本の供給超過の背景には、人口高齢化などといった「漠然とした不安」が背景にあり、本書のベビーシッターのクーポンの話で厳冬で誰も外出したくない状況と例えられている。筆者が考える波及効果は、「持続性のある魅力的なイベントの創出(需要創出型のイノベーション)」としており、ここまでの本書の流れからは意外な回答だった。道を整備するなどといった政府が企画できる公共事業では、単発で持続性がないと評価している。どんな状況であれば魅力的なイベントが生まれやすい世の中になるのか、次の勉強のテーマが決まった。
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途中までは、日本銀行というより日本銀行発足のための世界の中央銀行の歴史・業務について記載があり、わかりやすい。しかし、途中の経済政策の話から、ある経済知識が前提となっており、すべてをくまなく理解するということができなくなった。その部分については再読したい。
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【由来】
・図書館の新書アラート
【期待したもの】
・日本銀行のこと、何も知らないので基礎知識ぐらいは、と思って。
【要約】
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【ノート】
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金利や経済との差分を読むのが面白い
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出口治明さんオススメ
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<内容>
なぜ中央銀行に注目が集まるのか
→財政制約を抱える中で「無尽蔵」にお金をする事が可能だから。
*各国の中央銀行の位置づけ、政策目標
各国のトラウマが関わっている(ドイツ:ハイパーインフレ、アメリカ=大恐慌、日本=恐慌)
・日本…バブル経済期の成長を前提として、経済政策を考えているためデフレ期にも比較的健闘しているにもかかわらずそう認識されていない。
*速見総裁によるゼロ金利解除←日銀の独立性という観点から時期尚早の政策変更を実施。
<コメント>
・筆者は吉川洋と同様の発想:日本経済の成長のためにはイノベーションが不可欠→実質賃金の引き下げがデフレの要因
というもので、この点は同感。
・アベノミクスは見かけ上、成功しているように思われている(なんら裏付けはないが)、中長期的なリスクについては十分検討するべき
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翁邦雄の作品





