生活保護:知られざる恐怖の現場 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067289

感想・レビュー・書評

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  •  蔓延する「生活保護バッシング」に対する批判・反論の啓蒙書。行政窓口やケースワーカーによる「水際作戦」、「追い出し」、パワハラ、辞退強要、自殺誘導など違法行為の実態、被受給者の非人道的な生活状況、劣悪な「ブラック企業」「貧困ビジネス」や底辺労働と生活保護の悪循環などを告発し、近視眼的な受給者削減策や受給者監視・圧迫策がかえって貧困者の自立を阻害し、貧困層の固定化・拡大と財政コスト増につながっている実情を具体的に示している。バッシングの原因となる「生活保護を受ける貧困者」と「生活保護を受けずに劣悪な労働環境にとどまる貧困者」の分断状況を打開するために、特定の貧困者を狭くカテゴライズして差別的に扱う現行制度から、ナショナルミニマム確立による普遍的な福祉への政策転換も提言している。この本を読んでもまだバッシングを続ける者はもはや合理性を欠いているといえ、ある意味合理的な人間と非合理的な人間を区別するリトマス試験紙のような本といえる。

  • 著者は、若者の労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」の代表。彼のブラック企業関連の著書は2冊読んでいるが、本書は“隣接分野”ともいえる生活保護がテーマだ。

     著者は、労働法を専攻していた大学時代から労働相談を受け始め、現在までに1500件を超える相談にかかわってきたという。相談の中には、生活保護をめぐるものも必然的に多い。本書は、著者および「POSSE」のスタッフたちが実際に受けた相談事例に基づく内容である。

     「知られざる恐怖の現場」という副題は読む前には大げさに思えたが、読んでいるうちに本当に恐怖と怒りを覚えた。それほど、生活保護を求める困窮者に対する行政側の扱いがひどい。

     生活保護をめぐる行政の違法行為といえば、何人もの餓死者を出した北九州市の「水際作戦」が悪名高いが、本書を読むと、同様の事例が全国各地で頻発していることがわかる。

     生活保護の申請を受け付けない門前払いのみならず、受給者へのパワハラやプライバシー侵害、不当な受給打ち切りなどが横行しているのだ。

     本書で例に挙げられている、ケースワーカーによる受給者への暴言。

    《「生活保護を受けている分際で車を持つとは何事か」
    「自殺したいという奴は、自殺なんかしない。心配なんかしない。なんで区役所なんか相談くんの!」
    「ホームレスになったら申請できる」》

    《「血管が切れて倒れて、障害が残ったら楽になれるよ」。
     これは、高血圧症を抱える生活保護受給者のMさんが、医療券の受け取りに行く際に、ケースワーカーが言い放った言葉だ。失業中のMさんは月に一度、医療券をもらいに行くたびに、「いつまでももらえると思うなよ」「高血圧でも仕事はできる」などと就労をせかす厳しい言葉を浴びせられている。「楽になれる」とは、障害者になると就労指導の対象者でなくなり、就職活動から解放されるという意味だ。》

    《父子家庭の父親であるOさんは、千葉県で生活保護を受給しながら、県内外を問わず求職活動にいそしんでいた。彼が就職を急いだのには理由がある。保護を受給し始めて間もなく、担当のケースワーカーから「子どもを孤児院に入れるなら、受給し続けていい」と告げられたのだ。》

     また、次のようなひどい事例もある。

    《2012年3月、京都府宇治市で母子世帯の生活保護の申請者に対し、異性と生活することを禁じたり、妊娠出産した場合は生活保護打ち切りを強いる誓約書に署名させていたことが発覚した。》

     福祉の現場では、母子家庭の母親が男性とつきあうと「腐れ母子」と呼ばれるのだと、以前読んだ『ルポ母子家庭』に書いてあった。本書を読むと、そのような偏見・蔑視がけっして特殊なものではないとわかる。

     生活保護行政の問題点を追及する一般書は多いが、本書はその中でもかなり優れたものだと思った。
     著者は労働法などの研究者であり、貧困問題の現場で奮闘する活動家でもあるから、生保行政全体の構造的問題点を見抜くマクロな視点と、困窮者と「同苦」する現場感覚を兼備しているのだ。

     私自身は、公務員を十把一絡げにバッシングして溜飲を下げるようなことに、強い違和感を覚えるものである。
     生活保護行政の現場でも、本書に出てくるようなひどい連中ばかりがいるわけではなく、困窮者のため懸命に尽くしている公務員も多いはずだ。

     だが、本書はやみくもな公務員叩きの本ではない。違法がまかり通る生活保護行政の現場を冷静に告発し、そうした違法を生む構造にまで迫った本なのだ。

     近年の「生活保護バッシング」が、行政の暴走を後押していることも浮き彫りにされている。
     たとえば、生保受給を希望する人に申請書を渡すことを拒否した舞鶴市役所の担当者は、そのとき「生活保護バッシングの中で市民の声があるから遠慮してくれ」と言ったのだという。

     ブラック企業を冷徹に追いつめてきた著者が、同じような冷徹さで生活保護行政の暴走にメスを入れた本。問題の根っこまでがよくわかる良書だ。

  • 日本国は、ここまでダメになったのか愕然とする。二極分化、格差拡大がもはや止められない潮流なんだろうか。不幸の相対的優位による幸福度の極大化は悲惨を招く。

  • 勉強としてではなく、あくまで読み物として読みました。生活保護行政への批判が多く、あまり建設的ではなかったように思う。「違法」な生活保護行政の実例が紹介されているのだけれど、本当なのかな・・・

  • 本書では、あくまで受給者側から見た生活保護行政の問題点と改革の方向性が指摘されている。
    ここで紹介されているような、「生活保護をできる限り受けさせない」という方向での生活保護行政の「暴走」の実態は確かにあるのだろう。そういう側面を告発するという意味で本書の意義はあると思う。また。多大な監視コストをかけるより、社会保障の充実により「貧困化のサイクル」を防いだ方が社会全体として経済的という問題意識からの、普遍主義的なナショナルミニマムの構築という今後の方向性の提案も一理あるとは思う。
    しかし、本書は受給者の立場に肩を入れ過ぎなように感じる。違法行政の実態があるにしても、なぜそのようなことになってしまうのかについて行政側やケースワーカーの視点がほとんどないので、事実の一面しか捉えられていない気がする。また、不正受給が全体のごく一部にしか過ぎないという本書の説明と同様に、違法な生活保護行政も全体の中ではごく一部なのではないかという疑問もぬぐえない。
    そして、本書では善良な弱者としてしか生活保護受給(申請)者が描かれていないが、本当にそうなのかという疑問もある。本書で取り上げられている舞鶴市の生活保護申請者のケースにしても、そのような困窮のさなかにきちんと交際していない男性の子を妊娠するというのは社会常識的に理解しがたいものがある。これに限らず、生活保護申請に至るまでの生活態度等に問題があるケースは少なくないと思われる。生活保護申請を受け付けないといった対応がよくないのはもちろんだが、単に生活保護を受けられたらそれでよいのではなく、どうしてそういう状態になってしまったのかを受給者に認識させ、その根本を改善するという視点も必要ではないかと思う。
    最後に、普遍主義的な社会保障を実現するにあたって、著者が財政制約をまったく考慮していないことも気になった。生活保護に限らず、社会保障費が年々増大していくなかで、単に社会保障の充実を図っていくというのは持続可能性の点で無理があると思う。生活保護充実ための財源をどうするのか、他の社会保障制度との関係をどうするのかといった点をもう少し深めてほしかった。

  • 自分用キーワード
    周囲の目(怠け者、就労意欲がない、人の金で生活していると思われる) 社会との繋がり(支給金では交際費、冠婚葬祭の費用を捻出出来ない) 子どものアルバイトの未申告(きちんと申告すれば控除の対象になる) 水際作戦 京都府舞鶴市、天王寺区・北九州市小倉北区、 門司区餓死事件 生活保護法第62条4項 ポストの中身チェック(令状が無ければ警察でも出来ない) 生活保護法第7条 ケースワーカーからの暴言 親子を引き離す指導(子供を孤児院に入れるなら受給しても良いなど) 全国生活と健康を守る会連合会 無料定額宿泊施設(人の住める状況でない所がある) ケースワーカー:人員、専門性不足(人件費・事務費の逼迫、人事異動の早さ・無資格者や資格の有用性の疑問) 方面委員  

  •  「ブラック企業」の今野晴貴が現在の生活保護の問題点を実例を多く交えて指摘する。

     水際作戦や受給後のハラスメントなどによって必要な生活保護が正しく行われないことによって貧困問題がより深刻化している様子がよく分かる。さらになぜこういったことが起こるのか、対策は何かについても書かれている。

     もし自分や身近な人が生活保護の申請が必要になったら、直接申請に行かず適切なNPOに協力してもらった上で申請に行こうと強く思った。

  • 生活保護を単純に叩く前に調べて欲しい。

  • 芸能人の母親が生活保護をもらっていた、という件で妙に火が着いた生活保護バッシングと、役所の違法性十分な対応。それにどう対応してきたかという実例をあげ現状の生活保護制度の問題を指摘する本…だと思うのだけど、プラス側もマイナス側も、こんな例があった!と喧伝すればするほど、その特徴的な例は全体の判断をすることに参考になるのか? と疑問にも思うのだった。社会的価値をもっと訴えたかったけれど、目を引く実例が必要だった、とすれば、マスメディアのそれとあまり変わらなくなってしまう。本を売るという点では苦渋の選択だった、のかな…?
    ただし、もし本書の紹介例が極端なイレギュラーだったとしても、役所の対応は断じて許されるものではないし、そもそも生活保護制度というのが、一旦落ちるところまで落ちないと使わせないぜ、というものであることが社会的な大きな誤りではないか。改正法と自立支援法というセーフティネットの名のもとに、門前払いが強化されていくのだ。
    選別と不正受給の確認ばかりにコストを掛けずに、この辺から落ちないようにしようね、として、国民全体を支え、将来を考える、というのが国家百年の計ではないのか。増税もするんだしよう、頼むぜ!

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著者プロフィール

POSSE代表

「2021年 『POSSE vol.49』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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