つながる図書館: コミュニティの核をめざす試み (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (238ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067562

感想・レビュー・書評

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  • 「未来をつくる図書館」からの流れで選書。
    大変満足のいく一冊だった。
    多岐にわたる綿密で丹念な取材。平明で読みやすい文章。
    あえて答えを出さずに読み手に課題を投げかける手法に、図書館への愛情を感じる。
    本好き・図書館好きな方には特にお薦め。

    第1章 変わるあなたの町の図書館
    第2章 新しい図書館の作り方
    第3章 「無料貸本屋」批判から課題解決型図書館へ
    第4章 岐路に立つ公立図書館
    第5章 「武雄市図書館」と「伊万里市図書館」が選んだ道
    第6章 つながる公共図書館

    1章から5章までは図書館というハコモノの紹介のようにも読める。
    だがなかなか奥が深く「指定管理者制度」導入の是非に話は広がっていく。
    制度導入の成功例としての「千代田図書館」。
    ビジネスパーソン向けの先鋭的な図書館として有名だが、区の財政状況が良好だから出来るということではないと言う。
    首長の強い意志と図書館長がラインに直結していることが重要だと。だがこれがまた難しい。

    制度導入をしなかった長野県小布施町の「まちとしょテラソ」の例もある。
    こちらが画期的なのはまず町民の意志と願いがあり、官民の協働で生まれたという点。
    図書館長も建築設計者も公募だったというのだから、驚いてしまう。
    しかも、新図書館では年間来館者が7倍にも上がったというのだ。
    著者が奨励するのはこの方向性らしく、住民にとって満足度が高ければ利用者も増えるし大切にもされるだろう。
    手間暇のかかる作業だが、資金の問題も官民ともに考えることでクリアできるかもしれない。

    良い点と問題点と双方を含む「武雄図書館」も例に挙げられる。
    経済的効果を図書館に求めてはいけないのか、これは何とも難しい。
    行政関係の方からは好評というのが、本音なのだろう。
    地域住民が望んだものであれば、それもまた良しとするしかないのでは。
    図書館の良さ(読書することの良さ)など、一朝一夕に解答が得られるものではない。
    これから新図書館を造ろうとする人たちに良い手本を示せるよう、有効な利用例をぜひ紹介してほしい。

    ところで、読書を日常的な習慣とするひとは5%程度らしい。
    図書館利用者も、ほぼ同程度だろう。
    これは少ない。あまりにも少なすぎる。
    読書人口が増えれば、よく考える習慣もつき、日本はもう少し良い国になるかと思う私などは、先ずは本好きさんを増やすことでしょ、と考える。
    課題解決型の図書館が、あるいはその突破口となり得るかもしれない。
    図書館に何を求めるのか、そこから考える入り口としての良書。
    5年前の本なので、現在は状況も変化してることだろう。
    それがどうか、利用者にとって良好な変化でありますように。
    「良い公共図書館は、つながり広がってゆくのだ。」

    それでは皆さん、どうぞ良いお年をお迎えくださいね。

  •  確か“Gunosy”経由で『走れ!移動図書館』とあわせて知り、新年早々になんとも印象深く残った一冊となりました。現在の私自身の興味がこの辺りを漂っていると言うのもあるでしょうが、あらためて“Gunosy”の便利さを実感しています。

     “図書館は私の書斎だ”、そんな風に言い切る著者・猪谷さん、その方が、ただの“無料貸本屋”ではなく、あくまで「利用者に寄り添う“情報サービス”機関」として変化をし始めている図書館たちについて取り上げた内容となっています。

     確かに“本”は古くから慣れ親しんできた情報資源(メディア)の一つですが、それが全てではなく、最近では、新興のデジタルメディアもその収集対象となりつつあります。

     “『知識は万人のものである』ということ。”

     その根底にあるのは、「図書館の社会的使命は様々な“情報資源”を収拾し、必要とする利用者に情報を提供すること」との点でしょう。

     それらを語るための題材として取り上げられているのは、「武蔵野プレイス」「千代田図書館」「小布施町まちとしょテラソ」「鳥取県立図書館」「武雄市図書館」「伊万里市民図書館」「国立国会図書館」「飯能市立図書館」、そして「島根県海士町の図書館」など、全国から多種多様に。

     “利用者目線からいえば、図書館にカフェや書店があり、
      夜まで開館していることは無条件にうれしい。”

     中でも武雄市はTSUTAYAとコラボしたことで、賛否両論入り混じりながら話題になっていたのでご存知の方も多いかと思います。もちろん、個人情報の取り扱いや公共性の担保、商業施設との棲み分けなど、懸念点も多く指摘され、実際に問題にもなっています。

     それでも、まずはやってみないと分からないだろうと言うのが、個人的は思います。

     “この十年で全国に広がりつつある
      図書館による地域の課題解決のためのビジネス支援”

     なお、武雄市図書館の集客力は飛躍的に高まり、宿泊客や車での観光客などのシャワー効果で地域経済にも影響を与えているとのこと(試算で年間3-4億)。地元だけではなく、市外・県外からも多くの方が来られていて、これは非常に興味深い現象です。

     ただ、武雄市のこの成功は指定管理者制度の“功”の部分でしょうが、同時に、表に出てこない“罪”の部分、特に雇用が不安定であるがゆえにサービスの継続提供が不安定にならざる得ないとの辺りについても、把握しておきたいところ。

     “(図書館の新しい価値は)いろいろな人が訪れ、いろいろな情報が揃っています。
      新しい情報と人がクロスし、出会える。”

     人が情報を求めるのは、やや大上段に言えば「一人一人が、自分に自信と誇りを持って生きていくため」と思います。そのための“情報のハブ(本書ではコミュニティの核と表現されています)”となる施設が、図書館に代表される“生涯学習施設”であろうと、そんな風に感じた一冊です。

  • 猪谷さんて何者?!この本は買いです。内容が素晴らしい。全国各地の素晴らしい図書館について書かれている。行ってみたい図書館ばっかり!

  • 図書館職員なのに,今やっとこの本を読んだ。面白いのは,ソーシャル・デザインの授業で知った様々なまちづくりプロジェクトを起こしている地域と,ここで紹介されている図書館との地域がかぶること。まちづくりそのものが図書館を中心にされている事例も多く,実はあまり公共図書館を使ってこなかった私には,ある意味新鮮だった。図書館にはそんなにも力があるのだろうか・・・と。
    一つ,面白いなと思ったのが,「課題解決型図書館」がクローズアップされた背景には,貸出が自動化されるなどの状況の変化から,「司書不要」のような流れがあり,それを止めるため,司書でないとできない仕事を作る必要があった,というくだり。これ,大学図書館にラーニング・コモンズをつくろう,って言われ始めたときときわめて状況が似てるなあと思った。考え方が,やっぱり,「図書館ありき」であって,人々が豊かな社会を創るときに何が必要かって考えられたってわけじゃないんだなあ,と。今でこそ,ラーニング・コモンズの必要性はわかってきて,ハコモノさえ作ればいいんじゃないってことも浸透してきてるけど,じゃあ,どうすれば,っていうのが必ずしも利用者の視点にたってない感じはする。現場で働く司書は,その意義は十分わかってる人が多いはずだけど,上部機関がそのあたり理解してなかったり,だからハコモノになってしまったり。
    ここで紹介されてる素敵な図書館たちが,特に珍しくもなくあちこちに存在するようになったら,もっと暮らしやすい,心豊かな社会になるんだろうなあ,という気がします。

    • 秋川のピエールさん
      同感です。この前、出張帰りに武蔵境駅で途中下車たけど、なんと休館日。残念会ということで、同僚とドリンキング・コモンズに行って、語り合ってしま...
      同感です。この前、出張帰りに武蔵境駅で途中下車たけど、なんと休館日。残念会ということで、同僚とドリンキング・コモンズに行って、語り合ってしまいました。
      2014/11/15
  • 私設図書館の棚にあったこの本を手に取り、一気読み。
    各地の公共図書館の効果的な取り組みを紹介しつつ、指定管理者制度や官製ワーキングプアの問題にも触れている。
    あるべき公共図書館の姿について考えるきっかけをくれる一冊。
    どの世代も選ぶことなく、全ての人が集まれるのが図書館、という言葉にはっとした。そんな場を、減らしてはならない、守らねばならない、そう思えた。
    居場所は、誰にとっても必要で、図書館がそのひとつになるのだから。
    その重要性に気づく人、そして利用する人が増えることを願う。

  • 2014 1/18読了。京都駅のふたば書房で購入。
    巷で話題の図書館関連新書。
    海土町のお話以外はさすがに業界内ではみんな知っている話、ではあるんだけれど、それら要点をこの分量にまとめているのは有り難い。
    学生に「最近、公共図書館業界で話題になっていることとか争点とか知りたかったらとりあえずこれ読んどけ」って紹介したいレベル。ていうかしよう。

  • 地元の図書館の裏側を知りたくなった。代官山TSUTAYAに初めて行ったときの感動は忘れられない。なぜか、図書館、本、コミュニティ、町づくり、って聞くとワクワクしちゃうんだよね。やっぱ、ひとが人をよぶんだよね。地域や土地柄も大事だけど、どんな人のために、誰を動かしたいのか、誰が集まるのか。1番はここだと思う。

  • 田舎の小さな図書館や大学図書館しか利用したことがないので、国内にこんなおしゃれな図書館があるのかと驚いた。図書館巡りをしてみたいと思うと同時に、「図書館×カフェ」「図書館×アート」など、SNSのようについついアクセスしてしまうような、居心地の良い図書館が増えればいいなと思った。

  • 未来を育てる
    ひとを育てる
    公共図書館の使命は長期的なスパンで考えなければならないことだが、現実問題としての日本社会全体の衰退-人口減少、経済停滞、緊縮財政-による予算削減という直近の課題をクリアせねばならない。そういった厳しい状況の中で地道に地域に根ざした努力を重ねて新しい可能性を切り開いている数々の図書館に取材して希望のある内容になっている。

    民間への業務委託についての考察が特に良かった。問題は委託制度そのものではなく、その運用の仕方で。委託によって直営ではできない何を達成するのか、それは本来の公共サービスの存在意義にかなっているものなのか。目指すものが明確で、市民にもそれが共有されているのか。目的を達成し維持するため全体をしっかりと統括するガバナンスが必須であることがよくわかる、TRCとCCCを対比して両方きちんと取り上げているのでわかりやすかった。

    地方政治との関わりについてはもう少し掘り下げてもらいたかった。図書館運営の方向性(ひいては地域の自己投資の優先順位)が、首長の理念や理解に大きく左右されるのであれば、市民はそこにどのように関わっていくべきなのか。より多くの市民が、受け身ではなくてもっと「当事者意識」を持って政治に関心を持ち働きかけていく土壌を作っていくにはどうしたらいいのか。

    後書きにあった、東日本大震災後の被災地の図書館の姿、その後の民間委託された図書館への評価などを含めた続編が読みたいと思った。

    しかし出版不況にしても、図書館の将来にしても、地方の人口と経済がどうにかならないと、こんなに皆各地で努力しているのに早晩限界がきてしまうのではないかと心配にもなる。

  • なんでかわからないけれど読んでいて何回か涙が出た。
    やればできるという達成感よりも、未来を担う子供たちのためとか、町作りとか、図書館と人あるいは人と人のつながりが見えたからかしら。
    海士町の話はとくにそうだった。

    本書は冒頭からわくわくするような図書館がいろいろ出てくる。司書さんだけでなく図書館に関わる人はこんなにも熱いのかと思う。はたから見ているととても静かなので気づかないのだろう。

    伊万里市と武雄市の図書館の章は、とくに武雄市について賛否両論を載せ、しかし筆者はそこに踏み込まず、別の希望を載せているところがよかった。

    県立と市立それぞれの存在意義や、無料貸本屋からの脱却のところも読んでいて面白かった。

    図書館も他を真似していては没落するし、住民はどういう図書館がほしいかを考えていかないとうまくいかない、という厳しい宿題に頭を悩ませる。

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著者プロフィール

猪谷 千香(いがや・ちか):東京生まれ。明治大学大学院博士前期課程考古学専修修了。新聞記者、ニコニコ動画のニュース編集者を経て、2013年にはハフポスト日本版の創設に関わり、国内唯一のレポーターとして活動。2017年からは弁護士ドットコムニュース記者。『つながる図書館』(ちくま新書)、『その情報はどこから?』(ちくまプリマー新書)、『町の未来をこの手でつくる』(幻冬舎)、共著に『ナウシカの飛行具、作ってみた』(幻冬舎)がある。

「2023年 『小さなまちの奇跡の図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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