日本劣化論 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067876

感想・レビュー・書評

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  • これまでの国家が軒並み崩壊すれば、世界中の個人同士が有機的に結び付いた平和な世界が誕生するとでもいうのだろうか。

    我が国の右翼、左翼共に厳しく批判しつつ、得意分野ではやたら細かい議論をするかと思えば、原発、沖縄関連などでは、頭ごなしの結論を押し付けるが、結局現状に対する具体的処方箋は何ら示されない。

    新旧アナーキストによる放談録といったところか。

  • 社会
    政治

  •  『永続敗戦論』が高い評価を得た若き政治学者・白井聡と、親子ほども年の離れた笠井潔との対談集。

     対談集というのはじつにピンキリであって、出来の悪いものは、文章で書いた著作をただ薄めただけの内容になる。作り手の側が、「忙しくて本を書く時間がないから、対談でやっつけちまえ」という安直な姿勢で臨むとそうなるのである。

     対談集なら、丸一日もあれば1冊分の対談は済んでしまう。あとはライターにまとめさせて、本人たちはゲラでチョイチョイと訂正・加筆すればいい。手抜きしようと思えばいくらでも手抜きできるのが、対談集なのだ。

     だが、本書はそういう手抜きには陥っておらず、非常に中身の濃い対談集になっている。おそらく、話されたままの内容ではなく、両者ともかなり時間をかけて加筆していると思う。

     内容は、おおむね『永続敗戦論』の延長線上にある。つまり、戦前~戦後から現在までの日本の歩みを射程に入れながら、日本の「いま」と「これから」を論じた時事的政論だ。

     かなりの紙数を割いて、「反知性主義」をキーワードに、日本の保守の「劣化」が論じられる。とくに安倍晋三については、「ネトウヨレヴェルの総理大臣」として完膚なきまでに叩き斬っていて、読み応えがある。
     さりとて、サヨ的内容かといえば意外にそうでもなく、右も左もなで斬りにしている。

     また、“21世紀の日中戦争”の危険性を説得的に論じたくだりや、天皇制についての突っ込んだ言及、歯に衣着せぬネトウヨ批判は、いずれもラディカルで刺激的である。

     何より、両対談者の使う言葉がいちいちカッコよくて、「うまいこと言うもんだなあ」と感心させられる。
     私が感心したくだりを、いくつか挙げてみよう(カッコ内は発言者)。

    《笠井 欧米に見下されながら、欧米を模倣して今度はアジアを見下してきたのが、要するに近代日本です。オリエンタリズムの客体でありながら主体でもあるという倒錯的二重性と、日本による対アジアの特殊な暴力性は密接に関係していました。とすれば、かつての日本軍の残虐性と、今日の排外主義の屈折した暴力性は連続していることになりますね。》

    《議会政治とは、街頭で闘われる叛乱の政治の結果として生まれたにすぎない。デモを議会制民主主義の潤滑剤におとしめる俗論が目に着きますが、デモこそが議会制民主主義の生みの親であることを忘れてはなりません。(笠井)》

    《反知性主義というのは、知性が不在だということではなくて、知性への憎悪ですから。(白井)》

    《社会運動というのは、ある種交差点みたいなものであって。運動自体はこれといって何を成し遂げるわけではなくても、そこを通過することによっていろんな方向に発展していく可能性があります。(白井)》

  • 笠井潔氏のミステリは大好きなのだが、作品と作家の思想が別だというのはもう散々思い知ってきたこと。
    「見たくないものを見ろ」と、最悪のケースを提示し、不勉強をなじる。ごもっともなのだが、知識人の方々の例に漏れず「ネトウヨ」というレッテル貼りと憎悪、政府を馬鹿にする態度はちょっといただけない。
    彼らの言う「反知性」が何なのか良くわからない。「俺たちの思い通りにならないもの」ということなのか?
    「俺たちは頭が良く、あいつらはバカだ」という認識は、本書で語られるある種の人達と同じ思考形式ではないか。相手も普通に賢い人々だ、という認識を持たないと、実は自分たちがもっと頭のいい誰かに操られているのだとしても気づかないだろう。
    批判する時に「聞いた話」「噂」ばかりが根拠になってるのも思考バイアス感が強い。
    彼らの理想である主権国家の超越の実現にはネットの利用、ネット住人の協力は不可欠だろうに、それらを敵視してる。
    仲の良い人たち同士で思念がグツグツ煮詰まっていくさまは「オタク」の深化と違いがあるのだろうか。

  • 白井聡は初めて読む。わりと真っ当な思考の人かな。
    笠井潔は60-70年代の話するときが一番面白いなあ。

  • 『転換期となる八十年代後半からは、RPGの「ドラゴンクエスト」が大流行しました。僕は「ドラクエⅤ」までプレイしましたが、あれこそ現代的な教養主義だろうと思っていた。

    ドラゴンをたおし、王国に平和んもたらすという最終目標に向けて、呪文を覚え、金を稼いで武器を買い、経験値を高めていく。

    これって、労働と教養を背中にしょって山頂を目指し、営々と山道を登り続けるヘーゲル主義そのものじゃないですか。

    実際、ゲームをクリアするためには、コントローラーのボタンを押し続けるという「労働」が必要なんです。

    ……

    興味深いのは、ゲームの中で懸命に獲得した能力のすべてが、ドラゴンを倒して頂点を極めた瞬間に無効になってしまうことです。

    呪文の「ギラ」も「メラ」も、ゲームの外に出ればなんの意味もない。「ドラクエ」という教養主義は底が抜けていました。その作り物性、クリアしたあとの空虚感や無力感がまた現代的だったんでしょう。』

    いいね〜、笠井節。笠井先生は推理小説も論考も面白くて素晴らしい。

  • 右、左がはっきりしていた時代に比べて、どちらも勢いがない。そういう状況を「劣化」と称するのは、わからなくはない。方向を模索中の日本に対して多角的に論ずる。

  • 戦後日本、戦後世界を分析したもの。
    親子ほど世代の違う2人の対談。
    面白かったがこの本だけではわからない。

  • 白井氏は永続敗戦論の著者で左翼系社会学者。しかし本当に全うな考えの持ち主で、指摘は的を射ている。経団連の米倉会長が福島原発の爆発を見ながら、原子炉が地震と津波に耐えて誇らしいと言ったことについて殆ど狂人に近いと言い、自民党やネトウヨが伝統には何の興味も無く、天皇に対して驚くほど敬意が無いとして、現在の右傾化の軽さを指摘。安倍総理が何回も河野・村山談話を継承すると表明せざるを得ないことをマゾヒストかと思うが、単に頭が弱いだけと切り捨てる。また、反原発デモが最高潮になり、国会前道路を国民が解放したことについて、あれを機に警備が格段に強化され、封じ込められたが、それは権力側が国民運動に恐怖を覚えたことであり、それ自体は小さなことだが、そのような事を何回も繰り返す必要があると述べた。さらに小沢一郎氏について、二大政党制を目指す態度を評価している。小沢氏がかつて自民党を割ったこと(これはソ連が崩壊したため必然があった)、そして現在は「あなたは殆ど社会党ですか」としつつ、二大政党制を志すならば新自由主義と対抗するナショナルな社会民主主義しか有り得ないとする。また沖縄問題は沖縄独立に言及していた。私のお気に入りでもある、カヌチャベイリゾートは辺野古基地移設が成れば観光地として終わりと指摘してあった。全て腑に落ちる事この上ない。白井氏が一番伝えたいことは、今まで連綿と築き上げてきたおかしな文明を維持するために間違ったことをやり続け、一向に悪びれる様子が無い政権に抗うため、震災の衝撃を素直に表現し、政治の場に移しトラウマを受け止めよう、とのことである。笠井氏も今からうんざりすることは、もし日中戦争が起これば、結局は日本の敗北となり、今のネトウヨ連中が真っ先に対中迎合派となり中国賛美を始めるであろうことだそうだ。当の笠井氏は中国が攻めてきたら反戦主義を捨て、ゲリラになって徹底抗戦するしかないと言っているのに…

  • 主義や思想に同意するとか、そういう問題は別にしておいて、日本の思想史を知り、流れを知ることで、現在の状況を理解する助けになる。
    特に過去の大物たちの思想的な相互関係は興味深く、一面的な捉え方ではわかりにくかったことが納得できたりした。そういう意味でも、賛成反対という自らの意見はさておき、良い本だと思う

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著者プロフィール

作家・評論家。1948年東京生まれ。
79年『バイバイ、エンジェル』でデビュー。98年編著『本格ミステリの現在』で第51回日本推理作家協会賞評論その他の部門を受賞。2003年『オイディプス症候群』と『探偵小説論序論』で第3回本格ミステリ大賞小説部門と評論・研究部門を受賞。主な著作に『哲学者の密室』『例外社会』『例外状態の道化師ジョーカー』他多数。

「2024年 『自伝的革命論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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