もじれる社会: 戦後日本型循環モデルを超えて (ちくま新書 1091)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480067906

感想・レビュー・書評

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  • 自分の境遇がいかに恵まれているかを再認識させられた本。勉強したくてもできない子供、働きたくても働けない大人、子育てに押しつぶされる女性…。自分は一歩違えばこうなっていたと思いました。運がよかっただけ。社会的に困っている人を見て「自業自得」と思わないようにすること、そして、そういった人たちにもチャンスがある社会を作るために、選挙に行くこと、この2つが主な学びです。

    この本の内容は、「父親が仕事をして家庭にお金をつぎ込み、教育にお金をかけて仕事ができる人材を育てる」戦後日本の成長モデルは、経済状況が悪くなった現代には適用できない、というものでした。そのしわ寄せは特に若者や子供、女性に来ています。

    貧困や若者の就労、子育ての問題など、その責任は、個人だけではなく社会にもあるはずなのに、自己責任論がまかり通る世の中はおかしいと思います。

    何年か前に、小学校の先生になった大学時代の知り合いに会いました。そして彼女は「結婚したら仕事は辞める。お母さんがしっかりしていない家の子供は本当に手がかかって大変だから」と言いました。私はモヤモヤした気持ちになりました。

    色んな境遇の子供がいる現代の先生って大変だな、と思いました。また、手がかかる子やその親も、多かれ少なかれ大変だろうと思います。そして子供のためにせっかく就いた仕事を辞めなければならないと思わせてしまう社会の状況に疑問を持ちました。

    そんな社会に対してサラリーマンの私に具体的にできることといえば選挙に行くことくらいしか思いつかないのが心苦しいです。少し前の本ですが、ここに描かれている社会は今も同じか、悪化しているように感じました。

  • 『もじれ』=「もつれ」+「こじれ」。
    『戦後日本型循環モデル』日本独特の循環のあり方ともいえる社会構造。バブル崩壊前までに形成された、教育・仕事・家族の3つの社会領域が循環している図。一見効率的に見えるが、何のために学ぶか、何のために仕事するか、なんのために家族と一緒に住むのか、という人間の生涯にとって重要な意味を持つはずの家族・教育・仕事の本質的な存在意義や価値を、掘り崩すように作用していた。バブル崩壊後、モデルは破綻しつつあり、各社会で歪みが出来ている。今後の方向性としては、一方向の循環でなく、双方向になるよう、リカレント教育の推進によるジョブ型雇用の推進、ジョブ型雇用によるワークライフバランス、男女共同参画の推進、共働きによる子供や家族のケアを教育が地域のハブとなって支えられるように。
    メリトクラシー→コミュ力のようや人間性、感情に結びついた測定し難い能力を重視する社会に移行しつつある→『ハイパーメリトクラシー』

  • 戦後日本型循環モデルを見出したことは社会学の真髄であり、戦後の日本のカタチが分かりやすく示されている。

    「家庭」、「教育」、「仕事」、この3つの社会的機能の新たな循環モデルを構築していく上で最も大切な視点は筆者の言うとおり「一方向」から「双方向」である。

    特に「教育」の本質、つまりは学ぶことの意義とは、従来の循環モデルでいう優秀な人材を「社会に送り出すこと(進学・就職)」に限ったことではなく、「個人が豊かに生きること」ではなかろうか。
    進学競争、就職戦線が人々をどんどん歪めていっている。就職し組織に入った後も、自己のキャリア形成という概念はどこ吹く風であり、学歴エリートほど「上を向いて歩こう」の大行進である。これでは坂本九だって泣いているハズだ。

    真に豊かな社会とは一体何なのか。リカレント教育の考え方だって重要だ。改めて学歴社会の是正と生涯学習社会の構築の必要性を感じずにはいられない。

  • ◎信州大学附属図書館OPACのリンクはこちら:
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB16793466

  • 日本社会での能力をめぐるフレームワークは学力及び人間力の垂直的多様化(格差)に偏り、コンテンツに即した水平的多様化が極めて脆弱であるとともに、能力の形成と発揮をめぐる責任が強固に個人および母親に帰属されている。

    世界はどこも厳しい、日本はまだマシ、ってわけでもなさそうです。

  • これまでの著者の断片的な主張の寄せ集めであった。

  • 「軋む社会」に続くシリーズのようだが、今回もいくつかのものを集めて1冊にしたようだ。今後もハイパーメリトクラシーという言葉がいろんなところで紹介されるだろう。

  • 教育、仕事、家族の問題の本質について、構造的に明らかにしており、いずれの論点もうならせられるもの。興味深い。
    ただ、指摘は鋭いが、具体的に政策としてどのように落とし込めるのかという点はやはり弱い。それを少しずつ、具体化させたいと思う。
    以下、特に印象に残った点。これ以外に、最終章のなかの「親としての在り方」も強く問われた気がする。

    ・教育の病理:学ぶことの意義自体が問われてこなかった。かつ、自分と自分の家族に閉ざされた利害で動いている→社会の連帯が育ちにくい。
    ・家族、仕事に対しても意義が問われていない

    ・柔軟な専門性、柔らかい鎧をもて

    ・ある組織のメンバーに入れてもらうという働き方が日本の正社員の特徴

    ・教育の職業的意義=「適応」と「抵抗」という二つの側面がある

    ・「能力発揮」を社会全体で保障する。

  • 提言としては方向性だけなんだけれど、みているものは私には非常に説得力がある。

  • 様々な提言が満載で消化するのが大変だったが、若者の動向を詳細に分析していることは素晴らしい.目新しい用語も沢山出てきて、刺激を受けた.教育的トリアージ、ジョブ型移行モデル、ポスト近代型能力などなど.高校教育で専門学科に焦点を当てて活用すべきだとの提言.70年代はそれを実現していたのだから、先祖帰りの発想だ.

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著者プロフィール

本田 由紀(ほんだ・ゆき):東京大学大学院教育学研究科教授。専攻は教育社会学。著書に『教育の職業的意義』『もじれる社会』(ちくま新書)、『教育は何を評価してきたのか』(岩波新書)、『社会を結びなおす』(岩波ブックレット)、『軋む社会』(河出文庫)、『多元化する「能力」と日本社会 』(NTT出版)、『「家庭教育」の隘路』(勁草書房)、『若者と仕事』(東京大学出版会)、『学校の「空気」』(岩波書店)などがある。

「2021年 『「日本」ってどんな国?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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