日本思想全史 (ちくま新書 1099)

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  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480068040

感想・レビュー・書評

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  • 難解書。いったり来たりしながら、読みつないでいかねばならない。
    冒頭にも、日本思想史とは、哲学のなのか、歴史学なのかという問題提起がある。
    本書がとる視点から、選択ー受容ー進化としての思想史であるという説明がなされている。

    幾度となく、海外からの思想の流入、その受容と、国内での進化、その繰り返しである。

    古代とは、上古から平安まで、中世とは、鎌倉から、安土桃山まで、近世は、江戸、近代は、明治大正と戦中の昭和まで、現代は、戦後の昭和以降である。

    <古代>
    ・日本思想史は、古事記をもって始まる。それ以前は、中国正史に残された倭の記録を推定する。
    ・古事記と日本書紀、本居宣長は、古事記を日本古来のものとし、日本書記は、本来の日本のものではないという。
    ・日本人の心は、古事記が伝える歌から始まる。それが、万葉集という膨大な歌集に受け継がれていく。古事記、日本書記が政治的な記録であるのであれば、日本の心を伝えるのが万葉集である。
     以来、官選での歌集が日本の心を後世に伝えていく。
    ・万葉集の歌は3つ。雑歌:生活全般をうたったもの、挽歌:棺を挽く、すなわち、死者を悼むもの、相聞歌:恋人の、夫婦の、親子の愛の歌。また、特徴なのは、東歌、防人の歌。万葉集は、戦いに敗れたもの、弱いもの、庶民によりそい、労わる。古代から万葉集が現代に伝えられていることを、日本人として誇りにおもう。
    ・仏教の伝来は数次にわたる。初めは、朝鮮半島から、次に遣唐使など大陸から。仏教は神道と結びつき、明治の廃仏毀釈を迎えるまで、同じ社に両者はあった。

    <中世>
    ・国家護持の仏教は、平安なかばにはすでに、個人救済というテーマからは逸脱して、鎌倉の宗教革命を待たざるを得なかった。それは、紫式部の源氏物語にもあらわている。
    ・鎌倉仏教は、天台宗の総本山、延暦寺を起点としている。法然、親鸞らは、最澄がもちかえった膨大なテキストから、仏教の真理に迫ろうとした。
    ・中世を貫くのは、「無常」、鎌倉仏教、戦記もの、そして、紀貫之らの日記文学を生む。
    ・歌は、世阿弥と結びつき、能へと発展する。ともに、鎮魂の芸術として、連歌や、禅と結びついて五山文化へと成長していく。

    <近世>
    ・カトリックを日本の侵略勢力とみなした徳川幕府は、出島にプロテスタントであるオランダと、中国とのパイプを残しながら、独自の文化が発展していく。
    ・朱子学の発展:林羅山らが朱子学を官学の中心に据えていく。朱子学とは、儒教の四書五経の解釈学であり、政権にとって好ましい内容であった。
    ・朱子学を疑問に考えるものは、儒教の方向性からは陽明学へ、それ以外のものは、神道や蘭学・洋学へと向けられていく。
    ・古義学とは、中国の孟子を古代中国語で古代のテキストをそのまま理解しようという学問であった。荻生徂徠など。
    ・新井白石を祖とする蘭学は、8代吉宗の時代に解禁となった海外文献の入手によって、青木昆陽、前野良沢、杉田玄白らが、蘭学・洋学へと受け継いでいく。
    ・江戸という平和期にある武士というものを見つめることから、武士の在り方が問われるようになっていく。三河物語や葉隠など。
    ・一方、日本古来の思想であり、仏教の影響を受けていない、古来の日本の古典に帰るとのことから国学が発展をしていく。本居宣長や、平田篤胤らが、もののあわれをとなえ、やがて、水戸学と結びつき、幕末の勤皇攘夷と結びついていく。明治の廃仏毀釈も国学の影響である。
    ・町民、商人においても、独自の思想がうまれ、文化では井原西鶴や、近松門左衛門、心学の石田梅岩、大阪商人の山片蟠桃、農学の二宮尊徳らを輩出した。
    ・幕末では、蘭学・洋学では、佐久間象山、吉田松陰らが松下村塾などで、明治に向けての人材の育成をおこなった。

    <近代>
    ・明治は、数々の啓蒙思想家を生んだ。福沢諭吉、西周ら。
    ・自由民権運動、中江兆民、内村鑑三。
    ・大正デモクラシー、吉野作造、美濃部達吉
    ・超国家主義として、全体主義と軍部が結びつき、北一輝、石原莞爾、宮崎滔天らが、昭和の戦時体制の精神的な思想と哲学を形成した。

    <現代>
    戦後的価値、丸山眞男、ポストモダン、近代主義、大衆と思想、吉本隆明、西田幾太郎など。

    目次は以下

    はじめに

    第1章 古代

      1 日本という境域
      2 神話にあらわれた思想
      3 歌謡の発生と「万葉集」
      4 仏教の受容とその展開
      5 聖徳太子の伝説
      6 仏教の深化
      7 王朝の文化と思想

    第2章 中世

      1 歴史物語・中世歴史書の思想
      2 「愚管抄」と「平家物語」
      3 「神皇正統記」
      4 浄土教と鎌倉仏教の思想
      5 芸道論と室町文化

    第3章 近世

      1 キリシタンの伝来とその思想
      2 朱子学派の登場
      3 儒教思想の多様な展開
      4 古義学・古文辞学の成立
      5 儒教的学問と教養の進展
      6 武士道と近世思想の諸相
      7 国学の思想
      8 町人・農民の思想
      9 蘭学と幕末の諸思想

    第4章 近代

      1 明治啓蒙思想とその展開
      2 明六社とその同人
      3 自由民権運動
      4 国民道徳論とキリスト教
      5 社会主義の思想
      6 内面への沈潜
      7 大正デモクラシーの思想とその帰結
      8 昭和の超国家主義と戦時下の思想
      9 近代日本の哲学
      10 近代の日本思想史研究と哲学

    第5章 現代

      1 戦後思想の出発
      2 戦後的なるものの相対化
      3 戦後の哲学とその変遷

    おわりに
    あとがき
    参照文献
    日本思想史を学ぶための文献
    日本思想史年表
    事項索引
    人名索引

  • 500ページ近くある新書としては、かなり分厚い感じの本。

    でも、2分冊にわかれてなくて、1冊で、古事記の神話から、万葉集、仏教伝来、王朝文学、神道、鎌倉仏教、芸道、キリスト教伝来、儒教思想、国学、明治の啓蒙思想、デモクラシー、超国家主義、戦後民主主義、現在の思想の多様性までを一気にレビューできて壮観だし、爽快。

    当然、トピックごとの記述は薄いのだけど、一人の著者が一気に解説していくことで、なんだかパワーが伝わってくる。
    (近現代になると、ややパワーが下がってしまう気もするが、それは、まあ仕方ないのかな?他の時代だったら、数ページで取り扱われるくらいの時間の長さかもだからね)

    改めて、日本の思想史を振り返ると、
    ・日本独自の文化というものが最初からあるわけでなく、中国などからの文化の影響があって、それをどう自分ナイズするかという歴史なんだな
    ・その時、何を受け入れるか、どうかという点においては、諸説の比較検討があって、その中から選択するというある種のロジカルなプロセスがある
    ・儒教の影響というのは、実は、江戸時代からで、それ以前は、そこまで日本の文化の主流ではなかったのだな
    ・つまり、いわゆる「日本的」な儒教的な道徳観念(教育勅語とかに通じる)は、江戸以降の概念なんだな
    ・アニミズム的なところから、いわゆる「神道」として概念整理されるのは、結構、後の時代なんだな、そして、それを日本の国家観みたいなものにつないだのは、さらに後、明治以降の話なんだな
    みたいな印象。

    大きな歴史の流れを見ると、私たちが今ここにいて、いわゆる「日本的」だと思っているものが、いかに一時的であることがわかる。

    この相対化は、なんかとても大事な気がする。

  • 柳田国男は、奈良時代・平安時代を評価し、鈴木大拙は鎌倉時代を評価したとあります。われわれは、古文の授業で奈良・平安時代ばかりを教わるので、つい、奈良時代・平安時代を評価してしまうが、別の考え方があることを知った。
     記紀についても、『古事記』が成立直後に歴史から姿を隠し、『日本書紀』は官人の教養となっていたことが記されている。この事実を知らないと、本居宣長の『古事記伝』の重要性がわからない。
     『源氏物語』は、深く仏教的な世界観に彩られていることは忘れてはならないという指摘がある。本居宣長は、できるだけ仏教色を少なく理解しようとしたという。確かに、『源氏物語』は仏教色が強いということは以前から知っていた。本居宣長が、『源氏物語』に日本独得の感性を見出したという指摘に疑問を抱くべきであった。

  • 全史なので概論に過ぎないが、古代から近世にかけては比較的詳しい。日本にこだわって、いわゆる「翻訳学問」を排除し通史として扱っていることは、参考になる。他の学問分野、特に人文そして時には社会科学においても、「翻訳」の部分を取り除いて眺めていくと、さらなる発見もあるかもしれない。思想的に偏ったものになっていないことも好ましい。

  • 本書は、日本における古代から近代までの思想の変遷を幅広くまとめたものである。
    本書だけでは日本の思想を全て網羅することはできない。しかし、興味のある思想を見つけたい人にとって最適なガイドブックとなるだろう。
    しかし、個人的には説明が少し分かりにくかった。新しい専門用語が何の説明もなしにいきなり登場し、読み進めていくとやっとその用語に関する説明が現れた。正直読むのにストレスがかかった。これに関しては仕方ない所もあるかもしれない。

    この本を読んで私は日本仏教の歴史と文化や、西田幾多郎と丸山眞男などの近現代の思想家について興味を持った。次はこれらに関する本を読もうと思う。

    最後のあとがきには、ミルのある言葉を筆者なりに解釈した文章があった。
    「人が習慣的に自明の理として受け入れている伝統的教説を、受動的に受け入れるのではなく、各自の経験をもとにその意味を考え、自らの意見を手にする。そのことは、人がその個性を発揮し、異なった多様な意見が交わされる自由で寛容な社会が実現する一径路である-私はミルの言葉をこう解する。」

    この言葉は胸に刻んでおきたいと感じた。

  • 古代から現代までの日本について,思想をベースに流れを掴むという意欲的な本。日本史の学習ではあまり考えないようなことを知るには良い。

  • 古代と中世が微妙。近世から現代くらいが専門の方なのかと思う。日本思想という割に漢籍の知識はそれほど深くないと感じた。日本語の文章だけを読んで書いてる感じ

  • 日本中世史の勉強過程で網野善彦氏らの著作に接したが、当時の民衆に根付いていた仏教的な価値観をいまいちイメージできず、本書をもってその導入過程から勉強することにした。
    目的に叶ったかというと概論なのでそうとも言えないが、一方で体系だてて古来から現在に至る連続性のある日本の思想史を学べてよかった。それら思想が民衆の生き方や行動にどのような影響を与えていたのかなどを深めているとなおよかったと思う。(本書の目的はこれではないだろうが)

  • 神話時代から現代までの思想をまとめた一冊。
    このうち近世(江戸時代)についてはキリスト教、儒教・朱子学から蘭学、幕末の思想までをたどっている。

  • 日本人の慣習や日本的な考え方はどこから来ているか?何に影響されてきたか?を知ることができます。

    ただ、扱う事柄が膨大な分野をこれだけコンパクトにしてしまうと若干中身が希薄になることは否めません。

    取り扱うこ資料や歴史的に影響力のあった人物がまだ数の少ない平安時代くらいまでは良いのですが、鎌倉時代以降特に江戸時代から現代にかけては関連資料や関連人物が爆発的に増えるので、日本史の通史を学んでいるような感じになります。

    その意味では日本の歴史をざっ〜と振り返りどんな時代に何があり、それがその後の時代にどんな影響を与えて今に至っているかを知るにも良い本です。興味のあるところを別の本で深堀する。そのガイド役にとしてはぴったりてすね。

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