戦後入門 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 335
レビュー : 35
  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480068569

感想・レビュー・書評

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  • ポストモダン思想やポストモダニズムもそうでしたが、本書の「戦後」というテーマも、自分が生きている「今」を含むテーマであるにもかかわらず(含むがゆえに、かもしれないけれど)理解しにくいと感じていました。先日読んだ宮台真司氏の『私たちはどこから来て、どこへ行くのか』で、戦後の社会の移ろいについては大きな理解を得ました。しかし、社会学の立場からの論考であり、あまり政治的な話には(当然でしょうが)踏み込んでいません。
    そこで、国際関係や政治的な動き、そしてそこに横たわる考え方(イデオロギー的なもの)はどうなのかを知りたくて、新書としてはいささか厚い本書を手にとりました。
    未だ日本は米国の従属支配から脱却していない(つまり、日本は「独立した主権国家」になりえていない)、という立場から、著者(加藤典洋)は同じテーマを何度も繰り返し、少しずつ見る角度を変えながら、丁寧に説明してくれています。扱うテーマは難解であり、本の厚さに最初はやや躊躇いもありますが、氏の微に入り細にうがった説明は、理解を深めるにはとても良い。タイトルに「入門」とありますが、戦後の日本社会(特に日本から見た日米関係をはじめとする、わが国の国際的な立ち位置と国内イデオロギーの変化)を概観できます。昨今、まるで戦前の軍国主義に逆行しようとしているかのようなアベシンゾーのおかげで一寸先は闇状態の我々に天啓を与えてくれる書でもありましょう。
    宮台氏のいう「対米ケツ舐め路線」が、いまだに日米同盟(つまり日米安保条約とそれに基づく日米地位協定)の軛から逃れられないことからくるルサンチマンの裏返しなのだと、本書を読むと思えてきます。ましてやちぎれんばかりに米国に尻尾を振り回すアベなどは、しょせん米国の従属国である「日本」の首長として、劣等感の塊であることが理解できます。こんな小者に、我らの大事な憲法改正を任せることなど、自殺行為に等しいでしょう。
    では、憲法を改正するにはどうすればよいのか。とりわけ戦後の日本が抱える「米国」という軛から晴れて友好的に主権を取り戻し、一見「平和主義」に見える現憲法の第九条をどのように扱えばいいのか。そうしたことが、現在に至る戦後の流れの中での変遷、日本とそれを取り巻く社会情勢、日本独特の社会的・文化的風土といったものを踏まえて詳しく解説されます。
    本書が唯一の正解ではないでしょう。しかし、劣化著しい政治家が叫ぶ、口先だけの「改憲」よりははるかに信憑性も説得力もあります。宮台氏の社会学的見地からの論考とも通ずる部分もあります。良かれ悪しかれ、憲法改正へと舵は切られるでしょう。改正の道筋が正しいかどうか。憲法改正という言葉が現実味を帯びている今、本書はその道筋を判断する上で、重要な補助線を与えてくれるに違いありません。

  • 第二次世界大戦をイデオロギーの戦争とし、原爆投下を正当化したアメリカの思惑は、現在のパワーバランスを作り出す一助となっている。

  • 「左派」とか「リベラル」とかに胡散臭さを感じている。「安倍政権下では改憲議論すら反対」と述べ(地元有力紙が追随して)圧勝した地元選出の野党議員のことは自分勝手な人間だと嫌悪した。9条改憲議論について深く考えたことはなかったけど、毎年やってくる原爆(を落とされた)記念日と終戦(敗戦)記念日を前に、この分厚さと優しい語り口は信頼できると思い、護憲ではない「左派」思想を読み進めた。

    右とか左とか、改憲とか護憲とか、自分にとってはどうでもいい。自分は日本に生まれ育ったから日本国民であることに間違いないけど、70年以上も前の侵略戦争のことで私が謝罪しなければならないとは微塵も思わない。芸術祭でワザと未成年風にした慰安婦像を見せられても不快でしかない。「なにものでもないもの」である個人である私に、左派は、「国家」を都合よく押し付けないでほしい。

    新聞やテレビでは、本書のような掘り下げた論考は行われない。テレビは無理にしても、新聞は、高校野球の結果を紹介する紙面を省き、扇動家による展示が中止されたことを「表現の自由が危ぶまれる」などと定形文で誰でもない社会を批判するのでなく、護憲、改憲について骨のある紙面づくりをすればいい。

  • 読了したのは随分前なのだが、新書なのに重量級の本で、レビューを書くガッツがなくて放置していた。
    著者が亡くなったので本棚に登録する。詳しくは書かないが、ガッツのある人は読んだ方がよい。

  • 原爆投下直後の米国と世界の動揺。回心としての日本国憲法と国際連合。連合国から米国への占領者の変貌。地位協定、安保、合同委員会の本質。日本の政治構造を明瞭に網羅した上で、国際主義を基調に憲法を改正すべきと展望を説く、端的に素晴らしい内容だった。

  • 著者の主張には一聴の価値はあるが、その提案に沿って行動するのは亡国の道である。

    倫理は力を正当化する方便であると思うが、自らはその意識はないとは思うが、この本を著すことによって著者もその片棒を担いでいる。日本の歴史の連続性を引き受ける覚悟がないが故に可能な主張である。

  • はじめに-戦後が剥げかかってきた
    第1部 対米従属とねじれ
    第2部 世界戦争とは何か
    第3部 原子爆弾と戦後の起源
    第4部 戦後日本の構造
    第5部 ではどうすればよいのか
    おわりに-新しい戦後へ
    新書でタイトルに「入門」とあるのに大変厚みのある本で、これを読んだだけで戦後が分かる!という類の本ではないが
    戦後政治を時系列で理解するための「索引」として手元に置いておきたい。

  • 加藤さんには『敗戦後論』という本がある。細かくは読んでいないが、今度の戦争で日本は加害責任を問われていて、それは否定しようのない事実だが、それに抵抗を示す日本人が多いのは、日本人犠牲者をまず悼むということをしていないからではないかという論であった気がする。本書はその『敗戦後論』での弱点を克服しようとしたものである。結論から言えば、いわゆる平和憲法、第9条ができたときの理念、精神を生かすには、憲法を左に改正し、国際主義に立ってやるべきだということになろう。日本国憲法は戦後世界が、冷戦に到るほんの数年の平和の理念の一つの象徴、結晶であり、加藤さんは、その精神をもう一度とりもどすべきだというのである。ぼくも読んで感銘を受けたが、加藤さんは矢部浩治さんの『日本はなぜ「基地」と「原発」を止められないのか』の中の、フィリピンがアメリカの基地をすべて撤去した精神にならうべきだと考えている。それは対米従属をやめ、アメリカとの間に新たな関係をつくることである。この数年日本の対米従属ということは人々の常識化しつつあるが、安倍首相は人々の批判を意に介せず、むしろ強化をもくろんでいるようだ。本書でぼくがもう一つ感動したのは、アメリカの中で、戦後まもなく、原発を投下したことに対し、各界から反省が起こったことである。日本への原爆投下は本土決戦での犠牲を少なくするためであるという論がアメリカでは固定しているが、それは上のような反省論を封じこめるためであった。原爆投下はあくまでアメリカが、日本敗戦後のソ連に対抗して行われたものであり、戦争犯罪の一つであることは否定できない。それは、連合国の戦争理念を打ち砕くものであった。戦勝70年を祝う行事が中国やソ連で行われたが、良識があるなら、アメリカの原爆投下やシベリア抑留に目を向けるべきであった。600頁もの本であるが、いろいろ考えさせられることの多い本であった。

  • 疲れた。知の総力戦だった。今の自分に100%の理解は無理だが、一応ちゃんと読み切った。随分と自信になった。第二次大戦を米国が思想戦に仕立てた、原爆投下の自責が9条のきっかけ等、戦後史理解を大幅にアップデートできた。なるほど挑戦的、でも日本が目指すべき道だ。

  • 対米従属と半独立の現実が未だに日本の現状であることの、歴史的背景と数多くの論考をベースに著者が明快な結論を導き出す過程をたどることができる好著だ.p63にある"戦争の死者たちを、間違った、国の戦争にしたがった人々と見て、自分の価値観とは異なる人々だからと、心の中で切り捨てる" という戦後しばらくの期間、スタンダードとされた革新派の人々と、"戦前の死者たちを称揚したい.否定したくない、という一心から、歴史的な現実のほうをねじまげて、日本は正しかったのだ" と考える人々があり、後者が次第に増えてきた現実を直視している.これらの発想は未だに根強く残っている.ポツダム宣言受諾と無条件降伏の関係の議論も良かったが、原子爆弾に関しての考察が秀逸だ.米政府内では、原爆投下以前にも科学者を中心に使用を止める提言があったこと、さらに投下後にもこのような技術を公開することを官僚がいたことなど、興味ある事実が披露されている.憲法9条の論考も素晴らしい.p551にある非核条項と基地撤廃条項を加えた9条改定案、さらにp369の配置図は非常に理解しやすい.

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著者プロフィール

加藤典洋(1948・4・1~2019・5・16) 文芸評論家。山形県生まれ。1972年、東京大学文学部仏文科卒。国立国会図書館勤務、明治学院大学教授、早稲田大学教授を経て、2014年、同大学名誉教授。85年、最初の評論集『アメリカの影』刊行。97年、『言語表現法講義』で新潮学芸賞、98年、『敗戦後論』で伊藤整文学賞、2004年、『テクストから遠く離れて』『小説の未来』で桑原武夫学芸賞を受賞。主な著書に『日本風景論』『戦後的思考』『もうすぐやってくる尊皇攘夷思想のために』『9条入門』『完本 太宰と井伏 ふたつの戦後』『大きな字で書くこと』などがある。

「2020年 『村上春樹の世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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