世界史序説 (ちくま新書)

著者 :
  • 筑摩書房
3.93
  • (15)
  • (15)
  • (8)
  • (2)
  • (2)
本棚登録 : 306
感想 : 27
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480071552

作品紹介・あらすじ

アジア史の観点から世界史を一望。そのとき「ヨーロッパの奇跡」「日本の近代化」はどう位置づけられるのか。西洋中心の歴史観を覆し「来るべき」世界史をえがく。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 西洋中心史観を排した、アジア史を基軸とした世界通史。なるほど、こんな見方ができるのか、と目から鱗の世界観。

    梅棹忠夫の「生態史観」、読んだときはあまりピンとこなかったのだが、本書を読んで卓見だということがよく分かった。

    著者によれば、アジア・ユーラシア(西は地中海世界から東は中国までの横長の地域)と、欧州や日本(ユーラシア中心部からみれば辺境の地)の辿ってきた歴史の違いは、「人間の暮らす自然環境の条件と、それにもとづいて歴史的にできあがった政治社会の構成」の違いに帰結するのだという。

    前者が「乾燥と湿潤、草原と農耕、遊牧と定住という多元的な世界」の複合であり、その「歴史過程は互いの交渉・交流・提携・対立・相克として展開し」、「政治・経済をそれぞれ多元的な主体が担ってい」るから「厳密な意味で官民一体の「法の支配」が、機能しない」のに対し、後者は、「草原・遊牧の世界を欠いた一元構造であ」り、このため「貿易・金融と生産を一体化し、さらにそれを政治軍事と一体化した構造体であって、その核心に君臣・官民を一体とする「法の支配」」を確立させることができたのだという。社会経済と一体化した政治権力が「広域の金融管理・市場規制、もっと具体的にいえば、貸借・決済にまつわる不正・背任に対する法的な制裁」を課す制度を導入できたからこそ、英国をはじめとする欧米諸国は大資本の形成や国家による大規模な財政投入が可能となり、それが強大な軍事力保持や技術革新、産業革命に繋がったのだと(一方、日本においては、鎖国中だったこともあってダイナミックな変革は起こらなかったが、明治になって一気に西欧化・近代化できたのは、やはり「社会構造の生成が西欧と近似した歴史過程をたどってきた」ことによるのだと)。

    近世になるまで、歴史の主役はずっとアジア・ユーラシアだったし、欧州は立ち後れた辺境の田舎に過ぎなかった。それが、大航海時代に入ると、スペイン・ポルトガル → オランダ → イギリスと覇権国が変わる中で欧州経済が力をつけていき、イギリスにおいて資本主義・市場経済の仕組みが編み出されたことによって一気に形勢が逆転してしまった。この一発大逆転こそ、世界史における奇跡だったんだな。

    世界の動きをこのようにアジア中心で捉えると、中東、中央アジア、インド、中国等の人々が欧米に対しどのような感情を抱いているか、容易に想像できてしまう。きっと彼らは、歴史を紐解けば元々自分たちの方が圧倒的に進んでいた訳だし、その立場が逆転したのだって高々ここ300年余りのことに過ぎない、くらいに思ってるんだろうな(これって中国人や韓国人が日本に対して抱いている感覚と同じかも知れない)。

    著者の著書はどれも素晴らしい。今のところ外れなし。

  • 東洋史家の手になる「アジア史から一望」した世界史概説書である。
    学校教育以来、西洋史中心の世界史に馴染みが深い私にとっては、大変新鮮な視座を提供してくれる快著だった。

    近年、世界史のトレンドとして「グローバル・ヒストリー」の名の下に、西洋史家も自分たちの西洋中心史観を反省して、アジア史にも目配せした世界史の構築に勤しんでいる。
    著者自身も、人類全体の歴史を構想しようというその姿勢自体は歓迎なのであろう。しかし、著者に言わせると、グローバル・ヒストリーの担い手たちは、あくまで西洋史の成果から脱却できていらず東洋史の成果を顧みもしないで、間違った分析ばかりしている、とかなりお怒り。その偏向を正すために、東洋史から見た世界史というテーマで本書をものしたとのこと。

    さて、本書は全体の2/3を占める18世紀頃までのアジア史の展開と、その後主導権を奪取することになる西洋の近代史と、最後に本書の論調に照らし合わせた日本史の性格、の3部から構成されていると言える。

    18世紀頃まで、世界史の中心はアジアにあったとの論旨は大変興味深い。その歴史的構造は「遊牧=騎馬民族=軍事・機動力」とその周縁の「定住=農耕民族=商業」との二元構造に立脚している。この両者が相互に利用しあい、繁栄を築いていくプロセスが、徐々に洗練されていきモンゴル帝国にて頂点に達する過程と整理されている。この視点で、モンゴル帝国分裂後のアジア各地の政権も、遊牧民族国家が生み出した統治構造に立脚していたという整理されており、学校教育ではどうしても一つのまとまりとして頭に残らなかったアジア史に、一本縦糸が通った気分。

    一方、この時期までのヨーロッパは、世界史の周縁でしかなかった。
    では何故、騎馬遊牧帝国が築いた文明のプレゼンスがその後低下していったのか。
    機動力の主役が馬から船に移ったからである。

    この画期を成したのは、西洋のいわゆる「大航海時代」である。先進地域アジアの物品の貿易で富を貯めこんだイタリアにルネサンスが起こり、それが大航海時代に繋がり、新大陸を発見するに至る。
    そこで得た莫大な富を官民挙げて投資に回し、海洋帝国を築き上げ、洗練していき、遂には産業革命を達成し、圧倒的な物量を持ってアジアと地位を逆転していく。
    西欧(特にイギリス)にてこの展開を可能ならしめたのは「法の支配」を前提とした「信用」に基づく金融の発展の影響が大である。
    アジアでは、18世紀までにまさにアジアを発展せしめた多文化・多民族による多元的構造こそが、統一的な「法の支配」や「信用」の発展の妨げとなったという。
    アジアが覇権を築いていた同時期に、西洋は暗黒時代とされた中世を経験していたが、支配者と被支配者が近い距離で関係を保つ「封建制」こそ、後の官民一致の帝国形成の基礎となったとする点は非常に面白い。

    またこのような東洋と西洋の歴史的展開を見たうえで日本史を振り返ると、東洋的な要素はほぼ見受けられず、西洋に近い展開を経てきていると読み取れる。
    グローバル・ヒストリーを志す当の日本人がこのことを見落としており、東洋史家の著者は、まだまだ東洋史家の自分の仕事に終わりは来ないとして。本書を結ぶ。

    その他、気候変動を歴史展開の重要な要因としている点も興味深かった。
    浅学ゆえ本書の記述の正確性などは全く分からないけど、新たな世界史の視座を与えてくれて、興味の広がる一冊だった。

  • 日本の歴史は東アジアよりも西欧の歴史に近似。封建制。日本は儒教を学問として受け入れたが、中国・朝鮮のように体制教学とはならなかった。戦国の下剋上により、下層から成りあがった領主たちが、僧侶・公家など旧来エリートを排撃し、軍事・政治を独占した。織豊から江戸初期にかけて仏教の従属化とキリシタン禁圧により、一種の政教分離が進んだ。西欧の宗教改革の時代とほぼ同じ。
    ※マルクス『資本論』日本はアジアのなかでただ一つ中世を形成した国。土地所有の純封建的組織とその発達した小農民経営。忠実なヨーロッパの中世像。

  •  西洋史観からの脱却を試みた本。著者は、従来の世界史がヨーロッパを重点を置いてアジアを軽視した歴史、いわゆるグローバルヒストリーに批判的な立場である。この新書では、古代文明から近代までのアジア史を取り扱うが、これを読む前に、高校世界史の流れをおさえておくと数時間で読了できる。
     本書で興味深かったのは、気候変動によって、世界情勢が変化するところであり、ゲルマン民族の大移動とモンゴル帝国の発展と衰退がとりわけ衝撃的であった。前者は寒冷化が原因で、それまで定住してたゲルマン人が長い期間をかけて南下して、ローマ帝国西部が消滅した。後者はユーラシア大陸を支配したモンゴル帝国が、寒冷化をきっかけに徐々に支配力を弱めていったのである。それにしても中国共産党が掲げる「一帯一路」構想は、かつてモンゴル帝国が実施したシルクロードと類似してるが、仮にこの構想が実現したとしても、地球環境の変化で、いずれはモンゴル帝国と同じ末路をたどるだろうと想像した。
     またアジア史ということもあり、日本の歴史にも言及するが、そこにも興味深かった箇所がある。それは、なぜ明治政府は紆余曲折ながらも成功したのか、著者はその疑問に対するある答えを提示してくれる。多分な要因が絡むため一概にはいえないが、明治政府が安定化した要因として、日本の封建制度が西欧の社会構造と酷似したことである。新政府が唱えた富国強兵や殖産興業が短期間で達成できたのは、官民が一体化していることにあるというのはある意味納得した。
     最後に、昨今の世界情勢の悪化、とくに中国、ロシアの影響力をふまえると、今世紀のうちに現代の覇権国家であるアメリカの影響力が弱まり、中世時代のように、複数の超大国が乱立するかもしれない。そういう意味で、この本は今後の世界情勢を考える際に有効であろう。

  • 西洋史中心の枠組みを、東洋史研究者の視点から見直してみようという試みの一冊。

  • 気鋭の東洋史家によるあらたな通史。ユーラシア全域と海洋世界を視野にいれ、古代から現代までを一望。西洋中心的な歴史観を覆し、「世界史の構造」を大胆かつ明快に語る。『ちくま』連載を新書化。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40266347

  • アジアから世界史をみるという試み。素人の感想としては、とっくに同様の試みはありそうだけど、案外ないものなのかな?

  • ・遊牧と農耕はまったく異なる生活様式・産物・日用品であり、相互補完しうることから、その境界で取引機会が生じ、商業が発生(シルクロードは各地の南北交易が東西に連鎖したと捉える)。この異なる集団同士の意思疎通・記録保存のために文字が生まれたのでは。
    ・多元的なオリエント(現エジプト・アナトリア・シリア・イラン)の全体をまとめたのがアケメネス朝ペルシア(BC550-330)。これからアレキサンドロス大王の東征→ギリシア・ローマもオリエントの外延拡大の産物。オリエント文明分裂→西半分はローマ帝国、東半分はパルティア・ササン朝(226-651)に。
    ・4-5cはユーラシア東西滅亡と解体の時代(西ローマ帝国滅亡476、五胡十六国304~)。寒冷化により内陸寒冷地帯の民族の温暖地への大移動(玉つき)→温暖地も寒冷化し生産性低下→これらの影響は文明地域で相対的に寒冷地だった旧西ローマと中原で発生→生産性維持のため流民を土地に拘束→封建制や均田制に発展。
    ・その後、秩序構築し広域政権樹立したのが西のイスラムと東の唐だが、トルコ系遊牧勢力に解体される(セルジューク朝、安史の乱)。
    ・7-8cのウマイヤ朝によるアフリカ・イベリア半島・地中海制覇は、元々ローマの領域がイスラムに奪われたのではなく、地中海世界が東のオリエントに回帰(イスラムのもと再統一)したと捉えるべき。
    ・イスラム急拡大の背景に宗教の合理的魅力(偶像崇拝否定、奇蹟を説かない、唯一神の前ではみな平等、聖俗区別・位階差別なし)
    ・軍事力では遊牧民族が圧倒、人口・経済力で定住民族が勝利。よって視点は前者の軍事権力と後者の民間経済をいかに関係づけ、体制化したか。
    ・狭小後発のイギリスが18世紀に覇権を得た背景には、軍事費捻出の必要から生み出したマグナカルタ(法の支配)を出発点とする信用制度を礎とした民間金融システム、大航海時代の三角貿易による経済的拡大、そしてこれに産業革命があった。
    ・産業革命とは、ヨーロッパのアジア産業へのキャッチアップ(アジア産品の代替品生産)とみるべき。その後、生産力を高め、植民地(軍事)に関税率・為替レート(経済)を操作し、西欧は購入者から販売者に移行した。
    ・ヨーロッパは、アジア史を代表するモンゴル帝国に比べ:①定住民のみの一元構造、②狭小な領地(支配者・被治者の距離が近い)、法の支配の受容性を高める唯一神信仰 →これらが信用経済、官民一体システムをもたらした。その意味で、封建制、キリスト教を発展させた中世の歴史的意義は大きい。開国以降、殖産興業と富国強兵が実現したのは日本がこれらの点で西洋的であったため。

  • アジアから見た世界史、あるいは西洋にある意味簒奪されたアジアの歴史を改めて世界史として語り直す。歴史についての知識が少なすぎて、半分も理解できてないけど、刺激的だった。

全27件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

1965年、京都市に生まれる。現在、京都府立大学文学部教授。著書、『近代中国と海関』(名古屋大学出版会、1999年、大平正芳記念賞)、『属国と自主のあいだ』(名古屋大学出版会、2004年、サントリー学芸賞)、『中国経済史』(編著、名古屋大学出版会、2013年)、『出使日記の時代』(共著、名古屋大学出版会、2014年)、『宗主権の世界史』(編著、名古屋大学出版会、2014年)、『中国の誕生』(名古屋大学出版会、2017年、アジア・太平洋賞特別賞、樫山純三賞)ほか

「2021年 『交隣と東アジア 近世から近代へ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

岡本隆司の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×