東京の空間人類学 (ちくま学芸文庫 シ 2-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (332ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480080257

感想・レビュー・書評

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  • 1980年代の本だが、それだけに現代における都市景観の見直し論の基本書となっていると予想。名著。

    「かつて大名屋敷が軒を連ねた一等地に住まう」みたいなマンション広告。まず、大名屋敷は軒を連ねない。

    「屋敷を構える」「店を構える」はそれぞれ景観に対して違うアプローチ。前者は周囲を塀で囲い、緑に覆われ、屋敷を見せない。前者は通りに面し、生活空間を路地側に寄せる。
    軒を連ねていたとしたら下級武士のエリア。その作りは現代の戸建の基本となっている。
    そのそれぞれが江戸の独特の情緒を形作っている。
    そして、あまたある坂を上り切れば、江戸のどこからでも富士を臨めるよう街が設計されていた・・・(感動)。

    ちなみにヨーロッパは目抜き通りに面して高級住宅の玄関が立ち並ぶ。その頂点が通りの終点の広場に面した王宮。

    「緑の都市」としての山の手、「水の都」としての下町。
    これらの多くは震災、そして戦争から復興を通じて失われた。が、それでも江戸期の街づくりの姿勢は受け継がれている。著者は決して近代化否定論者ではなく、西洋の文物を何とか江戸の町の中に位置づけようとした先人たちの努力にも敬意を払っている。そこが素晴らしい。

    しかしつくづく問答無用によくなかったのは、川の上に高速道路をかけたこと。
    オリンピックに向けて仕方なかったとはいえ、本書を読むとなおさら無念極まりない。観光立国日本として、「水の都」の復活に期待(ただし気候変動の今、それを望むことがただしいのかはわからないが・・・)

  • 東京という都市の空間・街並み・建物を読み解くために、その地形や江戸のまちづくりを丁寧に掘り下げて分析・考察した読み応えのある本。江戸という都市が原型となり明治から現代にいたる東京の空間形成を解き明かしている。街歩きや東京の案内に興味深い視点を与えてくれる一冊。

  • 新しい東京が持つ古き魅力を語る。
    若干エリアが偏るので、住んだことがあるとか東京に馴染みがないと興味がわきづらかった。
    住んでいる人には楽しい内容に思う。

  • 本書は、東京という巨大な都市において、江戸時代から現代に至るまでにどのような変化が生じたのか、その空間構造に着目した上でまとめたものである。
    著者は東京大学大学院博士課程を修了したのち、イタリアのヴェネツィア建築大学へ留学、そこで建築・都市史についての調査や研究を行なっている。留学中は水の都と呼ばれるヴェネツィアで地図を片手に町の中をくまなく歩き回りつつ、陸・運河・住宅など様々な観点から都市について調査を行なっていたという。本書でも自分の足で東京の各地を歩き回った上でその都市の文脈を読み取るという工程を取っており、イタリアでの経験がふんだんに発揮された内容となっている。本文中では東京に存在する様々な地名が頻出するため、東京、それも現在の山手の内側に位置する地名に疎い読者は地図を片手に読むことをお勧めする。
    本書に通底するのは、東京は江戸、明治、大正後期・昭和初期の3つの時代につくられた層が重なり合ってできているという考えである。同じ東京という都市についての書籍として鈴木博之による『東京の地霊』(1990年)が挙げられるが、鈴木がそれぞれの地域における特定の人間の営みにフォーカスするのに対し、『東京の空間人類学』で陣内は、日本人・武士・商人など大まかに括られた人間の空間に対する意識に重点を置く。また、幕府や近代の政府による区画整理、橋詰広場の形成過程などハードとしての空間の歴史について考察を行なっているのも本書の特徴である。
    このように多角的な観点から東京を見つめ直す本書の初版発行年は1985年、日本経済がバブルに湧く丁度一年前である。東京はそれからバブル期はもちろんのこと、失われた20年と呼ばれる日本経済の低迷期、新型コロナウイルスの流行など様々な局面を経験し、その様相も変化し続けており、都市が抱える問題点も当時とは大きく異なっている。しかし、本書で行われている都市の読み方の価値は薄れておらず、2020年となった今でも有用ではないかと思われる。
    そんな本書であるが、惜しむらくは内容の重複が点在している点だろうか。とはいえ、それを補って余るほど密度の濃い東京の解説書である。

  • これ読んで『小僧の神様』とか明治〜昭和あたりに書かれた東京が舞台となる文学作品読むと楽しい

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/738665

  • 東京の各地で再開発が行われていたり、計画中のところもあり、景色が変わっていく。




    古本まつりで偶然見つけて買った今回の本は、1985年に発行されたものだが、2023年に読んでも面白い。




    東京のベースは、江戸時代に作られたと言ってもいい。



    著者は次のように表現している。




    まず、初期の江戸は、城下町の明快な理念に基づき、〈計画された空間〉としての為政者の意図通りに形成された。だが、明暦大火後、とりわけ中期以降の江戸は、城下町としての枠組みを超え、豊かな自然をとりこんで周辺部に大きく発展し、山の手では「田園都市」(川添登『東京の原風景』NHKブックス)、下町では「水の都」という、いずれも〈生きられた空間〉としての都市の魅力を大いに高めたのである。




    明治以降、西欧を見本にしたが、江戸時代の枠を活用しながら、建物も西洋風でありながらどこか日本風という個性的なものができた。




    所々に古い地図や写真を引用している。




    浅草、東京、新橋、渋谷、新宿、池袋と浮かぶだけで、様々な顔を持つ東京。




    読んでいくといろいろなことが頭の中をよぎる。

  • 2021/11/3 (初め)

  • 東京の下町はヴェネチアに似ている。

  • 筑摩書房HPより

    東京、このふしぎな都市空間を深層から探り、明快に解読した、都市学の定番本。著者と紙上の探訪をするうちに、基層の地形が甦り、水都のコスモロジー、江戸の記憶が呼びおこされ、都市造形の有機的な体系が見事に浮かびあがる。日本の都市を読む文法書としても必読。サントリー学芸賞受賞。
    この本の目次
    1 「山の手」の表層と深層
    2 「水の都」のコスモロジー
    3 近代都市のレトリック
    4 モダニズムの都市造形

    自由公園 水景 江戸ー東京の歴史と文化、人々の営みが重層的に折り重なって出来た都市、東京

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著者プロフィール

陣内秀信(Hidenobu Jinnai)1947年福岡県生まれ。東京大学大学院工学係研究科博士課程修了。イタリア政府給費留学生としてヴェネツィア建築大学に留学、ユネスコのローマ・センターで研修。専門はイタリア建築史・都市史。現在、法政大学特任教授。著書に『イタリア海洋都市の精神』(講談社)、『ヴェネツィア―都市のコンテクストを読む』(鹿島出版会)、『都市のルネサンス〈増補新装判〉』(古小烏舎)ほか多数。主な受賞にサントリー学芸賞、地中海学会賞、イタリア共和国功労勲章(ウッフィチャーレ章)、ローマ大学名誉学士号、アマルフィ名誉市民、ANCSAアルガン賞ほか。

「2022年 『トスカーナ・オルチャ渓谷のテリトーリオ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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