ニーチェ全集 2 (ちくま学芸文庫 ニ 1-2)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (571ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480080721

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  • 本来の『悲劇の誕生』。なぜなら本書は『悲劇の誕生』だけでなく『悲劇の誕生』の思想圏に属する他の講演や論文も収録されているからです。

    (『悲劇の誕生』の思想圏から)
    ギリシアの楽劇
    講演「ソクラテスと悲劇」の断片
    ディオニュソス的世界観
    ギリシアの国家
    音楽と言葉について

    (ホメロスの競争)



    (ギリシア人の悲劇時代の哲学)
    序言
    後の序言
    本論
    継続のための草案
    草案覚え書き

    (ホメロスと古典文献学)

    以上が含まれ、こちらの方が『悲劇の誕生』本編よりページ数が多いです。
    本来『悲劇の誕生』はニーチェの初期構想によるともっと膨大なものでしたが、ワーグナーのためにそれとは関係のない草案を削除し縮小して現在の形に成りました。ですので本来の『悲劇の誕生』がどのようなものだったのか、本書で垣間見ることが出来ると思います。特に「ギリシアの楽劇」「講演「ソクラテスと悲劇」の断片」「ディオニュソス的世界観」では『悲劇の誕生』の分かり難かった箇所が、別の言葉で分かりやすく述べられており、理解の助けになりました。

  • <哲学者>としてのニーチェ最初の著作。本書は2つの二項対立からなっている。一つはアポロン対ディオニュソスであり、一つはディオニュソス対ソクラテスである。

    簡単に要約しよう。

    最初の二項対立、アポロン対ディオニュソスというのは、つまり洗練された芸術の力vs生々しい感性や衝動の力を指す。

    アポロンが意味するのは、華々しく着飾った芸術である。それはすなわち、人生を美しくする幻想だ。今風の言い方をすると<物語化>といってしまっても良いかもしれない。整合性があり、ストーリーラインがきちんと備わっている。

    対して、ディオニュソスが意味するのは、より生々しい衝動である。ニーチェはそれを特に異民族の祭りに見出した。それはより人間の本能や本性に訴えかけるものであり、そこには着飾った幻想があるのではなく、陶酔と熱狂がある。

    本書の前半部は、ディオニュソスの逆襲というべき論調で進んでいくのであるが、ニーチェは同時にこれら2つに融合の可能性があるということを示唆する。

    すなわち、ディオニュソス=陶酔を取り込んだアポロン=幻想であり、それが本書の題名となる<悲劇>に見出されるということなのである。

    故に、続く2つ目の二項対立、ディオニュソス対ソクラテスにおいては、ディオニュソスは最初の二項対立のディオニュソスと同じものを意味しない。このディオニュソスは<悲劇>、すなわちアポロンを取り込んだ(あるいはアポロンに取り込まれた)ディオニュソスを指している。そしてそこに対立するのは、近代科学を代表する、芸術を理解しようとしない象徴のソクラテスなのである。

    こういった芸術と陶酔、芸術と科学といった世界観の対立は、今日でも至るところに見られる。芸術と科学の対立は、人文学と自然科学の対立とも読み替えられるが、こういった問題意識を持つ人間は少なくとも一度、本書に目を通す価値はあるのではないだろうか。

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