空間の経験 (ちくま学芸文庫 ト 2-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480081032

作品紹介・あらすじ

人間にとって空間とは何か?それはどんな経験なのだろうか?また我々は場所にどのような特別の意味を与え、どのようにして空間と場所を組織だてていくのだろうか?幼児の身体から建築・都市にいたる空間の諸相を経験というキータームによって一貫して探究した本書は、空間と場所を考えるための必読図書である。

感想・レビュー・書評

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  • 空間、場所、時間について、人がどう認知して評価しているかについて書かれた本です。分野としては地理学に当たるとのことですが、認知科学的アプローチによる文化人類学と考えるとしっくりきます。

    よりトリッキーな表現をすると、空間の経験というアートを鑑賞するための『美の壺』的マニュアル、と言ってもよいでしょう。実際これによって生じるのは、無意識に経験する空間について意識的に空間を経験することに他ならず、著者も「つまり本書は、あらゆる人文科学の試みと同様に、認識の拡大を目指しているのである。」の一文で本を締めくくっています。

    原著は1977年に刊行されていますが、今でも読むべき古典であり、認知科学の研究者に深い洞察を与えるとともに、都市計画や文学、デザインといった幅広い分野においてもここで得られた知見が投射できることでしょう。

  •  空間(space)と場所(place)について、色々な文脈から論じた概説書。原著タイトルは"Space and Place: The Perspective of Experience"で、こちらの方が意図を明確に示していると感じる。「経験」に関心を持っている私にとっても楽しめる本だった。
     著者は研究者であるだけあってとても中立的な筆の運び方が続いていく(美しい訳も素晴らしかった)けれども、著者の出自が中国大陸にあるからか、どうも東洋的な視点というか、そこまでいかなくても素地のようなものを随所に感じながら読み進めた。西洋的なものを無視しているというわけではなく、むしろ学術的には過去の西洋を中心とした貢献を引用・参照しているのだけれども、東洋的なものをベースに着想が行われているように思う。この点、原著を読んでいるであろう数多くの西洋人に意見を聞いてみたい。

     面白かった箇所の一部抜粋は以下の通り。
    ・ミネアポリスに長い間住んでいる人は、その都市をよく知っている。タクシーの運転手は、ミネアポリスの道路を具体的に覚える。そして、地理学者はミネアポリスを研究して、その都市を概念として知っている。これらは、三種類の経験の仕方である。18頁。
    ・経験という言葉は、受動性という含意をもっており、人が耐え忍んだこと、もしくは、人がこうむったことという意味を暗示している。(略)このように、経験とは、自分がこうむってきたことから学ぶ能力という意味を持っているのである。22頁。
    ・上階で暮らすには多くの労力を要したのである。古代ローマはもちろんのこと19世紀のパリでも、格の高い階というのは、地面と同じ高さにある商店のすぐ上の階だった。74頁。
    ・このように密集に適応することによって、犠牲となるのは何であろうか。犠牲にされるのは、人格の深い内面性を発達させる機会のように思われる。プライバシーと孤独がなければ、内省を持続させること、自己を厳しく見つめること、そして自己の理解を通じて他者の人格を十分に理解することは不可能なのである(出典あり)。122頁。
    ・(ユダヤ教を例にして)超絶的な希望を説く宗教は、場所を創出することに水を差す傾向がある。そのような宗教は、「今あなたが所有しているものに執着してはいけない。現在というのは未来への途上の野営地もしくは途中の逗留所であるかのようにして、現在の中で生きなさい」と教えているのである。320頁。
    ・形態は、崩壊しやすいものでしかない特定の実態よりも重要である。形態を復活させることは可能であるが、形態を作り上げている材料が崩壊するのは必然なのである。日本の神道の古くからの習慣は、このような再生の観念によって説明することができる。神道の神社は一定の期間ごとに完全に建て替えられ、備品と装飾も一新される。(略)それに対して、ローマのサン・ピエトロ大聖堂、シャルトル大聖堂、カンタベリー大聖堂といった大きな教会堂は、何百年もの間風雪に耐えてそこに立っている。長い期間に渡る建築の過程でその形態は変化していくが、ひとたびそこに存在するようになった実体は不変のままなのである。338-339頁。
    ・経験に対する盲目というのは、人間が共通に負っている条件なのである。われわれは、知っていることにはめったに気を留めない。われわれが気を留めるのは、それについて知識があることに対してである。われわれは、ある種の現実を認識するが、それは、その現実が他者に容易に示し教えることのできる種類のものだからである。われわれは他者に教示できる以上のことを知っているにも関わらず、自分が他者に教示できることが知っていることのすべてだと信じ込んでしまう。357頁。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/738554

  • 人間にとって空間とは何か、それはどんな経験なのか、また我々は場所にどのような特別の意味を与え、どのようにして空間と場所を組織だてていくのだろうか‥。70年代、現象学的地理学の旗手として登場した著者が、幼児の身体から建築.都市にいたる空間の諸相を、経験というKey Termによって一貫して探究した書。
         -20100131

  • 身体経験をベースに、さらに抽象的な思考に基づいた構造が積み重なって、人の空間認識は形作られる・・というような内容だと思う。著者が中国系という思い込みのためなのか、一読した印象は、”ZEN"のように、数多くのイメージを飛翔しながら全体の雰囲気で語らせるというような論だということ。

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784480081032

  • [ 内容 ]
    人間にとって空間とは何か?
    それはどんな経験なのだろうか?
    また我々は場所にどのような特別の意味を与え、どのようにして空間と場所を組織だてていくのだろうか?
    幼児の身体から建築・都市にいたる空間の諸相を経験というキータームによって一貫して探究した本書は、空間と場所を考えるための必読図書である。

    [ 目次 ]
    序論
    経験のパースペクティブ
    空間・場所・子供
    身体・人間関係・空間の価値
    広がりと密集
    空間の能力・空間の知識・場所
    神話的な空間と場所
    建築的な空間と認識
    経験的空間のなかの時間
    場所の親密な経験
    母国への愛着
    可視性―場所の創造
    時間と場所
    エピローグ

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 著者はもともと中国人だが若い頃から諸外国をめぐり、米国に帰化した人物。
    「場所」および「空間」をめぐる現象学的考察である。
    しっかりと語られているが、私にとってはさほど衝撃的な発見はなかった。なぜだろう? 20世紀の古典のひとつとして、著名な本ではあるらしい。もちろん、優れた書物である。

  •  人間にとって「空間」とは何であるかについて、幼児の空間認識、建築・都市、時間、密集などをテーマに探究する本。翻訳の関係か少々難解な部分もあるが大変充実した内容の良書。

     人間はどのような感覚によって空間を認識するかについて本書では、運動感覚と視覚と触覚であるという。

     またアーヴィング・ハロウェルの「おそらく、人間が自分の世界を空間化するときの最も顕著な特徴は、空間を行動や知覚的経験解いた実際的なレベルだけに限定してはいないという事実である」という言葉を引用し、人間の空間認識が、直接の経験から知っている地域を超えて、間接的に知ることのできるもっと大きな地域に及んでいることを述べている。

     その他、幼児の身体の発育と空間の認識の深まりの関係や、現代建築と原始的・伝統的社会の建築に関する項目が興味深い。

    より正確な理解のためにもう一度読みたい。

  • 学問的書物の引用においては、概ね理論の基礎付けがなされ、さらに文学的作品群の分析においては、経験という概念によって、空間や場所と人間の関係を検討する手法の実演をしてみせる。

    だって

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著者プロフィール

1930年中国で生れる。中国系アメリカ人。オックスフォード大学で修士号、カリフォルニア大学バークレー校で博士号取得。現在、ウィスコンシン大学マディソン校名誉教授。70年代に現象学的地理学の旗手として颯爽と登場し、今日では、世界的な第一人者として知られている。本書のほか『空間の経験』『トポフィリア』『愛と支配の博物誌』『コスモポリタンの空間』『感覚の世界』『モラリティと想像力の文化史』などがある。

「2018年 『個人空間の誕生 食卓・家屋・劇場・世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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