乱歩と東京 (ちくま学芸文庫)

著者 :
  • 筑摩書房
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本棚登録 : 103
感想 : 11
  • Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480081445

作品紹介・あらすじ

探偵小説作家・江戸川乱歩登場。彼がその作品の大半を発表した1920年代は、東京の都市文化が成熟し、華開いた年代であった。大都市への予兆をはらんで刻々と変わる街の中で、人々はそれまで経験しなかった感覚を穫得していった。乱歩の視線を方法に、変貌してゆく東京を解読する。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸川乱歩の作品と、その舞台となった1920年代の東京とのかかわりについて考察している本です。

    著者は、成熟した都市文化が花開いたことに着目し、そこで新たに生まれたさまざまな意匠が乱歩の探偵小説に取り入れられていることを明らかにしています。

    「D坂の殺人事件」には、無為に喫茶店で時間つぶしをしている、語り手の「私」と明智小五郎が登場します。二人は、古本屋のおかみさんが殺される事件に遭遇し、推理比べをすることになるのですが、そこで「私」は、明智が犯人ではないかという推理を披露します。「私」は、明智と被害者が幼なじみだということを、推理の根拠として示したのです。

    これに対して明智は、次のように反論します。「君は僕たちがどんなふうな幼馴染だったかということを、内面的に心理的に調べてみましたか。僕が以前あの女と恋愛関係があったかどうか。また現に彼女を憎んでいるかどうか。君にはそれくらいのことが推察できなかったのですか」。こうした明智のことばは、幼なじみをうしなった悲しみの感情とはまったく無縁だと著者は指摘しています。そして、こうした希薄な人間関係が、「探偵小説」が生まれる社会的条件となっているといいます。狭い地域社会のなかでは、被害者と犯人の関係は明白です。これに対して大都市では、人びとの関係は不透明であり、それゆえ犯人の捜索には「分析的精神」が要求されることになります。そして、探偵小説の読者にも、作者が小説のなかにさりげなく織り込んだトリックや仕掛けに注意しながら読み進める「分析的精神」が求められることになります。

    都市論的な観点から乱歩の小説に光をあてた評論として、興味深く読みました。

  • 文学

  • 1920年代の東京の街の変遷を乱歩作品を基に辿る。
    鍵のかかる扉は人々を二面に分け、裏の顔を作り出す。
    街中の暗がりは一掃され、明智も東京とともに姿を変える。


    乱歩の描く東京がもう見る影もないことは残念。だけれど、時代が変わっても、子どもたちを夢へと誘う名探偵や怪盗がいることは幸福だ、と思った。
    「うつし世はゆめ よるの夢こそまこと」

  • 江戸川乱歩の作品を通じて1920年代の東京を語る著作。本書の各章の最後には筆者が撮影したものを含む多数の建築物の写真が掲載されており、それらの建築物は1920年代に建てられたものである。写真は本書が最初に刊行された1984年頃に撮られたものと考えられるが、当時まだ同潤会アパートをはじめ、多くの建物が残っていたんだなあと感慨深い。

  • 丸善・ジュンク堂書店限定復刊。
    乱歩作品をモチーフにした東京の都市論であり、文化論でもある。
    本書を読むと、乱歩の諸作と、東京という都市、時代の変化が密接に関わっていたことがよく解る。
    乱歩が作中で描いた『東京』という都市は、当時も今も決して現実の東京ではなかったが、『乱歩が描いた東京』が、何処かにひっそり今もあるんじゃないか……というか、あって欲しいなぁ。

  • 都市東京論の好著である。江戸川乱歩の作品から1920年代を中心とする東京の姿と変容を浮かび上がらせる手腕は見事である。
    積ん読になっている「二笑亭綺譚」を読まなくては。

  • 何度目かの再読。
    今もって色あせることのない名著です。戦前、戦中、戦後の江戸川乱歩作品から世相を、時代の動きを、そして東京の変化を読み取る手腕はさすがの一言。特に屋根裏の散歩者を「自らの視線に追い詰められた」男と結論した第二章は出色でしょう。
    卓抜した都市論にして文芸評論という本書の価値は今もって全く廃れていません。

    『乱歩と東京』原著からおよそ三十年。文庫化からも二十年が経過しようとしています。文庫版の解説を担当した種村季弘も既に鬼籍の人であり、東京もまた大幅に姿を変えておりましょう。本書を手に乱歩と往事をしのぶのも一興かと。

  • ざっくりとしか読んでいませんが、昔よく読んでいた乱歩の世界が広がっていて、思わず都内へ足を運びたくなります。時代背景なども学べて、新しい発見がありました。

  • 筆者が芸大の建築科を卒業ということで、よくある乱歩の分析にとどまらず、その作品が不可分に、当時の東京と結びついていたのだという仮定から紐解かれているのがなかなか読み応えがあった一冊。

    特に乱歩ファンなら誰もがなじみのある陰獣の主人公、大江春泥の引っ越し癖と、その足跡に同潤会アパートの住所を重ね合わせるなど見事。なんだかなまいきにも、よくもここまで乱歩作品にこだわり抜いて、調べまくってくれました!と、拍手したくなるほど。

    また、差し込まれる当時の東京の都市模様や変遷もたいへん面白かった。
    年寄りめいた言い方しちゃうと、昔ってスケールがでかかったんだな、と。いわゆる「ヘンタイ」が、図抜けてるような気がしてならなかった。

    たとえば1つに、二笑亭という私宅のエピソードがあるがもう、これがすごいったらない。
    「鏡地獄」や「パノラマ島奇談」の並びで紹介されるこの私邸は、深川のあたりに建てられ、えんえんと十数年に亘って、総額やく10万円をかけて工事が続くが、新聞からは「狂人のたてた化け物屋敷」と書かれるような奇妙なものだったという。当時、5万円で5千人の職工の賃金だったそうで、そうと考えると、この金額がいかに並外れているか、というものである。詳細は省くが二階あたりにはめ殺しの窓があり、それを磨くためだけに1人の植木屋が雇われて月に一度通ったそうである。いやはやなんともスケールの大きいことで。

    乱歩の作品群が、少年探偵団のあたりから「陰獣」「芋虫」「押絵と旅する男」「一寸法師」「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」などなど網羅され、もうファンにはたまらないわくわく感である。

    写真や挿絵も多く挟まれているので、そこまで難しくないはず。
    乱歩ファン、あるいは都市オタク(いるの?)のあなた、ぜひ。

  • 江戸川乱歩の目を通して、江戸から東京へと変わっていく都市史、都市文化の検証。

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