- Amazon.co.jp ・本 (283ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480081445
感想・レビュー・書評
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筆者が芸大の建築科を卒業ということで、よくある乱歩の分析にとどまらず、その作品が不可分に、当時の東京と結びついていたのだという仮定から紐解かれているのがなかなか読み応えがあった一冊。
特に乱歩ファンなら誰もがなじみのある陰獣の主人公、大江春泥の引っ越し癖と、その足跡に同潤会アパートの住所を重ね合わせるなど見事。なんだかなまいきにも、よくもここまで乱歩作品にこだわり抜いて、調べまくってくれました!と、拍手したくなるほど。
また、差し込まれる当時の東京の都市模様や変遷もたいへん面白かった。
年寄りめいた言い方しちゃうと、昔ってスケールがでかかったんだな、と。いわゆる「ヘンタイ」が、図抜けてるような気がしてならなかった。
たとえば1つに、二笑亭という私宅のエピソードがあるがもう、これがすごいったらない。
「鏡地獄」や「パノラマ島奇談」の並びで紹介されるこの私邸は、深川のあたりに建てられ、えんえんと十数年に亘って、総額やく10万円をかけて工事が続くが、新聞からは「狂人のたてた化け物屋敷」と書かれるような奇妙なものだったという。当時、5万円で5千人の職工の賃金だったそうで、そうと考えると、この金額がいかに並外れているか、というものである。詳細は省くが二階あたりにはめ殺しの窓があり、それを磨くためだけに1人の植木屋が雇われて月に一度通ったそうである。いやはやなんともスケールの大きいことで。
乱歩の作品群が、少年探偵団のあたりから「陰獣」「芋虫」「押絵と旅する男」「一寸法師」「二銭銅貨」「D坂の殺人事件」などなど網羅され、もうファンにはたまらないわくわく感である。
写真や挿絵も多く挟まれているので、そこまで難しくないはず。
乱歩ファン、あるいは都市オタク(いるの?)のあなた、ぜひ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「江戸川乱歩」とか「東京における江戸」とか「昭和初期の東京」などの単語に反応してしまう方におすすめの本です。
まだ薄暗い江戸的な世界が残っていた頃の東京へのオマージュのような本。