人間の条件 (ちくま学芸文庫 ア-7-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (560ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480081568

作品紹介・あらすじ

条件づけられた人間が環境に働きかける内発的な能力、すなわち「人間の条件」の最も基本的要素となる活動力は、《労働》《仕事》《活動》の三側面から考察することができよう。ところが《労働》の優位のもと、《仕事》《活動》が人間的意味を失った近代以降、現代世界の危機が用意されることになったのである。こうした「人間の条件」の変貌は、遠くギリシアのポリスに源を発する「公的領域」の喪失と、国民国家の規模にまで肥大化した「私的領域」の支配をもたらすだろう。本書は、全体主義の現実的基盤となった大衆社会の思想的系譜を明らかにしようした、アレントの主著のひとつである。

感想・レビュー・書評

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  • 現代では、人が「必要」から解放され、自由のままに自分が自分であることを表現できる「公的領域」が無くなってしまっている

    ■本書のメッセージ
    ・人間は「労働」「仕事」「活動」という3つの活動力で、人間は環境に関わる
    ・かつてギリシアのポリスにおいては、「活動」が公的領域でなされた。言論によって、自分が何者であるか、他者と異なるということを示していた
    ・しかし、現代にかけて、公的領域は消滅した。人間の自由な活動は無くなり、生命維持のための必要にかられた労働偏重の世界となっている
    ・公的領域は無くなり、私的領域が全体に拡大しつくした現代において、本当に、個人本来が自由に生き、行動をすることは極めて困難となっている

    【感想】
     生命維持の活動に追われていて、人間本来の活動ができていないのでは、という主張には納得する。これだけ働かないと生きていけない社会はどこかおかしいと思う。現代はどれだけの人が自由さを感じているだろうか。起きている時間の大半を仕事や労働に費やしている。社会のシステムが、それを人々に強いているなと思う。 

     哲学や社会思想家の基礎知識と、偉人たちの論理が自分のアタマの中で整理できていないと、読むのに大変苦労する。哲学科の大学4年生か修士ぐらいの前提知識が要求されている気がする。アリストテレス、プラトン、マルクスなど、有名な哲学者や思想家をたびたび引用しながら語れるが、そもそもその偉人たちが哲学界でどういう位置づけたるかを知らないと、筆者の主張とどう対比されているのかが読み取れない。

     分厚い哲学書は初めて読んだ。読書会で3回で読んだ。自分の主張の正当性をアピールする手法が、社会科学と異なることは、私にとっての発見だった。とにかく文章を重ねて綿密に論理を練る。過去の偉人たちの主張を借りながら、自分のコンセプトを述べていく。データを使ってサポートするのではなく、偉人や有名な書籍の言葉を使いながら論旨展開を行う。そこそこ説得力はあって、「まぁそうかもな」とは思わされる。
     社会科学者の研究は、こういった哲学者たちの作ったコンセプトや問題意識の延長線上にあるのだろうな。

     読んでもここまで理解が困難な文章は初めてだったかもしれない。著者はドイツ語を母国語として、英語で書いたというから仕方ないのかもしれないが。文章が極めて下手なので、人に薦めづらい。主張やコンセプトは練り上げられているから、惜しい。

  • アーレントのいう「人間の条件」とはつまり、生命それ自体=生命を維持しなければならないということ、世界性=耐久性をもった人工的環境がなければならないということ、多数性=一人一人違った人間が共生しているということ、の3つである。
    そして人間はこの3つの条件に基づき、消費物を生産する「労働」、耐久財を製作する「仕事」、公的領域に出現して他者と関係を結ぶ「活動」を行っている。
    本書は、「労働」「仕事」「活動」それぞれの特性を、哲学史的背景とともに掘り下げながら、3つのうち何が最も重要だとみなされてきたかという、ヒエラルキーの変遷を記述するものである。
    アーレントの議論は時系列に沿って展開するわけではないが、あえて時系列に沿って整理すると次のようにいえると思う。

    古代ギリシアにおいて市民たちは、「労働」「仕事」を私的領域(家政)に属するものとして軽蔑した。自分たちはといえば、ポリスという公的領域において自らの卓越を表現する「活動」に余暇を費やした。【活動>仕事>労働】
    プラトンは、「知っている者=思考する支配者」と「行為する者=実行する被支配者」を二分する哲人政治を提唱し、「活動」=政治のもろさを「仕事」の確実性に置き換えようと試みた。【仕事>活動>労働】
    キリスト教は、個人の生命の不死を説き、生命を神聖視した。「労働」「仕事」「活動」のすべてが生命に従属するものと見なされ、均質化をもたらした。結果として、労働はかつてのように軽蔑されなくなり、むしろ奨励されるようになった。【労働≧仕事=活動】
    あらゆるものに「疑い」の目を向けたデカルトは、あの有名な「われ思う、ゆえにわれあり」という一つの真理を、自己の精神の内側に見出した。「デカルト以降」の近代人は、自己の外側を取り巻く世界のリアリティを失い、他者の存在や人間一般に対する関心は薄れた。【労働?仕事>活動】
    マルクスは「労働」こそが最高の価値であるとし、ニーチェは生命こそが人間のすべての力の根源であるとした。【労働>仕事>活動】
    そしてデカルト的懐疑によりかつての信仰は失われ、近代人は再び死すべき存在となった。が、世界は依然としてリアリティを欠いている。人間はいわば自己の精神の内部に幽閉された。その結果、唯一不死のものと見なされうるものとしては、「種としてのヒト」の生命だけが残った(種として永遠の循環を繰り返す動物と同じレベルに成り下がった)。

    アーレントは現代における「活動」の地位低下を嘆く。
    自由な「活動」を保証するということ。日本はどうか?
    市民参加を是とする政治制度、異なる意見を尊重する成熟した雰囲気、公的領域と私的領域の峻厳な区別……いずれも日本はまだまだ未熟と言わざるを得ない。
    党議拘束が存在する議会政治は民意を正しく反映していないし、人々の間で政治的話題はタブー視される。ほとんどすべての選挙において、本来的には公的領域に属さない「経済」が争点となる……

    もちろん、アーレントが理想としたような“純度”の高い公的領域は、現代では実現不可能だろう。しかし、「活動」が軽んじられ、個人が尊重されない現状に甘んじていれば人間の自由は侵されかねない。人間は自らの尊厳を保つために、絶対的真理など存在しないこの世界で、終わりのない「活動」に身を投じなければならない。

  • ハンナ・アレントの代表的な書籍の一つです。彼女独自の理論である「活動(action)」という人間行為の原理と想定される概念が説明されています。
    「活動」は、対比として「労働(labor)」、包括概念として「仕事(work)」と併せて理解する必要があります。
    「活動」を一言で言うと、人間が言論や行動を通じて他者と交わり理解したうえで、それぞれの存在の共存を許しあう過程です。

    なにやら難しいですね。
    でも中身は小説タッチになっているので、読みやすい・・・というより新しい発見があるかもしれませんよ。

  •  人間の活動を分析した本。生命を維持するための労働。物による人の世界をつくり出すための製作。人と人のつながりをつくり出す活動。今まで一度たりとも考えたことがなかった視点から人間が分析されていた。
     差別や貧困、政治的腐敗、終わらない戦争等々なんと人類は愚かなのだろうと絶望していたが、この本を読むとそれが当たり前なのかなという気がしてきた。そして、その人間の本性は少しづつ変化しながら未来へと続いていくのだろうな。
     希望は持てないが多少冷静にはなれる本。

  • 本当に読み応えのある深い本でした。本書は20世紀の哲学者ハンナ・アレントの代表作の一つで1950年代に書かれました。訳者の志水氏も最後に述べているように、どちらかと言えば難解な本ですが、アレントの言葉の定義がわかってくると徐々にスラスラと読めるようになってきます。志水氏が最後に本書の概要をとてもわかりやすく説明されていますが、読者の皆さんはまずは自力で本書を読み進め、最後に自分の理解を補う上で志水氏の解説を読むと良いかと思います。

    本書は人間の「活動的生活」を「労働」「仕事」「活動」の3つに分類し、アレント氏がそれぞれを定義づけます。そして人類の歴史(古代ギリシャ以降)において、この3つの序列がどう変化してきた、そしてその理由は何か、を解き明かしています。最初はどう違うのか良くわからないかと思いますが、アレントの言葉の使い方に慣れてくるにつれ、本書の後半ではだいぶ違いが理解できます。

    アレントは本書の最後の章で「アルキメデスの点」の話を出します。これは何かといえば、人類は地球に拘束されている生き物であるにもかかわらず、地球を離れて宇宙のある点から地球を見ることが出来るようになったことを、ガリレオ・ガリレイの地動説をもって説明しているのですが、私はアレント自身も「アレントの点」なるものを持っていると思いました。しかもこのアレントの点は、空間的に遠く離れた点という意味だけでなく、時間的にも遠く離れた点に自分をおくことが出来る、という意味で時空間を超えた点だと思います。自身を古代ギリシャにおくと、いかに現代社会(20世紀)の常識が非常識であるか、が描写できるというようなことがたびたび登場します。アレントは非常に視野が広いだけでなく深い(つまり事象の根源を突き止める)ことができる卓越した人物であったと感銘を受けました。

  • 人間の条件すなわち労働と仕事と活動を分析し考察することで近代社会における思想的体系の再構築を図る。

    ハンナ・カレント氏自身、ナチス政権下で祖国ドイツそしてパリを追われ国家の庇護を得ぬ脆弱な基盤を背景に、思想と行動をより強固により具現にすべく社会運動家と思想家として彼女の熱量を感じる。

  • 人間の条件の最も基本的な要素である活動力は…労働、仕事、活動である。
    労働…消費と結びついた、消費物をつくること。
    仕事…人間の個体の生命を超えて存続する、「世界(各世代の居場所)」の物を作ること。
    活動…日々の活動

    活動─仕事─労働 の順に並んでいたヒエラルキーは、仕事─活動─労働へと変わり、近代になると労働─仕事─活動に逆転した。

    労働の勝利は、「世界」を消費の対象とした。
    また、労働が人間の生命の維持にのみ専心する以上、キリスト教の勃興以来、西洋の伝統の一部となった最高善としての生命が、生の哲学として復活した。

    作者にとっての「公的領域」のモデル→古代ギリシアのポリス。ポリスでは活動と言論により、自分は何者であるかの正体を暴露し、単に生きるための必然から解放され、自由を獲得した。
    経済はポリスでは本来、家族的なものすなわち非政治的なものであったが、国民国家の勃興によって家族を拡大させた「社会」が出現、公的領域が消滅した。
    労働が勝利を収めるに従って、公的領域と私的領域の境界線は曖昧になり、「社会」が勃興。社会の中では、自分が他人と同じであることを示す「行動」が人間領域を支配した。

    労働の優位の政治的表現→社会主義。
    これに加え、作者は労働優位と経済重視の資本主義社会も批判した。

    公的領域で活動し言論することが人間の条件の決定的な部分を成すならば、普通の市民の政治参加を保証し拡大する課題は、政治論の中心に置かれねばならない。

  • ←『みんなの当事者研究』國分

  • 高1の時に初めて読んだまじめな本。思い出深い。

  • よくよく考えたら、あんたは、結局、働かずに楽して思索に耽っているだけの有閑マダム(笑)ではないですか?世の中の人はそんなにヒマではないのですよ。もう少し生きると言うことをまじめに考えましょう。
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著者プロフィール

1906-75年。ドイツに生まれ、アメリカで活躍した哲学者・政治思想家。主な著書に、本書(1958年)のほか、『全体主義の起源』(1951年)、『革命について』(1963年)など。

「2023年 『人間の条件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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