- Amazon.co.jp ・本 (478ページ)
- / ISBN・EAN: 9784480082145
作品紹介・あらすじ
本書でアレントは、主としてアメリカ独立革命とフランス革命の経験を比較・考察し、自由が姿を現わすことのできる公的空間を保障する政治体の創設として前者を評価する。政党制や代表制ではなく、ある社会の全成員が公的問題の参加者となるような新しい統治形態がその時そこで始められたのである。忘れられた革命の最良の精神を20世紀政治の惨状から救い出す反時代的考察。
感想・レビュー・書評
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『人間の条件』の続編と言うか、補遺的な内容。『人間の条件』同様、金言に満ちた本だった。
アメリカ革命とフランス革命を比較し、前者を「成功した革命」、後者を「失敗した革命」と位置付ける。
アーレントは、自由Freedomと解放Liberationを峻厳に区別した上で、革命の目的は、市民が統治に参加する自由Freedomを構成することとした。フランス革命は解放Liberationにこそ成功したものの、真の自由Freedomを構成するには至らなかった。
一般的に「革命」というと、暴力的でドラマティックな側面ばかりが注目されがちだが、アーレントに言わせれば、暴力的局面は革命の第1段階に過ぎない。革命の本質は自由の創設=市民による自治の仕組みをつくることにあるのだから、むしろ暴力的局面が終わってからが革命の本題ということになる。アーレントが、一般的な名称である「アメリカ独立戦争」ではなく、あえて「アメリカ革命」と呼ぶ理由もここにある。
フランス革命の失敗の原因としては、
・民衆の貧困という社会問題の解決が主な目的となってしまったこと
・市民の幸福を国家統治とは無関係な「私的なもの」であるとみなしてしまったこと
・革命後に制定された憲法の正当性が際限なく疑われ、頻繁に改正されたこと
・市民の自由な議論の場であった人民協会を弾圧し、ナショナリズムに基づく中央集権的な政治構造を目指したこと
などが挙げられている。
アメリカ革命の成功の背景としては、
・民衆の貧困という社会問題が存在しなかったこと
・市民の統治参加という「公的幸福」をいかに実現するかに重きをおいたこと
・憲法を制定した「建国の父」たちに最大の敬意が払われ、憲法が尊重されたこと
・連邦制を採用し、草の根(ボトムアップ)的な政治構造を志向したこと
などが挙げられている。
しかし、合衆国憲法は代議制を採用し、結局のところ少数の代表者のみに公的空間を与えることとなり、結果として人民は公的事柄に無関心となり、革命精神は失われてしまった。
政党政治の問題点や、どうすれば憲法が正当性をもつか、といった現代の日本にも通じる論点を本書は提示している。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本でアレントが指摘した政党政治の課題は、たしかに現代の先進国で頻繁に見られる問題になっていると思う。政党の論理で物事が決まり、議会での肝心の議論は形だけになっている(何も物事を決定する力を持たないようになっている)ように見える。統治する者と統治される者が分離してしまい、トップダウンの権威は、選挙で勝ったものに占有されている。
しかし、アレントが称揚したような、市民の政治参加によるボトムアップの権威を作り出す仕組みは、現実に可能だろうか?日本で考えるとしたら、個々人が自分の食い扶持を稼ぐだけで忙しい状況で、政治参加のための定期的な会議に参加する等は不可能に思える。アメリカ独立革命後の現実の政治においてタウンシップが廃れていったことも、同様の理由によるのではないだろうか。結果的に有閑な人々のみによる貴族統治になってしまうのなら、政党政治の方がまだマシだろう。アレントは政治哲学者なので実際の制度設計について検討することがなかったのは仕方ないが、おそらく実現を検討した時に立ちはだかるような何らかの困難な点が、彼女の理想にはあったのではないかと思う。
そういった点を置いた上で、全ての人による政治参加を理想として持ち続け、不完全ながらも多くの人の政治参加を助けるような制度を検討するということであれば、とても意義があると思う。そのために本書を心に抱いておきたい。 -
まあ正直言って、意味もわからず読んでいたのですが。興味深い記述はいくつかあった。
「アメリカ大陸の植民に役立った行為がどんなに罪深く、どんなに獣的であったとしても、それは一人の人間の行為にとどまっていた。そして、このような行為が一般化され考察の対象となったばあいでも、その考察はおそらく、人間の性質には固有の或る獣的な潜在力があるという点にとどまり、組織的集団の政治的行動とか、犯罪と犯罪者によってのみ進みうる歴史的必然という問題にまで発展しなかっただろう」(p138)
歴史と歴史学の大きな違いのひとつは、歴史学はその時代の固有性を大切にする、ということだと思う。わかりやすくいえば、「豊臣秀吉にみる人身掌握術」とかそういうことをあんまり歴史学は考えないということだ。現代に通じる要素を歴史から抜き出してくるのは、あまりにも恣意的ではないか。すべてのものごとは、その時代の社会(関係やら、意識やら、「何か」)に拘束されざるをえないわけで、むしろ興味深いのはその時代の社会を拘束している「何か」だ。そしてその「何か」を探求することが歴史学の仕事ではないか。今も昔も変わらないなにかを見つけるのは、別に歴史だけでやれる固有のことじゃない。今を基準に昔を見るだけだから、極端な話、誰にだって出来るような気がするのだ。
「(「エリート」という言葉が一般的に持たされている意味は―引用者注)政治の本質は支配関係であり、主たる政治的情念は支配し統治する情念であるということである。私は、この結論を全く誤っているということをいいたいのである」(p436)
「問題は、人民全体が参加できるような公的空間、そしてそこからエリートが選択される、というよりはむしろエリートが自分自身を選択することのできるような公的空間が欠如している点にある。いいかえれば、問題は、政治が専門職業やキャリアになっていること、したがって、「エリート」が、それ自身はまったく非政治的な基準にもとづいて選ばれていることにある。本当の意味での政治的な能力の所有者がまれにしか自己を主張しえないのはあらゆる政党制の性格からきている。そして特別に政治的な能力が、徹底したセールスマンシップを要求する政党政治のくだらない策動のなかを生き抜くのは、さらにまれなことである」 (p438〜439)
政党制の欠陥を弾劾し、「評議会制」の必要を述べるくだり。その是非はともかく、政治を「支配し統治する情念」として理解しないのは実は重要だ。これも1点目と関係しているのだけど、人間に(あるいは動物に)固有の支配欲、権利欲によって政治を説明してしまうことは、その時代固有の政治に特有の歴史性を全て消し去ってしまう恐れがあるからだ。その点は非常な共感を覚える。
それから、「エリート」への誤解について、この点も多くの示唆を含んでいる。これは公的空間の欠如、という観点から語られているのだけど、実際そうでないのに承認された公的空間で自分に公的性質を持たせるというのは政党制の本質に触れる問題だ。わかりやすくいえば、郵政民営化賛成で自民党に投票したのに、それ以外のこと(増税でも、イラク派兵でも)も自民党が支持を得たことになってしまう、ということだ。
残念ながらだからといって政党制(あるいは政党政治)にかわるなにかは発明されないと思うので、この制度に沿いながら、矛盾を是正していく営みが必要なんだと思う。 -
政治学に疎い自分でも、フランス革命やアメリカ独立運動についての初歩的な情報をもとに、わりかし味のある読書として消化できたのは予想外で喜ばしい限り。
文体は論理的かつ語彙も柔らかく、シンプルで読みやすい。活動という実際的行動に目を配るアーレントは、近代ヨーロッパが辿ってきた極度に知的で合理性を重んじる合一的な枠組みからの脱却と、その批判の目は絶やさないよう気を配っている。
革命が内包する困難さ、そしてそのはじまりに還ろうとする革命観には驚かされた。
新たな価値観を生み出す革命が、アメリカという国において、ようやくその共和制という形として結実したその功績をアーレントは指摘する。
彼女のフランス革命批判には、確かにマルクス主義という全体的国家に対する鋭い視線が土台となっている。
まさに、その時代を直視した人間ならではの危機意識を正気で持って捉え、未来に問題として投擲する。 -
T.N
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【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/737519 -
ハンナアーレント 「革命について」
代表作「人間の条件」の補論。革命に 人間の条件 の一つである「活動」の多数対話性、公的領域、自由な政治参加を見出している
革命の目的を 自由の創設とし、具体的には、自由な政治参加、政治権力の分立、それらのための憲法作成を 革命の目的としている。
アメリカの独立革命には 自由の創設 が見られるため成功とし、フランスの革命は 貧困の解決など社会問題への対応か優先したため失敗と見ている
アーレントの扱う人間のモデルは、私的利益には関心を持たず、不自由と不平等に対して 不満の声を上げる政治的人間ばかり。少し窮屈
名言の数々は現代の国際社会を読み解くヒントになる
*革命は 政治的権威の失墜の原因ではなく、その結果である
*戦争という人類絶滅の危機という状況のなかでは、戦争の大義名分は暴政に対する自由しかない
革命のほか、政治的自由を保障する空間として、ポリス、小共和国、評議会制を取り上げている
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無支配というイソノミアについて書いてあると知り借りて読んでみました。
革命と自由 叛乱と解放
革命が自由ではなく社会問題に移行した時、その革命は失敗を宿命とする。
アメリカの革命 フランスの革命 ロシアの革命 その他の革命 パリコミューンなど様々な革命の現象を的確に批判しつつ、その限界と可能性を見いだそうとしている。
良書だった。 -
哲学
政治