唯脳論 (ちくま学芸文庫 ヨ 5-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480084392

作品紹介・あらすじ

文化や伝統、社会制度はもちろん、言語、意識、そして心…あらゆるヒトの営みは脳に由来する。「情報」を縁とし、おびただしい「人工物」に囲まれた現代人は、いわば脳の中に住む-脳の法則性という観点からヒトの活動を捉え直し、現代社会を「脳化社会」と喝破。さらに、脳化とともに抑圧されてきた身体、禁忌としての「脳の身体性」に説き及ぶ。発表されるや各界に波紋を投げ、一連の脳ブームの端緒を拓いたスリリングな論考。

感想・レビュー・書評

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  • 現代社会は全て「脳」が創り出したモノである。
    この本を読んだ直後にホームセンターに用事で行ったのですが、人間ってすげえってなりました。

  • 現代社会は脳が社会に反映されている、いや脳そのものになったという当時としては斬新であったと思われる31年前にあたる平成元年出版の著作。
    脳と社会に纏わることの証左を様々挙げながら、また特に著者の専門である解剖学の専門的な知識にも及んで、解説にもある通り、時々起こるような脳ブームのきっかけとなった本である。後に著書のヒット作「バカの壁」に繋がる代表作。

    もちろん脳科学にも近接領域があって、心理学や哲学の文系よりの分野を巻き込んむが、その端緒になったようだ。
    私たちは脳の中に住んでいる、という指摘をされると理解できる、というように人々が気付かないが本質的なことを著者の養老孟司は言ってくれるので結構長いこと著者のことが好きだ。本質や思い込みを指摘してくれることも大事だが、今東京では喫煙しにくい状態になっているのだが、養老孟司は喫煙者でありそこもいい。

  • 昔、ヒトは洞窟に住んだり、森で獣を捕まえたり、自然の中で生きていたが、文明が進むにつれ、建築物や道路、街路樹に囲まれた社会を作っていった。この社会は脳の大脳皮質が生み出した幻想。▼都会に住んでると、周囲のあらゆるモノゴトは単なる記号や情報にしか見えなくなってくる。自然から切り離されたデジタル世界に生きてる錯覚になる。でも、ネットとかで生々しい死体の写真や「九相詩絵巻」を見ると、「あぁ、ヒトも自然の一部なんだ」「あらゆる意識を生み出すのは脳という身体の器官なんだ」と気づいて背筋がゾッとする。心地よい幻想から目が覚めて、生々しい自然の中にいることに愕然とする。隠されるものは、一皮剥いだ死体、すなわち異形のものである。しかし、それがヒトの真の姿である。なぜなら、われわれがいかに進歩の中へ逃走しようと、それが自然なるものの真の姿だからである。ヒトを生み出したのは、その自然である。『唯脳論』1989

    ***********************

    サヴァンのカレンダー計算能力、眼前の景色を完全に記憶するカメラ・アイ、演奏された曲をその場で覚える、桁の大きい素数を順次追う能力。これら能力はヒト社会では役に立たない。要求されるのは言語を使って他人と共有する力。p.165『人間科学』2002

    機能は場所が決まっていない。肺の場所は決まっているが、呼吸の場所は決まっていない。心臓の場所は決まっているが、循環の場所は決まっていない。筋肉の場所は決まっているが、運動の場所は決まっていない。脳の場所は決まっているが、意識の場所は決まっていない。▼人間は自分の内臓に発生するがん細胞を感知できない。人間が感知できるのは外界。※ブラックジャックが自分で自分を手術したのは、客体でない自分の内部を客体化している?『からだを読む』2002

    元気な自分と死にそうな自分は別の人。死ぬのは私ではなく別の人。死体は私にとって想像ではなく、平たい現実。▼フツーの顔を何枚も重ねていくと美人(特別)になっていく。当たり前の極限がノーベル賞。▼与えられた自然状態に対して、人間社会がやり遂げたことを考えれば、日本は世界でも模範的な国家のひとつ。p.242『人生論』2004

    人は眠るとき意識が切れている。起きていると意識がある状態が続き、眠っている間は意識は切れている。死ぬということは最後に意識が切れてもう戻ってこない状態をいう。人生は点線。▼人が抱く死への恐怖は生前のものであって、死後は意識はなく死への恐怖もない。『養老訓』2007

    理系と文系の違いよりも、野外か実験室かの違いが大きい。『文系の壁』2015

    同じの世界:見えているものが同じ,意識,数学,一神教,グローバル,イコール。違うの世界:見えているものが違う,感覚,芸術,多神教,ローカル,ノットイコール。現代社会は「同じの世界」に偏り,バランスを欠いている.たとえば,「白」という文字.これは意識でとらえると白色,感覚でとらえると黒色(文字は黒色だから).鴨川はつねに鴨川だと思っているが,流れている水は常に違う水.私はつねに私だと思っているが,人の身体は物質的には7年で入れ替わって違うものになる.人間はイコールを理解できるが,動物はできない.猿の話.朝三暮四(ちょうさんぼし)目先の違いに囚われて,実際は同じであることに気付かない.都市社会はエアコンで「同じ」気温,照明で「同じ」明るさ,石の床は「同じ」堅さ.「違う」「変化」は排除される。人間関係は「同じ」が好まれ,「違う」「変化」は嫌われる.生身の人間は常に変化する.その「違い」や「変化」が面倒臭い.いらない.となる。*ペットは「死ぬ」から飼うのを嫌がる人がいるが,これも「死ぬ」という自然の「変化」を嫌う現代人の特徴なのかも.『遺言』2017

  • 唯脳論とは何か。その定義に先ず惹きつけられる。ヒトの歴史は、「自然の世界」に対する、「脳の世界」の浸潤の歴史。ヒトが人である所以は、言語、芸術、科学、宗教等のシンボル機能により、物財の交換、創造が為されること。また、差異を説明しようと、言わば神学論争のような決着のつかぬ、相互の説得を為すこと。ユヴァルノアハラリを彷彿させる論であり、寧ろ、これがオリジナルではとも感じさせられた。

    都会が脳の産物であり、それを別著ではデジタル化とも表現していたが、確かに、最早、都市には自然は略残されいないのだろう。制度や建築物、あらゆる人間の営為は、確かに全て人工物だ。数少ない自然は、天候や災害、それと著者の愛する虫位だろうか。だから唯脳論なのかと、分かりやすい。

    また、脳と心の関係性についての解説も秀逸。これは、構造と機能で表される。つまり、心臓と循環、肺と呼吸のような事だ。解剖学ならではの視点かと思うが、確かに循環や呼吸を心同様に切り出す事は出来ない。実物は構造の方なのだから。

    数多ある養老孟司の著作、主張の原点とも言える代表作。これは、古典としても読むべきだろう。

  • 養老氏の著作の原点?
    解剖学者という視点から明快に説明されており わかりやすい
    脳 機能 回路⇒思考 意識と話が進む
    現代の脳が優位な背景を 知ることができる

  • 養老先生の本は、この本から読み始めるのがオススメです。先生の書かれる本に通底する考え方、物の捉え方が書いてあります。

  • 解剖学の観点から脳とは何か、構造、機能、意識とは、言葉とは、さまざまな角度から脳の本質を論じていく。
    今われわれは脳の作りだした桃源郷に住んでいる。
    そこから解放されるか否か、それは私の知ったことではない。
    だそうだ。
    読むのに頭をつかう(それこそ脳をつかう)が、久々に質のいい大学の講義受けたような気分になれる。

  • 考えない様に、、と考えてしまう。。。
    人間にとって「脳」とは何か?

    人間は身体拡張を続け、足は高速で走る車、そして空を飛ぶ
    翼へと進化し、そして、人間は「脳」の拡張へと向かう。

    心ってなんだろう?

    「脳だけをとってみても、物質になったり、心になったりする。
    それが、われわれの脳が持つ性質なのである。」
    物質としての脳からなぜ意識や心が生まれるのだろう?

    現代社会を「脳化社会」として、身体の拡張から「脳」の
    拡張へと進化?する人間。

    心と体の秘密が分かって来る。

  • 10年ぶりに再読。視覚系と聴覚系の脳による融合からの言語の発生が面白い。構造と機能、量子と連続などの脳による統合から、哲学的諸問題の様相が見えてくる。完全に脳化された都市という場は、人間、人類を更なる脳化に導くのだろうか。身体の一部としての脳が、身体性を完全に隠蔽する時、人類は今の人類と同じでは無くなる。

  • なかなか面白い本で、89年発行時は結構斬新であったと思われる。脳研究者の「あとがき」は少し暴走ぎみであるが、本書の内容はそれを差し引いてもなかなか深く広い。循環系をいくら分解しても循環がとりだせないように、脳を分解しても心が出てこないことを示し、社会や心が脳の産物であることを示す。また、目的論と運動系の関係、聴覚と時間の関係、視覚と聴覚の連合と言語の関係などなかなか刺激的な理論にみちている。

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著者プロフィール

養老 孟司(ようろう・たけし):1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士(解剖学)。『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。『バカの壁』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。同書は450万部を超えるベストセラー。対談、共著、講演録を含め、著書は200冊近い。近著に『養老先生、病院へ行く』『養老先生、再び病院へ行く』(中川恵一共著、エクスナレッジ)『〈自分〉を知りたい君たちへ 読書の壁』(毎日新聞出版)、『ものがわかるということ』(祥伝社)など。

「2023年 『ヒトの幸福とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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