限界芸術論 (ちくま学芸文庫 ツ 4-1)

著者 :
  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (462ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480085252

作品紹介・あらすじ

芸術と生活の境界に位置する広大な領域、専門的芸術家によるのでなく、非専門的芸術家によって作られ大衆によって享受される芸術、それが「限界芸術」である。五千年前のアルタミラの壁画以来、落書き、民謡、盆栽、花火、都々逸にいたるまで、暮らしを舞台に人々の心にわき上がり、ほとばしり、形を変えてきた限界芸術とは何か。その先達である柳宗悦、宮沢賢治、柳田国男らの仕事をたどり、実践例として黒岩涙香の生涯や三遊亭円朝の身振りなどを論じた、戦後日本を代表する文化論。表題作『限界芸術』に加え、芸術の領域での著者の業績がこの一冊に。

感想・レビュー・書評

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  • 限界芸術 芸術と生活との境界線にある
    柳宗悦 ウィリアム・モリス

    竹内勝太郎『芸術民俗学研究』
    折口信夫『日本芸能史六講』
    雑誌「民俗芸術」

    31 近世の純粋芸術・大衆芸術の専門的作家は、もともと、新語の製作者としての無名の大衆から分化発展してできて来たという見方がたてられている。また、専門的作家たちは、その作品の素材となるそれぞれの時代の新語の採用にあたって、同時代の民衆の作った新しい言いまわしにたよらざるを得ず、こういう仕方で、現代においても、純粋芸術・大衆芸術の発展の契機は、限界芸術に求められる。言語を素材として使用するかぎり、言語による純粋芸術・大衆芸術の最小粒子は、民衆が毎日つくっている限界芸術なのである。

    柳田→それらの集大成を祭にみた

    40

    44 日本民芸館 雑誌「工芸」 民芸品販売店「たくみ」

    51 宮沢賢治
    ロッセリーニに似ているがネオ・リアリズムではなくネオ・アイディアリズム

    54 天皇と修身
    112 生花 無言の芸

    119 文化は、まきちらされるものであるが、文化が特別の所にあらかじめあって、次にそれが、まきちらされるのではない。文化は、実は、それがまきちらされる手続きを含めて、はじめて文化となるのだ。文化はまかちらされることによって文化となるのだ。その文化が、また新しくまきちらされる事によって、文化の再生と存続が行われるのだ。

    135 …私小説や文芸批評を書く方向に行く人は、実は外地亡命という安易な道をたどっているのだと思う。自律的な思索のできる知識人は、むしろラジオや映画などのように新しい困難なコミュニケーションの場に身をおいて、努力すべきだと思う。

    149折口・柳田 今日の文化事象を、昔の習慣の残存としてとらえる方法をすすめる。

    162
    黒岩涙香 万朝報

    278 ハーン

    311

    342 歴史小説はリアリズムの系列に属し、時代物小説はリアリズムではつつみきれない空想的な産物ということになろう。この意味では時代物小説はSFに近い。

    434

  • 文系研究の道を切り開いた鶴見さんによる一冊。
    生活の中から自然と生まれることになる芸術である限界芸術。純粋芸術と大衆芸術との関係。日本における他国文化の受け入れなど、芸術の需要と誕生の軌跡を辿れます。

  • 本書の表題となっている評論では、われわれの生活や仕事の中から生まれてくる作業歌や折り紙などの様式を取り上げている。筆者はこれらを「限界芸術」と呼び、その特徴やわれわれの人生や社会における意味を考察している。

    これらの芸術は、純粋芸術や大衆芸術とは異なり、マスの需要者によって消費されることを想定していない。あくまで一つの生活圏やコミュニティの中で形作られ、その環境を構成する人々の中によって消費される芸術である。

    しかしながら、これらの芸術は、われわれの生活の中の様々な活動の「倍音」として形作られ、それらを楽しくし、単調な生活を豊かにしてくれる。

    さらにそれだけでなく、生活の中の一つひとつの行いが限界芸術という形で高められることにより、人生そのものが芸術になる。その象徴的な実践が、宮沢賢治の生涯であったという。

    われわれが何気なく受け継ぎ、生活の中に埋め込んできたものに、筆者がこのような豊かな可能性を見出したというところに、非常に感銘を受けた。

    その他に、カルタ、作文(綴り方)、新聞小説、落語、まげもの映画などのそれぞれの中に、社会に対する向き合い方や自由で豊かな言論の芽、他社に対する優しい眼差しなどを見出す評論が含まれており、一つひとつが新しいものの見方を教えてくれるような内容だった。

    戦後の昭和の時代をただ懐古の情で思い返すだけでなく、その時代の人びとの底流に息づいていたこれらの生き方や考え方こそ、忘れ去ってはいけないものなのではないかと感じた。

    筆者がそれらを書き残してくれたことで、われわれが今の文化や社会を考える際にも示唆を得られることが多いと思う。

  • 芸術の中でも特に生活と接している限界芸術にフォーカスを当てた一冊。日々の生活の中にある小さな芸術を見つける意義、面白さを教えてくれた。芸術と生活を区切る考えは個人的に面白く、また境界線を意識して生きるということは


    ①連続した毎日の流れに句読点を打ち、意味あるものにさせるのが美的経験である。

    ②全ての子供は芸術家であるが、大人は酒を飲んでいる間だけ芸術家になることにとどまる。

    ③芸術と生活の境界線にあたる作品を限界芸術と呼ぶ。

    ④宮沢賢治において芸術とはそれぞれ個人が自分の本来の要求にそうて、状況を変革して行く行為。

  • 思索

  • 限界芸術と大衆芸術。

  • 表題論文以外は、特に注目すべきものはなかったように思う。あ、黒岩涙香もちょっとよかったかな。
    鶴見俊輔ならば、もっと面白い本がある。

  • [ 内容 ]
    芸術と生活の境界に位置する広大な領域、専門的芸術家によるのでなく、非専門的芸術家によって作られ大衆によって享受される芸術、それが「限界芸術」である。
    五千年前のアルタミラの壁画以来、落書き、民謡、盆栽、花火、都々逸にいたるまで、暮らしを舞台に人々の心にわき上がり、ほとばしり、形を変えてきた限界芸術とは何か。
    その先達である柳宗悦、宮沢賢治、柳田国男らの仕事をたどり、実践例として黒岩涙香の生涯や三遊亭円朝の身振りなどを論じた、戦後日本を代表する文化論。
    表題作『限界芸術』に加え、芸術の領域での著者の業績がこの一冊に。

    [ 目次 ]
    芸術の発展
    大衆芸術論
    黒岩涙香
    新聞小説論―高木健夫『新聞小説史稿』を読んで
    円朝における身ぶりと象徴
    『鞍馬天狗』の進化
    まげもののぞき眼鏡
    冗談音楽の流れ
    一つの日本映画論―「振袖狂女」について
    現代の歌い手
    国民文化論

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 黒岩涙香の話が印象的な一冊。色んな角度から限界芸術(純粋芸術と大衆芸術の間にあるもの)の描写がなされているのだけど、その中でも黒岩氏の話が際立ってた。抽象論より具体的な人物にひとりスポットライトをあてた文章は面白い。

    黒岩涙香という人をこの本で初めて知ったのだけど、不思議に面白い人。サークル的になされている限界芸術を、新聞というプラットフォームを通じて大衆娯楽にまで高めようとしたのは面白い。荒くいうなら、今でいうFacebookみたいなもの。彼のように個々の芸にも秀でていて、かつ世の中や未来を見通すことのできる、つまりミクロもマクロも実力がある人は貴重な人材だったのでは。彼の存在を知れて良かった。

  • 後述

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著者プロフィール

922−2015年。哲学者。1942年、ハーヴァード大学哲学科卒。46年、丸山眞男らと「思想の科学」を創刊。65年、小田実らとベ平連を結成。2004年、大江健三郎らと「九条の会」呼びかけ人となる。著書に『アメリカ哲学』『限界芸術論』『アメノウズメ伝』などのほか、エッセイ、共著など多数。『鶴見俊輔集』全17巻もある。

「2022年 『期待と回想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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