アラブが見た十字軍 (ちくま学芸文庫 マ 18-1)

  • 筑摩書房
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  • Amazon.co.jp ・本 (489ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480086150

作品紹介・あらすじ

11世紀から13世紀まで、200年にわたって西欧キリスト教徒が行った近東への軍事遠征-それが十字軍である。ヨーロッパ側の史料と史観に依拠することもっぱらで、ときに「聖戦」の代名詞ともされる、この中世最大の文明衝突の実相は、はたしてどのようなものだったのだろうか。豊富な一次史料を用い、ジャーナリストならではの生き生きとした語り口で、アラブ・イスラム教徒の観点からリアルな歴史を再現して、通念を覆し偏見を正すとともに、今日なお続く抗争と対立からの脱却の途を示唆する反十字軍史。

感想・レビュー・書評

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  • 教科書的な歴史はヨーロッパ側からの記述がほとんどだが、改めてアラブからの十字軍を読んでみた。
    アラブからみたら十字軍は侵略者以外の何者ではない。
    しかし、レコンキスタを招く8世紀からのサラセンによるヨーロッパ進行がその発端と考えると一概に言えないのか。十字軍の始まりは教会と皇帝、領主など権力者の争いの吐口と理解しているが、戦争の始まりは今も昔も変わらずくだらない。
    最後のまとめにあったが、文明や裁判制度に関してアラブは進んでいたが、この長い戦いでフランク(ヨーロッパ)は現地の言葉を覚え、進んだ文明を取り込んでいったのに対して、サラセンは相手の言葉、文明を無視し、怨みを募らせるだけだったことが、現代の差になっているのか。

  • 古書店にてまさかの100円で衝動買い。定金伸治先生の『ジハード』を愛読していた身としてはアル=アーディルやアル=カーミル、サラディンらの登場する9~12章を楽しみに読み進めたが、いやこれはどの章も面白い! 歴史は勝者の側から語られるのが必定だが、十字軍に関しては一時的な勝者に過ぎないヨーロッパ側の視点で語られているのが現状である。そこで本書が登場する。200年に亘るアラブの苦難と復活の歴史を悲劇的に記しているかと思いきや、アラブ内ですら思惑が錯綜しすぎていて混迷を極めている。それがまた人間的で面白いのだ。

  • 内容はタイトルのとおり。
    …なので、てっきり「聖戦だなんてとんでもない! キリスト野郎はこんなに、こおおんなに、罪なきアラブの民にひどいことをしたんですよう!!」という感じなのかと思いきや、これがまったく違っていた。しごく怜悧に、淡々と、時には上質の諧謔さえ交えて、アラブとヨーロッパ(本書での呼び名は「フランク」)の双方が「700年経っても忘れられない」一大事件を綴っている。
    十字軍に関しては、今では従来のいわば「ヨーロッパ中心史観」においても中立的な研究が進み、「やられる側にとっては単なる侵略だった」とか、「聖地回復とは名ばかりで、王侯連中は多分に欲の皮突っ張っていた」とか、「そもそも仲間割ればっかりでろくに目的も果たせなかった」とかいった認識はわりと一般的になっているが、本書はアラブ側の「知られざるお家事情」をも描き出す。
    こちらにもなかなか人間くさい足の引っ張り合いがあり、あげくのはてには2代目以降土着化した「アラブのフランク」と、「敵の敵は味方」の要領で同盟して敵アラブ国家に当たったりして。それに「西から来たフランク」が「何たること!」と嘆くのを、「アラブのフランク」は「うるっせえ、こっちにはこっちの生活があるんだよ!」とばかりにやり返したりして。何が何やら、もはやカオス(笑) 十字軍の歴史がこんなに「面白い」ものだとは、寡聞にして知らなかった。

    アラブとフランク双方の良いところは良い、悪いところは悪いと冷静に分析する著者は、しかしあくまでもアラブ人である。「蛮国フランク」の何倍も平和で豊かで文明的だったアラブ世界が今や、「なぜヨーロッパに敗れ続けているのか」に思いを馳せる終章は白眉。アラブとともに西洋の後塵を拝し続けている我々東洋人にとっても、見逃せない考察となっている。
    ただ1つ願わくは、地図は巻頭見開きで欲しかった。

    2017/9/24〜10/4読了

  • 歴史は勝者によってつむがれる。敗者たちの歴史は勝者によって黙殺され、しばしば消滅に追い込まれてしまう。


    十字軍によるアラブ侵略は美化されて歴史に残った。けど、それにともなう虐殺、略奪、食人といった蛮行の数々はこれまであまり目に見える形では語られてこなかった。

    十字軍の軍勢そのものは、侵入の200年後に敗れてアラブを去っている。けれども著者も指摘する通り、長期的にはキリスト教世界はイスラム教世界に「勝って」いるから。

    侵略され文明を摂取され、その後徐々に歴史の本流から取り残されていったイスラムの側の歴史観は、どうしても日の目を見ることが難しい。


    近年のイスラムの尊厳回復の戦いは、どうしてもテロリズムの側面が目立ってしまう。けどテロで欧米や日本あたりの人々を萎縮させたところで、イスラム世界が今よりも尊敬されるようになるわけではない。

    イスラムの怒り、被害感情は、けっきょく言語化されなければ届かない。そこにイスラムの側に立つ言論の価値があり、この本の意義もあるんだろうと思う。

    イスラム世界が今ほど過激化していなかったであろう1980年代に、早くもこのような具体的、合理的な反論・啓発書が(フランスで!)出ていた事実は、時節柄もあってたいへん心強く思える。


    惜しくも翻訳はそこまで練れていなくて、何度読み返しても意味が取れない箇所が4つほどあったけど、書籍そのものの価値は揺るがないところだと思う。

    じゃっかん翻訳に目をつぶる形で☆5つ。日数はかかったけど、面白く読めました。

  • 攻められる側から見た十字軍。200年もの間、断続的に続いた侵略。帝国主義の大義名分めいた宗教感があるのは、宗教の力がそれだけ強い時代だったということなんだろう。視点が変わると違う見え方するのは確か。

  • アル=カーミルとフリードリヒ二世のくだりは、不毛な宗教戦争を回避する有能な指導者達という感じで、題材となっている200年の中で一番光っている。

  • ガリア戦記より約1000年。やはりフランス人は野蛮だったようだ。イスラムを全て喰ってやるとは恐ろしい。
    地理が頭に入っていないので読み進むのに随分骨が折れた。

  • 中高生の頃に習う世界史は単なるキーワードの暗記の対象であるが、実際に人々は何を考え、どのような歴史の流れが存在したか、我々は理解していません。

    たとえば「十字軍」。教科書で習ったのは、ヨーロッパ諸国が重装歩兵の騎士による十字軍を組織し、中東などに遠征した。以上。

    これではアラブにおける「十字軍」の意味は分かりませんね。
    なぜアラブではいまだに「十字軍がどーたらこーたら」とか、「ジハードが云々」などと言われ続けるのか。

    アラブ側から見た中世を知ることができる本です。ただ、単なるアラブ側の恨みつらみを記述した本ではなく、アラブ自身の問題点をも浮き彫りにしてくれますので、誰でも中立的な視点で読むことのできる本かなと思います。

  • 図書館で借りた。
    「十字軍」と言えば、中世においてキリスト教徒が聖地奪還をかけて遠征した~という歴史の話である。それを迎え撃つ側、アラブ側から記されたのが本書だ。
    歴史の教科書でもアラブ側からの見方・見解はほとんど見かけない。しかしながら、アラブ人の深層心理には刻々と刻まれている歴史だ。非常に貴重な資料と感じる。それを小説的に知り深めることができた。
    まず、アラブからは「十字軍」なんて呼ばない。「フランクがいきなり襲って来た」が基本的な見え方。なんて野蛮な奴らか、である。
    また、ただ襲ってくる野蛮人共であれば一致団結して守ればよいのだが、アラブ側も残念ながら一枚岩ではない。そもそもアラブも、アラブ人によって統一されることは歴史上少ない。そこからさらにモンゴルの足音も聞こえてきて、しっちゃかめっちゃかだ。

    余談だが…、「シロップ」と「シャーベット」が同じ語源ということを知った。

  •  西欧ではなく、中東の視点から、十字軍遠征の歴史を紐解く。今でこそ西欧は先進国と言われるように、世界的に生活水準が発展してる。ところが、中世時代までさかのぼると、中東のほうが、物資、文明ともに上回った。中東から見て、西欧による十字軍遠征は野蛮な行為だと見なしていた。
     十字軍遠征を語るうえで欠かせないのがサラディンである。この人物に一般的に評価が高いイメージであるが、本書のp314~ 316を読むと、たしかにイメージ通りである。西欧、中東ともに好印象なのは珍しい。

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