アラブが見た十字軍 (ちくま学芸文庫)

制作 : Amin Maalouf  牟田口 義郎  新川 雅子 
  • 筑摩書房
3.72
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本棚登録 : 364
レビュー : 36
  • Amazon.co.jp ・本 (489ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784480086150

作品紹介・あらすじ

11世紀から13世紀まで、200年にわたって西欧キリスト教徒が行った近東への軍事遠征-それが十字軍である。ヨーロッパ側の史料と史観に依拠することもっぱらで、ときに「聖戦」の代名詞ともされる、この中世最大の文明衝突の実相は、はたしてどのようなものだったのだろうか。豊富な一次史料を用い、ジャーナリストならではの生き生きとした語り口で、アラブ・イスラム教徒の観点からリアルな歴史を再現して、通念を覆し偏見を正すとともに、今日なお続く抗争と対立からの脱却の途を示唆する反十字軍史。

感想・レビュー・書評

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  • 古書店にてまさかの100円で衝動買い。定金伸治先生の『ジハード』を愛読していた身としてはアル=アーディルやアル=カーミル、サラディンらの登場する9~12章を楽しみに読み進めたが、いやこれはどの章も面白い! 歴史は勝者の側から語られるのが必定だが、十字軍に関しては一時的な勝者に過ぎないヨーロッパ側の視点で語られているのが現状である。そこで本書が登場する。200年に亘るアラブの苦難と復活の歴史を悲劇的に記しているかと思いきや、アラブ内ですら思惑が錯綜しすぎていて混迷を極めている。それがまた人間的で面白いのだ。

  • 内容はタイトルのとおり。
    …なので、てっきり「聖戦だなんてとんでもない! キリスト野郎はこんなに、こおおんなに、罪なきアラブの民にひどいことをしたんですよう!!」という感じなのかと思いきや、これがまったく違っていた。しごく怜悧に、淡々と、時には上質の諧謔さえ交えて、アラブとヨーロッパ(本書での呼び名は「フランク」)の双方が「700年経っても忘れられない」一大事件を綴っている。
    十字軍に関しては、今では従来のいわば「ヨーロッパ中心史観」においても中立的な研究が進み、「やられる側にとっては単なる侵略だった」とか、「聖地回復とは名ばかりで、王侯連中は多分に欲の皮突っ張っていた」とか、「そもそも仲間割ればっかりでろくに目的も果たせなかった」とかいった認識はわりと一般的になっているが、本書はアラブ側の「知られざるお家事情」をも描き出す。
    こちらにもなかなか人間くさい足の引っ張り合いがあり、あげくのはてには2代目以降土着化した「アラブのフランク」と、「敵の敵は味方」の要領で同盟して敵アラブ国家に当たったりして。それに「西から来たフランク」が「何たること!」と嘆くのを、「アラブのフランク」は「うるっせえ、こっちにはこっちの生活があるんだよ!」とばかりにやり返したりして。何が何やら、もはやカオス(笑) 十字軍の歴史がこんなに「面白い」ものだとは、寡聞にして知らなかった。

    アラブとフランク双方の良いところは良い、悪いところは悪いと冷静に分析する著者は、しかしあくまで敬虔なムスリムである。「蛮国フランク」の何倍も平和で豊かで文明的だったアラブ世界が今や、「なぜヨーロッパに敗れ続けているのか」に思いを馳せる終章は白眉。アラブとともに西洋の後塵を拝し続けている我々東洋人にとっても、見逃せない考察となっている。
    ただ1つ願わくは、地図は巻頭見開きで欲しかった。

    2017/9/24〜10/4読了

  • 攻められる側から見た十字軍。200年もの間、断続的に続いた侵略。帝国主義の大義名分めいた宗教感があるのは、宗教の力がそれだけ強い時代だったということなんだろう。視点が変わると違う見え方するのは確か。

  • 歴史は勝者によってつむがれる。敗者たちの歴史は勝者によって黙殺され、しばしば消滅に追い込まれてしまう。


    十字軍によるアラブ侵略は美化されて歴史に残った。けど、それにともなう虐殺、略奪、食人といった蛮行の数々はこれまであまり目に見える形では語られてこなかった。

    十字軍の軍勢そのものは、侵入の200年後に敗れてアラブを去っている。けれども著者も指摘する通り、長期的にはキリスト教世界はイスラム教世界に「勝って」いるから。

    侵略され文明を摂取され、その後徐々に歴史の本流から取り残されていったイスラムの側の歴史観は、どうしても日の目を見ることが難しい。


    近年のイスラムの尊厳回復の戦いは、どうしてもテロリズムの側面が目立ってしまう。けどテロで欧米や日本あたりの人々を萎縮させたところで、イスラム世界が今よりも尊敬されるようになるわけではない。

    イスラムの怒り、被害感情は、けっきょく言語化されなければ届かない。そこにイスラムの側に立つ言論の価値があり、この本の意義もあるんだろうと思う。

    イスラム世界が今ほど過激化していなかったであろう1980年代に、早くもこのような具体的、合理的な反論・啓発書が(フランスで!)出ていた事実は、時節柄もあってたいへん心強く思える。


    惜しくも翻訳はそこまで練れていなくて、何度読み返しても意味が取れない箇所が4つほどあったけど、書籍そのものの価値は揺るがないところだと思う。

    じゃっかん翻訳に目をつぶる形で☆5つ。日数はかかったけど、面白く読めました。

  • アル=カーミルとフリードリヒ二世のくだりは、不毛な宗教戦争を回避する有能な指導者達という感じで、題材となっている200年の中で一番光っている。

  • ガリア戦記より約1000年。やはりフランス人は野蛮だったようだ。イスラムを全て喰ってやるとは恐ろしい。
    地理が頭に入っていないので読み進むのに随分骨が折れた。

  • 中高生の頃に習う世界史は単なるキーワードの暗記の対象であるが、実際に人々は何を考え、どのような歴史の流れが存在したか、我々は理解していません。

    たとえば「十字軍」。教科書で習ったのは、ヨーロッパ諸国が重装歩兵の騎士による十字軍を組織し、中東などに遠征した。以上。

    これではアラブにおける「十字軍」の意味は分かりませんね。
    なぜアラブではいまだに「十字軍がどーたらこーたら」とか、「ジハードが云々」などと言われ続けるのか。

    アラブ側から見た中世を知ることができる本です。ただ、単なるアラブ側の恨みつらみを記述した本ではなく、アラブ自身の問題点をも浮き彫りにしてくれますので、誰でも中立的な視点で読むことのできる本かなと思います。

  • [評価]
    ★★★★★ 星5つ

    [感想]
    物語を読んでいるように面白かった。読むときは巻末の地図を参照しながら読み進めると位置関係が分かりやすくなる。
    そもそも自分に十字軍に関しての知識が足りていなかったようで、第1回以外の十字軍は失敗しているものだと思っていたよ。聖地周辺に作られた国もほぼ知らなかったな。
    イスラム側は十字軍に対して、一丸となって対抗したようなイメージが合ったんだけど、実際に一丸となるまでには多くの段階を踏んでいたことが驚きだった。
    イスラム世界にも多くの年代記作家がたくさんいるんだなという印象だ。やはり歴史家が存在すると過去の歴史も分かりやすく鳴るんだという印象だった。

  • 現代に続く1000年の対立の始まり。確かにアラブ寄りの視点ではあるが、だからといって汚点を隠すような書き方ではない。西洋人が侵略者らしくアラブの街を襲い残虐な略奪を繰り返す間、アラブは互いに裏切り、足を引っ張り、時にはフランクと通じアラブの街を奪い合う。聖地を開放した英雄として知られるサラディンでさえ、アラブ同士で敵対したこともあったし、高潔だが利害を度外視する気前の良さは、気違い沙汰すれすれとまで評される。対するリチャード獅子心王にしても、粗暴性と無節制とが全面に押し出されていて、アッカの包囲戦では当然のように皆殺しに走る。

    そんな混迷の地であったが、対立国への理解を示すことができた人物は稀に現れる。サラディンの弟アル=アーディルは、リチャード獅子心王の義兄弟になる機会すらあったが、その発端はそもそもアラブの内部分裂を誘うための罠であり、フランク側の不義理で同盟が成ることはなかった。だが、その感性を受け継いだ息子アル=カーミルの時代においては、西洋には王座上の最初の近代人とまで呼ばれた神聖ローマ帝国皇帝フリードリヒ2世がいた。互いに相手国の文化を尊重し、対話を重ねることのみが融和への道を開き、ついには1,000年後の今ですら考え難い、一滴の血も流さない聖地エルサレムの共有がなされた。
    しかし、偉大な指導者の先進的な方向転換について行けるものは限られている。両者ともに味方の陣営から裏切り者と罵られ、破門され、フリードリヒ2世に至っては絵画や肖像画すら残された数は少ない。

    エルサレム、アレッポ、ダマスカス、トリポリ、アッカ。今も紛争が続く各地の怨嗟は1000年前から地続きのものであるのだろうか。限られた数人のみが持ち得た共感の念が民衆に広く浸透するまで、戦いの歴史は続く。

  • カバーから:豊富な一次史料を用い、ジャーナリストならではの生き生きとした語り口で、アラブ・イスラム教徒の観点からリアルな歴史を再現して、通念を覆し偏見を正すとともに、今日なお続く抗争と対立からの脱却の道を示唆する反十字軍史。

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